実践 – ビジネスモデル

第19回よりソーシャルイノベーションのための構造構成主義的プロダクトデザイン手法の実践について紹介をしています。前回は、実践の第5回として、第1回現地テストの結果を受けてデザインした普及モデル(ver.1.0)、東ティモールにてWanic Toolkitを用いてWanicを作るヒト、および、飲むヒト向けに実施された第2回現地テスト、さらには第2回現地テストをもとに改良した普及モデル(ver.1.1)とその製造プロセスについて説明しました。

今回は、構造構成主義的プロダクトデザイン手法の実践の最終回として、Wanic ToolkitとWanicを用いたビジネスモデルについて説明します。ビジネスモデルについて説明するにあたり、まず、Wanicシリーズの製品ラインナップ、日本、途上国、先進国で構成される事業展開を説明したのち、初期の展開先として設定した東ティモールにおけるWanicのポジショニング、および、技術伝達を含む事業戦略を中心に説明します。

ビジネスモデル ver.1.0

製品ラインアップ

まず、ココナッツジュースワインをベースとするWanicシリーズとして現在展開が予定されている3つの製品(Fresh Wanic、Bottoled Wanic、Wanic Liquor)について、それぞれの特徴を説明します。

Fresh Wanicは、ココヤシの実の中でココナッツジュースを発酵させた新しいお酒です(図1)。味については、ココナッツジュースの持つ風味、新鮮さを残しつつ、見た目についても、ココヤシの実を器に使うことで、エキゾチックな魅力が引き出されます。一方で、ココヤシの実を利用することにより、長期間の保存が難しくなるため、原則生産場所と消費場所はほぼ同一と考えてよいでしょう。

図1. Fresh Wanic

Bottoled Wanicは、Fresh Wanicをココヤシの実から取り出し、瓶詰めにしたものです(図2)。Fresh Wanicの持つ風味を維持しつつ、Fresh Wanicよりも長期の保存を可能にした製品です。瓶詰めにすることで、生産地周辺の都市への運搬と消費が可能となります。

図2. Bottoled Wanic

Wanic Liquorは、Fresh Wanicをココヤシの実から取り出し、蒸留し、その後瓶詰めしたものです(図3)。Fresh Wanicの持つ風味を継承し、蒸留することで濃縮される味が特徴的です。アルコール度数も蒸留によって40度前後と上昇するため、カクテルのバリエーションも増加し、楽しみ方も変化するでしょう。

図3. Wanic Liquor

表1. Wanicシリーズの概要、強み、改良点

概要 強み 改良点
Fresh Wanic ヤシの実で発酵 新鮮さ、外観の魅力 保存期間が短い
(発酵完了から1週間)
Bottoled Wanic 発酵後瓶詰め 新鮮さ 保存期間がやや長い
(発酵完了から1年程度)
Wanic Liquor 蒸留後瓶詰め 保存期間が長い
(1年以上)
生産量が少ない
事業展開

我々は途上国、日本、日本以外の先進国という3つの地域にまたがって事業を展開していきたいと考えています。事業展開における3地域の関係性を図4に示します。これら3地域に対して2つのフェーズで事業を展開したいと考えています。

図4. Wanicビジネスを巡る日本、途上国、先進国の関係性

1st フェーズ

まず、最初の事業を途上国からスタートします。まずは、Wanic Toolkitの製造、Fresh Wanic、Bottoled Wanic、Wanic Liquorの製造および販売までの完結したサイクルを、ディリにて1つの店舗を中心に構築したいと考えています。店舗といっても単独で専門店を経営するわけではなく、ターゲットが集まりやすいホテルやレストランなどといったWanicシリーズの卸先としての店舗です。この1店舗はモデル店舗としての役割を担い、日本やその他の先進国からのゲストをWanic体験ツアーとして招待し、試飲会を開催する機能をも併せ持っています。

2nd フェーズ

途上国での小さなサイクルを構築したのち、日本や先進国へのBottoled Wanic、Wanic Liquourの輸出を行います。各国に対して1社のパートナー企業を設定し、パートナー企業にWanicシリーズの購入権を付与します。あるパートナー企業に製造権を付与する場合、我々の持つWanic製造に関するレシピやノウハウを当該企業に提供します。これに対する対価としてレベニューシェアが考えられます。この点について、レベニューシェアの比率を通常の事業会社の行う一般的なレベニュー契約と比較した場合、低めに設定する代わりに、製造プロセスにおける現地対応(現地の環境を破壊するような大規模生産等は行わないなど)に関するルールを契約に盛り込むことを考えています。
また、我々自身で先進国向けのWanic Toollkitの小規模生産をスタートする予定です。DIYによる酒製造が法律上問題のない国、かつ、ヤシの実を入手可能な国(アメリカ、オーストラリアなど)に対して、オンライン販売を行いたいと考えています。

我々は、最初に事業を展開する途上国として東ティモールを設定しました。この選択は、東ティモールへのフィールドワークからこのプロジェクトが始まったこと、東ティモールでお世話になった人々に対して何らかの恩返しをしたいという思いに基づいています。以下では、最初の事業展開先として選択した東ティモールについて、Wanicシリーズのポジショニング、事業戦略、ソリューションモデル(ver.1.1)上の間接的効果について説明します。

ポジショニング

さて、東ティモールにおいて存在する既存の主要な酒と比較した場合の、Wanicの市場におけるポジショニングを図5に示します。ここで扱うWanicは、ココヤシの実を用いたFresh Wanic、Fresh Wanicを蒸留したWanic Liquorの2種類とします。まず、既存の酒のターゲットを分析するために、横軸に所得(観光客-現地人)を設定し、縦軸にイベント性(特別-日常)を設定しました。この座標空間において、すでに流通しているヤシ酒のTuak(トゥアック)は、日常的なシチュエーションにおける低所得層を、ヤシ酒を蒸留したArack(アラック)は、日常的と特別なシチュエーションの中間における低所得者層を、ビールは、日常的なシチュエーションにおける富裕層をターゲットとして設定していると分析しました。そして、Wanic、Wanic Liquorは、既存の酒がターゲットとして設定していない、「特別なシチュエーション」における「富裕層」をターゲットとして設定しました。この特別なシチュエーションとして想定される場所は、ウエディングパーティ、ホテルのバー、あるいはレストラン、想定される顧客は、海外からの旅行者、現地富裕層が考えられます。

