構造構成主義的プロダクトデザイン手法

前回は、モデル構築がその研究の目的である場合においてSCQRMに採用されている分析ツールである、M-GTAについて、前身となるGTAについて説明したのち、具体例を示しながらその分析プロセスを紹介をいたしました。M-GTAの分析プロセスは、まず、文字おこしを行い、データ化したテクストの中から、キーワードを見つけ、キーセンテスを引いていき、これらに名前を付け(概念化)、次に、概念のまとまりごとに対して、見出しをつけてテクストを構造化し(カテゴリ化)、さらに、抽出された概念やカテゴリの関係を捉えて暫定的な全体像やモデルを素描する(理論化)というものでした。また、実際にM-GTAを用いて分析を行う場合に手続きとして作成する、分析ワークシートについて説明を行いました。

今回は、構造構成主義を理論的背景として、そして、構造構成主義に基づく研究法のひとつとして臨床心理学などの分野で用いられている構造構成主義的質的研究法(SCQRM)をもとにして構築された、ソーシャルイノベーションのための構造構成主義的プロダクトデザイン手法について説明をいたします。

まず、構造構成主義を採用した元来の目的との関連から、BOPというフィールドへの従来のデザイン手法の適用とその限界について再度確認しておきましょう。従来のデザイン手法は、グローバル市場におけるプロダクトデザインに特化したものであることはすでに説明いたしました。したがって、BOPという特殊性を持った特定のフィールドに対して最適化されたプロダクトを作るという目的に対して、従来の手法が最適ではないため、新たな手法を構築する必要があると説明いたしました。さて、ここで検討しなければならないBOPの特殊性とはどのようなものであったでしょうか?

フィールドのごとの複雑性

第1の特殊性は、”フィールドのごとの複雑性”でした。先進国向けのプロダクトの場合、具体的かつ詳細に渡るペルソナおよびシナリオを策定したしても、先進国に存在しそうな一般化されたユーザに関連したものに陥らざるを得えません。iPodを例に出した場合、結局どこの国にでもいそうな音楽好きのユーザをもとにしたペルソナとシナリオが策定されます。このような現象は、グローバル市場で展開することを目的とした製品というデザイン上の制約条件に基づき、最大公約的な解に対する強い関心が存在するために立ち現れます。しかしながら、BOPの場合、プロダクトを導入しようとするフィールドごとに言語、文化、宗教が細分化されているだけではなく、近代化の度合いの違い、さらには、伝統的な価値観と近代的な価値観から生まれる矛盾など、あるプロダクトが受け入れられるためにデザイナが考慮すべきパラメータに限りがありません。このパラメータの数は、画一化されたグローバル市場向けのプロダクトにおいて考慮すべきパラメータと比較した場合、飛躍的に増加するでしょう。このようなフィールドの複雑性を踏まえた上で、そのフィールドを構造的に理解するアプローチが必要とされています。

関心の対立構造

第2の特殊性は、”現地人の関心とデザイナの関心の対立”でした。先進国向けのプロダクトの場合、ペルソナやシナリオなどのユーザモデルに関する手法を用いる理由の一つとして、デザイナの関心とユーザの関心の乖離を少なくさせるという効果が挙げられます。しかしながら、これは、先進国内での関係性であるため、原理的に両者の間で関心の極端な乖離は生じにくいと考えられます。一方で、BOPの場合、先進国のデザイナと現地のユーザとの関係性において、それぞれの関心を的確に把握し、両者の信念対立を回避することが求められます。これは、デザイナの欲望や関心のみを現地人に押し付けた場合、現地人の関心にあったプロダクトが開発されることなく、結果、誰もそれらを使わず、ゴミと化してしまうなどといった不幸を招きがちであるためです。一方で、デザイナが現地人のニーズだけに注目し、彼らの水準にあわせたプロダクトを作るだけでは、デザイナのモチベーションの低下につながります。このような両者の関係性を踏まえた上で、デザイナと現地人が互いの関心を満たすことのできるプロダクトを構築可能、かつ、両者の持続的な関係を構築可能なアプローチが必要とされています。

ソーシャルイノベーションのための構造構成主義的プロダクトデザイン手法

筆者の構築した、ソーシャルイノベーションのためのプロダクトデザイン手法は、
– フィールドの複雑性の構造的な理解
– デザイナとユーザとしての現地人の信念対立の解消
というBOPをフィールドとするプロダクトデザインにおける「目的」に照らし合わせ、構造構成主義をアプローチとして導入しています。具体的には、構造構成主義における関心相関性、哲学的構造構成、科学的構造構成(以上第15回)を理論的背景に、SCQRMにおける関心相関的構造構成法(第17回)をデザインプロセスに導入し、これらの解決を目指しています。

一般にデザインプロセスは、調査を通じて問題発見・問題定義を行う問題発見プロセス、設計、プロトタイピング、評価を繰り返し行う問題解決プロセスに区分されます。構造構成主義的プロダクトデザイン手法は、これら2つのプロセスをカバーするものですが、主たる特徴は問題発見プロセスにあります。具体的な特徴として「デザイナの関心モデルの構築」、「フィールにおける概念抽出および現象マッピング」、「ソリューションモデルの構築」という3つのステップがデザインプロセスに組み込まれています。以下では、それぞれについて説明を行い、構造構成主義的プロダクトデザイン手法の全体像を示します。

デザイナの関心モデル構築

第1のステップは、「デザイナの関心モデルの構築」です。このプロセスでは、M-GTAの手法を用いて、デザイナの関心を構造化します。そして、デザイナがなぜその関心を持つに至ったか、あるいは、プロジェクトがそのような関心を持つに至ったかを還元的に考察します。具体的には、各国、国連等の調査に基づく統計データ、写真の静的データを用いて、あるいは、書籍、論文等から得たデザイナ自身の思想的背景を踏まえ、デザイナがどのような関心に基づいて、どのような問題意識を抱いているかについて、その構造を明らかにします。このプロセスは、フィールドワークの前段階に行う必要があり、構築された関心モデルを用いて、関心相関的にフィールドワーク時の観察の対象、ならびに、インタビューの質問項目等を決定していきます。

図1. デザイナの関心モデルのサンプル

また、複数のデザイナが存在する場合、複数の関心が存在します。たとえば、金銭的成功、自らのスキルの自己顕示、先進国の持つ技術力による問題解決、人間としての慈善活動など、それぞれのデザイナによって様々な関心が想定されます。この場合、それぞれの関心を明らかにした上で、各デザイナの合意を形成しつつ、最大公約的な解をもたらす関心モデルを構築することが望ましいでしょう。

フィールドにおける概念抽出および現象マッピング

第2のステップは、「フィールドにおける概念抽出および現象マッピング」です。第1のステップにて、”デザイナの関心”に基づくモデルが構築されました。これに対して、第2のステップは、フィールドを構造化し、”現地人の関心”を構造化するためのステップです。したがって、本ステップは、第3のステップにおいてデザイナの関心と現地人の関心との信念対立を回避するためのソリューションモデルを構築するために、重要なステップとして位置づけられます。

