まとめと今後の展開

前回は、ソーシャルイノベーションのための構造構成主義的プロダクトデザイン手法の実践の最終回として、Wanic ToolkitとWanicシリーズを用いたビジネスモデルについて説明しました。ビジネスモデルについて説明するにあたって、まず、Wanicシリーズの製品ラインナップ、途上国・先進国を含む事業戦略を説明したのち、初期の事業展開先である東ティモールにおけるWanicシリーズのポジショニング、技術伝達を中心とした事業展開、ならびに、ビジネスモデルの考察について説明しました。

今回は、第25回目の記事、つまり、本ブログの最終回となりました。そこで、前半では、各章のまとめを行い、後半では、構造構成主義的プロダクトデザイン手法、Wanic/Wanic Toolkitの今後の展開について述べたいと思います。

各章のまとめ

イントロダクション – No Tinkering, No Innovation

イントロダクションでは、まず、本ブログの目的とターゲットについて説明をしました。本ブログは、ソーシャルイノベーションのためのデザイン理論を、背景となる理論や実例、ならびに、提案する理論の実践を通じてわかりやすく解説することを目的とし、デザイン思考やソーシャルビジネスに興味のある全てのひとをターゲットと設定しました。次に、タイトルにも含まれている”デザイン思考”と”ソーシャルイノベーション”について説明しました。デザイン思考について、その起源から定義まで追い、ソーシャルイノベーションについて、イノベーションとソーシャルイノベーションの違いについて重点的に説明しました。

1. ソーシャルイノベーションとソーシャルビジネス

第1章では、本ブログの2つのキーワードのうちの1つ、”ソーシャルイノベーション”について掘り下げ、フィールドとしてのBOPについて説明し、実際の事例として、企業、NPO、大学、研究機関を取り上げて具体的に説明しました。

第02回では、イノベーションとソーシャルイノベーションの定義、および派生型について説明しました。具体的には、シュンペーターの定義を説明したのち、イノベーションの派生系である、持続的イノベーションと破壊的イノベーション、オープンイノベーション、ソーシャルイノベーションを紹介しました。特に、ソーシャルイノベーションについては、Phillsらの定義に基づいて、イノベーションとの差違を説明しました。

第03回では、ソーシャルイノベーションのフィールドとしてのBOP(Bottom of the Pyramid)について、定義、特徴について説明しました。BOPが全世界の人口の90%を占めるという事実は、従来のプロダクトがわずか10%に向けてデザインされたものに過ぎず、その手法もまた10%の人々のための手法に過ぎないことを意味しています。そして、従来のデザイン手法がそのまま90%に対して適用不可能である理由を、フィールドごとの複雑性、デザイナと現地人の関心の対立構造というBOPが持つ特殊性から説明しました。

第04-10回では、ソーシャルイノベーションの事例として、企業・NPO、大学・教育機関の取り組みをシリーズにて説明しました。

まず、企業・NPOの事例として、第04回では、KickStartを紹介しました。KickStartは、地元の人々が起業家として利益を生み出すことが可能であり、持続可能な社会の形成、雇用の創出、経済の発展に貢献する製品を開発しています。ここでは、2つの製品(スーパーマネーメーカーポンプ、ヒップポンプ)を紹介したのち、KickStartの10のデザイン原則を説明しました。

第05回では、米国NPO Kopernikを紹介しました。Kopernikは、テクノロジーマーケットプレイスのコンセプトのもと、テクノロジーを所有する会社や大学、途上国の市民団体、一般市民の3者をつなげ、革新的な技術・製品を発展途上国に提供するための多数のプロジェクトを運営しています。ここでは、実際のプロダクト3点とそれらを用いた3つのプロジェクトを紹介しました。

第06回では、マサチューセッツ工科大学のNicholas Negroponteを中心に大学発NPOとして設立されたOLPCを紹介しました。OLPCは、ネットワークにつながったラップトップを全ての就学児に提供し、教育を通じて世界の貧しい子供たちに活力を与えることをミッションに低価格ラップトップの開発を行っています。ここでは、OLPCシリーズのXO-01とXO-03を紹介しました。

次に、大学・教育機関の事例として、第07回では、マサチューセッツ工科大学 D-Labを紹介しました。D-Labの”D”は、「Development though Dialog, Design, and Dissemination (対話を通じた開発、デザイン、普及」を意味しており、国際開発の枠組みの中で、適正技術と持続可能性のあるソリューションによる開発を育成するためのプログラムとして位置づけられています。ここでは、12のコースと、それぞれのコースの代表的なプロジェクトを紹介しました。

第08回では、d.schoolことHasso Plattner Institute of Design at Stanfordを紹介しました。d.schoolは、IDEO創業者であるDavid KellleyおよびIDEOの影響を強く受けており、”デザイン思考”がキーワードとなっています。ここでは、2011年Spring Semesterで開講中のクラスと、2つの長期プロジェクトを紹介しました。また、ベルリン郊外に存在する系列組織である、HPI School of Deign Thinkingを紹介しました。

第09回では、TU DelftことDelft University of Technologyを紹介しました。TU Delftでは、Industrial Design Engineering(IDE)プログラムが修士学生向けに開講した”Advanced Products”にて、ソーシャルイノベーションに関連したプロダクトの開発を行ってきました。また、IDEに存在する3つの学科のうちの1つ、Design Engineeringの1セクションに当たる、Design for Sustainability(DfS)も同様に、ソーシャルイノベーション関連の研究に取り組んでおり、そのコース内容について紹介しました。

第10回では、マサチューセッツ工科大学から始まり、世界に展開しているFabLabを紹介しました。FabLabは、3次元プリンタやカッティングマシンなどの工作機械を備えた一般市民のためのオープンな工房と、その世界的なネットワークであり、必要なものをみんなで作る”DIWO(Do It With Others)”を基本理念に置いています。ここでは、FabLabの定義、歴史について説明したのち、利用可能なファブリケーションツールを紹介しました。

2. デザイン思考

第2章では、本ブログの2つのキーワードのうちの1つ、”デザイン思考”について掘り下げ、デザインプロセスごとのデザイン手法として、デザインリサーチ、モデリング、デザインパタンを紹介したのち、既存のデザイン手法の限界について説明しました。

第11回では、デザイン思考の系譜として、Herbert A Simon、David Kelly、Tim Brown、奥出直人、Hasso Plattnerの5人の研究者に注目し、定義とデザインプロセスを紹介しました。そして、これらに共通するプロセスとして、「1. フィールドへ赴き、データを取得する、2. 課題を発見し、仮説を構築する、3. プロトタイピングを行う、4. フィールドへ赴き、テストを行う、5. 製品を実装する」を抽出しました。

第12回では、プロセスの最初のステップである、「1. フィールドへ赴き、データを取得する」ためのメソッドとして、”質的調査法”を説明しました。具体的には、口頭データと質的データの様々な採取方法について、その概要と限界について説明をしました。さらに、目的に応じた複数の手法の組み合わせの事例として、エスノグラフィック・インタビューの一形態である、ベイヤーとホルツブラッドの提唱した”コンテクスチュアル・インクワイヤリ”を紹介しました。

第13回では、プロセスの2番目のステップである、「2. 課題を発見し、仮説を構築する」ためのメソッドとして、”モデリング”を説明しました。具体的には、ユーザの属性に注目したユーザモデリングとして、ペルソナ、シナリオ、ゴールダイレクテッドデザインを紹介し、ユーザの行動に注目したワークモデル、ならびに、フィールドの構造を理解するためのGTAを紹介しました。

第14回では、プロセスの3番目のステップである、「3. プロトタイピングを行う」ためのメソッドとして、”デザインパタン”を説明しました。具体的には、デザインパタンの起源、および、建築からソフトウェアエンジニアリング、HCI(Human Computer Interaction)への流れを説明しました。そして、ユビキタスコンピューティング、ゲームの領域への拡張までを紹介し、その限界について指摘しました。

第15回では、第12-14回で述べた既存のデザイン手法を、BOPというフィールドに対して適用する場合の限界について説明しました。具体的には、BOPの特殊性として、フィールドごとの特殊性、デザイナとユーザとしての現地人との関心の対立構造を解説しました。既存のデザイン手法は、これらのBOPの持つ特殊性を考慮していないことから、適用において限界が生じることを説明しました。

3. 構造構成主義

第3章では、既存のデザイン手法の限界を打破するためのアプローチを構築するための足がかりとして、”構造構成主義”を紹介しました。構造構成主義は、現象学と構造主義科学論の流れを組む超メタ理論であり、現象と関心に注目することで、人間科学において起きがちな信念体系同士の対立を克服し、建設的なコラボレーションを促進するための方法論です。

第15回では、構造構成主義の特徴をモデル図を用いて説明しました。構造構成主義では、哲学的構造構成と科学的構造構成という2重の構造構成が存在します。これらを説明する前に、両者に通底する概念である、現象学的概念と構造主義科学論について解説しました。前者については、関心相関性と信憑性、後者については、構造と恣意性を中心に解説しました。

第16回では、構造構成主義を背景として持つ研究法の1つとして臨床心理学などの分野で用いられている、”構造構成主義的質的研究法(SCQRM)”を紹介しました。これは、構造構成主義それ自体は概念であり思想であるため、デザイン手法として直接応用することが困難であるためです。SCQRMは、構造構成主義を超メタ理論(超認識論)とするメタ研究法で、関心相関性を中核原理としています。ここでは、SCQRMの備える11の関心相関的アプローチを説明しました。

SCQRMは、モデル構築がその研究の目的である場合において、関心相関的選択に基づき、”M-GTA(Modified Grounded Theory Approach)”を分析ツールのひとつとして採用しています。第17回では、前進となるGTA(Grounded Theory Approach)について説明したのち、具体例を示しながら、概念化、カテゴリ化、理論化のプロセスで構成される、分析プロセスを紹介しました。また、手続きとして作成する分析ワークシートを紹介しました。

4. ソーシャルイノベーションのための構造構成主義的プロダクトデザイン手法

第4章では、筆者の構築した、ソーシャルイノベーションのためのプロダクトデザイン手法について説明しました。本手法は、フィールドの複雑性の構造的な理解と、デザイナとユーザとしての現地人の信念対立の解消、というBOPをフィールドとするプロダクトデザインにおける目的に基づいて、構造構成主義をアプローチとして導入しています。

第18回では、実際のデザイン手法として、「デザイナの関心モデル構築」「フィールドの概念抽出および現象マッピング」「ソリューションモデルの構築」の3つのステップで構成されるデザインプロセスを紹介しました。まず、デザイナの関心モデル構築は、デザイナの関心を構造化するステップです。次に、フィールドの概念抽出および現象マッピングは、フィールドを構造化し、現地人の関心を構造化するためのステップです。最後に、ソリューションモデルの構築は、デザイナの関心モデルと、第2のステップで抽出された「概念」をもとに問題発見、および、発見された問題に対する仮説を生成するステップです。

5. ソーシャルイノベーションのための構造構成主義的プロダクトデザイン手法の実践

第5章では、構造構成主義的プロダクトデザイン手法の実践として、実際にフィールドワークと現地テストを繰り返し開発したプロダクト – Wanic / Wanic Toolkit – をケーススタディとして引用しつつ、そのデザインプロセスの詳細を説明しました。

第19回では、筆者の参加した東ティモールへのフィールドワークを題材に、事前調査からデザイナの関心モデルの構築、そして、調査項目・インタビュー項目決定までの流れを説明しました。本フィールドワークは、米国NPOコペルニク主催の途上国の課題を解決するプロダクトを開発することを目的としたSee-D Contestのプログラムの一環として設計されたものです。

第20回では、筆者の参加した東ティモールへのフィールドワークのうち、ボボナロ県への第1回フィールドワークを題材に、「フィールドの概念抽出および現象マッピング」「ソリューションモデルの構築」の具体的なプロセスについて説明しました。

第21回では、ラウテム県ロスパロス地区への第2回フィールドワークを題材に、「フィールドの概念抽出および現象マッピング」「ソリューションモデルの再構築」「プロジェクトの関心モデルの構築」の具体的なプロセスについて説明しました。

第22回では、構築されたソリューションモデル(ver1.1)とデザイナの関心モデル(ver1.1)に基づいてデザインされた、ココナッツワイン”Wanic”と、Wanicを製造するためのツールキット”Wanic Toolkit”のコンセプトモデルについて説明をしました。具体的には、キットの概要、キットを用いたWanicの製造プロセス、ならびに、第1回現地テストとそこでのフィードバックを中心に説明しました。

第23回では、Wanic Toolkitの普及モデルについて説明をしました。コンセプトモデルから普及モデルを開発するまでの過程として、第1回現地テストの結果を受けてデザインした普及モデル(ver.1.0)、東ティモールにてWanic Toolkitを用いて、Wanicを作るヒト、および、飲むヒト向けに実施した第2回現地テスト、さらに、第2回現地テストをもとに改良した普及モデル(ver.1.1)を説明したのち、普及モデル(ver.1.1)を用いたWanicの製造プロセスについて説明しました。

第24回では、Wanic ToolkitとWanicを用いたビジネスモデルについて説明しました。ビジネスモデルについて説明するにあたり、まず、Wanicシリーズの製品ラインナップ、途上国・先進国との関係を説明したのち、初期の事業展開先である東ティモールにおけるポジショニング、技術伝達を中心とした事業展開、ならびに、ビジネスモデルの考察について説明しました。

今後の発展

構造構成主義的プロダクトデザイン手法

まず、構造構成主義的プロダクトデザイン手法については、グラントの獲得を視野に入れつつ、精緻化と汎用化の2つの発展を考えています。精緻化とは、手法そのもののブラッシュアップを指します。具体的には、他のデザイナによるケーススタディを通じて、ブラッシュアップを行いたいと考えています。本ブログで紹介した東ティモールへのフィールドワークの際には、筆者自身がいわば最初の被験者となり、手法の妥当性の確認を試みました。今後は、バングラデシュやフィリピンなど東ティモール以外のアジア地域にて、別のデザイナによる本手法を用いたプロダクトデザインを依頼したいと考えています。