図5. Wanic、Wanic liquorのポジショニング

事業戦略

WanicおよびWanic Liquorを用いた事業戦略・技術伝達モデルを図6に示します。本事業には、我々が現地パートナーと共同で設立するWanic.Timor、現地のWanic Toolkit製造者、Wanic製造者、Wanic Liquor製造者の5つのステークホルダーが存在します。事業開始当初のWanic.Timorの主たる事業内容は、Wanic Toolkit製造、Wanicシリーズの製造・販売・輸出ですが、ステップごとに技術移転を行うため、事業内容はステップごとに変化していきます。

図6. Wanic、Wanic Liquor の事業戦略・技術伝達

まず、ステップ1では、Wanic.Timorは、Wanic Toolkit製造、Wanic Liquorの製造、Wanic Liquorの販売を行います。Fresh Wanic製造は、Wanic.TimorがWanic Toolkitを提供し、Wanic.Timorの指導によりWanic Makerとしての現地人が行います。Wanic Makerの対象は、ココヤシの実を入手可能で、保存スペースを確保でき、余剰時間がある現地人と設定しています。ステップ1では、Wanic.TimorがWanic Makerの制作したFresh Wanicを買い取り、蒸留してWanic Liquorを製造し、パッケージングまでを行い、ホテル、レストランに販売します。

次に、ステップ2では、Wanic.Timorは、Wanic Toolkit製造、Fresh Wanicの販売、Wanic Liquorの販売・輸出を行います。Wanic.Timorは、Wanic Makerの製造したFresh Wanicを買い取り、ホテル・レストランで販売します。また、Fresh Wanicの製造を行う現地人に対して蒸留方法の技術移転を行います。この結果製造されたWanic Liquorを買い取り、ホテル・レストランで販売する他、日本を含む先進国に対して輸出します。

最後に、ステップ3では、Wanic.Timorは、Fresh Wanicの販売、Wanic Liquorの販売・輸出を行います。ステップ3では、Wanic Toolkit製造に関する技術を現地人に移転します。これにより、技術移転が完了し、販売・輸出のみが事業内容となります。現地人は、Wanic Masterとして、Wanic Toolkitの生産、Wanic / Wanic Liquorの製造までを担います。

本事業戦略は、ソリューションモデル(ver.1.1)において示したデザイン上の制約(地形の複雑さ、非効率な運搬方法、原始的な運搬システム、ディリと地方の格差、保管・運搬用の容器)を念頭において設計されました。Wanic Toolkitを用いて製造されるWanicのみを商材とした場合、これらの制約条件が解消されません。ゆえに、長期間の保存が可能となる、蒸留を経たWanic Liquorを新たな製品として事業展開に組み込んでいます。地形が複雑であり、非効率な運搬方法、または、原始的な運搬システムしか存在しない東ティモールであっても、ボトリングや蒸留を行うことで、地方からホテルやレストランの存在する首都ディリまで製品を運搬することが可能となります。

ビジネスモデル考察

Wanic、およびWanic Toolkitを用いた事業の課題として、モラル・治安の悪化、および、特許の有効性が挙げられる。まず、簡単においしい酒が製造できるようになることで、治安の悪化、モラルの低下が起きるのではないかという指摘を受けました。これを解決するためには、現状、東ティモールには、酒に関する法律(製造、販売、飲酒制限)が存在しないため、政府に対して法整備を働きかけ、社会問題化を未然に防ぐことが望ましいと考えています。また、特許は、アジアのその他の国々と同様に、法整備が進んでおらず、悪質なコピーが横行しがちです。酒作りのためのツールキットの悪質なコピーは、酒造りのプロセスを通じた衛生概念の普及という狙いに悪影響を及ぼすでしょう。これを解決するためには、日本、EC、アメリカにて特許を取得するという方針も可能ですが、オープンソースハードウェアの思想のもと、ツールキットに関する情報を積極的に開示するという方向性も考えられます。

まとめ

今回は、構造構成主義的プロダクトデザイン手法の実践の最終回として、Wanic ToolkitとWanicを用いたビジネスモデルについて説明しました。ビジネスモデルについて説明するにあたり、まず、Wanicシリーズの製品ラインナップ、途上国、先進国の関係を説明したのち、初期の事業展開先である東ティモールにおけるポジショニング、技術伝達を中心とした事業展開、ならびにその考察について説明しました。

これらのモデルは、あくまで初期の想定したプランにすぎず、今後フィールドで実際に小規模なサイクルを構築していく中で変化していく可能性が高いでしょう。しかしながら、「貨幣経済というシステムの中で、変化を望む者が変化を実現するために現金獲得手段を提供する」というモチベーションと、「現地の人々の持つ価値観や文化と共存したものづくり」というデザインコンセプトを維持しながら、活動を継続していきたいと考えています。

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実践 – プロトタイピングと現地テスト – 普及モデル

前回は、ソリューションモデル構築以後の「プロトタイピングと現地テスト」の前編として、ココナッツワイン”Wanic”と、Wanicを製造するためのツールキット”Wanic Toolkit”のコンセプトモデルについて、キットの概要、キットを用いたWanicの製造プロセス、ならびに、第1回現地テストとそこでのフィードバックを中心に説明しました。

今回は、「プロトタイピングと現地テスト」の後編として、第1回現地テストの結果を受けてリデザインされた普及モデル(ver.1.0)、第2回現地テスト、さらには第2回現地テストからのフィードバックをもと改良した普及モデル(ver.1.1)を説明します。

Wanic Toolkit

普及モデル ver.1.0

第1回現地テストの結果をもとに、Wanic Toolkitの普及モデル(ver.1.0)を開発しました(図1)。コンセプトモデルから普及モデル(ver.1.0)への大きな変更点は、固定具の廃止と素材の変更です。まず、コンセプトモデルのメインパーツであったワニの形状をあしらった固定具を廃止しました。とはいえ、シンボルとしてのワニを完全に排除したわけではなく、発酵栓の上蓋にワニのイメージを焼き印としてを残しました。次に、ローカルテクノロジーとローカルマテリアルのみでのキット製造を念頭に置き、プロダクトの素材としてセラミックを主として採用しました。以下では、具体的なキットの構成とWanicの製造プロセスについて説明します。