構造構成主義的プロダクトデザイン手法においても、ボトムアップに問題発見、仮説構築を行うことを目的としているため、関心相関的構造構成法と同様に、M-GTAを分析の枠組みとして採用しています。まず、フィールドワークにでかけ、第1のステップで構築された関心モデルに基づき、関心相関的に作成されたインタビュー項目や観察項目を用いて、データを採取します(関心相関的データ構築)。次に、インタビューを通じて得られた音声データのテープおこしを行い、テクスト化します(関心相関的テクスト構築)。このとき、観察データとしての写真データを利用する場合、事実に基づくキャプションと意見に対するキャプションを区別して付加しておく必要があります。続いて、類似部分を具体例(バリエーション)として収集し、これらについて概念名をつけ(概念抽出)、いくつかの概念を包括するカテゴリを作成していきます(関心相関的ワークシート作成)。さらに、構造構成主義的プロダクトデザイン手法では、フィールド全体を把握するために、カテゴリ、概念、バリエーションをマップ上に可視化します(現象マッピング)。この段階では概念ごとの関係性を構造化する必要はなく、シチュエーションが全体性をもって把握できる状態になっていることが最も重視されます(シチュエーションマッピング)。

図2. 現象マップサンプル

なお、第1のステップで構築したデザイナの関心モデルのもととなるデザイナの関心は、フィールドワークから現象マップ作成までのプロセスの中で変化する可能性あります。この場合、必要に応じて関心モデルを修正しましょう。

ソリューションモデルの構築

第3のステップは、「ソリューションモデルの構築」です。第1のステップで構築された「デザイナの関心モデル」と、第2のステップで抽出された「概念」をもとに問題発見、および、発見された問題に対する仮説生成までを含めた「ソリューションモデル」を構築します(関心相関的理論構築)。このステップは、デザイナの関心と現地人の関心をモデルの中に明示的に組み込むことで、仮説段階で信念対立を回避することを目的としています。

まず、デザイナの関心と現地人の関心を踏まえたうえで、第2のステップにおいて抽出された概念同士の関係性を用いて、解くべき問題を同定します。そして、同定した問題に対する仮説としてのソリューションを構築します。また、抽出された概念同士の関係性を明示的にモデルに組み込み、フィールドの全体構造を示します。このプロセスを通じて、提案する解決法を導入することによって生み出される効果ならびに影響の認知が、プロジェクトメンバを含む閲覧者にとって容易になります。なお、ここで一度構築されたモデルは、あくまで暫定的なモデルにすぎず、フィールドワークや現地テストを繰り返すことによって、その都度変化するものと考えてください。

図3. ソリューションモデルサンプル

プロトタイピングと現地テスト

以上の3つのステップを繰り返し、ある時点での最終的な(暫定的な)、ソリューションモデルを構築(更新)したのち、考案した仮説にもとづいてプロダクトの設計を行い、プロトタイプの開発を行います。このときデザイナだけではなく現地人の関心に基づいた適切な技術を選択する必要があります。なお、本プロダクトデザイン手法は、問題発見、および、仮説生成を目的としているため、実際のプロダクトのクオリティそのものを担保しません。したがって、プロダクトのクオリティそれ自体は、デザイナの創造性に強く依存することとなります。

プロトタイプ開発後、プロトタイプを現地に持ち込み、現地テストを行います。現地人に実際に使用してもらうことで、現地人からのフィードバックを得ることが目的です。このとき、ソリューションモデルの更新を行うための新たな現象が立ち現れます。これら一連のプロセスを数度繰り返すことによって、現地のニーズに適したプロダクト、サービス、システムを構築することができます。

議論

最後に、構造構成主義的BOPプロダクトデザイン手法の制約条件について議論しましょう。第1のポイントは、通訳の恣意性です。具体的には、通訳の意図が介入するため、データとしての信頼性が損なわれるという批判があります。BOPの場合、フィールドワーク先の母国語が英語である可能性は低く、英語および現地語を話す通訳を雇い、現地語から英語へ翻訳する必要があることに依拠する批判と言えます。しかしながら、これは原理的に中立なインタビュアーが存在するという客観主義に基づいた批判にすぎません。本来、インタビュアーならびに通訳が中立であるということは原理的に不可能です。この点について、構造構成主義は、構造化にいたる諸条件を積極的に開示することで、科学性を担保するという立場に依拠しています。本ブログにおいても、インタビュアー、インタビュイーの諸条件を明示的に記述することで、科学性の担保を試みています。

第2のポイントは、本手法の有効範囲です。具体的には、構造構成主義的BOPプロダクトデザイン手法は、仮説生成のためのヒントを与えるにとどまり、問題解決方法における跳躍までを網羅しないという批判です。本研究の目的は、BOPを対象としたプロダクトデザイン手法の構築であり、本手法は、対象となるフィールドの構造を明らかにした上で、問題を同定し、仮説生成を行うまでのプロセスを中心とする手法です。仮説生成のためのモデル構築が中心となるため、関心相関的にM-GTAを分析ツールとして採用しています。これに対して、問題解決方法における跳躍を主目的とするならば、この目的を実現するためのツールを関心相関的に選択し、本デザイン手法を関心相関的に修正すればよいでしょう。

まとめ

今回は、まず、ソーシャルイノベーションのための構造構成主義的プロダクトデザイン手法を紹介するために、再度、BOPのフィールドに既存のデザイン手法を適用する際の問題点を説明をいたしました。そして、実際のデザイン手法として、「デザイナの関心モデル構築」「フィールドの概念抽出および現象マッピング」「ソリューションモデルの構築」の3つのデザインプロセスについて、構造構成主義、および、SCQRMとの関連性を踏まえつつ、説明をいたしました。

BOP向けのプロダクトを構築する際、単にデザイナと現地人の関心を満たしつつ現地の問題を解決するプロダクトを開発するだけではなく、プロダクトを通じてデザイナと現地人が新たなカルチャーを共創するようなプロダクトを開発することで、現地の持続可能な発展に対する貢献が可能となると考えられます。実際には、プロダクト、サービス、社会システムを普及させるために必要な人材に対する教育を実施するための仕組みづくりや、プロダクトを生産するための現地協力者の捜索なども、プロダクトを普及させるにあたって重要な要素となります。しかしながら、本デザイン手法は、ソーシャルイノベーションのためのプロダクトをデザインすることを目的としているため、これらの課題は、本手法の適用範囲を超えるものと考えられます。強いて言えば、関心相関的にこれらの課題に対して有効なその他の手法を組み合わせることによって、解決することが望ましいでしょう。

次回より、今回説明した構造構成主義的プロダクトデザイン手法の実践として、実際に参加した東ティモールへのフィールドワークをケーススタディとして引用しつつ、そのデザインプロセスの具体的な説明をいたします。

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デザインメソッド – デザインパタン

前々回より、デザインプロセスにおいて用いられてきた既存のデザインメソッドについて紹介をしています。前回は、「2. 課題を発見し、仮説を構築する」ためのメソッドとして、質的データを用いたモデリング手法を紹介いたしました。具体的には、ユーザの属性に注目したユーザモデリングとして、ペルソナ、シナリオ、ゴールダイレクテッドデザイン、ユーザの行動に注目したワークモデル、そしてフィールドの構造を理解するためのGTA(グラウンデッドセオリーアプローチ)を紹介しました。