汎用化とは、ブラッシュアップした手法のツール化を指します。現在は、「デザイナの関心モデル構築」「フィールドの概念抽出および現象マッピング」「ソリューションモデルの構築」という3つのステップのみが明示化されている状態にすぎず、具体的なツールが存在するわけではありません。今後は、専用のシートや、iPhone/iPadなどのアプリケーションを作成し、ツールのかたちで本手法を普及させていきたいと考えています。その過程では当然ワークショップなどの開催も検討していきたいと考えています。

Wanic/Wanic Toolkit

次に、Wanic/Wanic Toolkitについては、酒のブラッシュアップと販路開拓を考えています。現時点では、フレッシュワニックのプロトタイプを製造した段階、すなわち、ツールキットとココヤシの実を使ってお酒が作れることを示したにすぎません。実際に商品として販売するまでには、酵母の選定・培養、糖度の測定に基づく補糖料の決定、味の安定化、中期保存方法の模索など多くの課題が残されています。今後は、国内酒造メーカー、現地酒造メーカーといったパートナーを模索し、協業による製品開発を検討していきたいと考えています。

一方で、販路については、現地パートナーとして、東ティモールにてホテルもしくはレストランを1店舗選定し、その周辺を使ってツールキットの製造、フレッシュワニック、ボトルドワニックの製造を行い、販売テストを行ってみたいと考えています。そして、この地をモデル店舗として設定し、Wanicツアーと称して、日本の酒造メーカーやその他販売代理店候補の企業の方々を東ティモールにお連れすることによって、Wanicへの理解だけではなく、東ティモールの観光収入の増大に少しでも貢献したいと考えています。

さいごに

本ブログは、当初の計画通り25回で予定していた内容を全て完了することができました。4月の正式オープンを前にいくつか記事をストックしていたのですが、通常業務を行いつつ、となるとすぐにストックもつきました。週一での定期更新は初めての試みではなかったのですが、文章のクオリティとボリュームを保ち続けることに慣れるまではしばらく時間を必要としました。とはいえ、後半はペースをつかみ、水曜で構成、木、金、月曜でドラフト、火曜に仕上げというサイクルが確立しました。

このブログを通じて、いくつか取材をいただきましたし、研究として発展しそうな案件もいただくことができました。今後は、上記に述べたような方針で研究を継続していくつもりですが、書籍化(!)という当初の目的を果たすために、本ブログの内容のメンテナンスを行っていきたいと思います。書籍の対象は、紙媒体が(個人的には)最も理想的なのですが、電子書籍の流通面におけるメリットを考慮して前向きに検討していきたいと思っています。

最後まで読んでくださった方、twitter等でコメントをくださった方、どうもありがとうございました。また、Appendixなど更新するかもしれませんが、ひとまずお礼を述べさせていただきたいと思います。

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実践 – 東ティモールへの第2回フィールドワーク

前回より、ソーシャルイノベーションのための構造構成主義的プロダクトデザイン手法の実践について紹介をしています。前回は、実践の第2回として、私の参加した米国NPOコペルニク主催のSee-D Contestのプログラムである東ティモールへのフィールドワークのうち、ボボナロ県への第1回フィールドワークを題材に、「フィールドの概念抽出および現象マッピング」「ソリューションモデルの構築」のプロセスについて説明をいたしました。

今回は、構造構成主義的プロダクトデザイン手法の実践の第3回として、ラウテム県ロスパロス地区への第2回フィールドワークを題材に、「フィールドの概念抽出および現象マッピング」「ソリューションモデルの再構築」「プロジェクトの関心モデルの構築」のプロセスについて説明をいたします。

第2回フィールドワーク

第2回フィールドワークは、2010年8月26日-9/4日の期間にて行われました。第2回フィールドワークのエリアは、海岸エリアのロスパロス地区[1]にて行われました。ロスパロス地区は、ラウテム県[2]の一地区で、首都ディリから東に248kmに位置し、地区の人口は2万5417人(2004年)です。以下では、まず第2回フィールドワークのスケジュールについて説明したいと思います。

[1] ロスパロス地区

[2] ラウテム県

図1. ロスパロス地区

図2. ラウテム県

8月26日-28日
第2回フィールドワークの前半は、See-D代表の方により、ディリを中心に様々な団体に対してインタビューが行われました。26日にIFC(国際金融公社)、WB(世界銀行)、UNDP(国連開発計画)、具体的には、27日に、APHEDA(Australian People for Health, Education and Development Abroad。オーストラリアの労働組合が母体の国際NGO)、CCITL(Chamber of Commerce and Industry Timor-Leste)、Moris Rasik(東ティモール最大のマイクロファイナンス機関)、HARBIRAS(東ティモールの環境NGO)、PDT(Peace Dividend Trust。東ティモール産の製品を買うことを推進しているNGO団体)、UNICEF、28日にAFMET(東ティモール医療友の会)に対してインタビューが行われました。

8月30日-9月4日
第2回フィールドワークの後半は、ワークショップ参加者により、ロスパロス地方にてフィールドワークが行われました。第1回に私たちが訪問した東ティモール大学工学部のProf.Marfimが案内者となって、Pitileti村を訪問し、観察やインタビューを行いました。

第2回フィールドワークについても、第1回フィールドワークと同様に2つの制約 – 調査場所の制約と言語の制約 – が存在しました。さらに、第2回フィールドワークでは、第3の制約が存在しました。この第3の制約とは、参加者の制約です。第1回フィールドワークでは、私自身が参加したため、自分で観察を行い、インタビューを実施することができました。しかしながら、第2回フィールドワークでは、筆者の所属したチームの別のデザイナによって、調査が行われました。当該デザイナは、チームの各メンバが関心相関的に設定した調査項目およびインタビュー項目に基づいてフィールドワークを行うよう依頼されていました。

以下に、第2回フィールドワークのために私が用意した関心相関的調査項目およびインタビュー項目(表1)と、フィールドノートの抜粋(表2)を示します。表2は、実際には、元コンサルタントの方が作成したインタビューレポートです。要点がわかりやすくまとまっており、現象マップを構築する際にも非常に役立ちました。

表1. 関心相関的調査・インタビュー項目

調査テーマ:現金収入のための手工芸
調査の視点:現金収入を獲得するための家庭内手工芸は成立するか?

1. 調査項目:容器・かご

1.1 調査方法
インタビュー,観察

1.2情報源
住民,バザールの出店者

1.3 撮影してきていただきたいもの
かご,容器,その他馬にモノを運ばせるときに使う道具

1.4 インタビュー内容

– 容器一般
Q1. 農作物,商品を何に入れて運んでいるのか?
Q2. (Q1の答えを聞いて)なぜそれを使っているのか?

– 制作経験
Q3. 竹やバナナの葉などを使ってかごを編んだ経験はあるか?
Q4. (Q3でYesの場合) それらを売ったことはあるか? またいくらで売れたか?
Q5. (Q4でYesの場合) 家庭内でモノを作る時間はあるか?また誰の手が空いているか?

2. 調査項目:家

2.1 調査方法
インタビュー,観察

2.2 情報源
住民

2.3 撮影してきていただきたいもの
家の建材,屋根

2.4 インタビュー内容

– 家を立てる人
Q1. 誰が家を建てるのか(大工or自分たち)?
Q2. (Q1で自分たちの場合)なぜ自分たちで作るのか?
Q3. (Q1で自分たちの場合)家を作る方法は誰から習うのか?
Q4. (家を作る)大工という職業は存在するのか?
Q5. (Q4でYesの場合)大工に依頼することと自分たちで家を作ることはどちらが好まれるか?

– 建材
Q6. 家の建材は主に何を使っているのか?
Q7. (Q1で自分たちの場合)家の建材はどこで手にいれているのか?
Q8. (屋根にトタンを使っている場合)なぜ屋根にトタンを使うのか?

表2. フィールドノーツ(抜粋)

Title: PDTミーティング
Interviewee: Ilidio Ximenes da Costa (Vice Director matchmaking & public relation) Eduardo da Costa(TDS Associate)
Interviewer: xxxx, xxxx
Date: 8/27/2010

Summary:
PDT(Peace Dividend Trust)は東ティモール産の製品を買うことを推進しているNGO団体。外資企業に地元企業を紹介し、パートナーシップを組んだり、地元企業からの購買を促進することで、産業育成を図ることをミッションとしている。地元企業を紹介するのが仕事なので、パートナー探しの時にはぜひ利用してほしい。ウェブサイトに企業の一覧も載せている[3]。
地方での問題は「マーケット情報の不足」「道路インフラの不足」「スキル不足」の三点。政府の地元作物の買い上げ政策もかえって市場をゆがめて問題を起こしている。

Detail:
PDT(Peace Dividend Trust)は東ティモール産の製品を買うことを推進しているNGO団体。外資企業に地元企業を紹介し、パートナーシップを組んだり、地元企業からの購買を促進することで、産業育成を図ることをミッションとしている。地元企業を紹介するのが仕事なので、パートナー探しの時にはぜひ利用してほしい。ウェブサイトに企業の一覧も載せている[3]。
– 現在、PDTは6つの県に支部を設けている。Lautem県のロスパロスにもある。
– PDTはCCITLや政府とも協力しながら、海外企業へ地元企業の仲介を行っている。すべて無料なのでぜひ利用してほしい。

地方での問題は「マーケット情報の不足」「道路インフラの不足」「スキル不足」の3点。政府の地元作物の買い上げ政策もかえって市場をゆがめて問題を起こしている。
– 地元で作物が採れたり製品を作っても、どこに行って誰に売れば良いのかわからない。情報の不足が大きな問題。PDTはこのMissing linkをつなげることでこれまで$9MM以上のビジネスを実現させた。
– 道路インフラの不足も大きな問題。モノが地方で手に入らないため、メンテナンスはすべてディリに行かないとできないのだ。水・衛生関連の製品にしても、土木事業の道具にしても、ディリまで行かないと手に入らない。地元ではメンテナンスできない。
– 人々のスキル不足も大きな課題。せっかく地元の会社が機械を持ってもどうやって使うのか、どうメンテするのか、どこから部品を調達するのかがわからないので、使われないことも多い。一般的なビジネススキル(帳簿のつけ方など)がないことも問題だ。NGOなどは数ヶ月のプロジェクトのみで帰ってしまう。そのような短期間ではCapacity building(能力開発)はできない。
– 人々のメンタリティーも問題。多くの援助が続き、人々が援助・政府などの公共機関に頼る癖がついてしまった。
– 政府の「People plan, government buy」政策はかえって市場をゆがめている。政府が突然、高い価格で農作物を買い始めたために、地元の買い付け業者が軒並み倒産した。それによって失業率が上がっている。
– 一方で、政府は高く買い付けた作物をそのまま高い価格で売っているため、売れずに多くが倉庫に残っている。保存方法が悪く、作物の質が悪くなってしまうのもその原因。政府はものの売り方を知らない。

[3] Peace Dividend Trust

フィールドの概念抽出および現象マッピング

さて、第2回フィールドワークからの帰国後、共有されたフィールドノーツをもとに、東ティモールにおける現象マップを作成しました(図3)。各現象をもとに概念化を行った結果、「健康上の問題」「低い公衆衛生観念」「原始的な家の構造」「家族中心の文化」「保守的な姿勢」「人々のスキル不足」「国民の依存体質」「政府の関心」「少ない産業」「新たな特産品」「保管・運搬用の容器」「ディリと地方の格差」「道路インフラ不足」「水質問題」「雨季と乾季の差」「少ない娯楽」の16概念が抽出されました。さらにこれらの概念をもとにカテゴリ化を行ったところ、「衛生」「価値観」「産業」「保管・運搬」「気候/風土」の5カテゴリが抽出されました。。これらの概念を用いてソリューションモデル(ver1.1)を構築します。

図3: 第2回フィールドワークに基づく東ティモールの現象マップ(ver1.1)

なお、第2回フィールドワークの結果、ロスパロス地区では、ココヤシを用いて容器やカゴを作る技術が一般的に普及していることがわかりました。さらに、すでに技術が普及しているにも関わらず、現金収入向上に貢献できていないことがわかりました。したがって、ソリューションモデル(ver.1.0)において構築した仮説はデザイナの設定した目的としての現金収入向上に照らし合わせた結果、妥当性に欠けることがわかりました。この点を踏まえ、第2回フィールドワークの結果得られた概念を用いてソリューションモデル(ver.1.1)を構築するにあたって、別の仮説を構築する必要があります。

ソリューションモデルの再構築

第2回フィールドワーク終了後、チームで情報共有およびブレインストーミングを行い、解決すべき課題を設定し、課題に対するソリューションを決定しました。この課題とソリューションは、第2回フィールドワークを通じて制作・共有されたフィールドノーツに基づく現象マップをもとに構築されたソリューションモデル(ver.1.1)を用いて説明可能です。

図4:第2回フィールドワークに基づくソリューションモデル(ver.1.1)

まず、解決すべき問題として、「少ない現金収入」、そして、問題の原因をモデル(ver.1.0)から継承しました。この問題に対する解決手段として、ココヤシを用いた酒作りのためのツールキットを仮説として新たに設定しました。

すでにココヤシを原料とする酒として、樹液を自然発酵させて作るトゥアック(Tuak)はPalm wine[4]として、東南アジアにおいて広く普及しています 。また、Tuakを蒸留させたアラック(Arrack)も同様に普及しています 。さらに、ココヤシは酵母の原料や砂糖の原料として現地で利用されています。これらの2つの現象を踏まえた場合、本仮説は、保守的な姿勢をもつ現地人の関心と矛盾しません。また、家族中心の文化のもとで様々な催事が行われており、このような場ではすでにお酒を飲む習慣は確立しています。より美味しい酒を提供する本仮説は、現地人の関心と矛盾しません。