図1:Wanic Toolkit 普及モデル(ver.1.0)

普及モデル(ver.1.0)は4つのパーツで構成されています。4つのパーツは、発酵栓、発酵栓の上蓋、(コルク付)サーブ栓、穴あけ具です。発酵栓の上蓋は逆さにし、内側の凹みを利用して、酵母の予備発酵を行うことができます。穴あけ具は、アルミ部分をハンドル内部で固定しただけではなく、先端部分についてはハンドドリルの刃を参考に波型を採用しました。

上記の4つのツールを用いたWanicの製造プロセスは、コンセプトモデルと同様の6ステップを採用しています。

図2. Wanic Toolkitを用いたココナッツワイン(Wanic)作りのプロセス(ver1.0)

1. 穴あけ
穴あけ具を用いてココヤシの実(ココナッツ)に穴を開けます。

2. 酵母投入と補糖
酵母と砂糖を投入します。ヤシの実に含まれるジュースは糖度約5%であるため、目的のアルコール度数に応じて適切な量の砂糖を投入する必要があります。ココナッツジュースの内容量は約700-1000mlで、ココヤシの実の大きさに比例します。

3. 発酵
発酵栓を接続し、アルコール発酵を待ちます。ココナッツジュースの内容量次第ですが、発酵は5-6日程度で終了します。アルコール発酵に併せて生成されるガスが停止すると、発酵の完了を意味します。

4. 保存
保存栓を接続します。アルコール発酵後は酸化を防ぐために、空気の侵入を妨げる必要があります。

5. サーブ
サーブする前に保存栓を取り外します。

6. 美味しい!
ストローを用いて、もしくは、直接グラスにサーブして、生成されたお酒を飲むことができます。

第2回 現地テスト

普及モデル(ver.1.0)を開発したのち、再び東ティモールにて現地テストを行いました。第2回現地テストでは、普及モデル(ver.1.0)を用いたWanicの製造と試飲を協力者に依頼しました。テストを行うにあたり、6ステップの製造プロセスが記載されたマニュアル、ツールキット(ver.1.0)、作るヒト、および、飲むヒト向けの関心相関的アンケート(表1)を1つのパッケージとしてまとめ、東ティモールの協力者のもとへ配送しました(図3)。

図3. Wanic Tooklit パッケージ

表1. 作るヒト、および、飲むヒト向けの関心相関的アンケート

作るヒト

Q1. 何日間発酵をしましたか? (         )日間

Q2. Wanicを作るのは簡単でしたか?

a. とても簡単 b. やや簡単 c. やや難しい d. 難しい

Q3. Q2でcかdと答えたかたにお聞きます.どのステップが難しかったですか?
a. 穴あけ b. 補糖 c. 発酵 d. 保存/保管 e. その他

Q4. その他Wanicを作る際に困った点,気づいた点があればお答えください.

Q5. Wanicを作るプロセスは楽しかったですか?
a. とても楽しい b.やや c. あまり d. 全く

Q6. マニュアルについてお聞きします.マニュアルはわかりやすかったですか?

1. とてもわかりやすい 2. ややわかりやすい 3. ややわかりづらい 4. とてもわかりづらい

Q7. 6の理由を聞かせてください.

Q8. Wanicを作ることで収入が上がある場合,今後も作りたいと思いますか?
a. とても b. やや c. あまり d. 全く

Q9. キットに何かあると便利なものがあればお聞かせください。

飲むヒト

Q1. また飲みたいですか?

a. とても飲みたい b. やや飲みたい c. あまり飲みたくない d. 全く飲みたくない

Q2. Q1を選択した理由をお聞かせください.

Q3.味について.どういう味がしましたか?記述してください.

Q4. wanicをどのようにして飲みましたか?(複数回答可)
a. ストレート b. 冷やして c. カクテルで d. 蒸留して

Q5. Q4でcと回答した方にお聞きします.どんなカクテルが美味しかったですか?

Q6. Q4でcと回答した方にお聞きします.どんなジュースカクテルだと美味しいと思いますか?

Q7. 4の価格は1杯いくらが妥当だと思いますか?(複数回答可)
(        ) $

Q8. ホテルやレストランでwanicが売られていたら飲んでみたいとと思いますか?
a. とても b. やや c. あまり d. 全く

Q9. 外観について.外観は魅力的ですか?
a. とても魅力的 b. やや魅力的 c. あまり魅力的でない d. 全く魅力的でない

作るヒトについては、東ティモールの友人に協力を依頼しました(図4)。具体的な手続きとして、Wanic Toolkitを使ってWanicを製造後、インタビューシートに回答してもらいました。また、飲むヒトについては、東ティモールの友人を通じて、彼女の職場の韓国出身の同僚の方に依頼しました。具体的な手続きとして、友人が製造したWanicを試飲後、インタビューシートに回答してもらいました。以下にアンケート結果を示します(表2)。

図4. 普及モデルを用いたWanic製造の様子

表2. 作るヒト、および、飲むヒト向けの関心相関的アンケート結果

作ったヒト – Timorian, Female

Q1. 何日間発酵をしましたか?
6日間

Q2. wanicを作るのは簡単でしたか?

c. やや難しい

Q3. Q2でcかdと答えたかたにお聞きます.どのステップが難しかったですか?
b. 補糖

Q4. その他wanicを作る際に困った点,気づいた点があればお答えください.
全てのツールは日本から送られてきたけど、東ティモールのマーケットでどうやってこういったツールを手に入れるか考えたことある?東ティモールで手に入るかどうかはわからない。*1
まずはじめに、初めてWanicを作ったけど、ツールに慣れていないし、少し難しかった。なので、逐一マニュアルを見ながら作らなければならなかった。
また、インストラクションが曖昧だった。特に、酵母と砂糖を追加するところ。このプロセスは、ココナッツの外でやるべきだったのか、あるいは、直接ココナッツの中に入れるべきだったのかわからなかった。前者だとすると、例えばグラスに少しココナッツジュースを移して、酵母と砂糖をグラスのなかでまぜてココナッツに戻すということなのかな。
私の友達と2人で、2つの異なる方法でWanicを作ってみた。
1. ワイン酵母と砂糖をココナッツの中に入れてから混ぜる。
2. 大きめのグラスにココナッツジュースを移して、ワイン酵母と砂糖をまぜて、それからココナッツに戻す。
最初の方法だと甘いWanicができたけど、2番目の方法だと(悪くはないけど)少し苦くなった気がする。