第3弾となる今回は、「3. プロトタイピングを行う」プロセスにおいて利用可能なメソッドを紹介いたします。フィールドワークで得られた質的データをもとにモデリングを行い、仮説を構築した後、実際にプロトタイピングを行っていく過程で、様々な部品(パーツ)を組み合わせて全体のプロダクトを構築していきます。このとき、部品(パーツ)を構築する際にパタンと呼ばれる、「あるコンテキストにおけるデザイン上の特定の問題に対するソリューションを提供することを目的としたデザインメソッド」を利用することができます。パタンは、デザインパタンとも呼ばれ、パタンの集合はパタンランゲージと呼ばれます。デザインパタンの概念は建築で生まれ、ソフトウェア、HCI(Human Computer Interaction)へと移行してきました。以下では、その流れに沿ってパタンの詳細を説明していきたいと思います。

建築におけるパタン

現在のデザインパタンは、建築家アレグザンダーの『パタン・ランゲージ』[1]を起源としています。アレグザンダーのパタンランゲージは、”フォーマット”と”ヒエラルキー”という2つの特徴を持っています。まず、フォーマットは、プロブレム、コンテキスト、ソリューションなどの基本要素からなる記述形式を指します。これは、デザイン上の問題に対する証明された解決法を、建築家だけでなく「エンドユーザに対して」理解しやすい形式で表現することを目的としています。次に、ヒエラルキーは、パタン同士の関係性を示します。このパタン同士の関係性は、抽象的で大きなスケールから、具体的で小さなスケールへと分解可能であること、そして、それぞれのパタン同士が密接に連結すること、を特徴としています。以下に1つの例を示しましょう。

[1] Alexander, Christopher. A Pattern Language: Towns, Buildings, Construction. New York, USA: Oxford University Press, 1977.

パタン名: 251 まちまちの椅子

上位概念との関連性:
部屋に家具を備え付ける用意ができたら、建物を作るのと同じくらい慎重に、変化に富んだ家具を選ぶこと。置き家具であれ、造り付け家具であれ、部屋やアルコーブの場合と同様に、1つ1つの家具が独特で有機的な個性 – 置き場所によってそれぞれ異なる – を発揮するようにすること – くつろぎの空間の連続(142)、くるま座(185)、造り付けの椅子(202)。

問題:
人によって、体格も座り方もまちまちである。ところが現代では、どれもこれも同じような椅子をつくろうとする傾向がある。

解決法:
どんな場所であっても、同一の椅子で揃えないこと。大きな椅子や小さな椅子、柔らかな椅子は堅い椅子、揺り椅子、古びた椅子や新しい椅子、肘掛け付きやそうでないもの、枝編み、木製、布製などといった具合に、変化に富んだまちまちの椅子を選ぶこと。

下位概念との関連性:
1つであれ、たくさんであれ、椅子を置く場所は、明かりだまり(252)にし、その場所特有の性格を強調すること。

このような特徴を持つアレグザンダーのパタンを正しく用いた建物や町の創り方は、アレグザンダー3部作第1作目『時を超えた建設の道』に記されています[2]。続いて、アレグザンダーによる建築からコンピューティングへの適用への流れについて述べていきましょう。

[2] Alexander, Christopher. The Timeless Way of Building. New York, USA: Oxford University Press, 1977.

ソフトウェアエンジニアリングにおけるパタン

アレグザンダーのパタンランゲージは、80年代後半よりソフトウェアエンジニアリングの領域へ導入されていきます。「ユーザのためのデザイン」という観点からすればソフトウェアエンジニアリング以前にHCIに導入されることが当然でしたが、HCI以前にソフトウェアエンジニアリングへの導入が先行しました。この理由は諸説存在しますが、定説は現時点では存在しません。以下では、ソフトウェアエンジニアリングにおけるパタンに関する代表的な書籍として、Gammaらによる『Design Patterns(邦題:オブジェクト指向における再利用のためのデザインパターン)』を紹介いたします。

[3] Gamma, Erich, et al. Design Patterns: Elements of Reusable Object- Oriented Software. MA: Addison-Wesley, Reading, 1995.

Gammaらによる『Design Patterns』は、オブジェクト指向ソフトウェア設計の際に繰り返し現れる重要な部品を、デザインパタンとして記録した上で、カタログ化したものです[3]。本書は、ソフトウェアエンジニアリングにおけるパタンランゲージを始めて書籍化したものであり、HCIへの導入よりも先行していました。しかしながら、本書はHCIパタン研究者からいくつかの欠点を指摘されています。例えば、開発者用のパタンであって、エンドユーザを意識していない[4]、構造的アプローチの欠如[5]、一般的なランゲージとしてのフォーマットを持たない[6]、などが挙げられます。また、アレグザンダー自身もOOPSLA 1996のキーノートスピーチにおいて、ソフトウェアエンジニアリングへのパタンの導入が失敗であったことについて言及しています。

[4] Borchers, J. O. “Interaction Design Patterns: Twelve Theses.” Talk at CHI 2000 workshop “Pattern Languages for Interaction Design: Building Momentum. Den Haag, 2000.
[5] Borchers, J. O. “Chi Meets Plop: An Interaction Patterns Workshop.” ACM SIGCHI Bulletin 32.1 (2000).
[6] Dearden, Andy, et al. “Using Pattern Languages in Participatory Design.” Participatory Design Conference. New York City, USA, 2002. 104 – 13.

HCIにおけるパタン

HCI領域へのパタンおよびパタンランゲージの導入は、3つのフェーズに区分できます。まず、導入フェーズは、1997年に開催されたCHI(ACM Conference on Human Factors in Computing Systems)ワークショップを契機してい始まります。続いて、拡張フェーズは、2001年から2003年ごろまで続き、Jan O. BorchersやMartijn van Welieらにより、定義や目的に関する整理が進みます。最後に分散フェーズは、2003年以降を指し、ユビキタスコンピューティングやゲームへの応用が展開します。以下では、それぞれのフェーズについて詳細を説明いたします。

導入フェーズは、1997年に開催されたCHIワークショップ[7]から2000年ごろまで続きます。本ワークショップにおいて初めて、HCI領域へのパタンの導入が提案されたことから、導入フェーズの開始とみなします。パタン研究のHCIへの導入が提唱された背景には、インタラクションデザインの複雑化、多様化する流れが存在します。本ワークショップでは、インタラクションパタンランゲージの構築に向けて、インタラクションパタンにおけるTime、Sequenceの扱い方、実際の適用手法、構築のためのメソッドや具体的な事例などについて議論を行なうべきという、今後の研究における方向性が示されました。

[7] Eriekson, Thomas, John Thomas, and Conference on Human. “Putting It All Together: Pattern Languages for Interaction Design.” Conference on Human Factors in Computing Systems. Atlanta, Georgia, 1997. 226 – 26.

拡張フェーズは、2001年のJan O. Borchersの『A Pattern Approach to Interaction Design』の発刊から、2003年頃までの期間を指します。この時期が最もパタンに関する論文が盛んに投稿された時期であることから、拡張フェーズと呼びます。本フェーズの代表的な研究者は、先に挙げたJan O. Borchers[9]やMartijn van Welie[10]です。その主要な研究テーマは、パタンの定義、目的やフォーマットといったパタンの概念や形式についての研究や、個別のパタンの構築についての研究が多数を占めていました。以下に、代表的なインタラクションデザインパタンの例として、Welieのパタン集から”Slideshow”を引用したのち、HCIにおけるパタンに関する代表的な書籍を4点取り上げましょう。

パタン: Slideshow

問題:
ユーザは一連の画像や写真を見たい。

解決法:
それぞれの写真を数秒間見せつつ、手動で前後へ移動、一時停止、再開、停止、実行するためのコントローラを提供する。

コンテキスト:
スライドショーは、FlickrやPicasaなどの写真共有サービスで典型的に利用される。

[9] Jan O. Borchers
[10] Martijn van Welie

Borchersは、『A Pattern Approach to Interaction Design』にて、パタン研究の歴史を紹介した上で、22のHCIパタンを紹介しています[11]。Borchersのフォーマットは、Name、Ranking、Illustration、Problem and Forces、Examples、Solution、Diagram、Context and Referencesで構成されています。またBorchersは、パタンランゲージの定義としてコネクティビティを強調しています。

[11] Borchers, J. O. A Pattern Approach to Interaction Design. Hoboken, NJ: John Wiley \& Sons, 2001.