[4] Palm wine

このような仮説を通じて直接的に解決可能な現象について説明します。まず、簡単に楽しくお酒を作れるキットを構築することで、強い依存体質の国民性であっても酒作りという楽しさを含む仕事であれば従事する可能性が高いと考えました。また、段階的なスキル伝達プログラムを同時に提供することで、スキル不足の現地人にとってもお酒作りに必要なノウハウを獲得できます。さらに、酒作りには発酵や蒸留のプロセスで衛生に関する知識が求められます。お酒作りを通じてこれらのノウハウを伝達することで、低い公衆衛生観念を払拭させ、健康上の問題も解決可能となると考えられます。また、作られたお酒は産業の少ない東ティモールの新たな特産品となる可能性も高いでしょう。しかしながら、地形の複雑さ、非効率な運搬方法、原始的な運搬システム、ディリと地方の格差、保管・運搬用の容器といった現象はデザイン上の制約として存在します。これらはツールキットのデザインだけではなく、ビジネスモデルのデザインを行う過程で何らかの解決策を提示する必要があります。

ココヤシに注目した契機については、 チームのメンバがブレインストーミングの場にココヤシを持ち込んだことが大きいと言えます。フィールドノーツの情報を整理した結果、ココヤシは、以下の3つのメリットを持つことがわかりました。

第1のメリットは、豊富な資源です。ココヤシは、現地では道端で1ドル程度にて観光客に販売されているだけではなく、ほとんど売れ残っているほど豊富に存在します。したがって、安価で大量に仕入れ可能です。

第2にのメリットは、良質な水分です。一般的に酒を製造する場合、良質な水が必要となります。良質な水が確保できるならば、ボボナロ県ではキャッサバが多く生産されていたことを踏まえると、キャッサバを使った焼酎の生産も可能でしょう。しかしながら、ロスパロス地区のある村で採取した水の硬度は200を越えており、石灰質を多く含むことがわかりました。この硬度は、人体に影響を及ぼほど高いため、採取された水をそのまま利用することができません。一方で、ココヤシの実の内部には、滅菌され、かつ、糖分を含んだ水分(ココナッツジュース)を含んでいることから、これを酒作りに利用可能できます。

第3のメリットは、耐久性の高い容器です。従来のTuakは、雑菌や空気の混入、あるいは、気温の変化により味が劣化し、長期間の保存に耐えないという問題を孕んでいます。これに対してココヤシの実は、耐久性・密閉性が高く、保存容器として利用可能です。

デザイナの関心モデルからチームの関心モデルへ

第2回フィールドワーク後のチームとしてのデザイナの関心モデル(ver1.1)は図5のように修正されました。各デザイナの関心として「現金収入獲得」「人材育成」「公衆衛生」「資源の最大活用」が立ち現れました。これらの関心を満たすソリューションとして、ココヤシを用いたお酒作りキットという仮説が立ち現れました。現金収入獲得という関心はデザイナ(筆者)の関心(ver.1.0)から継承した関心ですが、それ以外の関心は、ブレインストーミングを通じて、チームの各メンバに立ち現れたものです。

図5:第2回フィールドワーク後のチームの関心モデル(ver1.1)

まとめ

今回は、構造構成主義的プロダクトデザイン手法の実践の第3回として、ラウテム県ロスパロス地区への第2回フィールドワークを題材に、「フィールドの概念抽出および現象マッピング」「ソリューションモデルの再構築」「プロジェクトの関心モデルの構築」のプロセスについて説明しました。

構造構成主義的プロダクトデザイン手法は、フィールドの複雑性の構造的な理解、ならびに、デザイナとユーザとしての現地人の信念対立の解消を実現することを目的とし、「デザイナの関心モデルの構築」、「フィールにおける概念抽出および現象マッピング」、「ソリューションモデルの構築」という3つのステップを通じて、BOPにおける創造的な問題発見/設定だけではなく、創造的な問題解決方法までを同時に担保する非常に強力なデザインツールです。本手法の強みは、Ideationプロセスに存在し、すでに第18回において、本手法の限界として触れたように、仮説構築から問題解決まで、本手法は、特長的なツールを提供していません。

次回より、ソリューションモデル構築以後の「プロトタイピングと現地テスト」として、コンセプトモデル、第1回ユーザテストついて述べます。なお、「プロトタイピングと現地テスト」のステップでは、構造構成主義的インタビュー設計法以外、本デザイン手法を用いていません。しかしながら、仮説構築から問題解決までのプロセスにおいて、プロトタイピングと現地テストの重要性を強調するために、掲載することとしました。

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実践 – 東ティモールへの第1回フィールドワーク

前回より、ソーシャルイノベーションのための構造構成主義的プロダクトデザイン手法の実践について紹介をしています。前回は、実践の第1回として、私の参加した米国NPOコペルニク主催の、途上国の課題を解決するプロダクトを開発することを目的としたSee-D Contestのプログラムである東ティモールへのフィールドワークを題材に、事前調査からデザイナの関心モデルの構築、そして、インタビュー項目決定までの流れを説明したしました。

今回は、私自身が参加したボボナロ県への第1回フィールドワークを題材に、「フィールドの概念抽出および現象マッピング」「ソリューションモデルの構築」のプロセスについて説明をいたします。

第1回フィールドワーク

第1回フィールドワークは、2010年8月12-15日の期間にて行われました。第1回フィールドワークのエリアは山岳地帯のボボナロ県[1]でした。ボボナロ県は、東ティモールにある13県のうちの一つで、人口は9万3787人(2008年)、6つの地区(アタバエ、バリボー、ボボナロ、カイラコ、ロロトイ、マリアナ)が存在します。第1回のフィールドワークでは、ボボナロ地区(図1)とマリアナ地区(図2)を訪問しました。以下では、まず第1回フィールドワークのスケジュールについて説明したいと思います。

[1] ボボナロ県

 

図1. ボボナロ地区

図2. マリアナ地区

8月12日

早朝にインドネシア・バリのホテルに集合後、デンパサール空港へ移動し、東ティモール行きのフライトに搭乗いたしました。デンパサール空港からディリ国際空港までは約2時間。現地には13時頃到着いたしました。到着時の気温は28℃、湿度75%とかなり蒸し暑かったのですが、マラリア対策のため長袖は欠かせません。世界銀行勤務の現地コーディネーターとおちあい、レンタカーと携帯電話を借りた後、スーパーへ立ち寄り、水や蚊帳等を買い出しました。ディリ市内の食堂で昼食後、山中を移動し、17時ごろ東ティモール大学工学部へ到着。日本にも留学経験のあるProf. Marphinに構内を案内していただきました。ここには日本のNGOなどから寄付された多くの工作機械(写真01)がありました。日没後、ボボナロ地区へ向けて出発したのですが、途中の山中で豪雨に遭遇し、予定よりもかなり遅れて22時半頃ようやくマリアナ地区へ到着し、急遽コーディネータの親戚の家に宿泊しました。この家庭は父親(コーディネータの叔父)がNGOに勤務していることから比較的裕福で、電気も引いてあり、子供らはPS2で遊んでいました。とはいえ、家そのものの構造は非常にシンプルで、屋根はトタンで壁はブロックでした。

写真01. 東ティモール大学工学部

8月13日

庭で放し飼いされている闘鶏用の雄鶏が夜中叫びっぱなしで夜明けに目が覚めました。朝食を頂いたのち、コーディネータの叔父にインタビューを行いました。その後、別のNGO職員の方が来訪され、インタビューを行いました。昼前に親戚の家を離れ、途中でガソリンを入れた後、ボボナロ地区へ向かいました。ボボナロに到着後、食堂で昼食を採り、14時頃から、医療センターにて現地の医師にインタビューを行いました。東ティモールに居る医者の多くはキューバより派遣されてきた医者が多いそうです。15時過ぎから、ボボナロ地区の行政区オフィスにて、行政長官(写真02)にインタビューを行いました。インタビュー終了後、17時頃から中心街を散策し、18時頃にはコーディネータのボボナロの親戚の家に到着し、夕食を頂きました。マリアナ地区と比べてボボナロ地区/ボボナロは、無電化の状態に近く、ソーラーランタンの明るさ以外はほぼ闇でした。無電化の状態では、180度近くまで星で敷き詰められた夜空を見渡すことができました。

写真02.行政長官

8月14日

寝泊まりしていた家はトタン屋根のため放射冷却がひどく、早朝あまりの寒さに目が冷めました。気温も確認したところ室温が19℃程度まで下がっていました。この日は、月に1度のバザールの日ということで、6時頃から10時頃まで道の左右に延々と簡易的な店がオープンしていました。周辺の村から来た店は80店舗、お客さんは1000人以上はいたようです(写真03)。バザールの後、市内の外れにある最低所得エリアと呼ばれている場所に移動し、そこに住む家族にインタビューを行いました。旧日本軍はこのエリアまで来ていたらしく、彼らが使っていた貯水漕を見せてくれました。その後、コーディネータの親戚の家で昼食を頂き、隣のグマ村へ移動しました。グマ村は70家庭程度の小さな村落で、村長はコーディネータの親戚でした。村長へのインタビューを行ったのち、いくつかの民家へ移動し、村の人々へインタビューを行ったり、畑や家畜を見せてもらったりしました。村の集会場をベースに活動していたのですが、村のこどもたちが物珍しさか全員集まってきました。お土産代わりに持参したポラロイドで撮影したり、折り紙で遊んだりしました。

写真03.バザールに集まった人

8月15日

4時頃起床し、片付けを行った後、車にてディリへ向かいました。往路は深夜かつ豪雨でしたが、復路は快晴で、綺麗な景色を眺めながらの快適なドライブでした。ディリにて少し時間の余裕があったためホテルに立ち寄り3日ぶりにビールを飲みました。フライトは14時の予定でしたが、デンパサールからの到着が遅れており、いつ出発できるかわからないと言われました。ちなみに遅延に関する構内アナウンスなどはなく、ブラウン管のディスプレイに一応delayと表示されているのみでした。空港には野良無線があったので、ちゃっかりtweetしておきました。仕方がないので、海岸近くでランチを取り、ビーチでしばらくのんびりして、最終的に現地時間で21時頃ようやく出国することができました。

写真04.東ティモール国際空港

第1回フィールドワークには、2つの制約が存在しました。第1に、調査場所の制約が挙げられます。調査場所は、東ティモールのマリアナ地区、ボボナロ地区、グマ村の3つの山岳エリアであり)、この3エリアにおいて、村人、NGO職員、行政地区長などに対してインタビューを行いました。これらは私が関心相関的にサンプリングした場所と人ではなく、ワークショップ主催者や現地コーディネータが関心相関的にサンプリングした対象です。第2に、言語の制約が挙げられます。これらの3エリアに住む人々は、日常生活では、テトゥン語、もしくは、ボボナロ語を用いています。したがって、インタビュイーはテトゥン語、もしくは、ボボナロ語での回答を行います。インタビュアー兼通訳は、私らが英語にて伝えたインタビュー項目を現地語に翻訳し、質問を行いました。また、質問内容に関するインタビュイーからの回答についても、通訳を介して現地語から英語に翻訳してもらった上で、私たちに伝えられる必要がありました。

このような制約条件は、コンテストのプログラムの性質上避けては通れない制約といえます。しかしながら、前者については、一人で自由に行うフィールドワーク以外には避けて通れない制約です。また、後者については、途上国の多くの地域では、英語が通じる場合は少なく、インタビューにおいて、通訳の意図が少なからず介入することはインタビュアーである我々が考慮に入れておかなければなりません。その上で、質問内容を工夫する必要があります。同時に、インタビューに依存しない注意深い観察も生活習慣や価値観を理解する上では欠かせないプロセスと言えるでしょう。

以下に、第1回フィールドワークのために用意した関心相関的インタビュー項目(表1)と、フィールドノートの抜粋(表2)を示します。フィールドノートについては、なるべくインタビューの直後、遅くとも同日中に、記憶が鮮明な状態でまとめることが重要です。ここでは気づき(分析)は必要なく、あくまで収集したデータを綿密にまとめることを心がけましょう。また、フィールドで得た統計データ、インタビューイーの意見、インタビュアーの意見、観察項目を区別して記述することが望ましいです。ボイスレコーダも、インタビュー用と、自分の意見用に2つ用意するとテクスト化の際に区分しやすいでしょう。また、フィールドノーツには適宜、関連する写真を追加することで、記憶のオフロードに役立てることができるでしょう[2]。なお、今回のフィールドワークでは、私は、フィールドノーツの作成にiPadを利用しました。これは、軽量かつ長時間の駆動が可能であるためです。

[2] 東ティモールでの写真

表1. 関心相関的インタビュー項目

生活について

  • お金を稼ぐ手段は何ですか?
  • 農業の場合、何をつくっていますか?
  • 農業の場合、なぜそれを作っていますか?
  • (それ以外) なぜそれを選択しましたか?
  • 教育は何年間受けましたか,それはどういう内容でしたか?
  • 何が豊富にありますか?
  • 現在使っているテクノロジーについて教えて下さい。
  • システムについて

  • 家族制度について何か特徴的なことがあれば教えて下さい。
  • 村の制度について何か特徴的なことがあれば教えて下さい。
  • 身分制度について何か特徴的なことがあれば教えて下さい。
  • 運搬システムはどのようなものがありますか?
  • 移動システムはどのようなものがありますか?
  • 価値感について

  • あなたにとって大切なものは?
  • あなたが楽しいと思うことは何ですか?
  • あなたがつらいと思うことは何ですか?
  • 将来何をしたいですか?
  • 今の生活に満足していますか?
  • 表2. フィールドノーツ(抜粋)

    日時:8月12日マリアナ地区
    インタビュイー:コーディネータの叔父

    — 現金収入について(抜粋)

    Q. どうやって穀物を売っているのか?
    商品は、ボボナロだと、ナッツ、ポテトがメインで、マリワナだと米、コーンがメイン。
    NGOが買い手で、コンタクトをとると回収にきてくれる。
    NGOはそれをさらにイナカの農村に配布する。
    会社が買ってくれる場合もある。

    Q. その他の現金獲得手段は?
    NGOで働く。
    動物を売る。

    Q. 現金を何に使うか?
    1. 家族
    結婚や葬式。
    家族はextended familyで非常に大きく、家族内で現金の移動がある。
    動物を買う。

    2. 教育
    高校まで学校は無料、ただし公立のみ。
    公立のレベルは高くなく、私立が高い。
    買うのは、ユニフォーム、靴、教科書、ノート、鉛筆。
    ただし図書館はない。
    教科書は学校が一括して購入し、学校がこどもらに販売する。
    教科書自体はすごく薄い。
    小学校1-2年性、3-5月で20ページくらい。
    言語はポルトガル語とテトゥン語。