Q5. wanicを作るプロセスは楽しかったですか?
a. とても楽しい

Q6. マニュアルについてお聞きします.マニュアルはわかりやすかったですか?
b. ややわかりやすい

Q7. 6の理由を聞かせてください.
インストラクションは少し不明確だった。それぞれのステップを採用する理由が記載されているとわかりやすいかも。例えば、なぜ酵母を追加する必要があるのか、あるいは、なぜ、砂糖を大量に入れる必要があるのか、あるいは、砂糖の前にワイン酵母を入れる必要があるのか?などなど。著作権問題が心配かもしれないけど、YoutubeでWanicをどうやって作るかという説明ビデオがあるともっといいかも。

Q8. wanicを作ることで収入が上がある場合,今後も作りたいと思いますか?

a. とても

Q9. キットに何かあると便利なものがあればお聞かせください。
最初に指摘したけど、東ティモールでどうやってWanicを作るためのツールキットを手に入れるかを考えなければならない*1。また、Wanicを作る前に、WanicのUS15$というコストも適切かどうか疑わしい。東ティモールにはたくさんココナッツがあるし、ブドウはこの国では手に入れられないからワインの価格とも違ってくるでしょう。8-10$の価格がリーズナブルだと思う。ボトルでの販売は考えている?

*1 送られてきたツールが既製品であったと彼女が思い込んでいたのではないかとと推測しています。

飲んだ人 – Korean, Female

1. また飲みたいですか?
a. とても飲みたい

Q2. Q1を選択した理由をお聞かせください.
味は好きだし、韓国人にとってはもちろんエキゾチックな味だね。私たちの国にはココナッツはないし、ビーチで午後に飲みたい。

Q3.味について.どういう味がしましたか?記述してください.
最初のものは少し甘くて、ココナッツジュースや甘いカクテルみたいな味がした。

Q4. wanicをどのようにして飲みましたか?(複数回答可)
b. 冷やして (on the rock! )

Q7. Q4の価格は1杯いくらが妥当だと思いますか?(複数回答可)
このワインを作る時のコスト(ココナッツの値段など)や他のアルコールの価格次第だけど、グラスで3$くらいかな。ホテルやレストランでって場合だけど。ココナッツ1つ分、つまりボトルワインと同じくらいってことだけど、10$くらいかな。

Q8. ホテルやレストランでwanicが売られていたら飲んでみたいと思いますか?
a. とても

Q9. 外観について.外観は魅力的ですか?
b. やや魅力的 (すてきなワインボトルでもココナッツの形のボトルでもいいかな。

第2回現地テストの結果、ツールキット、マニュアルに対する幾つかの改良点が導き出されました。第1に、カップの追加です。「作るヒト」の行った実験から、砂糖300gを直接ココナッツの中で溶解させるプロセスは確かに可能ではあるものの、非常に煩雑であるとの感想を抱いていたわかりました。この問題は、「作るヒト」からのフィードバックにて指摘されていたように、一旦ココナッツジュースを取り出し、砂糖を溶かすことが可能なサイズのカップを、ツールキットと同じ素材で制作し、キットへ導入することによって解決が可能と考えられます。第2に、フィルタの追加です。第2回現地テストで利用したフィルタは、暫定的に既存の茶こしを利用していました。この茶こしに変わるツールを新たにデザインする必要があります。第3に、マニュアルの改善です。「作るヒト」からマニュアルの不明瞭さについての指摘がありました。特に酵母と砂糖を追加するプロセスについて、ステップ数を増やし、曖昧さを排除する必要があります。

普及モデル ver.1.1

第2回現地テストの結果をもとに、Wanic Toolkitの普及モデル(ver.1.1)を開発しました(図5)。前回のバージョンから普及モデル(ver.1.1)への大きな変更点として、スタッキングおよび補糖用砂糖の事前溶解を目的としたカップを導入しました。以下では、具体的な構成とWanicの製造プロセスについて説明いたします。



図5:Wanic Toolkit 普及モデル ver.1.1

普及モデル(ver.1.0)は8つのパーツで構成されています。8つのパーツは、発酵栓、発酵栓の上蓋、サーブ栓x2、カップ、フィルター、穴あけ具、繊維除去スティックです。サーブ栓、カップ、フィルター、繊維除去スティックの4つのパーツが新たに追加されました。まず、サーブ栓は、1つをココヤシに取り付け、間にフィルタを挟み、その上から再度サーブ栓を取り付けます。これにより、Wanicをサーブする際にココヤシの実の底部に沈殿したオリのグラスへの流れ込みを防止できます。繊維除去スティックは、ハンドル天頂部にある穴より挿し込むことで、穴あけ時にパイプの内側に混入した繊維を取り除くことができます。さらに、先端部から差し込むことで刃による怪我を防止できます。

上記の8つのツールを用いたWanicの製造プロセスを、従来の6ステップから12ステップへと変更しました。ステップ数が増えることによる工程の複雑化と、味の安定性のトレードオフを考慮し、最終的にステップ数を増やす決定を下しました。

図5. Wanic Toolkitを用いたココナッツワイン(Wanic)作りのプロセス(ver1.1)

1. 穴あけ
貫通するまで回しながら押しこみます。実に穴が開いたら注ぎ口を差し込みます。

2. ジュースの取り出し
ココナッツジュースを発酵栓の蓋とカップに注ぎます。

3. 予備発酵
カップに注いだジュースに酵母(1g)をふりかけ、15分待ちます。

4. 補糖
砂糖300gを2~3回に分けて入れます。1回ごとにステップ4,5を繰り返します。

5. 攪拌
注ぎ口にコルク栓をして、よく振って砂糖とジュースを混ぜます。

6. 酵母入りジュースの投入
コルク栓を抜き、ステップ3で作っておいた酵母入りジュースをココナッツに戻します。

7. 攪拌
もう一度コルク栓に差し替えて、よく振って混ぜます。

8. 空気の遮断
発酵栓をさし、ステップ2で蓋に注いだジュースを発酵栓内部に移します。

9. 発酵
蓋をして発酵開始です。温度を20度くらいに保ち、5日間程度待ちます。

10. 保存
発酵が終わったらコルク栓に差し替えて、Wanicの完成です。

11. フィルタの取り付け
サーブする時は注ぎ口を2個使います。2つの注ぎ口の間にWanicで湿らせたフィルタをギュッと挟んで実に差し込みます。

12. さあ、どうぞ!

