既存のデザイン手法の限界と構造構成主義

前回は、デザインプロセスにおいて用いられてきた既存のデザインメソッドの紹介の第3弾として、「3. プロトタイピングを行う」プロセスにおいて利用可能なデザインメソッドであるデザインパタンを取り上げ、その起源、および、建築からソフトウェアエンジニアリング、HCIまでの変遷を追ってきました。特にHCIのデザインパタンについては、年代別に導入・発展・拡散の3つのフェーズに区分し、それぞれの特徴について説明をいたしました。また、現状のパタンの問題点として、決定論的パタンとしての限界、パタン同士を組み合わせて全体性を構築する際のデザイナ関与部分に関する問題について指摘いたしました。

今回は、既存のデザイン手法の限界、特にBOPというフィールドに既存のデザイン手法を適用する際の限界について、”構造”をキーワードとして論じたいと思います。その上で、打開策としての構造構成主義について説明をいたします。

既存のデザイン手法の限界

ここまで3回に渡って様々なデザインメソッドの紹介をしてきました。第1回は「1. フィールドへ赴き、データを取得する」ためのメソッドとして、量的データではなく、質的データに注目し、質的調査法として、口頭データと視覚データの様々な採取方法について説明をいたしました。第2回は、「2. 課題を発見し、仮説を構築する」ためのメソッドとして、質的データを用いたモデリング手法を紹介いたしました。第3回は、「3. プロトタイピングを行う」プロセスにおいて利用可能なデザインメソッドとして、デザインパタンを取り上げました。これらは、問題を発見し、仮説を構築し、問題を解決するための手法と言えます。

現時点で分かっていることは、これらの手法は、先進国において流通するプロダクトをデザインするプロセスにおいてのみ有用性が確認された手法である、ということです。これらの手法は、BOPを対象とする場合においてもて有用と言えるのでしょうか?例えば、iPodは、グローバル市場にて流通させることを目的に設計され、今日世界の先進国にそのユーザが存在しています。iPodのような製品のデザインプロセスでは、先進国というグローバル市場において存在しうる、一般化された(音楽好きの)ユーザが、ペルソナとして設定されます。そして、似たような架空の背景と環境を持つペルソナの振る舞いが、シナリオを通じて記述されます。一方、BOPをフィールドとして設定する場合、類似した環境は稀であり、環境の”特殊性”を第一に考慮する必要があります。つまり、民族性、土着文化、宗教を背景として培われた人々の価値観や現場の状況に応じて、受け入れられるプロダクトがそのフィールドごとに異なります。したがって、現場ごとの”特殊性”を構造的に理解するためのデザインプロセスを新たに組み込むことによって初めて、BOPを対象とするソーシャルイノベーションを目的としたプロダクトデザインが可能となるのです。以下ではBOPの特殊性について2つの観点から掘り下げて考えてみましょう。

フィールドのごとの複雑性

第1の特殊性は、”フィールドのごとの複雑性”です。先進国向けのプロダクトの場合、具体的かつ詳細に渡るペルソナおよびシナリオを策定したしても、先進国に存在しそうな一般化されたユーザに結果として陥らざるを得えません。これは、至極当然で、どこの国にでもいそうな音楽好きのユーザに対するデザインが求められるためです。しかしながら、BOPをフィールドとして設定した場合、フィールドごとに言語、文化、宗教の違い、近代化の度合いの違い、さらには、伝統的な価値観と近代的な価値観から生まれる矛盾など、あるプロダクトが受け入れられるためにデザイナが考慮すべきパラメータが、画一化されたグローバル市場向けのプロダクトにおいて考慮すべきパラメータと比較した場合、飛躍的に増加します。このようなフィールドの複雑性を踏まえた上で、そのフィールドを構造的に理解するアプローチがソーシャルイノベーションのためのプロダクトデザイン手法において求められます。