Duyneは、『The Design of Sites』にて、12のカテゴリ別に90のインタラクションデザインパタンを紹介しています[12]。Duyneのフォーマットは、Name、Background、Solution、Consider These Other Patterns、Illustrationで構成されています。特に、Consider These Other Pattern(その他のパタンについて考える)とは、アレグザンダーのパタンランゲージにおける”Relation”に当たる項目であり、個別のパタン同士の関係性について詳細に述べられています。

[12] Duyne, Douglas K. van, James A. Landay, and Jason I. Hong. The Design of Sites: Patterns, Principles, and Processes for Crafting a Customer-Centered Web Experience. Boston, US.: Addison-Wesley Professional, 2002.

Grahamは、『A Pattern Language for Web Usability』にて、79のインタラクションデザインパタンを提案しています[13]。本書は、ソフトウェアエンジニアリングにおけるGammaらのデザインパタンとニールセンのウェブ・ユーザビリティを統合させることを狙いとしています。しかしながら、本書はパタンランゲージのタイトルを持つものの、フローチャートの形式を採用していることから、アレグザンダーのパタンランゲージそのものに対する理解が浅く、ランゲージとしての機能に乏しいといえます。

[13] Graham, Ian. A Pattern Language for Web Usability. Boston, US: Addison-Wesley, 2003.

Tidwellは、『Designing Interfaces: Patterns for Effective Interaction Design(邦題:デザイニング・インターフェース ―パターンによる実践的インタラクションデザイン)』にて、4のカテゴリ別に45のインタラクションデザインパタンを紹介しています[14]。Tidwellが論じているカテゴリとは、Desktop Applications、Web Sites、Web Applications、Mobile Devicesの4カテゴリです。各パタンのフォーマットは、what、use when、how、exampleで構成されています。しかしながら、説明文中にはパタン同士の関連性について触れられているのみであり、アレグザンダーのヒエラルキー形式での記述は踏襲されていません。

[14] Tidwell, J. (2005). Tidwell, Jenifer. Designing Interfaces: Patterns for Effective Interaction Design. Sebastopol, CA: O’Reilly Media, 2005.

最後に、分散フェーズは、2003年以降から現在までを指します。2003年のU.C.バークレーのLandayによる、デザインパタンのユビキタスコンピューティングへの応用の提唱[15]を契機として、パタンの領域が、UI、WEBやといったHCIの基本領域から、分散傾向にあることから、分散フェーズと呼びます。この時期では、拡散フェーズにおいて中心的な役割を果たしていたJan O. BorchersやMartijn van Welieに変わって、様々な研究者[16][17]がパタンに関する論文を発表し始めます。

[15] Landay, James A., and Gaetano Borriello. “Design Patterns for Ubiquitous Computing.” IEEE Computer 2003: 93 – 95.
[16] Tom Erickson, The Interaction Design Patterns Page
[17] Design Pattern Resources

基本領域であるUIについては、35のパタンについてコード付きのギャラリー形式で掲載している「UI Pattern Factory」[18]、5つのカテゴリ別に56のパタンについてExample、Usage、Solution、Ratinalenoのフォーマットにて掲載している「UI Patterns」[19]、59のパタンについて、What Problem Does This Solve?(問題)、When to Use This Pattern(使用する状況)、What’s the Solution?(解決法)、Why Use This Pattern?(理由)のフォーマットにて掲載している「Yahoo! Design Pattern Library」[20]が登場します。

[18] UI Pattern Factory
[19] UI Patterns
[20] Yahoo! Design Pattern Library

University of California, BerkeleyのLandayは、Ubicompのためのパタンコレクションを公開しています[21]。本パタンでは、4つのテーマに対して全45のパタンを掲載しています。各テーマのパタンは低い数字の番号ほど抽象度が高く、様々なケースにおいて適用できるように設定されています。各パタンのフォーマットは、Background、Problem、Solution、Examples、Research Issues、Related Patterns Referencesで構成されています。なお、2007年頃には、”Patterns in Ubiquitous and Context Computing”というウェブサイト上にユビキタスコンピューティングデザインパタンが掲載されていたのですが、現在はサイトが閉鎖されており、代替として論文を掲載しています。

[21] Chung, E.S., J.I. Hong, J. Lin, M.K. Prabaker, J.A. Landay, and A. Liu. “Development and Evaluation of Emerging Design Patterns for Ubiquitous Computing.” In Proceedings of Designing Interactive Systems (DIS2004) 2004: 233-242.

University of GroningenのFolmerはゲームユーザビリティのためのパタンコレクションを公開しています[22]。本パタン集では、5つのカテゴリ別に26のパタンが紹介されています。パタンのフォーマットは、Aliases、Problem、Use when、Forces、Solution、Principle、Why、Exampleで構成されています。しかしながら、パタン同士の関係性については考慮されていません。

[22] Folmer, Eelke. “Interaction Design Pattern Library for Games”. 2006.

その他のパタン

パタンの概念は、HCI以外の領域においても応用されつつあります。以下では、IDEOによるデザイン上の洞察を生み出し、収束させるためのパタンと、グループワークにおける会話のためのパタンを紹介します。

PATERNS[23]は、IDEO が長年に渡って、世界中の様々な企業のために、多くのデザイン上の課題に取り組んできた結果、彼らの中に出現した共通の洞察に触れ、そして、共有するための方法です。これらのパタンは、直感の土台となるだけではなく、単なる洞察を文化的なインパクトをもたらすものへと変化させる方法であり、顧客に対して、より迅速により優れた仕事をするためのIDEOの集合知に触れる方法と言えます。

[23] PATERNS

PATERNSのフォーマットは、IssueとEvidenceのみで構成されています。例えば、「Social Media Bolsters Big Brands」では、企業がtwitterやfacebookなどのソーシャルメディアを如何に活用すべきか、というIssueが取り上げられています。それに対するEvidence – ここでは、世界中に存在する解決のためのストーリー – として、Ford、CBS、Pepsi, そしてP&Gの事例を紹介しています。PATERNSでは、パタンとしてのフォーマットやランゲージとしての関係性を考慮していないという点において、アレグザンダーのパタン、および、パタン・ランゲージの影響は少ないと考えられます。

Pattern Language for Group Process[24]は、グループにおける会話をより充実させ、より活気づけ、より効果的にすることを目的としたパタンであり、91のパタンで構成されます。これらのパタンは、Context、Creativity、Faith、Flow、Inquiry & Synthesis、Intention、Modeling、Perspective、Relationshipの9つのカテゴリに区分されています。例えば、CreativityのPlayfulnessパタンは、グループの会話におけるPlay(遊び)について、Heart、Description、Examples、Related patternsというフォーマットを用いて説明されています。