以上、第2回現地テストの結果を元に改良を施したWanic Toolkitの普及モデル(ver.1.1)とツールキットを用いたWanicの製造プロセスについて説明をしてきました。しかしながら、現行バージョンにおいてもブラッシュアップの可能性は多分に残されています。以下では、次に取り組むべき主な課題について触れておきます。

まず、科学的手法を用いて成分分析を行う必要があります。成分分析は2種類、すなわち、原料となるココナッツジュースと発酵後のWanicの両者について行う必要があります。ココナッツジュースについては、栄養素、糖度を分析する必要があります。これは、アルコール発酵を正確に行うにあたって、適切な補糖量を確定するだけではなく、アルコール発酵によって失われる栄養分を同定することを目的としています。また、Wanicについては、アルコール濃度、糖分、エキス分、酸含量を分析する必要があります。これはアルコール発酵プロセスの精緻化を目的としているだけではなく、味のブラッシュアップ、ならびに、ブランディングを考えるにあたり欠かせないプロセスと考えられます。

次に、酵母の選定を行う必要があります。現在の日本の法律では、酒造免許がない場合、国内で清酒酵母を取得することはできません。したがって、我々の場合、国内酒造メーカー、もしくは、展開先の現地酒造メーカーと協業することによって、適切な酵母を選定することが不可欠となります。展開先の国の気候・風土、さらには、現地人の味覚などの環境に合わせた酵母を選定・培養した上で、Wanicに利用していくという観点からすれば、前述の成分分析の結果から得られるデータを基礎的土台として、現地でアプリケーションとしての味の最終的なカスタマイズを行うことは必然と考えられ、現地での酒造りのパートナーの確定は急務であると考えています。

まとめ

今回は、第1回現地テストの結果を受けてデザインした普及モデル(ver.1.0)、東ティモールにてWanic Toolkitを用いてWanicを作るヒト、および、飲むヒト向けに実施された第2回現地テスト、さらには第2回現地テストをもとに改良した普及モデル(ver.1.1)とその製造プロセスについて説明しました。

次回は、Wanic ToolkitとWanicを用いたビジネスモデルについて説明します。

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実践 – 東ティモールへの第2回フィールドワーク

前回より、ソーシャルイノベーションのための構造構成主義的プロダクトデザイン手法の実践について紹介をしています。前回は、実践の第2回として、私の参加した米国NPOコペルニク主催のSee-D Contestのプログラムである東ティモールへのフィールドワークのうち、ボボナロ県への第1回フィールドワークを題材に、「フィールドの概念抽出および現象マッピング」「ソリューションモデルの構築」のプロセスについて説明をいたしました。

今回は、構造構成主義的プロダクトデザイン手法の実践の第3回として、ラウテム県ロスパロス地区への第2回フィールドワークを題材に、「フィールドの概念抽出および現象マッピング」「ソリューションモデルの再構築」「プロジェクトの関心モデルの構築」のプロセスについて説明をいたします。

第2回フィールドワーク

第2回フィールドワークは、2010年8月26日-9/4日の期間にて行われました。第2回フィールドワークのエリアは、海岸エリアのロスパロス地区[1]にて行われました。ロスパロス地区は、ラウテム県[2]の一地区で、首都ディリから東に248kmに位置し、地区の人口は2万5417人(2004年)です。以下では、まず第2回フィールドワークのスケジュールについて説明したいと思います。

[1] ロスパロス地区

[2] ラウテム県

図1. ロスパロス地区

図2. ラウテム県

8月26日-28日
第2回フィールドワークの前半は、See-D代表の方により、ディリを中心に様々な団体に対してインタビューが行われました。26日にIFC(国際金融公社)、WB(世界銀行)、UNDP(国連開発計画)、具体的には、27日に、APHEDA(Australian People for Health, Education and Development Abroad。オーストラリアの労働組合が母体の国際NGO)、CCITL(Chamber of Commerce and Industry Timor-Leste)、Moris Rasik(東ティモール最大のマイクロファイナンス機関)、HARBIRAS(東ティモールの環境NGO)、PDT(Peace Dividend Trust。東ティモール産の製品を買うことを推進しているNGO団体)、UNICEF、28日にAFMET(東ティモール医療友の会)に対してインタビューが行われました。

8月30日-9月4日
第2回フィールドワークの後半は、ワークショップ参加者により、ロスパロス地方にてフィールドワークが行われました。第1回に私たちが訪問した東ティモール大学工学部のProf.Marfimが案内者となって、Pitileti村を訪問し、観察やインタビューを行いました。

第2回フィールドワークについても、第1回フィールドワークと同様に2つの制約 – 調査場所の制約と言語の制約 – が存在しました。さらに、第2回フィールドワークでは、第3の制約が存在しました。この第3の制約とは、参加者の制約です。第1回フィールドワークでは、私自身が参加したため、自分で観察を行い、インタビューを実施することができました。しかしながら、第2回フィールドワークでは、筆者の所属したチームの別のデザイナによって、調査が行われました。当該デザイナは、チームの各メンバが関心相関的に設定した調査項目およびインタビュー項目に基づいてフィールドワークを行うよう依頼されていました。

以下に、第2回フィールドワークのために私が用意した関心相関的調査項目およびインタビュー項目(表1)と、フィールドノートの抜粋(表2)を示します。表2は、実際には、元コンサルタントの方が作成したインタビューレポートです。要点がわかりやすくまとまっており、現象マップを構築する際にも非常に役立ちました。

表1. 関心相関的調査・インタビュー項目

調査テーマ:現金収入のための手工芸
調査の視点:現金収入を獲得するための家庭内手工芸は成立するか?