関心の対立構造

第2の特殊性は、”現地人の関心とデザイナの関心の対立”です。先進国向けのプロダクトの場合、デザイナの関心とユーザの関心の乖離を少なくさせることが、ペルソナやシナリオなどの手法を用いる副次的効果といえます。しかしながら、この構造は、先進国間同士の関係性にすぎず、原理的に互いの関心の極端な乖離は生じにくいと言えます。一方、BOPをフィールドとして設定した場合、先進国のデザイナと現地人のユーザという異なるバックグラウンドを持つ2者の関係が問題となり、デザイナは、現地人の関心を的確に把握し、両者の信念対立を回避することが求められます。これは、デザイナの意図のみを現地人に押し付けた場合、現地人の不幸を招くためです。一方で、現地人のニーズだけに注目し、彼らの水準に合わせたプロダクトを作るだけでは、デザイナのモチベーションの低下につながります。このような両者の対立を踏まえた上で、デザイナと現地人が互いに満足することのできるプロダクトを構築可能であることに加え、持続的な関係性を構築可能なアプローチがソーシャルイノベーションのためのプロダクトデザイン手法において求められます。

以上述べたように、BOPをフィールドとして設定した場合、フィールドの特殊性というマクロな要素を構造的に理解することに加えて、そのフィールドに存在する人々、具体的にはデザイナとユーザとしての現地人の関心というミクロな要素をいかに同定するか、という課題が存在します。先進国を対象として構築された様々なデザインメソッド用いたアプローチは、これらの要素を考慮していないため、BOPというフォールドへの適用において限界が生じます。BOPを対象としたソーシャルイノベーションのためのプロダクトデザイン手法を構築するという目的に対して、これらの課題を解決するために採用する理論こそ、西條剛央 氏によって体系化された超メタ理論としての”構造構成主義”です。以下では西條の著書『構造構成主義とは何か』に準拠しつつその説明を試みたいと思います。

構造構成主義

構造構成主義は、「現象学」と「構造主義科学論」の流れを組む超メタ理論であり、現象と関心に注目することで、人間科学において起きがちな信念体系同士の対立を克服し、建設的なコラボレーションを促進するための方法論です。以下に構造構成主義のモデル図を示します。

構造構成主義において「構造構成」というとき2つの構造構成が存在します。1つは「哲学的構造構成」、もう1つは、「科学的構造構成」です。哲学的構造構成は、「所与の確信を”構成された構造”として捉えることにより、その確信がどのように構成されてきたものなのかを問うタイプの反省的試み」を指します。言い換えれば、「”確かにそうである”という信憑構造がどのように構成されたものなのか、その確信成立の条件を解き明かしていく哲学的営み」ということができます(p.191)。一方、科学的構造構成は、「広義の科学性を担保しつつ、現象を構造化するという意味での構造構成を行う領域」を指します(p.195)。これら2つの構造構成について具体的に説明する前に、両者に通底する2つの概念である「現象学的概念」と「構造主義科学論」について説明をいたしましょう。

現象学的概念

現象学的概念の中で、「関心相関性」と「信憑性」は、哲学的構造構成と科学的構造構成に通底する概念となります。

まず、関心相関性とは、「あらゆる存在や意味や価値はそれ自体独立自存することは原理的にありえず、我々の身体や欲望や関心といったものと相関的に立ち現れてくるとする原理」と定義されています(p.189)。これは、「存在や意味、価値などは、絶対なものではなく、当事者の身体状況や欲望、目的、関心の度合いなどと相関的に規定される」という側面を捉えた原理です。例えば、我々は道路の水たまりに普段気づきませんが、死ぬ直前まで喉が乾いていた場合、この水たまりは貴重な飲料水としての価値を帯び、そのような価値を持つ存在として立ち現れます。

このような関心相関性は次の7つ機能を持っています。以下ではそれぞれについての説明を印象しましょう(p.54-62)。

1. 自他の関心を対象化する機能
2. 研究をより妥当に評価する機能
3. 信念対立解消機能
4. 目的の相互了解・関心の相互構成機能
5. 世界観の相互承認機能
6. 方法の自己目的化回避機能
7. バカの壁解消機能