[24] Pattern Language for Group Process

まとめ

今回は、「3. プロトタイピングを行う」プロセスにおいて利用可能なデザインメソッドとして、デザインパタンをとりあげ、その起源、および、建築からソフトウェアエンジニアリング、HCIへの拡張の流れを追ってきました。ユビキタスコンピューティングやゲームまで拡張されたデザインパタンですが、残念ながら、プロダクトデザイン、サービスデザインまで拡張されていません。ソーシャルイノベーションを目的としたBOPという特殊なフィールドにおけるプロダクトデザインとなると、さらにケースは限定されてしまいます。しかしながら、今後フォーマットと関係性を考慮しつつデザインパタンとして成功したデザインをコレクションしていくことは、デザイナにとってだけではなく、社会にとっても大きな貢献となると考えられます。

一方、現在のデザインパタンは、本質的な限界を孕んでいます。現在のパタンの概念は決定論的パタンと言えます。すなわち、原因と結果の関係が一意的に確定している決定論的システムと同様に、問題とソリューションに対する関係が一意的に確定しているパタンを指します。この決定論的パタンの問題点は、パタン同士の残余を考慮しない点にあります。残余とは、パタンで補うことのできない部分、パタン同士を結合して全体のシステムを構築する際のデザイナの関与部分に他なりません。一意的に優れたパタンを組み合わせただけでは優れた構築物をデザインすることはできず、必ずパタンという切片を切り出すプロセスとしての微分の段階で削ぎ落とされた部分を補うデザインが必要となります。このようなアレグザンダー以来のパタンに関する問題は、建築分野においては指摘されつつあるものの、HCIの領域では現状、問題提起されるに至っていません。このようなパタンの持つ本質的な課題を改良するような新たなコンセプトのパタン、あるいは、新たなメソッドを構築する必要があるといえるでしょう。

次回は、既存のデザインメソッドの限界とソーシャルイノベーションのためのプロダクトデザイン手法の鍵となる構造構成主義を紹介いたします。

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デザインメソッド – モデリング

前回よりデザインプロセスにおいて用いられてきた、既存のデザインメソッドについて紹介をしています。前回は「1. フィールドへ赴き、データを取得する」ためのメソッドとして、まず、量的データではなく、質的データに注目し、質的調査法として、口頭データと視覚データの様々な採取方法について説明をしました。その上で、目的に応じた複数の手法の組み合わせの事例として、エスノグラフィック・インタビューの一形態である、コンテクスチュアル・インクワイアリについて説明をし、その限界について言及いたしました。

第2弾となる今回は、2番目のプロセスである「2. 課題を発見し、仮説を構築する」ためのメソッドを紹介していきましょう。このプロセスでは、最初のプロセスである、「1. フィールドへ赴き、データを取得」するプロセスにて取得した”質的データ”を用いて、仮説を構築していきます。

このプロセスでは、フィールドにおける現象を理解するために、事象同士の関係形式としての「構造」を構成します。構造それ自体を表現したものを「モデル」と呼ぶことから、構造化の過程を「モデリング」と呼びます。モデルは、構造を視覚化することで、より深い理解をもたらし、議論の土台となるため、非常に有用なツールといえます。実際には、モデリングを通じて構築された複数のモデルをもとに仮説を構築することになります。以下では、様々なモデルを構築するメソッドを紹介していきましょう。

ユーザモデル

ユーザモデルの代表格がペルソナです。以下では,ペルソナについて紹介したのち,ペルソナと併せて用いるシナリオ、そしてこれらをツールとして用いたメソッドである、”ゴールダイレクテッドデザイン”について説明をいたします。

ペルソナ

ペルソナは、製品を使うこととなる架空の人物を表す属性をドキュメント一式にまとめる手法です。ここでいう人物を規定する属性とは、名前、性別、性格、趣味、動機などを指します。これらの属性を質的調査法で取得したデータを元に確定していきます。また、各ペルソナは、すること(行為、または予測される行為)と理由(ゴールと動機)の特徴に基づいて作られる必要があります。下の図はAdaptive Pathで作成したKivio(ダイアグラムツール)ユーザのペルソナの例です[1]。

[1] A persona chart developed for Kivio, a diagramming tool similar to Visio.

詳細なペルソナを形成し、チームでペルソナを共有することは、単なるアノニマスなユーザではなく、具体的な人物のために、プロダクト、サービス、システムをデザインする感覚を与える効果をもたらすだけではなく、この人物に対してどのような状況でどのようなデザインが有効であるかについて検討が可能となります。

シナリオ

シナリオは、ユーザがプロダクト、サービス、システムを使うストーリーを時系列に沿って表記する、言葉によって作られるプロトタイプです。状況が厳密に描写されたシナリオを作成し、チームでシナリオを共有することは、制作物にて用いられているデザインコンセプトの迅速な理解を促進するでしょう。また、このプロセスに先のペルソナを組み合わせることで、ある状況の中で想定するユーザがどのように振る舞うかという点についての理解を深めることが可能となります。このプロセスは、ペルソナそれ自体の妥当性の検証にも利用できます。当然、シナリオを作成する際も、フィールドで取得したデータに照らし合わせて作成する必要があります。

Adaptive Pathのダン・サファー(Dan Saffer)の著書『Designing for Interaction(邦題:インタラクションデザインの教科書)』より、以下に、オンラインのスーパーマーケットによる宅配サービスのシナリオの例を示します。

サラは、オンラインスーパーマーケットであるBigGroceryのアカウントにログインする。先週の注文品リストを見て、今週も同じものを注文することに決める。自分の「Groceryリスト」をからいくつかの品をドラッグして除外する。合計金額がそれにしたがって再計算される。欲しい物が全部リストにあるので、「配達」ボタンをクリックする。すでに登録してあるクレジットカードに請求され、約1時間後に配達が来ることが確認ページでわかる。

ゴールダイレクテッドデザイン

すでにペルソナの概要については上記にて説明をいたしました。アラン・クーパーは自身の主張する”ゴールダイレクテッドデザイン”において、ペルソナをユーザモデルの1つとして活用することを主張しています。まずは、ゴールに関する彼の説明を引用しましょう。

被験者から観察された行動にコンテキストを与えるのがペルソナだとすると、ゴールはその行動の原動力である。ゴールのないペルソナはコミュニケーションツールとしては役立つかもしれないが、デザインツールとしては使いものにならない。ユーザのゴールは、デザイナにとっては、製品の機能を考えるときにかならず通してみなければならないレンズのようなものだ。製品の機能と振る舞いは作業の助けを借りてゴールを達成しなければならない。一般に作業は絶対必要なものだけに抑える。作業は、執着駅までの手段にすぎない。ゴールこそが執着駅だ。

次に、クーパーは3つのゴールについて説明をしています。これら3つのゴールはドナルド・ノーマン(Donald Norman)の『Emotional Design(邦題:エモーショナル。デザイン)』の認知プロセスの3レベル理論(本能的レベル-行動的レベル-内省的レベル)に対応しています。本能的レベルとは、製品に深く関わる前に、五感が最初に知覚する部分のデザインです。次に、行動的レベルのデザインとは、ユーザの行動、暗黙の前提、脳内モデルをうまく補うような、製品の振る舞いのデザインです。最後に、内省的レベルのデザインは、長期的な製品との関係のデザインです。