1. 調査項目:容器・かご

1.1 調査方法
インタビュー,観察

1.2情報源
住民,バザールの出店者

1.3 撮影してきていただきたいもの
かご,容器,その他馬にモノを運ばせるときに使う道具

1.4 インタビュー内容

– 容器一般
Q1. 農作物,商品を何に入れて運んでいるのか?
Q2. (Q1の答えを聞いて)なぜそれを使っているのか?

– 制作経験
Q3. 竹やバナナの葉などを使ってかごを編んだ経験はあるか?
Q4. (Q3でYesの場合) それらを売ったことはあるか? またいくらで売れたか?
Q5. (Q4でYesの場合) 家庭内でモノを作る時間はあるか?また誰の手が空いているか?

2. 調査項目:家

2.1 調査方法
インタビュー,観察

2.2 情報源
住民

2.3 撮影してきていただきたいもの
家の建材,屋根

2.4 インタビュー内容

– 家を立てる人
Q1. 誰が家を建てるのか(大工or自分たち)?
Q2. (Q1で自分たちの場合)なぜ自分たちで作るのか?
Q3. (Q1で自分たちの場合)家を作る方法は誰から習うのか?
Q4. (家を作る)大工という職業は存在するのか?
Q5. (Q4でYesの場合)大工に依頼することと自分たちで家を作ることはどちらが好まれるか?

– 建材
Q6. 家の建材は主に何を使っているのか?
Q7. (Q1で自分たちの場合)家の建材はどこで手にいれているのか?
Q8. (屋根にトタンを使っている場合)なぜ屋根にトタンを使うのか?

表2. フィールドノーツ(抜粋)

Title: PDTミーティング
Interviewee: Ilidio Ximenes da Costa (Vice Director matchmaking & public relation) Eduardo da Costa(TDS Associate)
Interviewer: xxxx, xxxx
Date: 8/27/2010

Summary:
PDT(Peace Dividend Trust)は東ティモール産の製品を買うことを推進しているNGO団体。外資企業に地元企業を紹介し、パートナーシップを組んだり、地元企業からの購買を促進することで、産業育成を図ることをミッションとしている。地元企業を紹介するのが仕事なので、パートナー探しの時にはぜひ利用してほしい。ウェブサイトに企業の一覧も載せている[3]。
地方での問題は「マーケット情報の不足」「道路インフラの不足」「スキル不足」の三点。政府の地元作物の買い上げ政策もかえって市場をゆがめて問題を起こしている。

Detail:
PDT(Peace Dividend Trust)は東ティモール産の製品を買うことを推進しているNGO団体。外資企業に地元企業を紹介し、パートナーシップを組んだり、地元企業からの購買を促進することで、産業育成を図ることをミッションとしている。地元企業を紹介するのが仕事なので、パートナー探しの時にはぜひ利用してほしい。ウェブサイトに企業の一覧も載せている[3]。
– 現在、PDTは6つの県に支部を設けている。Lautem県のロスパロスにもある。
– PDTはCCITLや政府とも協力しながら、海外企業へ地元企業の仲介を行っている。すべて無料なのでぜひ利用してほしい。

地方での問題は「マーケット情報の不足」「道路インフラの不足」「スキル不足」の3点。政府の地元作物の買い上げ政策もかえって市場をゆがめて問題を起こしている。
– 地元で作物が採れたり製品を作っても、どこに行って誰に売れば良いのかわからない。情報の不足が大きな問題。PDTはこのMissing linkをつなげることでこれまで$9MM以上のビジネスを実現させた。
– 道路インフラの不足も大きな問題。モノが地方で手に入らないため、メンテナンスはすべてディリに行かないとできないのだ。水・衛生関連の製品にしても、土木事業の道具にしても、ディリまで行かないと手に入らない。地元ではメンテナンスできない。
– 人々のスキル不足も大きな課題。せっかく地元の会社が機械を持ってもどうやって使うのか、どうメンテするのか、どこから部品を調達するのかがわからないので、使われないことも多い。一般的なビジネススキル(帳簿のつけ方など)がないことも問題だ。NGOなどは数ヶ月のプロジェクトのみで帰ってしまう。そのような短期間ではCapacity building(能力開発)はできない。
– 人々のメンタリティーも問題。多くの援助が続き、人々が援助・政府などの公共機関に頼る癖がついてしまった。
– 政府の「People plan, government buy」政策はかえって市場をゆがめている。政府が突然、高い価格で農作物を買い始めたために、地元の買い付け業者が軒並み倒産した。それによって失業率が上がっている。
– 一方で、政府は高く買い付けた作物をそのまま高い価格で売っているため、売れずに多くが倉庫に残っている。保存方法が悪く、作物の質が悪くなってしまうのもその原因。政府はものの売り方を知らない。

[3] Peace Dividend Trust

フィールドの概念抽出および現象マッピング

さて、第2回フィールドワークからの帰国後、共有されたフィールドノーツをもとに、東ティモールにおける現象マップを作成しました(図3)。各現象をもとに概念化を行った結果、「健康上の問題」「低い公衆衛生観念」「原始的な家の構造」「家族中心の文化」「保守的な姿勢」「人々のスキル不足」「国民の依存体質」「政府の関心」「少ない産業」「新たな特産品」「保管・運搬用の容器」「ディリと地方の格差」「道路インフラ不足」「水質問題」「雨季と乾季の差」「少ない娯楽」の16概念が抽出されました。さらにこれらの概念をもとにカテゴリ化を行ったところ、「衛生」「価値観」「産業」「保管・運搬」「気候/風土」の5カテゴリが抽出されました。。これらの概念を用いてソリューションモデル(ver1.1)を構築します。

図3: 第2回フィールドワークに基づく東ティモールの現象マップ(ver1.1)