1. 自他の関心を対象化する機能

通常、価値の主観的な価値は隠蔽されています。何かを食べておいしいと感じたときには、自分が感じたおいしさに主観的な好みが関わっていること(身体-欲望-関心と相関的であること)は忘れ去られています。しかしながら、ここで判断停止(判断保留/エポケー)をすると、その時はお腹が空いており(身体)、食欲が旺盛で(欲望)、食べ物に強い関心のある時であったからとてもおいしく感じたのかもしれないし、逆にお腹が一杯であれば、おいしいという価値がそのひとに立ち現れにくいことは容易に想像できます。関心相関的観点によって、関心相関的に立ち現れている価値の側面を対象化することができ、より妥当な価値判断をすることが可能になります。

2. 研究をより妥当に評価する機能

関心相関性によって、自らが感じる価値は「対象に実在するもの」ではなく、「欲望や関心に応じて、時々刻々たち現れること」として受け取ることが可能となり、それによって異なる関心や領域の仕事に対してより妥当な評価をすることが可能になります。

3. 信念対立解消機能

関心相関的観点によれば、それぞれの確信(信念)がどのように構成されていくのかを可視化し、信念対立を回避することが可能となります。

4. 目的の相互了解・関心の相互構成機能

各人が関心相関的観点を持つことにより、相互の関心を可視化した上で、議論全体の目的を明確なかたちで共有し、常にそれを基準として妥当な方法などを選択しつつ、推し進めていくことができます。
また、相互の関心を可視化できるということは、例えば「人間のため」といったメタレベルの目的を共有した上で、その目的に照らし合わせて関心それ自体の妥当性を検討し、摺りあわせてゆくことも可能になります。そうして、相互構成された関心を他者と共有することにより、新たな目的を共有した学問領域や特定課題プロジェクトを進めることもできるでしょう。

5. 世界観の相互承認機能

関心相関性は、「共通了解の動的関係規定性」を前提としており、世界がある時は多様な、ある時は一様な姿を現すという矛盾を含み、動的に変容する有様を言い当てる原理であり、関心相関性的観点によって、多様な世界観を相互承認することが可能となります。

6. 方法の自己目的化回避機能

方法は、文字通り目的を実現するための方法(手段)であるため、その妥当性は目的と相関的に判断されねばなりません。単独で全ての目的を達成し、問題を解決できる「絶対的な方法」などというものは原理的にありえないということを改めて認識可能となるのが関心相関性なのです。

7. バカの壁解消機能

養老[1]によればバカの壁とは、「自分の知りたくないことについては自主的に情報を遮断してしまっている」状態を指します。バカの壁は問題の解決方法ではなく、全体や常識のズレを知覚することなく自分の実感を盲信するという問題を定式化(概念化)したものといえます。
関心相関性は、問題を認識するツールとなると同時に、問題の解決法となります。関心相関性とは、自らの「常識や当たり前のことに対するスタンス」を可視化するための原理であることから、関心相関性を認識装置として身につけることは、自らが暗黙裡に依拠している常識や前提を自覚するための有効な視点となりえます。

[1] 養老孟司. バカの壁, 新潮社, 2003.

次に、「信憑性」は、「確かにそうである」という確信を指します。哲学的営為としては、確信成立条件の解明が中心となり、確信がどのように取り憑くのか、その「信憑性」の構成過程を思考実験的に明らかにします。また、科学的営為においては、より上手に現象をコードすべく、「確かにそうである」という「信憑性」を喚起する構造を追求する立場を取ることとなります(p.190)。

構造主義科学論

池田[2]により体系化された構造主義科学論は、「現象学的思考法」と「構造」を基軸とすることにより、科学論における主格の難問を解決した科学論であり、人間科学の科学的基盤となるものです。現象学的概念と同様に、構造主義科学論において哲学的構造構成と科学的構造構成に通底する概念である、「構造」と「恣意性」についての説明を引用いたしましょう(p.190-1)。

[2] 池田清彦. 構造主義科学論の冒険. 毎日新聞社, 1990.