    言語は結構大きな問題になっている。
    先進国のNGOは英語。
    公的機関はポルトガル語。
    家庭はテトゥン語。
    # identity問題が生じる
    英語は中学校から。英語を学ぶとNGO関係の仕事につける。

    フィールドの概念抽出および現象マッピング

    さて、第1回フィールドワークからの帰国後、フィールドノーツをもとに、東ティモールにおける現象マップを作成しました(図3)。各現象をもとに概念化を行った結果、「健康上の問題」「低い公衆衛生観念」「原始的な燃料」「原始的な家の構造」「保守的な農業への姿勢」「豊富な作物」「家族中心の文化」「少ない産業」「少ない現金収入」「非効率な運搬方法」「原始的な運搬システム」「雨季と乾季の差」「地形の複雑さ」「教育の格差」「低い教育水準」「少ない娯楽」の16概念が抽出されました。さらに、これらの概念をもとにカテゴリ化を行った結果、「衛生」「住居」「農業」「価値観」「産業/仕事」「運搬」「気候/風土」「教育」の8カテゴリが抽出されました。これらの概念を用いてソリューションモデル(ver1.0)を構築します。

    図3. 第1回フィールドワークに基づく東ティモールの現象マップ
    各現象から抽出された概念と、概念同士をまとめるカテゴリを用いて、現象マップを作成します。なお、各概念に連なる現象のうち、四角で囲んだものはインタビューに対する回答を指し、囲まれていないものは観察に基づくコメントを指します。

    ソリューションモデルの構築

    第1回フィールドワークを通じて制作されたフィールドノーツから、概念抽出および現象マップを構築するプロセスで得られた概念をもとに、ソリューションモデル(ver.1.0)を構築しました(図4)。まず、解決すべき問題として、デザイナの関心モデルとフィールドにおける現象を踏まえ、関心相関的に「少ない現金収入」に着目しました。そのための解決手段として、「現地に豊富に存在する作物を用いた現金収入獲得のための手工芸」を仮説として設定しました。具体的には、家内制手工業として、現地に豊富に存在する竹やバナナを用いて、容器・カゴ、家の建材を制作します。本仮説は、家内制手工業を前提とし、家族で取り組むことができるため、家族中心の文化という彼らの関心と矛盾しません。また、本仮説は、農作業の方法それ自体を根本的に変化させるプロダクトではないため、保守的な農業への姿勢をもつ彼らの関心と矛盾しません。

    図4. 第1回フィールドワークに基づくソリューションモデル
    ソリューションモデル(ver.1.0)は、私が単独で構築したモデルにすぎず、あくまでフィールドワーク後に私の所属するチームにおける1つの仮説に過ぎません。

    このような仮説は、立ち現れた概念に含まれる課題としての現象を、直接的ないし間接的に解決可能であることが望ましいといえます。例えば、容器・カゴを作ることで、「非効率な運搬方法」を解決でき、「原始的な運搬システム」の改善にもつながります。また、家の建材を製造することで、「原始的な家の構造」を解決でき、健康上の問題解決にもつながります。一方、間接的に解決が可能な現象として、現金収入向上により、教育への再投資が可能となることから、「教育の格差」、「低い教育水準」が解決できます。また、TVや本などに対する投資が可能となることから、「少ない娯楽」を解消できます。さらに、「雨季と乾季の差」に注目した場合、雨季には通常の農作業ができないという課題を踏まえた上で、手工芸を行う期間を雨季の期間で重点的に分布させることで、多角的な収入獲得手段の確保が可能となるでしょう。

    なお、ソリューションそれ自体をフィールドワークで得た現象だけを用いて構築しようとすると、得てして卑近なコンセプトを構築してしまいがちです。それは、何をデザインするか(対象)までは特定できても、どのようにデザインするか、といったレベルのアイディアをフィールドワークに求めてしまった場合に必ず起きる現象です。このような現象を避けるためには、アプローチについて創造のジャンプを施す必要があります。創造プロセスにおけるジャンプについては、ジェームス・W・ヤングの『アイディアの作り方』に代表されるアイディアの組み合わせ、多様性を確保したチームによってなされるブレインストーミング、さらには、天才のひらめきに依存するジーニアスデザインなど様々ですが、デザイナの関心モデルを構築する過程で構造化された自身の技術的、思想的な関心とフィールドワークで得られた概念を活用してコンセプトを構築することが重要であると考えられます。

    まとめ

    今回は、構造構成主義的プロダクトデザイン手法の実践の第2回として、私自身が参加したボボナロ県への第1回フィールドワークを題材に、「フィールドの概念抽出および現象マッピング」「ソリューションモデルの構築」のプロセスについて説明をいたしました。

    次回は、ラウテム県ロスパロス地区への第2回フィールドワークを題材に、「フィールドの概念抽出および現象マッピング」「ソリューションモデルの再構築」「プロジェクトの関心モデルの構築」のプロセスについて説明をいたします。第2回フィールドワークでは、第1回フィールドワークをもとに構築した仮説をもとに関心相関的に構築したインタビュー項目を用いてインタビューを行うことになります。この段階では、何をデザインするかというデザイン対象の検証を行うことを目的としています。

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    構造構成主義的プロダクトデザイン手法

    前回は、モデル構築がその研究の目的である場合においてSCQRMに採用されている分析ツールである、M-GTAについて、前身となるGTAについて説明したのち、具体例を示しながらその分析プロセスを紹介をいたしました。M-GTAの分析プロセスは、まず、文字おこしを行い、データ化したテクストの中から、キーワードを見つけ、キーセンテスを引いていき、これらに名前を付け(概念化)、次に、概念のまとまりごとに対して、見出しをつけてテクストを構造化し(カテゴリ化)、さらに、抽出された概念やカテゴリの関係を捉えて暫定的な全体像やモデルを素描する(理論化)というものでした。また、実際にM-GTAを用いて分析を行う場合に手続きとして作成する、分析ワークシートについて説明を行いました。

    今回は、構造構成主義を理論的背景として、そして、構造構成主義に基づく研究法のひとつとして臨床心理学などの分野で用いられている構造構成主義的質的研究法(SCQRM)をもとにして構築された、ソーシャルイノベーションのための構造構成主義的プロダクトデザイン手法について説明をいたします。

    まず、構造構成主義を採用した元来の目的との関連から、BOPというフィールドへの従来のデザイン手法の適用とその限界について再度確認しておきましょう。従来のデザイン手法は、グローバル市場におけるプロダクトデザインに特化したものであることはすでに説明いたしました。したがって、BOPという特殊性を持った特定のフィールドに対して最適化されたプロダクトを作るという目的に対して、従来の手法が最適ではないため、新たな手法を構築する必要があると説明いたしました。さて、ここで検討しなければならないBOPの特殊性とはどのようなものであったでしょうか?

    フィールドのごとの複雑性

    第1の特殊性は、”フィールドのごとの複雑性”でした。先進国向けのプロダクトの場合、具体的かつ詳細に渡るペルソナおよびシナリオを策定したしても、先進国に存在しそうな一般化されたユーザに関連したものに陥らざるを得えません。iPodを例に出した場合、結局どこの国にでもいそうな音楽好きのユーザをもとにしたペルソナとシナリオが策定されます。このような現象は、グローバル市場で展開することを目的とした製品というデザイン上の制約条件に基づき、最大公約的な解に対する強い関心が存在するために立ち現れます。しかしながら、BOPの場合、プロダクトを導入しようとするフィールドごとに言語、文化、宗教が細分化されているだけではなく、近代化の度合いの違い、さらには、伝統的な価値観と近代的な価値観から生まれる矛盾など、あるプロダクトが受け入れられるためにデザイナが考慮すべきパラメータに限りがありません。このパラメータの数は、画一化されたグローバル市場向けのプロダクトにおいて考慮すべきパラメータと比較した場合、飛躍的に増加するでしょう。このようなフィールドの複雑性を踏まえた上で、そのフィールドを構造的に理解するアプローチが必要とされています。

    関心の対立構造

    第2の特殊性は、”現地人の関心とデザイナの関心の対立”でした。先進国向けのプロダクトの場合、ペルソナやシナリオなどのユーザモデルに関する手法を用いる理由の一つとして、デザイナの関心とユーザの関心の乖離を少なくさせるという効果が挙げられます。しかしながら、これは、先進国内での関係性であるため、原理的に両者の間で関心の極端な乖離は生じにくいと考えられます。一方で、BOPの場合、先進国のデザイナと現地のユーザとの関係性において、それぞれの関心を的確に把握し、両者の信念対立を回避することが求められます。これは、デザイナの欲望や関心のみを現地人に押し付けた場合、現地人の関心にあったプロダクトが開発されることなく、結果、誰もそれらを使わず、ゴミと化してしまうなどといった不幸を招きがちであるためです。一方で、デザイナが現地人のニーズだけに注目し、彼らの水準にあわせたプロダクトを作るだけでは、デザイナのモチベーションの低下につながります。このような両者の関係性を踏まえた上で、デザイナと現地人が互いの関心を満たすことのできるプロダクトを構築可能、かつ、両者の持続的な関係を構築可能なアプローチが必要とされています。

    ソーシャルイノベーションのための構造構成主義的プロダクトデザイン手法

    筆者の構築した、ソーシャルイノベーションのためのプロダクトデザイン手法は、
    – フィールドの複雑性の構造的な理解
    – デザイナとユーザとしての現地人の信念対立の解消
    というBOPをフィールドとするプロダクトデザインにおける「目的」に照らし合わせ、構造構成主義をアプローチとして導入しています。具体的には、構造構成主義における関心相関性、哲学的構造構成、科学的構造構成(以上第15回)を理論的背景に、SCQRMにおける関心相関的構造構成法(第17回)をデザインプロセスに導入し、これらの解決を目指しています。

    一般にデザインプロセスは、調査を通じて問題発見・問題定義を行う問題発見プロセス、設計、プロトタイピング、評価を繰り返し行う問題解決プロセスに区分されます。構造構成主義的プロダクトデザイン手法は、これら2つのプロセスをカバーするものですが、主たる特徴は問題発見プロセスにあります。具体的な特徴として「デザイナの関心モデルの構築」、「フィールにおける概念抽出および現象マッピング」、「ソリューションモデルの構築」という3つのステップがデザインプロセスに組み込まれています。以下では、それぞれについて説明を行い、構造構成主義的プロダクトデザイン手法の全体像を示します。

    デザイナの関心モデル構築

    第1のステップは、「デザイナの関心モデルの構築」です。このプロセスでは、M-GTAの手法を用いて、デザイナの関心を構造化します。そして、デザイナがなぜその関心を持つに至ったか、あるいは、プロジェクトがそのような関心を持つに至ったかを還元的に考察します。具体的には、各国、国連等の調査に基づく統計データ、写真の静的データを用いて、あるいは、書籍、論文等から得たデザイナ自身の思想的背景を踏まえ、デザイナがどのような関心に基づいて、どのような問題意識を抱いているかについて、その構造を明らかにします。このプロセスは、フィールドワークの前段階に行う必要があり、構築された関心モデルを用いて、関心相関的にフィールドワーク時の観察の対象、ならびに、インタビューの質問項目等を決定していきます。

    図1. デザイナの関心モデルのサンプル

    また、複数のデザイナが存在する場合、複数の関心が存在します。たとえば、金銭的成功、自らのスキルの自己顕示、先進国の持つ技術力による問題解決、人間としての慈善活動など、それぞれのデザイナによって様々な関心が想定されます。この場合、それぞれの関心を明らかにした上で、各デザイナの合意を形成しつつ、最大公約的な解をもたらす関心モデルを構築することが望ましいでしょう。

    フィールドにおける概念抽出および現象マッピング

    第2のステップは、「フィールドにおける概念抽出および現象マッピング」です。第1のステップにて、”デザイナの関心”に基づくモデルが構築されました。これに対して、第2のステップは、フィールドを構造化し、”現地人の関心”を構造化するためのステップです。したがって、本ステップは、第3のステップにおいてデザイナの関心と現地人の関心との信念対立を回避するためのソリューションモデルを構築するために、重要なステップとして位置づけられます。

    構造構成主義的プロダクトデザイン手法においても、ボトムアップに問題発見、仮説構築を行うことを目的としているため、関心相関的構造構成法と同様に、M-GTAを分析の枠組みとして採用しています。まず、フィールドワークにでかけ、第1のステップで構築された関心モデルに基づき、関心相関的に作成されたインタビュー項目や観察項目を用いて、データを採取します(関心相関的データ構築)。次に、インタビューを通じて得られた音声データのテープおこしを行い、テクスト化します(関心相関的テクスト構築)。このとき、観察データとしての写真データを利用する場合、事実に基づくキャプションと意見に対するキャプションを区別して付加しておく必要があります。続いて、類似部分を具体例(バリエーション)として収集し、これらについて概念名をつけ(概念抽出)、いくつかの概念を包括するカテゴリを作成していきます(関心相関的ワークシート作成)。さらに、構造構成主義的プロダクトデザイン手法では、フィールド全体を把握するために、カテゴリ、概念、バリエーションをマップ上に可視化します(現象マッピング)。この段階では概念ごとの関係性を構造化する必要はなく、シチュエーションが全体性をもって把握できる状態になっていることが最も重視されます(シチュエーションマッピング)。

    図2. 現象マップサンプル

    なお、第1のステップで構築したデザイナの関心モデルのもととなるデザイナの関心は、フィールドワークから現象マップ作成までのプロセスの中で変化する可能性あります。この場合、必要に応じて関心モデルを修正しましょう。

    ソリューションモデルの構築

    第3のステップは、「ソリューションモデルの構築」です。第1のステップで構築された「デザイナの関心モデル」と、第2のステップで抽出された「概念」をもとに問題発見、および、発見された問題に対する仮説生成までを含めた「ソリューションモデル」を構築します(関心相関的理論構築)。このステップは、デザイナの関心と現地人の関心をモデルの中に明示的に組み込むことで、仮説段階で信念対立を回避することを目的としています。