なお、第2回フィールドワークの結果、ロスパロス地区では、ココヤシを用いて容器やカゴを作る技術が一般的に普及していることがわかりました。さらに、すでに技術が普及しているにも関わらず、現金収入向上に貢献できていないことがわかりました。したがって、ソリューションモデル(ver.1.0)において構築した仮説はデザイナの設定した目的としての現金収入向上に照らし合わせた結果、妥当性に欠けることがわかりました。この点を踏まえ、第2回フィールドワークの結果得られた概念を用いてソリューションモデル(ver.1.1)を構築するにあたって、別の仮説を構築する必要があります。

ソリューションモデルの再構築

第2回フィールドワーク終了後、チームで情報共有およびブレインストーミングを行い、解決すべき課題を設定し、課題に対するソリューションを決定しました。この課題とソリューションは、第2回フィールドワークを通じて制作・共有されたフィールドノーツに基づく現象マップをもとに構築されたソリューションモデル(ver.1.1)を用いて説明可能です。

図4:第2回フィールドワークに基づくソリューションモデル(ver.1.1)

まず、解決すべき問題として、「少ない現金収入」、そして、問題の原因をモデル(ver.1.0)から継承しました。この問題に対する解決手段として、ココヤシを用いた酒作りのためのツールキットを仮説として新たに設定しました。

すでにココヤシを原料とする酒として、樹液を自然発酵させて作るトゥアック(Tuak)はPalm wine[4]として、東南アジアにおいて広く普及しています 。また、Tuakを蒸留させたアラック(Arrack)も同様に普及しています 。さらに、ココヤシは酵母の原料や砂糖の原料として現地で利用されています。これらの2つの現象を踏まえた場合、本仮説は、保守的な姿勢をもつ現地人の関心と矛盾しません。また、家族中心の文化のもとで様々な催事が行われており、このような場ではすでにお酒を飲む習慣は確立しています。より美味しい酒を提供する本仮説は、現地人の関心と矛盾しません。

[4] Palm wine

このような仮説を通じて直接的に解決可能な現象について説明します。まず、簡単に楽しくお酒を作れるキットを構築することで、強い依存体質の国民性であっても酒作りという楽しさを含む仕事であれば従事する可能性が高いと考えました。また、段階的なスキル伝達プログラムを同時に提供することで、スキル不足の現地人にとってもお酒作りに必要なノウハウを獲得できます。さらに、酒作りには発酵や蒸留のプロセスで衛生に関する知識が求められます。お酒作りを通じてこれらのノウハウを伝達することで、低い公衆衛生観念を払拭させ、健康上の問題も解決可能となると考えられます。また、作られたお酒は産業の少ない東ティモールの新たな特産品となる可能性も高いでしょう。しかしながら、地形の複雑さ、非効率な運搬方法、原始的な運搬システム、ディリと地方の格差、保管・運搬用の容器といった現象はデザイン上の制約として存在します。これらはツールキットのデザインだけではなく、ビジネスモデルのデザインを行う過程で何らかの解決策を提示する必要があります。

ココヤシに注目した契機については、 チームのメンバがブレインストーミングの場にココヤシを持ち込んだことが大きいと言えます。フィールドノーツの情報を整理した結果、ココヤシは、以下の3つのメリットを持つことがわかりました。

第1のメリットは、豊富な資源です。ココヤシは、現地では道端で1ドル程度にて観光客に販売されているだけではなく、ほとんど売れ残っているほど豊富に存在します。したがって、安価で大量に仕入れ可能です。

第2にのメリットは、良質な水分です。一般的に酒を製造する場合、良質な水が必要となります。良質な水が確保できるならば、ボボナロ県ではキャッサバが多く生産されていたことを踏まえると、キャッサバを使った焼酎の生産も可能でしょう。しかしながら、ロスパロス地区のある村で採取した水の硬度は200を越えており、石灰質を多く含むことがわかりました。この硬度は、人体に影響を及ぼほど高いため、採取された水をそのまま利用することができません。一方で、ココヤシの実の内部には、滅菌され、かつ、糖分を含んだ水分(ココナッツジュース)を含んでいることから、これを酒作りに利用可能できます。

第3のメリットは、耐久性の高い容器です。従来のTuakは、雑菌や空気の混入、あるいは、気温の変化により味が劣化し、長期間の保存に耐えないという問題を孕んでいます。これに対してココヤシの実は、耐久性・密閉性が高く、保存容器として利用可能です。

デザイナの関心モデルからチームの関心モデルへ

第2回フィールドワーク後のチームとしてのデザイナの関心モデル(ver1.1)は図5のように修正されました。各デザイナの関心として「現金収入獲得」「人材育成」「公衆衛生」「資源の最大活用」が立ち現れました。これらの関心を満たすソリューションとして、ココヤシを用いたお酒作りキットという仮説が立ち現れました。現金収入獲得という関心はデザイナ(筆者)の関心(ver.1.0)から継承した関心ですが、それ以外の関心は、ブレインストーミングを通じて、チームの各メンバに立ち現れたものです。

図5:第2回フィールドワーク後のチームの関心モデル(ver1.1)

まとめ

今回は、構造構成主義的プロダクトデザイン手法の実践の第3回として、ラウテム県ロスパロス地区への第2回フィールドワークを題材に、「フィールドの概念抽出および現象マッピング」「ソリューションモデルの再構築」「プロジェクトの関心モデルの構築」のプロセスについて説明しました。

構造構成主義的プロダクトデザイン手法は、フィールドの複雑性の構造的な理解、ならびに、デザイナとユーザとしての現地人の信念対立の解消を実現することを目的とし、「デザイナの関心モデルの構築」、「フィールにおける概念抽出および現象マッピング」、「ソリューションモデルの構築」という3つのステップを通じて、BOPにおける創造的な問題発見/設定だけではなく、創造的な問題解決方法までを同時に担保する非常に強力なデザインツールです。本手法の強みは、Ideationプロセスに存在し、すでに第18回において、本手法の限界として触れたように、仮説構築から問題解決まで、本手法は、特長的なツールを提供していません。