まず、構造構成主義における「構造」とは、狭義には、つまり、科学的営為に用いる場合には、『構造主義科学論』にならい、「”同一性と同一性の関係性とそれらの総体”といえる存在論的な概念」ということになります。また、広義の意味では、ロムバッハ[3]にならい、「関心相関的にたち現れる根源的な何か」といったものになります。
また、構造は、実在としての構造や客観世界の反映としての構造(システム)ではありません。言い換えれば存在物としての構造ではなく、存在論的な意味における構造といえます。つまり、構造構成主義における構造とは、我々と無関係に存在する自然物ではなく、いかなる構造も人間が構成したものであり、その意味において、人間の恣意性が混入せざるを得ないということになります。

次に「恣意性」について説明する前に、言葉の恣意性について説明をいたします。言葉は実在の反映である存在的な写像と思われますが、そうではありません。言葉は原理的には恣意的(社会的)なコトです。これを言葉の恣意性と言います。言葉が恣意的であるならば「言葉(同一性)と言葉(同一性)の関係形式である構造も恣意的ということになります。その意味では恣意性は科学的構造構成の基礎となるものと言えるでしょう。「恣意性」とは、言葉や構造が人間によって構成された物である以上、原理的には、恣意的(社会的)な側面を含まざるを得ないことを明示化する概念であり、それゆえに構造構成主義の根底をなす考え方の1つとなります。

[3] Rombach,H. 存在論の根本問題: 構造存在論. 晃洋書房, 1971.

哲学的構造構成

先に、哲学的構造構成とは、「所与の確信を”構成された構造”として捉えることにより、その確信がどのように構成されてきたものなのかを問うタイプの反省的試み」と説明いたしました。この哲学的構造構成という営為領域には、判断中止、現象学的還元、科学論的還元、記号論的還元などの思考法が含まれます。判断中止、現象学的還元については、フッサール現象学[4]-竹田青嗣現象学[5]の系譜に由来します。また、科学論的還元と記号論的還元はソシュール[6]と丸山圭三郎[7]の「記号学」の議論に由来します。以下ではそれぞれについて、説明していきましょう。

[4] Husserl, E. ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学. 中央公論新社, 1954.
[5] 竹田青嗣. 現象学は思考の原理である. 筑摩書房, 2004.
[6] Saussure, Fe. 一般言語学第三回講義: コンスタンタンによる講義記録. エディット・パルク, 1910-1911.
[7] 丸山圭三郎. ソシュールを読む. 岩波書店, 1981.

判断中止:
判断中止とは、確信に対して、戦略的にストップを掛け、いったん括弧に入れる思考法です。これはそれが意識されるか否かは別として、次の「現象学的還元」を行うための前段階の思考法です。

現象学的還元:
現象学的還元とは、哲学的構造構成の中心概念であり、「確信の成立条件を問う」という思考法です。例えば自然的態度では「リンゴがあるからリンゴが見える」とまっすぐに考えますが、そうではなく、「この現象(リンゴ)が我々にとってどのように成立してくるのか」といった確信成立の条件と構造を問うのが還元という方法の内実です。

記号論的還元:
記号論的還元とは、「記号」が実在を指し示すものであるという確信がどのように構成されるものであるか、その成立条件を明らかにすることにより、記号(コトバ)が原理的に(本来的に)「恣意的(社会的)であること」を明示的にするものです。

科学論的還元:
科学論的還元は、記号論的還元の科学論バージョンです。つまり、「科学」というコトバ(記号)がどのような過程を経て絶対的なモノとして実体化するのか、その過程を明らかにすることにより、「科学」というコトバを相対化する思考法です。

科学的構造構成

科学的構造構成についても同様に、「広義の科学性を担保しつつ、現象を構造化するという意味での構造構成を行う領域」と説明いたしました。ここでは、科学的構造構成という営為領域に含まれる、関心相関的選択、構造化に至る軌跡、関心相関的継承、アナロジー法といったツールについて説明していきましょう(p149-168)。

関心相関的選択:
構造構成主義では、関心相関性を基軸とすることにより、従来事象を認識する根底に位置づけられていた認識論を研究(者)の関心・目的に応じて柔軟に選択することが可能となり、これを関心相関的選択と呼びます。
例えば、「人間的事象の意味的側面を捉えるために、戦略的に社会的構築主義を採用し、人間的事象の確実な側面を捉えるために、戦略的に客観主義的なメタ理論的枠組みを採用する」といったように、各認識論は研究目的や現象に応じて選択可能となります。