    まず、デザイナの関心と現地人の関心を踏まえたうえで、第2のステップにおいて抽出された概念同士の関係性を用いて、解くべき問題を同定します。そして、同定した問題に対する仮説としてのソリューションを構築します。また、抽出された概念同士の関係性を明示的にモデルに組み込み、フィールドの全体構造を示します。このプロセスを通じて、提案する解決法を導入することによって生み出される効果ならびに影響の認知が、プロジェクトメンバを含む閲覧者にとって容易になります。なお、ここで一度構築されたモデルは、あくまで暫定的なモデルにすぎず、フィールドワークや現地テストを繰り返すことによって、その都度変化するものと考えてください。

    図3. ソリューションモデルサンプル

    プロトタイピングと現地テスト

    以上の3つのステップを繰り返し、ある時点での最終的な(暫定的な)、ソリューションモデルを構築(更新)したのち、考案した仮説にもとづいてプロダクトの設計を行い、プロトタイプの開発を行います。このときデザイナだけではなく現地人の関心に基づいた適切な技術を選択する必要があります。なお、本プロダクトデザイン手法は、問題発見、および、仮説生成を目的としているため、実際のプロダクトのクオリティそのものを担保しません。したがって、プロダクトのクオリティそれ自体は、デザイナの創造性に強く依存することとなります。

    プロトタイプ開発後、プロトタイプを現地に持ち込み、現地テストを行います。現地人に実際に使用してもらうことで、現地人からのフィードバックを得ることが目的です。このとき、ソリューションモデルの更新を行うための新たな現象が立ち現れます。これら一連のプロセスを数度繰り返すことによって、現地のニーズに適したプロダクト、サービス、システムを構築することができます。

    議論

    最後に、構造構成主義的BOPプロダクトデザイン手法の制約条件について議論しましょう。第1のポイントは、通訳の恣意性です。具体的には、通訳の意図が介入するため、データとしての信頼性が損なわれるという批判があります。BOPの場合、フィールドワーク先の母国語が英語である可能性は低く、英語および現地語を話す通訳を雇い、現地語から英語へ翻訳する必要があることに依拠する批判と言えます。しかしながら、これは原理的に中立なインタビュアーが存在するという客観主義に基づいた批判にすぎません。本来、インタビュアーならびに通訳が中立であるということは原理的に不可能です。この点について、構造構成主義は、構造化にいたる諸条件を積極的に開示することで、科学性を担保するという立場に依拠しています。本ブログにおいても、インタビュアー、インタビュイーの諸条件を明示的に記述することで、科学性の担保を試みています。

    第2のポイントは、本手法の有効範囲です。具体的には、構造構成主義的BOPプロダクトデザイン手法は、仮説生成のためのヒントを与えるにとどまり、問題解決方法における跳躍までを網羅しないという批判です。本研究の目的は、BOPを対象としたプロダクトデザイン手法の構築であり、本手法は、対象となるフィールドの構造を明らかにした上で、問題を同定し、仮説生成を行うまでのプロセスを中心とする手法です。仮説生成のためのモデル構築が中心となるため、関心相関的にM-GTAを分析ツールとして採用しています。これに対して、問題解決方法における跳躍を主目的とするならば、この目的を実現するためのツールを関心相関的に選択し、本デザイン手法を関心相関的に修正すればよいでしょう。

    まとめ

    今回は、まず、ソーシャルイノベーションのための構造構成主義的プロダクトデザイン手法を紹介するために、再度、BOPのフィールドに既存のデザイン手法を適用する際の問題点を説明をいたしました。そして、実際のデザイン手法として、「デザイナの関心モデル構築」「フィールドの概念抽出および現象マッピング」「ソリューションモデルの構築」の3つのデザインプロセスについて、構造構成主義、および、SCQRMとの関連性を踏まえつつ、説明をいたしました。

    BOP向けのプロダクトを構築する際、単にデザイナと現地人の関心を満たしつつ現地の問題を解決するプロダクトを開発するだけではなく、プロダクトを通じてデザイナと現地人が新たなカルチャーを共創するようなプロダクトを開発することで、現地の持続可能な発展に対する貢献が可能となると考えられます。実際には、プロダクト、サービス、社会システムを普及させるために必要な人材に対する教育を実施するための仕組みづくりや、プロダクトを生産するための現地協力者の捜索なども、プロダクトを普及させるにあたって重要な要素となります。しかしながら、本デザイン手法は、ソーシャルイノベーションのためのプロダクトをデザインすることを目的としているため、これらの課題は、本手法の適用範囲を超えるものと考えられます。強いて言えば、関心相関的にこれらの課題に対して有効なその他の手法を組み合わせることによって、解決することが望ましいでしょう。

    次回より、今回説明した構造構成主義的プロダクトデザイン手法の実践として、実際に参加した東ティモールへのフィールドワークをケーススタディとして引用しつつ、そのデザインプロセスの具体的な説明をいたします。

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    モデル構築手法としてのM-GTA

    前回は、構造構成主義を超メタ理論(超認識論)とするメタ研究法である、構造構成的質的研究法(SCQRM)を紹介いたしました。SCQRMは、関心相関性を中核とし、11の関心相関的アプローチ[1]を備えていました。また、SCQRMでは、関心相関的存在論-言語論-構造論によって、構造構成的-構造主義科学論という科学論と、関心相関的構造構成法といった方法枠組みが基礎づけられています。このようなSCQRMは、モデル構築がその研究の目的である場合において、関心相関的選択に基づき、M-GTA(Modified Grounded Theory Approach/修正版グラウンデッドセオリーアプローチ) を分析ツールのひとつとして採用しています。

    [1]関心の探索的明確化、関心相関的継承、関心相関的選択、関心相関的サンプリング、関心相関的調査(質問)項目設定、関心相関的方法(方法概念・研究法)修正法、関心相関的構造(理論・モデル・仮説)構築、関心相関的報告書(論文)構成法、関心相関的プレゼンテーション、関心相関的評価、関心相関的アドバイス)

    今回は、M-GTAを用いたデータ分析手法ついて紹介いたします。M-GTAは、第13回で説明したように、グレイザーとシュトラウスによって提唱されたGTA(Grounded Theory Approach/グラウンデッドセオリーアプローチ) を木下が修正を施した分析手法です。まず、研究者(観察者) の問いを明らかにした上で、インタビューや観察を行ない、その結果を書き起こしたテキストを分析し、最終的にデータに立脚した(データにグラウンデッドな)仮説や理論を構築します。テキスト分析のプロセスでは、研究者は、研究者の注意を引くキーワードやキーセンテンスをコード化し、データ化します。そしてデータを構造化し、概念やカテゴリなどの関係を捉え、暫定的なモデルを構築します。

    以下では、グレイザーとシュトラウスによって提唱されたGTAの手法とその限界について再度説明したのち、M-GTAを用いた分析プロセスについて、引き続き『質的研究とは何か – SCQRMベーシック編(以下、basic』『質的研究とは何か – SCQRMアドバンス編(以下advance)』をもとに、具体例を示しながら説明をいたします。

    グラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)

    GTAは、フィールドに密着して得られたフィールドデータをつきあわせながら、帰納的に(個々の具体的事例から一般原理・法則を導きだす考え方で)まとめていき、現場の問題を解決するための有効な理論の発見を行う方法論です。実際のGTAの一般的なプロセスは、以下の5つのプロセスで構成されます。

    1. インタビューや観察からフィールドノートを作る.

    2. 主観を排除し,可能な限り客観的にデータを切片化する.

    3. 切片化されたデータを付きあわせて,共通した意味のものをまとめ,簡潔なラベルをつける.また,似たラベル同士をまとめ,上位概念となるカテゴリを作り名前をつける(Open Coding / オープン・コーディング).

    4. コードやカテゴリ同士の関連性を帰納的,演繹的に明らかにする(Axial Coding / 軸性コーディング).

    5. 主となるカテゴリを選択し,他の複数のカテゴリとの関連性を明らかにする(Selective Coding / 選択的コーディング).この時,何が起きたかについて1つのストーリーラインを構築する.

    このようなオリジナル版GTAの手法について、木下は「実際のデータ収集と分析、特にコーディング方法に関して明確に示されていない」という限界を指摘し、M-GTAを提案しました。木下はGTAに対する課題点の克服として以下の3つを挙げています。

    1. コーディング方法の明確化.
    実際に活用しやすく,かつ,分析プロセスが他の人にも理解しやすいという両方の条件を満たすものを提案する.

    2. 意味の深い解釈.
    データが有している文脈性を破壊せずに逆に重視し,切片化してラベル化から始めるのではなく,意味の深い解釈を試みる..

    3. 60年代の限界と近年の質的研究動向に対する独自の認識論.
    研究をデータ収集段階,データ分析段階,分析結果の応用段階の3段階に分け,それぞれの段階において,研究する人間を他者との社会関係に位置づけている.これは,社会的活動としての研究の視点を強調するものである.

    修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)

    GTAと同様にM-GTAも、テクストに基づいてデータにグラウンデッドに概念生成を行うという基本的な考え方を継承しています。

    M-GTAの分析プロセス

    具体的な分析プロセスは、まず、文字おこしを行い、データ化したテクストの中から、キーワードを見つけ、キーセンテスを引いていき、これらに名前を付けます。これを”概念化”と呼びます。概念は、M-TGAにおいて一番基礎となる単位です。例えば、内省レポートに関するグループディスカッションから、「自己理解の促進」「考えるきっかけ」「他者理解の促進」「内省ポイントの増加」といった概念が抽出されます。次に、概念のまとまりごとに対して、見出しをつけてテクストを構造化していきます。これを”カテゴリ化”と呼びます。例えば、先ほど挙げた4つの概念の上位項目として、「内省レポートの効用」といったカテゴリが抽出されます。さらに、抽出された概念やカテゴリの関係を捉えて暫定的な全体像やモデルを素描します。これを”理論化”と呼びます。

    このようなM-GTAは、西條によれば、「”動的な構造化”を目指す分析手法である」と言えます。動的な構造化とは、図で言うところの矢印を書くというプロセスを指します。すなわち、特徴を列挙するといったことではなく、現象ごとの影響関係、行動推移のパターン、システムの変化など、何らかのプロセスを捉えて構造化していくことを意味しています。

    図1. 内省レポートに関する暫定モデル (ver.1.0)

    『SCQRMベーシック編』では、インタビューを実施する前に、学生同士でディスカッションを行った結果に基づいて、内省レポートに関する暫定モデル(ver1.0)を構築しています。そして、関心相関的サンプリングにもとづき、内省レポートに対して、「肯定的な人」「否定的な人」「中間にいそうな人」をインタビュイーとして設定すべく、過去のレポートなどを参照して話し合い、典型的な人を選択しています。インタビュイーが決定したのち、関心相関的質問項目設定法に基づき、質問項目を設定しています。ここでは、「実習生は内省レポートについてどのような体験をしているか」というリサーチクエスチョンに照らし合わせて、質問項目を考えています。以下に質問項目を引用したします(basic, p.117)。

    内省レポートに関する質問項目案

    1. 当時の内省レポート体験に関する質問(当時の体験を語ってもらう)
    ・内省レポートはどのような体験だったか。
    ・内省レポートを実際どのように書いていたか。
    ・それについてどのように感じていたか。
    ・それは最初と中期と最後に至るまで変化があったか。
    ・内省レポートに関して、特に印象部会ところを挙げるとしたら何か。

    2. 今から振り返ったときの内省レポートの意味を明らかにする質問。
    ・今となって内省レポートはどのような意味をもつか。
    ・もし修士1年に戻って内省レポートをやるとしたらまたやりたいか。
    ・今になって思う内省レポートの長所や問題点はあるか。
    ・教員になったら内省レポートはどのようなかたちで実施したいと思うか。
    ・内省レポートに改善すべき点はあるとおもうか。

    分析ワークシートの作成法

    理論化までのプロセスはすでに説明いたしましたが、実際にM-GTAを用いて分析を行う場合、手続きとして”分析ワークシート”を作成します。M-GTAでは、テキスト(ローデータ)から概念やカテゴリを生成するまでの分析プロセスに、分析ワークシートを導入することによって、データに基づいて概念生成をしてきたということを担保しようと試みます。この分析ワークシートを作成する点が、他のGTAと比較して、M-GTA特有の手続きと言えます。

    表1. 分析ワークシート

    概念名
    定義
    ヴァリエーション(具体例)
    理論的メモ

    まず、概念名には、例えば「自己理解の促進」「見えない縛り」などといった概念を入れます。次に定義を行うわけですが、定義付けは後に回し、先にヴァリエーション、つまりその概念に当てはまりそうな具体例を入れていきます。該当しそうなヴァリエーションをテクストから分析ワークシートにコピーするなどして入力していきましょう。最後に理論的メモとは、他の概念との関係性や、気がついたこと、留意点、迷いなどをに関するメモを記載します。具体例を『SCQRMベーシック編』より引用いたしましょう(basic, p.165)。

    表2. 分析ワークシート 中田さん 「見えない縛り」

    概念名 見えない縛り
    定義 他者が自己の内省レポートを閲覧できることにより、書く内容が限定されること。
    ヴァリエーション(具体例) ・「なんか自分の中の深い葛藤まで書けなかったり」
    ・「(それは人が見るかもしれないから?)うーん、やっぱりでも、大きいのは、やっぱり他人が見るっていうのは大きいと思う。まぁ自由に書いていたと思うんですけど、そういうのがなかったと言えば嘘になるみたいな」
    ・「でも書かない時もありますよね。書こうかなと思ったけど、や、いいや書かないで、書かないほうがいいかなと思って。」
    ・「なんかあと私が書いているのって実はすごいつまらないことなんじゃんとか」
    ・「えー、と。内省レポートだか、なんかそんな”緊張する”とか書いても意味ないんじゃないかなーとか思ったり…」
    ・「他の人が読むのに、”あー、緊張する!”とか書いてもしょうがないじゃないですか…」
    ・「(緊張する!とか書けないのは、かっこ悪いから?)かっこ悪いというか、やっぱ建設的じゃないな、っていう感じがしているので…」
    ・「なんか、ブログはもっとこう、家のものみたいな…お家でやるものみたいな感じで、やっぱり、内省レポートは学校のものって感じが…する」
    理論的メモ ・他人に見られることによる心理的制約のこと。少なくとも建設的なことを書かなきゃいけないという縛りと深い葛藤を書けない縛りの2種類がありそうなので、概念からカテゴリーになると思われる。