エクスペリエンスゴール

エクスペリエンスゴールとは、製品を使っていた時にどのように感じていたか、ということであり、製品とのインタラクションの品質を意味します。

例:
– 自分が賢く感じられ、全体を掌握している感じを持てる。
– 楽しい。
– 落ち着いていて安心感がある。
– 仕事に集中していて鋭敏になっている感じがある。

エンドゴール

エンドゴールとは、特定の製品と直結した作業を実行することに対するユーザのモチベーションを指します。

例:
– 重大になる前に問題に気づく。
– 友人や家族との連絡を絶やさない。
– 毎日5時までにTO-DOリストを作る。
– 私が好きな音楽を見つける。
– 最良の取引を手に入れる。

ライフゴール

ライフゴールは、ユーザの深いところにある原動力、モチベーションであり、ユーザがエンドゴールを達成しようと努力している理由をある程度説明するものです。

例:
– よい人生を送る。
– ~という野望を成功させる。
– ~のプロになる。
– 同僚たちから人気、好意、敬意を集める。

ペルソナの構築プロセス

さて、クーパーは、Goodwin 2002らのペルソナ構築手法[2]をもとに、ペルソナの構築プロセスを7ステップで定めています。以下にそのプロセスについて説明しましょう。

[2] Goodwin, Kim 2002. Getting from Researech to Personas: Harnessing the Power of Data. User Interface 7 west Conference.

1. 行動変数を見極める。

調査を終え、データを大まかにまとめた後、観察された行動の様々な側面を行動変数にまとめていきます。一般に行動パタンの最も重要な差異は、次の変数に注目すると現れるとされています。

活動:ユーザが何をしているか、頻度と量。
態度:ユーザが製品のドメインやテクノロジについてどう思っているか。
適性:ユーザが受けた教育訓練は何か、学習能力はどれだけか。
モチベーション:ユーザが製品ドメインに関わっているのはなぜか。
技能:製品ドメインとテクノロジに関わるユーザの能力。

2. インタビューの被験者を行動変数に対応づける。

インタビューの被験者たちが顕著な行動変数を示したことが確認できたら、変数の範囲内に被験者を対応づけていきます。

例:
サービス重視 – 価格重視
必要なものだけ – 娯楽

3. 顕著な行動パタンを見出す。

被験者を行動変数の範囲に対応づけたら、複数の範囲を通じて被験者が同じように集中しているところを探します。6, 8個の異なる変数を通じて同じ被験者の集合ができていれば、それはペルソナの基礎となる顕著な行動パタンを表していると考えられます。

4. 特徴とそれに関係のあるゴールを総合する。

見つかった顕著なパタンごとに、データからディティールを集めて全体像を作らなければなりません。潜在的な利用環境、典型的な作業日、現在のソリューションとそれに対する不満。周囲の人々との関係などをまとめます。

5. 重複や完成度をチェックする。

人口統計学的変数以外に違いの見つからない2つのペルソナが見つかった場合には、重複するペルソナの片方を取り除くか、ペルソナの個性を調整して差を際立たせるようにします。

6. 態度や振る舞いの記述を拡張する。

ペルソナの態度、ニーズ、他のチームメンバとの間の問題点などを伝えるには、3人称の物語の方がはるかに強力です。物語は、デザイナ、作者とペルソナやそのモチベーションとの関係を深める効果もあります。

7. ペルソナの配役を決める。

どのペルソナを主要なデザインターゲットにするかを決めて優先順位をつけます。

主役:インタフェース設計の主要なターゲット。
脇役:主役のインタフェースで満足させられるが、特殊なニーズを余分にもっており、その部分は主役に奉仕するという製品の能力を損なわずに実現できる。
端役:主役でもなく脇役でもないペルソナ。
顧客:エンドユーザではなく顧客ニーズである。
サービス利用者:製品のユーザではないが、製品の利用によって直接的な影響を受けるもの。例えば、放射線療法の患者は装置のユーザではない。
黒衣:製品の奉仕対象にはならないタイプのユーザ

ワークモデル

次に、ベイヤーとホルツブラッド(Hugh Beyer & Hugh Beyer)の『Contextual Design』にて提唱されている、ユーザの「行動」を構造的に分析するための5つの”ワークモデル”を紹介します。こちらもユーザモデルと同様に、収集したデータをもとに、モデルを構築していきます。ここでは、実際のモデルの例として、「台湾における伝統的な社会活動としてのお茶を飲む習慣」を用いて説明をいたします[3]。

[3] Ko-Hsun Huang and Yi-Shin Deng, 2008. Social Interaction Design in Cultural Context: A Case Study of a Traditional Social Activity. International Journal of Design, Vol.2, No.2.

フローモデル

複数のユーザーがタスクを終えるまでにどのように調整を行っているか、そして、ユーザ同士のコミュニケーションの流れを記述するモデル。

シーケンスモデル

ユーザーがタスクを終えるまでの詳細なステップを記述するモデル。
シーケンスモデルの特徴は、シーケンスの目的(シークエンスが達成しようとするもの)とトリガー(シークエンスをスタートさせるもの)を示す点にあります。

文化モデル

行動が行われる環境における文化を、影響者と影響という形で記述するモデル。
影響者は組織内の個人、グループ、あるいは、概念上の集団、外部など行動に影響を与えたり、制約したりする人を指します。影響は、影響を与える方向とどれだけ影響度があるかを矢印や円の大きさで示します。

アーティファクトモデル

ユーザーがタスクを終えるまでの過程で利用、あるいは、構築するアーティファクト(人工物)を記述するモデル。

物理モデル

行動が行われる物理的環境や道具を記述するモデル。

グラウンデッド・セオリー・アプローチ

ここまでユーザの属性に関するモデル、ユーザの行動に関するモデルを構築してきました。次に、フィールドの構造化に関するメソッドを紹介しておきましょう。ここでは、社会学者のBarney Glaser と Anselm Strauss(グレイザー & シュトラウス)によって提唱された、(オリジナル版)グラウンデッド・セオリー・アプローチ(Grounded Theory Approach / GTA)を紹介いたします。

多摩大学教授の紺野登 氏は『ビジネスのためのデザイン思考』において、質的データのデザイン手法として3つのメソッドを取り上げ、そのうちの1つとしてGTAを紹介しております。ここでは、紺野氏の解説をもとに説明させていただきます。

GTAは、フィールドに密着して得られたフィールドデータをつきあわせながら、帰納的に(個々の具体的事例から一般原理・法則を導きだす考え方で)まとめていき、現場の問題を解決するための有効な理論の発見を行う方法論です。

GTAは、典型的な帰納法であり、データを収集したのち、いくつかの段階でコーディング(符号付)を行います。以下にコーディングの3つのステップを引用いたします。

1. オープンコーディング(データからラベルづけへ)
観察やインタビュー記録をもとに、最小単位のデータに切り分けて、それらを眺め、比較しながら、意味のまとまりを発見してラベル(キーワード)を付ける過程。

2. 軸足コーディング(ラベルからコンセプトへ)
全体をいくつものラベル(変数)で表し、それらの関係性を明らかにし、次に代表的なラベルをもとにしながらさらに大きな意味のまとまり=カテゴリ(コンセプト)を見いだす過程。