構造化に至る軌跡:
構造構成主義では、「条件統制」ではなく、「条件開示」を基礎に据えます。条件開示さえされていれば、現場で提起された構造も、特定の条件下で得られた構造であることを踏まえた上で、読み手がその構造の有効性やその射程を判断することが可能となります。この条件開示のことを構造構成主義では、「構造化に至る軌跡」と呼びます。つまり「構造化に影響すると考えられる諸条件」を開示します。

関心相関的継承:
研究対象とする現象に応じて、仮説をより細分化・精緻化していく従来の「検証的方向性」と、記述や解釈の多様性を拡大する「発展的方向性」の、双方を柔軟に追求可能な枠組を、「継承」と呼びます。この枠組は、研究対象や目的と相関的に「確認的継承」と「発展的継承」を選択可能な枠組みであることから、関心相関性を基軸とすることを強調する場合には、「関心相関的継承」を呼びます。

アナロジー法:
「類似性の制約」と「構造の制約」と「関心相関性」を組み合わせることによって、存在的には一見異質に見える現象(テーマ、対象)を扱う研究間で仮説を継承可能にする枠組みです。
ホリオークとサガード[8]は、アナロジー的思考に作用する3つの基本的な制約を挙げています。第1の「類似性の制約」とは、アナロジーはある程度までは含まれている要素の”直接的な類似性”に導かれて生じるという原則です。第2の「構造の制約」とは、アナロジーはベース領域(なじみ深い領域)とターゲット領域(新たに理解しようとする領域)の役割の間に、一貫した”構造上の相似関係”を見出すように働きかける圧力によって導かれる、というものです。第3にアナロジーの探索は、アナロジー利用の”目的”によって導かれるというものです。
このアナロジーの原則を新たな一般化の枠組みとの理論化に組み込み、定式化すると”類似性、構造、目的の3つのアナロジー原則を活用した一般化”と言えます。例えば、「Aとαは存在的には異なる事象だが、Xという関心に基づけば、~といったように、「類似性の制約」と「構造の制約」を満たすことができることから、それらを存在論的に同じものとしてみなすことができる」といういった趣旨を論文の「問題・目的」部に記載することにより、異なるテーマや対象の研究からも継承が可能となります。

[8] Hoyyaok, K.J., & Thangard, P. アナロジーの力: 認知科学の新しい探求. 新曜社, 1998.

2重の構造構成の意味

以上述べてきたように、構造構成主義は、哲学的構造構成と科学的構造構成という2種類の構造構成によって構成されています。この2重の構造構成の持つ意味について西條は、次のようにまとめています。

科学的構造構成だけでは、異領域間の信念対立や相互不干渉に陥り、人間科学のるつぼとしての特徴を活かしたコラボレーションを実践することはできない。他方、哲学的構造構成だけでは、現象を構造化することができず、人間科学の科学的営みを基礎づけることができない(p.197)。

構造構成主義は、哲学と科学という2つの営為領域を整備することにより、哲学的構造構成によって、異領域間の信念対立を解消し、科学的構造構成により、科学的生産力を上昇させることが可能になっている(p.199)。

まとめ

今回は、既存のデザイン手法をBOPというフィールドに適用する場合の限界について述べ、その限界を打破するためのアプローチを構築するための足がかりとして、構造構成主義の全体像について説明をしてきました。構造構成主義的アプローチを導入することで、BOPというフィールドの持つ”特殊性”を構造的に理解し、提供者(デザイナ)と被提供者(ユーザとしての現地人)の信念対立を解消することが可能となります。しかしながら、このような構造構成主義それ自体は概念であり、思想であるため、デザイン手法として直接応用することは困難です。そこで、構造構成主義を背景として持つ、研究法のひとつとして臨床心理学などの分野で用いられている”構造構成主義的質的研究法(SCQRM)”を修正し、ソーシャルイノベーションのためのプロダクトデザイン手法に導入したいと思います。

次回は、構造構成主義的質的研究法(SCQRM)について詳細を説明をいたします。

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