    分析ワークシートを作成した後は、リサーチクエスチョンを常に意識して、理論を実際に構築していきます。『SCQRMベーシック編』では、関心相関的サンプリングに基づき、内省レポートに対して、「肯定的な人」「否定的な人」「中間にいそうな人」を選出し、インタビューを行っています。理論化のプロセスでは、これらのインタビュイーごとに個々のモデル(ver2.0)を構築しています(basic, p.192)。そして、内省レポートシステムの中核である「書くこと」と「読むこと」という2つの特性を中心に3つの個別モデルを統合し(ver3.0)(basic, p.203)、さらにこのモデルに、3つの個別モデルから色々な概念を追加し、モデル(ver4.0, 4.5)を洗練させていきます(basic, p.209)。最終的には、再度分析ワークシートの各概念を精査して、概念をしぼりこみ、最終的な改訂(ver.5.1)を行っています(basic, p.210)。

    図2. 実習生の内省レポート体験の改訂モデル(ver.3.0)

    図3. 実習生の内省レポート体験の改訂モデル(ver.5.1)

    M-GTAの理論的意義と限界

    最後に、M-GTAの理論的意義と限界について触れておきましょう(advance, p.118)。M-GTAは、データをいわば不確実性の中で作られるものとして捉えたことに加えて、分析の中心に、「研究する人間」を置いています。これは、研究する側に「主体性」を取り戻すための試みです。しかしながら、「研究対象の現実」というものを無条件に前提としており、「現実とは何か」ということを問い直してはいません。つまり、「研究対象となる複雑な現象とは何か」、といったことを含めて”存在論的考察”がなされていません。また、”言語的洞察”が欠けているという問題もあります。具体的には、「データは言葉である」として、数量的研究と質的研究が本質的に同じであると示す一方で、データが言葉である以上、「データとは何か」と問い直すためには、「言葉とは何か」、さらには、「現実と言葉の関係」を論じる必要が生じます。

    構造構成主義は、以上のようなM-GTAの持つ限界を理論的に補う超メタ理論として機能します。まず、構造構成主義は、「あらゆる認識論的立場の起点となる共通地平を設定する」という目的を達成するための方法概念として”現象”を置いています。次に、構造構成主義では、「存在」を、特定の身体構造、欲望、関心に応じて立ち現れる、「広義の構造」と位置づけています。そして、関心相関的に分節された「現象の分節」を、広義の構造と呼びます。これらから、「存在」は、「身体 – 欲望 – 関心相関的に分節された現象」(広義の構造)ということになります(関心相関的存在論)。また、構造構成主義は、ソシュールの一般言語学に基づき、コトバにおける恣意性に注目します。すなわち、コトバは、現象の分節に対して恣意的に付与された特定の「名」(シニフィアン)であり、「広義の構造」と同義であることを意味します(関心相関的言語論)。さらに、この言語論に基づき、構造構成主義では、理論(構造)は、関心相関的に構築されたもので、それがコトバでできている以上、恣意性は排除できないとの立場に依拠しています(関心相関的言語論)。

    関心相関的構造構成法

    前回の記事では、11の関心相関的アプローチ、および、関的存在論-言語論-構造論を中心にSCQRMを説明いたしました。しかしながら、現象から理論構築までのプロセスを担う”関心相関的構造構成法”は説明を意図的に省略していました。これは、M-GTAの説明をして初めてその全体像の理解が容易になると考えたためです。以下では、全体のプロセスについて図を用いながら説明をしていきましょう(advance, 181-185)。

    1. 関心の探索的明確化
    戦略的に「立ち現れた全ての経験」である「現象」から出発します。そして、まず現象の中から「特定の事象」に着目します。実際には、多かれ少なかれ探索しながら関心を明確化します。これを”関心の探索的明確化”と呼びます。

    2. 関心相関的データ構築
    M-GTAを用いてデータに基づいてボトムアップに理論を構築するためのデータを、特定の方法を媒介にして、身体-欲望-関心相関的に構成することを”関心相関的(録音)データ構築法”と呼びます。SCQRMでは、純粋に客観的なデータは存在せず、客観的な理論はありえないと考えます。例えば、録音してきたデータは、Aさんがインタビューした場合とBさんがインタビューした場合では、異なるものになるため、この時点で客観性は失われています。

    3. 関心相関的テクスト構築
    研究者の関心と特定の方法を媒介にしてテクストが作成されることを”関心相関的テクスト構築”と呼びます。テクストについても、構築されたデータを研究者の関心に照らして文字おこししたものであるため、客観的なものではありえません。

    4. 関心相関的ワークシート作成
    M-GTAでは、次の段階で分析ワークシートを作成します。このプロセスにて、研究者の関心と特定の方法、ここでは、M-GTAの分析ワークシート作成法を媒介として分析ワークシートを作成することを”関心相関的ワークシート作成”と呼びます。

    5. 関心相関的理論構築
    最後に、構築された分析ワークシートをベースとして、関心相関的に理論(構造)を構築することを”関心相関構造構築/関心相関的仮説生成/関心相関的モデル構築”と呼びます。

    まとめ

    今回は、モデル構築がその研究の目的である場合において、SCQRMに採用されている分析ツールとしてのM-GTAについて、前身となるGTAについて説明したのち、具体例を示しながらその分析プロセスを紹介をいたしました。具体的には、文字おこしを行い、データ化したテクストの中から、キーワードを見つけ、キーセンテスを引いていき、これらに名前を付け(概念化)、次に、概念のまとまりごとに対して、見出しをつけてテクストを構造化し(カテゴリ化)、さらに、抽出された概念やカテゴリの関係を捉えて暫定的な全体像やモデルを素描する(理論化)というプロセスでした。また、実際にM-GTAを用いて分析を行う場合、手続きとして作成する分析ワークシートの説明を行いました。最後に、M-GTAを実践例として組み込んだ関心相関的構造構成法について説明をいたしました。

    次回は、いよいよソーシャルイノベーションのための構造構成主義的プロダクトデザイン手法の理論について説明をいたします。

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    構造構成主義的質的研究法(SCQRM)

    前回は、既存のデザイン手法をBOPというフィールドに適用する場合の限界について述べ、その限界を打破するためのアプローチを構築するための足がかりとして、「現象学」と「構造主義科学論」の流れを組む超メタ理論であり、現象と関心に注目することで、人間科学において起きがちな信念体系同士の対立を克服し、建設的なコラボレーションを促進するための方法論である、構造構成主義の全体像について説明しました。構造構成主義的アプローチを導入することで、BOPというフィールドの持つ”特殊性”を構造的に理解し、提供者(デザイナ)と被提供者(ユーザとしての現地人)の信念対立を解消することが可能となります。しかしながら、このような構造構成主義それ自体は概念であり、思想であるため、デザイン手法として直接応用することは困難です。

    今回は、構造構成主義を背景として持つ研究法のひとつとして臨床心理学などの分野で用いられている、”構造構成主義的質的研究法(SCQRM)”を紹介いたします。SCQRMは構造構成主義を超メタ理論(超認識論)とするメタ研究法で、関心相関性を中核原理とし、メタ方法論として、以下の11の関心相関的アプローチを備えています。

    1. 関心の探索的明確化
    2. 関心相関的継承
    3. 関心相関的選択
    4. 関心相関的サンプリング
    5. 関心相関的調査(質問)項目設定
    6. 関心相関的方法(方法概念・研究法)修正法
    7. 関心相関的構造(理論・モデル・仮説)構築
    8. 関心相関的報告書(論文)構成法
    9. 関心相関的プレゼンテーション
    10. 関心相関的評価
    11. 関心相関的アドバイス

    このうち1-7までは”構造探索過程”、8-11を”研究報告過程”と区分できます。前回関心相関性については説明いたしましたが、改めて前回の説明箇所を引用しておきましょう。

    関心相関性とは、「あらゆる存在や意味や価値はそれ自体独立自存することは原理的にありえず、我々の身体や欲望や関心といったものと相関的に立ち現れてくるとする原理」と定義されています(『構造構成主義とはなにか』, p.189)。これは、「存在や意味、価値などは、絶対なものではなく、当事者の身体状況や欲望、目的、関心の度合いなどと相関的に規定される」という側面を捉えた原理です。例えば、我々は道路の水たまりに普段気づきませんが、死ぬ直前まで喉が乾いていた場合、この水たまりは貴重な飲料水としての価値を帯び、そのような価値を持つ存在として立ち現れます。

    以下では、このような関心相関性を中核原理とした11のアプローチそれぞれについて、西條剛央 氏の著作『質的研究とは何か – SCQRMベーシック編(以下、basic』『質的研究とは何か – SCQRMアドバンス編(以下advance)』をもとに、詳細を説明いたします。

    関心相関的アプローチ

    1. 関心の探索的明確化

    まず、戦略的に「立ち現れた全ての経験」である「現象」から出発します。そして、現象の中から「特定の事象」に注目します。特定の事象に注目するまでのプロセスにおいて、探索しながら関心を明確化することを”関心の探索的明確化”と呼びます(advance, p.182)。

    例えば、『質的研究とは何か – SCQRMベーシック編/アドバンス編』では、教育実習という現象から出発し、実習中に考えたことや感じたことを文章化する「内省レポート」という特定の事象に注目した上で、リサーチクエスチョンを構築しています(basic, p.57-60)。

    2. 関心相関的継承

    これまで自然科学はもちろん、社会科学においても、知見の積み上げという点では、「検証」という枠組みが用いられてきました。この背後には、「主体の外部に客観的心理が実在していて、仮説を繰り返し検証することで、その客観的実在に到達できる」という客観主義的認識論があると言ってよいでしょう。この検証という手続きは、特に自然科学の文脈で有効性を発揮してきましたが、客観主義を前提としており、認識論が異なる質的研究には適さない、という問題があります。質的研究が対象とする内的世界や意味世界といった側面は、本来的に多様な解釈が並列しうるものであり、客観的事実の存在を前提とする「検証」と異なる場合、すなわち、そのような存在を前提としない場合、有効に機能しません。

    そこで質的研究において先行研究を引き継ぐことを担保する方法として「継承」という考え方が提案されています。これは、「研究対象とする現象に応じて、仮説をより細分化・精緻化していく従来の”検証的方向性”と、記述や解釈の多様性を拡大する”発展的方向性”の、双方を柔軟に追求可能な枠組み」[1]です。継承は、発展と精緻化の双方を包含する概念であり、「発展的機能」と「検証的機能」は、研究者の関心と相関的に決まります。この点において、”関心相関的継承”と呼ばれます(basic, p.50-51)。

    [1] 西條剛央. “生死の教会と自然・天気・季節の語り – 仮説継承型ライフストーリー研究のモデル提示.” 質的心理学研究. 2002: 1, 55-69.

    3. 関心相関的選択

    SCQRMでは、理論も方法も研究を構成するツールとして捉えます。ツールは必ず、特定の状況で、何らかの目的のもとで使われます。関心相関的観点によれば、方法の価値は目的と相関的に決定されます。それが方法である以上、Aという状況において、Xという目的を達成するために資するものであるかどうかによってその価値は判断されることになります。そして、この観点からそれぞののツールの価値が判定されることになります。したがって、認識論、理論、技法、フィールド、対象枠組みといった研究を構成する全てのツールは、現実的制約を勘案しつつ、リサーチクエスチョンや研究目的に照らして選んでいけばよいことになります。これを選択原理として定式化された”関心相関的選択”と呼びます(basic, p.60-61)。

    例えば、さきほどの教育実習における内省レポートについては、昨年までの内省レポートを分析するか、昨年までに実習を受けた人を対象にインタビューするか、それらを組み合わせるしか方法が存在しません。このような現実的制約を踏まえて、リサーチクエスチョン(関心)にあった方法を選ぶことになります。

    4. 関心相関的サンプリング

    研究者の関心に照らし合わせて(相関的に)対象者をサンプリングすることを”関心相関的サンプリング”と呼びます。これは関心相関的選択のバリエーションの1つです。関心相関的選択によれば、研究を構成する全てのツールや材料は、現実的制約を勘案しつつ、リサーチクエスチョンや研究目的に照らして選んでいくことになります。これを対象者の選択に関して言えば、関心相関的サンプリングという考え方になります(basic, p.102)。

    例えば、実習体験者の本音を知りたいのにも関わらず、実習を受けたことがない学生を捕まえても仕方がありません。あるいは、「実習生は内省レポートについて、肯定的、否定的側面を含めてどのような体験をしているか」というリサーチクエスチョンの場合、時間的な制約を踏まえて、内省レポートに対して、「肯定的な人」と「否定的な人」あとは、「中間的にいそうな人」を過去のレポートなどを参照して典型的な人をサンプリングすることになります。

    5. 関心相関的調査(質問)項目設定

    現実的制約を勘案しながら、リサーチクエスチョンに照らして、質問項目を設定することを”関心相関的質問項目設定法”と呼びます。より一般的に言えば”関心相関的超項目設定法”と呼びます(basic, p.113)。

    この場合の現実的制約とは、1時間インタビューするとしても、一問あたり20分と考えて、最終的には、3つ程度に大きくテーマを絞ることが望ましい、などの制約を指します。
    また、リサーチクエスチョンが「実習生は内省レポートについてどのような体験をしているか」というものである場合、直接リサーチクエスチョンに関して聞いてしまってもよいですし、間接的にそれを浮かび上がらせるような質問項目があってもよいでしょう。

    6. 関心相関的方法(方法概念・研究法)修正法

    あらゆる方法概念は、Aという現実的状況において、Xという目的を達成するための手段に過ぎません。したがって、研究法を修正する際は、研究実施上の制約と、研究目的を踏まえつつ、どこをなぜ修正したのかという「理由」を明示する、ということになります。これは、既存の研究法を妥当に修正して使用するための方法原理であり、”関心相関的研究法修正法”と呼びます(advance, p.60)。