3. 選択的コーディング(コンセプトから理論へ)
中核となるカテゴリを決め、その他のカテゴリを関連づけて、実践のための道筋を明らかにする。

実際のGTAの一般的なプロセスは、以下の5つのプロセスで構成されます。

1. インタビューや観察からフィールドノートを作り、最小単位のデータに切片化する作業

2. 切片化されたデータを付きあわせて、共通した意味のものをまとめラベル化する。これらを関連づけながらコンセプトやモデルを形づくっていく(オープン・コーディング過程)。

3. データを切片し、まとめ、ラベルづけをし、それらをいくつかのまとまり(変数、あるいは、カテゴリ)として、相互の因果関係を見出すクラスター化を行う。(軸足コーディング過程)

4. カテゴリ群からコンセプトを生み出す。

5. 理論化・モデル化する(選択的コーディング過程)。

このようなオリジナル版GTAの手法について、「実際のデータ収集と分析、特にコーディング方法に関して明確に示されていない」という限界が指摘されており、木下らによりM-GTA(Modified Grounded Theory Approach/修正版グラウンデッドセオリーアプローチ)が提案されています。木下らはGTAに対する課題点の克服として以下の3つを挙げています。

1. コーディング方法の明確化(分析プロセスの明示)
実際に活用しやすく、かつ、分析プロセスが他の人にも理解しやすいという両方の条件を満たすものを提案している。

2. 意味の深い解釈
分析プロセスを明示化するだけではなく、深い解釈を組み込んでいる。

3. 60年代の限界(素朴な客観主義)と近年の質的研究動向に対して、独自の認識論(インタラクティブ性)
研究をデータ収集段階(協力者-研究者)、データ分析段階(分析焦点者-研究者)、分析結果の応用段階(研究者-応用者)に分け、各段階において、研究する人間を他者との社会関係に位置づける。

サービスブループリント

最後に、適切なサービス構造を構築するために、1984年にリン・ショスタック(Lynn Shostack)によって提案された、サービスブループリントを紹介しましょう.サービスブループリントは、5つのコンポーネントで構成されます。

具体的な現象
顧客がある会社と接点を持つ間に受けるすべての具体的な現象.

顧客の行動
顧客がサービスを受けるプロセスにおいて,顧客が取りうる全てのステップ.

オンステージ/目に見える従業員の接点行動
顧客とのフェイストゥーフェイスでの接点の中で起こる従業員の行動.

バックステージ/目に見えない従業員の接点行動
顧客にサービスを提供するために従業員が取るその他すべての行為に加えて,顧客との目に見えないインタラクション.

サポートプロセス
顧客との接点を持たないが,社内の個人あるいはチームによって実行されるすべての行動.サービスを実行するために必要不可欠な機能.

実際にブループリントを構築するプロセスは、以下の1-6のステップを含んでいます[4]。

1. サービスプロセスを同定する。
2. サービスを経験する顧客のセグメントを同定する。
3. 顧客視点でサービスを記述する。
4. オンステージとバックステージの従業員の接点行動を記述する。
5. 接点行動と必要とされるサポート機能とをリンクさせる。
6. 顧客のとる全ての行動のための証拠を追加する。

[4] Wilson, A., Zeithaml, V., Bitner, M. J., & Gremler, D. (2008). Services Marketing: Integrating Customer Focus across the Firm. Glasgow, UK: McGraw-Hill.

まとめ

今回は、「2. 課題を発見し、仮説を構築する」ためのメソッドとして、質的データを用いたモデリング手法について紹介いたしました。具体的には、ユーザの属性に注目したユーザモデリングとして、ペルソナ、シナリオ、ゴールダイレクテッドデザイン、ユーザの行動に注目したワークモデル、フィールドの構造を理解するためのGTA、そして、サービスの構造を構築するためのサービスブループリントを紹介してきました。モデルリングのプロセスを通じて現象が構造化されることこそが最も重要なポイントといえるでしょう。確かにモデルを構築するプロセスは単に現象を分析するだけにすぎません。しかしながら、創造のジャンプを実現するためにも、適切なモデルを構築し、チームで共有可能な状態としておくことは大前提であると考えます。

次回は、「3. プロトタイピングを行う」プロセスにおいて利用可能なメソッドとして、デザインパタンを紹介いたします。

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キーワードとしてのBOP

前回は、イノベーションについて、その定義と派生系について述べてきました。今回は、ソーシャルイノベーションと密接に関わっているBOP – Bottom of the Pyramid – について説明をしたいと思います。最近では、BOPもバズワード化していますが、その起源と定義について改めて整理をしてみましょう。

BOPとは何か?

BOPとは、その名が示すようにピラミッドの底部を指します。この場合のピラミッドとは、社会経済上のグループを指し,頂上側が所得上位のグループ、そして、底部に向かっていくにつれて所得が減少することを意味します。その人口分布は,ピラミッドのかたちのごとく、上から下へ向かって広がっていきます.BOPと呼ばれるグループは、このピラミッドの中で最も大きく、”財政的に”貧しいグループとされています。世界の人口は2010年10月現在で69億人。このうち先進国の人口はわずか10%にすぎず、残り90% – 約58億人 -は、BOPに属していると言われています[1]。

[1] Smith, C. E. (2007). Design for the Other 90%. New York, US, Editions Assouline.

BOPという単語そのものは、フランクリン・ルーズペルト(Franklin D. Roosevelt)によって、1932年のラジオ演説の中で初めて使われたとされていますが、一般的には、PrahaladとHartによって1988年に初めて、”1日2ドル以下で暮らす人々”と定義されました。そして、この定義が、彼らの著書[2][3]を通じて広がっていきました。

[2] Prahalad, C. K. (2004). The Fortune at the Bottom of the Pyramid: Eradicating Poverty Through Profits. New Jersey, US, Wharton School Publishing.
[3] Hart, Stuart L. (2010). Capitalism at the Crossroads: Next Generation Business Strategies for a Post-Crisis World (3rd Edition). New Jersey, US, Pearson Prentice Hall.

さて、21世紀目前の2000年9月、ニューヨークで国連ミレニアムサミットが開催されました。このサミットで採択された「国連ミレミアム宣言」に基づいて、2015年までに達成すべき目標として8つの項目からなる「ミレニアム開発目標(MDGs:Millennium Development Goals)」[4]がまとめられました。

1. 極度の貧困と飢餓の撲滅
2. 普遍的初等教育の達成
3. ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上
4. 幼児死亡率の削減
5. 妊産婦の健康の改善
6. HIV/エイズ、マラリアその他疾病の蔓延防止
7. 環境の持続可能性の確保
8. 開発のためのグローバル・パートナーシップの推進

これら8つの目標のうち、BOPの定義にも含まれる、現金収入に強く関連する項目が1の”極度の貧困と飢餓の撲滅”です。外務省の該当ページ[5]には目標とターゲット、および、指標が掲載されていますので引用します。

A:2015年までに1日1ドル未満で生活する人口の割合を1990年の水準の半数に減少させる。
1.1 1日1ドル(購買力平価)未満で生活する人口の割合
1.2 貧困ギャップ比率
1.3 国内消費全体のうち、最も貧しい5分の1の人口が占める割合

B:女性、若者を含むすべての人々に、完全かつ生産的な雇用、そしてディーセント・ワークの提供を実現する。
1.4 就業者1人あたりのGDP成長率
1.5 労働年齢人口に占める就業者の割合
1.6 1日1ドル(購買力平価)未満で生活する就業者の割合
1.7 総就業者に占める自営業者と家族労働者の割合