    例えば、内省レポートに関して、より多くの人に共通するモデルを作ることを目的とした場合、1名から得られた概念を利用したり、3名(肯定的、否定的、中立)しか扱わない立場は不適切ということになります。しかしながら、研究の目的が、内省レポートを巡る体験の肯定的側面のみならず、これまで看過されてきた否定的側面までを含む多様な側面を捉え、モデル化することにあった場合、内省レポートに対して肯定的な人、否定的な人、それらの中間の人を一人ずつ理論的サンプリングすることにより、内省レポートの肯定的側面から否定的側面までをバランスよく捉えることとした、と主張することができます。

    7. 関心相関的構造(理論・モデル・仮説)構築

    SCQRMでは、テクスト分析の手法として、データに基づいてボトムアップに理論を構成する研究手法であるM-GTA(Modified Grounded Theory Approach)を採用しています(M-GTAについては次回で詳細を説明いたします)。M-GTAでは、研究対象となる特定の事象についてのインタビューデータを用いて、研究者の関心と特定の方法を媒介にしてテクストが作成されます。次に、テクストをベースとして「分析ワークシート」を作成します。さらに、作成された分析ワークシートをベースとして、関心相関的に理論(構造)を構築することを関心相関的構造構築と呼びます(advance, p.184)。

    8. 関心相関的報告書(論文)構成法

    研究者の関心にもとづき探索的に構成されてきた構造(仮説・理論・モデル)を踏まえ、そこから逆算的に目的を再設定し、関心相関的選択を方法論的な視点として、説得的な報告書(論文・抄録)を構成することを”関心相関的報告書(論文)構成法”と呼びます(advance, p.74)。

    例えば、「本研究は仮説生成を目的としたため、研究方法としてモデル構築に適したM-GTAを選択した」というように、研究目的に照らしてその選択理由を書きます。そうすることによって、読者はその選択が目的を達成するために適しているかを吟味することができるようになり、恣意的な選択をしているとは思われない、説得的な報告書を作成することができます。

    9. 関心相関的プレゼンテーション

    プレゼンテーションの場によって求められるものは変わってくるため、関心相関的観点から、聴衆の関心の所在がどこにあり、関心の強度はどの程度なのかを推察しつつプレゼンテーションを行うという原則を”関心相関的プレゼンテーション”と呼びます(advance, p.11)。

    10. 関心相関的評価

    質的研究を評価する際の視点として、第1に、相手の認識論的前提を見定める必要があります。第2に、関心相関的観点を働かせて自他の関心を対象化した上で、研究を評価する必要があり、これを”関心相関的評価”と呼びます。関心相関的観点によって、「私が知見Aに価値を見いだしているのは、自分のZという関心に沿っているからであって、逆にBという知見に全く価値が無いように思えるのはその関心に沿ってないからなのであろう」と思い至る可能性が開けます。これによて、特定の研究に対する印象評価には、自分の関心が強く影響していることを十分認識した上で、相手の関心を踏まえて、より妥当な研究評価をすることができます(advance, p.47)。

    11. 関心相関的アドバイス

    アドバイスをする場合、相手が何をしようとしているのか、その関心を踏まえることで、建設的なアドバイスをすることができます。この、相手の目的を踏まえた上で、その目的を達成するためにどうすればよいかを具体的かつ現実的に可能なアドバイスをすることを”関心相関的アドバイス”と呼びます(advance, p.47)。

    関的存在論-言語論-構造論

    SCQRMは、共通了解が成立する可能性、すなわち、共通了解可能性を理論的に担保します。まず、探求の方法概念として、「立ち現れ」である「現象」を置きます。そして、言語をはじめとする認識枠組みを媒介としながら、身体、欲望、関心相関的に現象は分節化されていきます。その現象の分節が「広義の構造」です。それに対して関心相関的に名が付けられて、「コトバ(概念)」が作られます。そのコトバを材料に、やはり関心相関的に何らかの方法的枠組み(研究法)をツールにして、コトバとコトバの関係形式である「狭義の構造(理論・モデル・仮説)」が作られます。このように、方法概念としての現象を出発点としつつも、広義の構造やコトバ、狭義の構造を通じて、構造の共通了解可能性を拓くことが可能となります。これは、存在論、言語論、構造論的に一貫性のある説明が可能となったということを意味します。これらの理路を総称して”関的存在論-言語論-構造論”と呼びます(advance, p.143-144)。

    メタ研究法としてのSCQRM

    最後にまとめとしてメタ研究法としてのSCQRMについて説明いたします。SCQRMは、構造構成主義を超メタ理論(超認識論)とするメタ研究法で、関心相関性を中核原理とし、メタ方法論としての11の関心相関的アプローチを備えています。また、関心相関的存在論-言語論-構造論によって、構造構成的-構造主義科学論という科学論と、関心相関的構造構成法といった方法枠組みが基礎づけられています。このメタ研究法は、通常のの個別研究法と異なり、多種多様な個別研究法に妥当する枠組となります。例えば、質的研究と称されるものは、第12回で説明した調査法に加えて、これまで説明したGTAやM-GTAの他、KJ法[2]、エスノメソドロジー[3]、社会構築主義的アプローチ[4]、シンボリック相互作用論[5]、アクションリサーチ[6]、ライフコース分析[7]、フェミニストアプローチ[8]、解釈学的現象学[9]、自己観察法[10]、エピソード分析[11]、ディスコース分析[12]、フーコー派言説分析[13]、メモリーワーク[14]等、認識論から分析的枠組みまで多様な次元の枠組みが含まれています。これら全てのアプローチをこのメタ研究法において使用することができます(advance, p.47)。

    [2] 川喜田二郎. 続・発想法, 中央公論新社, 1970.
    [3] 前田泰樹, 水川喜文, 岡田光弘. エスノメソドロジー – 人々の実践から学ぶ, 新曜社, 2007.
    [4] K.J.ガーゲン. 社会構築主義の理論と実践 – 関係性が現実を作る, ナカニシヤ出版, 2004
    [5] ハーバート・ブルーマー. シンボリック相互作用論 – パースペクティヴと方法, 勁草書房, 1991.
    [6] 佐野正之. はじめてのアクションリサーチ – 英語の授業を改善するために, 大修館書店, 2005.
    [7] グレン H.エルダー, ジャネット Z. ジール. ライフコースの研究の方法, 明石書店, 2003.
    [8] ホロウェイ, ウィーラー. “フェミニストアプローチと質的研究”, ナースのための質的研究入門―研究方法から論文作成まで, 医学書院, 2006: 137-150.
    [9] Marlene Zichi Cohen, Richard H. Steeves, David L. Kahn. 解釈学的現象学による看護研究―インタビュー事例を用いた実践ガイド (看護における質的研究), 日本看護協会出版会, 2005.
    [10] Noelie Rodriguez, Alan L. Ryave. 自己観察の技法―質的研究法としてのアプローチ. 誠信書房, 2006.
    [11] 鯨岡峻. エピソード記述入門―実践と質的研究のために, 東京大学出版会, 2005.
    [12] 鈴木聡志. 会話分析・ディスコース分析―ことばの織りなす世界を読み解く, 新曜社, 2007.
    [13] Carla Willig. “フーコー派言説分析”, 心理学のための質的研究法入門―創造的な探求に向けて, 培風館, 2003: 146-169.

    まとめ

    今回は、構造構成主義を超メタ理論(超認識論)とするメタ研究法である、構造構成的質的研究法(SCQRM)を紹介いたしました。SCQRMは関心相関性を中核とし、11の関心相関的アプローチを備えていました。SCQRMは、モデル構築がその研究の目的である場合において、関心相関的選択に基づき、M-GTA(Modified Grounded Theory Approach) を分析ツールのひとつとして採用しています。M-GTA は、研究者(観察者) の問いを明らかにした上で、インタビューや観察を行ない、その結果を書き起こしたテキストを分析し、データに立脚した仮説や理論を構築します。テキスト分析では、研究者は、研究者の注意を引くキーワードやキーセンテンスをコード化し、データ化します。そしてデータを構造化し、概念やカテゴリなどの関係を捉え、暫定的なモデルを構築します。

    次回は、M-GTAを用いたデータ分析手法を紹介いたします。

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    既存のデザイン手法の限界と構造構成主義

    前回は、デザインプロセスにおいて用いられてきた既存のデザインメソッドの紹介の第3弾として、「3. プロトタイピングを行う」プロセスにおいて利用可能なデザインメソッドであるデザインパタンを取り上げ、その起源、および、建築からソフトウェアエンジニアリング、HCIまでの変遷を追ってきました。特にHCIのデザインパタンについては、年代別に導入・発展・拡散の3つのフェーズに区分し、それぞれの特徴について説明をいたしました。また、現状のパタンの問題点として、決定論的パタンとしての限界、パタン同士を組み合わせて全体性を構築する際のデザイナ関与部分に関する問題について指摘いたしました。

    今回は、既存のデザイン手法の限界、特にBOPというフィールドに既存のデザイン手法を適用する際の限界について、”構造”をキーワードとして論じたいと思います。その上で、打開策としての構造構成主義について説明をいたします。

    既存のデザイン手法の限界

    ここまで3回に渡って様々なデザインメソッドの紹介をしてきました。第1回は「1. フィールドへ赴き、データを取得する」ためのメソッドとして、量的データではなく、質的データに注目し、質的調査法として、口頭データと視覚データの様々な採取方法について説明をいたしました。第2回は、「2. 課題を発見し、仮説を構築する」ためのメソッドとして、質的データを用いたモデリング手法を紹介いたしました。第3回は、「3. プロトタイピングを行う」プロセスにおいて利用可能なデザインメソッドとして、デザインパタンを取り上げました。これらは、問題を発見し、仮説を構築し、問題を解決するための手法と言えます。

    現時点で分かっていることは、これらの手法は、先進国において流通するプロダクトをデザインするプロセスにおいてのみ有用性が確認された手法である、ということです。これらの手法は、BOPを対象とする場合においてもて有用と言えるのでしょうか?例えば、iPodは、グローバル市場にて流通させることを目的に設計され、今日世界の先進国にそのユーザが存在しています。iPodのような製品のデザインプロセスでは、先進国というグローバル市場において存在しうる、一般化された(音楽好きの)ユーザが、ペルソナとして設定されます。そして、似たような架空の背景と環境を持つペルソナの振る舞いが、シナリオを通じて記述されます。一方、BOPをフィールドとして設定する場合、類似した環境は稀であり、環境の”特殊性”を第一に考慮する必要があります。つまり、民族性、土着文化、宗教を背景として培われた人々の価値観や現場の状況に応じて、受け入れられるプロダクトがそのフィールドごとに異なります。したがって、現場ごとの”特殊性”を構造的に理解するためのデザインプロセスを新たに組み込むことによって初めて、BOPを対象とするソーシャルイノベーションを目的としたプロダクトデザインが可能となるのです。以下ではBOPの特殊性について2つの観点から掘り下げて考えてみましょう。

    フィールドのごとの複雑性

    第1の特殊性は、”フィールドのごとの複雑性”です。先進国向けのプロダクトの場合、具体的かつ詳細に渡るペルソナおよびシナリオを策定したしても、先進国に存在しそうな一般化されたユーザに結果として陥らざるを得えません。これは、至極当然で、どこの国にでもいそうな音楽好きのユーザに対するデザインが求められるためです。しかしながら、BOPをフィールドとして設定した場合、フィールドごとに言語、文化、宗教の違い、近代化の度合いの違い、さらには、伝統的な価値観と近代的な価値観から生まれる矛盾など、あるプロダクトが受け入れられるためにデザイナが考慮すべきパラメータが、画一化されたグローバル市場向けのプロダクトにおいて考慮すべきパラメータと比較した場合、飛躍的に増加します。このようなフィールドの複雑性を踏まえた上で、そのフィールドを構造的に理解するアプローチがソーシャルイノベーションのためのプロダクトデザイン手法において求められます。

    関心の対立構造

    第2の特殊性は、”現地人の関心とデザイナの関心の対立”です。先進国向けのプロダクトの場合、デザイナの関心とユーザの関心の乖離を少なくさせることが、ペルソナやシナリオなどの手法を用いる副次的効果といえます。しかしながら、この構造は、先進国間同士の関係性にすぎず、原理的に互いの関心の極端な乖離は生じにくいと言えます。一方、BOPをフィールドとして設定した場合、先進国のデザイナと現地人のユーザという異なるバックグラウンドを持つ2者の関係が問題となり、デザイナは、現地人の関心を的確に把握し、両者の信念対立を回避することが求められます。これは、デザイナの意図のみを現地人に押し付けた場合、現地人の不幸を招くためです。一方で、現地人のニーズだけに注目し、彼らの水準に合わせたプロダクトを作るだけでは、デザイナのモチベーションの低下につながります。このような両者の対立を踏まえた上で、デザイナと現地人が互いに満足することのできるプロダクトを構築可能であることに加え、持続的な関係性を構築可能なアプローチがソーシャルイノベーションのためのプロダクトデザイン手法において求められます。

    以上述べたように、BOPをフィールドとして設定した場合、フィールドの特殊性というマクロな要素を構造的に理解することに加えて、そのフィールドに存在する人々、具体的にはデザイナとユーザとしての現地人の関心というミクロな要素をいかに同定するか、という課題が存在します。先進国を対象として構築された様々なデザインメソッド用いたアプローチは、これらの要素を考慮していないため、BOPというフォールドへの適用において限界が生じます。BOPを対象としたソーシャルイノベーションのためのプロダクトデザイン手法を構築するという目的に対して、これらの課題を解決するために採用する理論こそ、西條剛央 氏によって体系化された超メタ理論としての”構造構成主義”です。以下では西條の著書『構造構成主義とは何か』に準拠しつつその説明を試みたいと思います。

    構造構成主義

    構造構成主義は、「現象学」と「構造主義科学論」の流れを組む超メタ理論であり、現象と関心に注目することで、人間科学において起きがちな信念体系同士の対立を克服し、建設的なコラボレーションを促進するための方法論です。以下に構造構成主義のモデル図を示します。

    構造構成主義において「構造構成」というとき2つの構造構成が存在します。1つは「哲学的構造構成」、もう1つは、「科学的構造構成」です。哲学的構造構成は、「所与の確信を”構成された構造”として捉えることにより、その確信がどのように構成されてきたものなのかを問うタイプの反省的試み」を指します。言い換えれば、「”確かにそうである”という信憑構造がどのように構成されたものなのか、その確信成立の条件を解き明かしていく哲学的営み」ということができます(p.191)。一方、科学的構造構成は、「広義の科学性を担保しつつ、現象を構造化するという意味での構造構成を行う領域」を指します(p.195)。これら2つの構造構成について具体的に説明する前に、両者に通底する2つの概念である「現象学的概念」と「構造主義科学論」について説明をいたしましょう。

    現象学的概念

    現象学的概念の中で、「関心相関性」と「信憑性」は、哲学的構造構成と科学的構造構成に通底する概念となります。

    まず、関心相関性とは、「あらゆる存在や意味や価値はそれ自体独立自存することは原理的にありえず、我々の身体や欲望や関心といったものと相関的に立ち現れてくるとする原理」と定義されています(p.189)。これは、「存在や意味、価値などは、絶対なものではなく、当事者の身体状況や欲望、目的、関心の度合いなどと相関的に規定される」という側面を捉えた原理です。例えば、我々は道路の水たまりに普段気づきませんが、死ぬ直前まで喉が乾いていた場合、この水たまりは貴重な飲料水としての価値を帯び、そのような価値を持つ存在として立ち現れます。

    このような関心相関性は次の7つ機能を持っています。以下ではそれぞれについての説明を印象しましょう(p.54-62)。

    1. 自他の関心を対象化する機能
    2. 研究をより妥当に評価する機能
    3. 信念対立解消機能
    4. 目的の相互了解・関心の相互構成機能
    5. 世界観の相互承認機能
    6. 方法の自己目的化回避機能
    7. バカの壁解消機能

    1. 自他の関心を対象化する機能

    通常、価値の主観的な価値は隠蔽されています。何かを食べておいしいと感じたときには、自分が感じたおいしさに主観的な好みが関わっていること(身体-欲望-関心と相関的であること)は忘れ去られています。しかしながら、ここで判断停止(判断保留/エポケー)をすると、その時はお腹が空いており(身体)、食欲が旺盛で(欲望)、食べ物に強い関心のある時であったからとてもおいしく感じたのかもしれないし、逆にお腹が一杯であれば、おいしいという価値がそのひとに立ち現れにくいことは容易に想像できます。関心相関的観点によって、関心相関的に立ち現れている価値の側面を対象化することができ、より妥当な価値判断をすることが可能になります。

    2. 研究をより妥当に評価する機能

    関心相関性によって、自らが感じる価値は「対象に実在するもの」ではなく、「欲望や関心に応じて、時々刻々たち現れること」として受け取ることが可能となり、それによって異なる関心や領域の仕事に対してより妥当な評価をすることが可能になります。

    3. 信念対立解消機能

    関心相関的観点によれば、それぞれの確信(信念)がどのように構成されていくのかを可視化し、信念対立を回避することが可能となります。

    4. 目的の相互了解・関心の相互構成機能

    各人が関心相関的観点を持つことにより、相互の関心を可視化した上で、議論全体の目的を明確なかたちで共有し、常にそれを基準として妥当な方法などを選択しつつ、推し進めていくことができます。
    また、相互の関心を可視化できるということは、例えば「人間のため」といったメタレベルの目的を共有した上で、その目的に照らし合わせて関心それ自体の妥当性を検討し、摺りあわせてゆくことも可能になります。そうして、相互構成された関心を他者と共有することにより、新たな目的を共有した学問領域や特定課題プロジェクトを進めることもできるでしょう。

    5. 世界観の相互承認機能

    関心相関性は、「共通了解の動的関係規定性」を前提としており、世界がある時は多様な、ある時は一様な姿を現すという矛盾を含み、動的に変容する有様を言い当てる原理であり、関心相関性的観点によって、多様な世界観を相互承認することが可能となります。

    6. 方法の自己目的化回避機能

    方法は、文字通り目的を実現するための方法(手段)であるため、その妥当性は目的と相関的に判断されねばなりません。単独で全ての目的を達成し、問題を解決できる「絶対的な方法」などというものは原理的にありえないということを改めて認識可能となるのが関心相関性なのです。

    7. バカの壁解消機能

    養老[1]によればバカの壁とは、「自分の知りたくないことについては自主的に情報を遮断してしまっている」状態を指します。バカの壁は問題の解決方法ではなく、全体や常識のズレを知覚することなく自分の実感を盲信するという問題を定式化(概念化)したものといえます。
    関心相関性は、問題を認識するツールとなると同時に、問題の解決法となります。関心相関性とは、自らの「常識や当たり前のことに対するスタンス」を可視化するための原理であることから、関心相関性を認識装置として身につけることは、自らが暗黙裡に依拠している常識や前提を自覚するための有効な視点となりえます。

    [1] 養老孟司. バカの壁, 新潮社, 2003.

    次に、「信憑性」は、「確かにそうである」という確信を指します。哲学的営為としては、確信成立条件の解明が中心となり、確信がどのように取り憑くのか、その「信憑性」の構成過程を思考実験的に明らかにします。また、科学的営為においては、より上手に現象をコードすべく、「確かにそうである」という「信憑性」を喚起する構造を追求する立場を取ることとなります(p.190)。

    構造主義科学論

    池田[2]により体系化された構造主義科学論は、「現象学的思考法」と「構造」を基軸とすることにより、科学論における主格の難問を解決した科学論であり、人間科学の科学的基盤となるものです。現象学的概念と同様に、構造主義科学論において哲学的構造構成と科学的構造構成に通底する概念である、「構造」と「恣意性」についての説明を引用いたしましょう(p.190-1)。

    [2] 池田清彦. 構造主義科学論の冒険. 毎日新聞社, 1990.

    まず、構造構成主義における「構造」とは、狭義には、つまり、科学的営為に用いる場合には、『構造主義科学論』にならい、「”同一性と同一性の関係性とそれらの総体”といえる存在論的な概念」ということになります。また、広義の意味では、ロムバッハ[3]にならい、「関心相関的にたち現れる根源的な何か」といったものになります。
    また、構造は、実在としての構造や客観世界の反映としての構造(システム)ではありません。言い換えれば存在物としての構造ではなく、存在論的な意味における構造といえます。つまり、構造構成主義における構造とは、我々と無関係に存在する自然物ではなく、いかなる構造も人間が構成したものであり、その意味において、人間の恣意性が混入せざるを得ないということになります。

    次に「恣意性」について説明する前に、言葉の恣意性について説明をいたします。言葉は実在の反映である存在的な写像と思われますが、そうではありません。言葉は原理的には恣意的(社会的)なコトです。これを言葉の恣意性と言います。言葉が恣意的であるならば「言葉(同一性)と言葉(同一性)の関係形式である構造も恣意的ということになります。その意味では恣意性は科学的構造構成の基礎となるものと言えるでしょう。「恣意性」とは、言葉や構造が人間によって構成された物である以上、原理的には、恣意的(社会的)な側面を含まざるを得ないことを明示化する概念であり、それゆえに構造構成主義の根底をなす考え方の1つとなります。

    [3] Rombach,H. 存在論の根本問題: 構造存在論. 晃洋書房, 1971.

    哲学的構造構成

    先に、哲学的構造構成とは、「所与の確信を”構成された構造”として捉えることにより、その確信がどのように構成されてきたものなのかを問うタイプの反省的試み」と説明いたしました。この哲学的構造構成という営為領域には、判断中止、現象学的還元、科学論的還元、記号論的還元などの思考法が含まれます。判断中止、現象学的還元については、フッサール現象学[4]-竹田青嗣現象学[5]の系譜に由来します。また、科学論的還元と記号論的還元はソシュール[6]と丸山圭三郎[7]の「記号学」の議論に由来します。以下ではそれぞれについて、説明していきましょう。

    [4] Husserl, E. ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学. 中央公論新社, 1954.
    [5] 竹田青嗣. 現象学は思考の原理である. 筑摩書房, 2004.
    [6] Saussure, Fe. 一般言語学第三回講義: コンスタンタンによる講義記録. エディット・パルク, 1910-1911.
    [7] 丸山圭三郎. ソシュールを読む. 岩波書店, 1981.

    判断中止:
    判断中止とは、確信に対して、戦略的にストップを掛け、いったん括弧に入れる思考法です。これはそれが意識されるか否かは別として、次の「現象学的還元」を行うための前段階の思考法です。

    現象学的還元:
    現象学的還元とは、哲学的構造構成の中心概念であり、「確信の成立条件を問う」という思考法です。例えば自然的態度では「リンゴがあるからリンゴが見える」とまっすぐに考えますが、そうではなく、「この現象(リンゴ)が我々にとってどのように成立してくるのか」といった確信成立の条件と構造を問うのが還元という方法の内実です。

    記号論的還元:
    記号論的還元とは、「記号」が実在を指し示すものであるという確信がどのように構成されるものであるか、その成立条件を明らかにすることにより、記号(コトバ)が原理的に(本来的に)「恣意的(社会的)であること」を明示的にするものです。

    科学論的還元:
    科学論的還元は、記号論的還元の科学論バージョンです。つまり、「科学」というコトバ(記号)がどのような過程を経て絶対的なモノとして実体化するのか、その過程を明らかにすることにより、「科学」というコトバを相対化する思考法です。

    科学的構造構成

    科学的構造構成についても同様に、「広義の科学性を担保しつつ、現象を構造化するという意味での構造構成を行う領域」と説明いたしました。ここでは、科学的構造構成という営為領域に含まれる、関心相関的選択、構造化に至る軌跡、関心相関的継承、アナロジー法といったツールについて説明していきましょう(p149-168)。

    関心相関的選択:
    構造構成主義では、関心相関性を基軸とすることにより、従来事象を認識する根底に位置づけられていた認識論を研究(者)の関心・目的に応じて柔軟に選択することが可能となり、これを関心相関的選択と呼びます。
    例えば、「人間的事象の意味的側面を捉えるために、戦略的に社会的構築主義を採用し、人間的事象の確実な側面を捉えるために、戦略的に客観主義的なメタ理論的枠組みを採用する」といったように、各認識論は研究目的や現象に応じて選択可能となります。

    構造化に至る軌跡:
    構造構成主義では、「条件統制」ではなく、「条件開示」を基礎に据えます。条件開示さえされていれば、現場で提起された構造も、特定の条件下で得られた構造であることを踏まえた上で、読み手がその構造の有効性やその射程を判断することが可能となります。この条件開示のことを構造構成主義では、「構造化に至る軌跡」と呼びます。つまり「構造化に影響すると考えられる諸条件」を開示します。

    関心相関的継承:
    研究対象とする現象に応じて、仮説をより細分化・精緻化していく従来の「検証的方向性」と、記述や解釈の多様性を拡大する「発展的方向性」の、双方を柔軟に追求可能な枠組を、「継承」と呼びます。この枠組は、研究対象や目的と相関的に「確認的継承」と「発展的継承」を選択可能な枠組みであることから、関心相関性を基軸とすることを強調する場合には、「関心相関的継承」を呼びます。

    アナロジー法:
    「類似性の制約」と「構造の制約」と「関心相関性」を組み合わせることによって、存在的には一見異質に見える現象(テーマ、対象)を扱う研究間で仮説を継承可能にする枠組みです。
    ホリオークとサガード[8]は、アナロジー的思考に作用する3つの基本的な制約を挙げています。第1の「類似性の制約」とは、アナロジーはある程度までは含まれている要素の”直接的な類似性”に導かれて生じるという原則です。第2の「構造の制約」とは、アナロジーはベース領域(なじみ深い領域)とターゲット領域(新たに理解しようとする領域)の役割の間に、一貫した”構造上の相似関係”を見出すように働きかける圧力によって導かれる、というものです。第3にアナロジーの探索は、アナロジー利用の”目的”によって導かれるというものです。
    このアナロジーの原則を新たな一般化の枠組みとの理論化に組み込み、定式化すると”類似性、構造、目的の3つのアナロジー原則を活用した一般化”と言えます。例えば、「Aとαは存在的には異なる事象だが、Xという関心に基づけば、~といったように、「類似性の制約」と「構造の制約」を満たすことができることから、それらを存在論的に同じものとしてみなすことができる」といういった趣旨を論文の「問題・目的」部に記載することにより、異なるテーマや対象の研究からも継承が可能となります。

    [8] Hoyyaok, K.J., & Thangard, P. アナロジーの力: 認知科学の新しい探求. 新曜社, 1998.

    2重の構造構成の意味

    以上述べてきたように、構造構成主義は、哲学的構造構成と科学的構造構成という2種類の構造構成によって構成されています。この2重の構造構成の持つ意味について西條は、次のようにまとめています。

    科学的構造構成だけでは、異領域間の信念対立や相互不干渉に陥り、人間科学のるつぼとしての特徴を活かしたコラボレーションを実践することはできない。他方、哲学的構造構成だけでは、現象を構造化することができず、人間科学の科学的営みを基礎づけることができない(p.197)。

    構造構成主義は、哲学と科学という2つの営為領域を整備することにより、哲学的構造構成によって、異領域間の信念対立を解消し、科学的構造構成により、科学的生産力を上昇させることが可能になっている(p.199)。

    まとめ

    今回は、既存のデザイン手法をBOPというフィールドに適用する場合の限界について述べ、その限界を打破するためのアプローチを構築するための足がかりとして、構造構成主義の全体像について説明をしてきました。構造構成主義的アプローチを導入することで、BOPというフィールドの持つ”特殊性”を構造的に理解し、提供者(デザイナ)と被提供者(ユーザとしての現地人)の信念対立を解消することが可能となります。しかしながら、このような構造構成主義それ自体は概念であり、思想であるため、デザイン手法として直接応用することは困難です。そこで、構造構成主義を背景として持つ、研究法のひとつとして臨床心理学などの分野で用いられている”構造構成主義的質的研究法(SCQRM)”を修正し、ソーシャルイノベーションのためのプロダクトデザイン手法に導入したいと思います。

    次回は、構造構成主義的質的研究法(SCQRM)について詳細を説明をいたします。

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