C:2015年までに飢餓に苦しむ人口の割合を1990年の水準の半数に減少させる。
1.8 低体重の5歳未満児の割合
1.9 カロリー消費が必要最低限のレベル未満の人口の割合

[4] UN, ミレニアム開発目標
[5] 外務省, ミレニアム開発目標

ミレニアム開発目標の発表以降、先進国における企業、大学、研究機関において、BOPを対象とした取り組みが増加傾向にあると考えられます。昨今ではMIT D-lab、Stanford d.school、TU Delftなどの活動が目立ち、多くのプロダクトが産み出されています。また、世界経済フォーラム(ダボス会議)では、2000年以降、社会起業家によって生み出されたモデルを推進することを目的とし、ソーシャル・アントレプレナー・シュワブ財団と共同で社会起業家を選出し、部会および総会に招待する試みが実施されています[6]。

[6] Schwab Foundation for Social Entrepreneurship

デザイン手法

10%に向けたデザイン手法

さて、BOPを対象としたプロダクト、サービス、システムをデザインを行う場合、これまで利用されてきたデザイン手法は有効と言えるでしょうか?このデザイン手法は、言うまでもなく、先進国で利用されるモノを開発するために構築された手法であり、いわば、10%の人々に向けたデザイン手法だということを頭に入れておく必要があります。

従来のプロダクトデザイン,サービスデザイン,社会システムデザインの分野におけるデザイン手法は,ユーザとモノ – デバイス,プロダクト,ソフトウェア – との関係性に主眼を置くものでした。例えば,IDEOやAdaptive Pathは,エスノグラフィのアプローチを導入することで、この関係性を解き明かそうと試みてきました。すなわち、対象の観察を重視し、ユーザとモノの関係性から解決すべき問題点を発見しようとしてきました。さらに、ここで得られた知見をもとに、架空のユーザとしてのペルソナを設定し、提案しようとする製品をペルソナがどう扱うかについてのシナリオを策定することで、より魅力的なユーザ体験を提供しようと試みてきました。

90%に向けたデザイン手法

しかしながら、BOPを対象とした場合、従来のようにモノとユーザだけでの関係性をデザインするだけでは不十分であり、”マクロ”と”ミクロ”の視点を利用したアプローチを採用する必要があると考えます。これは、BOPにおけるデザインプロセスは、グローバル経済の下で高い類似性を持つ環境、および、背景を持つユーザを対象とする、10%に向けた従来のデザインプロセスとは根本的に異なるためです。まず、各フィールドで起きている現象に着目した上で,マクロな視点からフィールドごとの特殊性を構造的に理解する必要があります。さらに、ミクロな視点として人々の関心を構造的に把握する必要があります。

Polakはその著書『Out of Poverty』において、BOPにおける問題解決のための12のステップを示していますが、最初の3点は、フィールドの特殊性を理解するためのステップであるだけではなく、人々の関心を構造的に把握するためのステップとも考えられます。BOPを対象としたデザインプロセスでは、これら2つののプロセスを経て、それぞれのフィールドに対する最適な技術を用いてプロダクト、サービス、システムを設計することが求められるのです。

Step 1: Go to where the action is.
現場へ行こう。

Step 2: Talk to the people that have the problem and listen to what they have to say.
問題のある人に話しかけ、彼らの言葉に耳を傾けよう。

Step 3: Learn everything you can about the problem’s specific context.
問題が起きている特殊な状況についてできる限り学ぼう。

Step 4: Think big and act big.
大胆に考え、大胆に行動しよう。

Step 5: Think like a child.
子供のように考えよう。

Step 6: See and do the obvious.
目に見える状態にしよう。

Step 7: If somebody has already invented it, you don’t need to do so again.
もし誰かがすでに開発済みなら、もはややる必要はない。

Step 8: Make sure your approach has positive measurable impacts that can be brought to scale. Make suire it can reach at least a million people and make their lives measurably better.
あなたのアプローチが、計測可能なポジティブなインパクトを持っていることを確認しよう。少なくとも100万人の生活をよりよくしよう。

Step 9: Design to specific cost and price targets.
目標となるコストと価格を設定し、デザインしよう。

Step 10: follow practical 3 year plans.
3年間の実践的な計画に従おう。

Step 11: Continue to learn from your customers.
顧客から学び続けよう。

Step 12: Stay positive: Don’t be distracted by what other people think.
ポジティブでいよう。他のひとの意見に惑わされないように。

[6] Polak, P. (2008) Out of Poverty: What Works When Traditional Approaches Fail.San Francisco, CA, Berrett-Koehler Pub.

なぜBOPか?

最後に、なぜBOPに注目するのか、その理由について3点ほど述べたいと思います。

まず第1に、マーケットの規模です。全人類の90%、58億人、という数字はすでに述べました。あるフィールド用に向けて開発されたプロダクトを別のフィールドでそのまま適用することはBOPの場合、難しいケースが多いと考えられますが、チャンスは単純に9倍あると考えられます。

第2に、イノベーションに対するコストの問題です。先進国におけるイノベーションの場合、最先端技術の開発に対するコストは莫大なものとなり、もはや低資本でのイノベーションは困難であると言えます。しかしながら、BOPの場合、現地での運用が前提とされ、現地のローカルマテリアルを利用するなど適正技術を用いたイノベーションが推奨されることから、先進国に比べて低資本にてイノベーションを実現する可能性が残されています。

最後に、解決すべき膨大な数の問題の存在です。水、電気、道路などのインフラから、保健衛生、教育、産業化など各フィールドごとに解決すべき問題は膨大な数に上ります。このような状況に対して、フィールドを適切に理解し、デザイン思考を活用することで、多くの問題を解決することが急務といえます。

まとめ

今回は、ソーシャルイノベーションの場としてのBOPに注目し、語義的な起源、定義、その特徴について述べてきました。これまでの説明の中で、BOPという言葉、特に、Bottomという単語に違和感を感じる方もいるのではないでしょうか。この点に関して、あくまで、収入という一軸で捉えたときの視点に過ぎないことを頭にいれておく必要があります。確かに、経済面ではBottom(底)とみなされる収入しか得られていない点は事実です。しかしながら、そのグループに属する人々が彼らの生活において必ずしも不満を抱いているというわけではないことも事実です。彼らは彼ら独自の価値観、文化に基づき満足して生活をしています。

さて、経済的には満たされなくても生活に満足している彼らに対して、わたしたちは何ができるのでしょうか?彼らの自由を尊重するならば、彼らの価値観を揺るがす権利はなく、我々の考え方を押し付けることも許されません。その点でいえば、彼らに対するプロダクト、サービス、システムの提供は必要ないのではないか?という意見すらあります。とはいえ、教育を受けたい、きれいで安全な水を飲みたい、現金が欲しい、という欲求が現地に存在することも事実です。このような欲求を抱く人々に対して、現地の価値観に沿った選択肢を提供することが重要であると私は考えています。そのような選択肢を提供した上で、最終的に現地の人々が自身の関心に基づいて判断することで、持続的な関係が構築されると考えています。

次回からは、ソーシャルイノベーションを実現してきた企業、NPO、大学、研究期間をシリーズで取り上げていきたいと思います。

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