次回より、ソリューションモデル構築以後の「プロトタイピングと現地テスト」として、コンセプトモデル、第1回ユーザテストついて述べます。なお、「プロトタイピングと現地テスト」のステップでは、構造構成主義的インタビュー設計法以外、本デザイン手法を用いていません。しかしながら、仮説構築から問題解決までのプロセスにおいて、プロトタイピングと現地テストの重要性を強調するために、掲載することとしました。

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実践 – 東ティモールへの第1回フィールドワーク

前回より、ソーシャルイノベーションのための構造構成主義的プロダクトデザイン手法の実践について紹介をしています。前回は、実践の第1回として、私の参加した米国NPOコペルニク主催の、途上国の課題を解決するプロダクトを開発することを目的としたSee-D Contestのプログラムである東ティモールへのフィールドワークを題材に、事前調査からデザイナの関心モデルの構築、そして、インタビュー項目決定までの流れを説明したしました。

今回は、私自身が参加したボボナロ県への第1回フィールドワークを題材に、「フィールドの概念抽出および現象マッピング」「ソリューションモデルの構築」のプロセスについて説明をいたします。

第1回フィールドワーク

第1回フィールドワークは、2010年8月12-15日の期間にて行われました。第1回フィールドワークのエリアは山岳地帯のボボナロ県[1]でした。ボボナロ県は、東ティモールにある13県のうちの一つで、人口は9万3787人(2008年)、6つの地区(アタバエ、バリボー、ボボナロ、カイラコ、ロロトイ、マリアナ)が存在します。第1回のフィールドワークでは、ボボナロ地区(図1)とマリアナ地区(図2)を訪問しました。以下では、まず第1回フィールドワークのスケジュールについて説明したいと思います。

[1] ボボナロ県

 

図1. ボボナロ地区

図2. マリアナ地区

8月12日

早朝にインドネシア・バリのホテルに集合後、デンパサール空港へ移動し、東ティモール行きのフライトに搭乗いたしました。デンパサール空港からディリ国際空港までは約2時間。現地には13時頃到着いたしました。到着時の気温は28℃、湿度75%とかなり蒸し暑かったのですが、マラリア対策のため長袖は欠かせません。世界銀行勤務の現地コーディネーターとおちあい、レンタカーと携帯電話を借りた後、スーパーへ立ち寄り、水や蚊帳等を買い出しました。ディリ市内の食堂で昼食後、山中を移動し、17時ごろ東ティモール大学工学部へ到着。日本にも留学経験のあるProf. Marphinに構内を案内していただきました。ここには日本のNGOなどから寄付された多くの工作機械(写真01)がありました。日没後、ボボナロ地区へ向けて出発したのですが、途中の山中で豪雨に遭遇し、予定よりもかなり遅れて22時半頃ようやくマリアナ地区へ到着し、急遽コーディネータの親戚の家に宿泊しました。この家庭は父親(コーディネータの叔父)がNGOに勤務していることから比較的裕福で、電気も引いてあり、子供らはPS2で遊んでいました。とはいえ、家そのものの構造は非常にシンプルで、屋根はトタンで壁はブロックでした。

写真01. 東ティモール大学工学部

8月13日

庭で放し飼いされている闘鶏用の雄鶏が夜中叫びっぱなしで夜明けに目が覚めました。朝食を頂いたのち、コーディネータの叔父にインタビューを行いました。その後、別のNGO職員の方が来訪され、インタビューを行いました。昼前に親戚の家を離れ、途中でガソリンを入れた後、ボボナロ地区へ向かいました。ボボナロに到着後、食堂で昼食を採り、14時頃から、医療センターにて現地の医師にインタビューを行いました。東ティモールに居る医者の多くはキューバより派遣されてきた医者が多いそうです。15時過ぎから、ボボナロ地区の行政区オフィスにて、行政長官(写真02)にインタビューを行いました。インタビュー終了後、17時頃から中心街を散策し、18時頃にはコーディネータのボボナロの親戚の家に到着し、夕食を頂きました。マリアナ地区と比べてボボナロ地区/ボボナロは、無電化の状態に近く、ソーラーランタンの明るさ以外はほぼ闇でした。無電化の状態では、180度近くまで星で敷き詰められた夜空を見渡すことができました。

写真02.行政長官

8月14日

寝泊まりしていた家はトタン屋根のため放射冷却がひどく、早朝あまりの寒さに目が冷めました。気温も確認したところ室温が19℃程度まで下がっていました。この日は、月に1度のバザールの日ということで、6時頃から10時頃まで道の左右に延々と簡易的な店がオープンしていました。周辺の村から来た店は80店舗、お客さんは1000人以上はいたようです(写真03)。バザールの後、市内の外れにある最低所得エリアと呼ばれている場所に移動し、そこに住む家族にインタビューを行いました。旧日本軍はこのエリアまで来ていたらしく、彼らが使っていた貯水漕を見せてくれました。その後、コーディネータの親戚の家で昼食を頂き、隣のグマ村へ移動しました。グマ村は70家庭程度の小さな村落で、村長はコーディネータの親戚でした。村長へのインタビューを行ったのち、いくつかの民家へ移動し、村の人々へインタビューを行ったり、畑や家畜を見せてもらったりしました。村の集会場をベースに活動していたのですが、村のこどもたちが物珍しさか全員集まってきました。お土産代わりに持参したポラロイドで撮影したり、折り紙で遊んだりしました。

写真03.バザールに集まった人

8月15日

4時頃起床し、片付けを行った後、車にてディリへ向かいました。往路は深夜かつ豪雨でしたが、復路は快晴で、綺麗な景色を眺めながらの快適なドライブでした。ディリにて少し時間の余裕があったためホテルに立ち寄り3日ぶりにビールを飲みました。フライトは14時の予定でしたが、デンパサールからの到着が遅れており、いつ出発できるかわからないと言われました。ちなみに遅延に関する構内アナウンスなどはなく、ブラウン管のディスプレイに一応delayと表示されているのみでした。空港には野良無線があったので、ちゃっかりtweetしておきました。仕方がないので、海岸近くでランチを取り、ビーチでしばらくのんびりして、最終的に現地時間で21時頃ようやく出国することができました。

写真04.東ティモール国際空港

第1回フィールドワークには、2つの制約が存在しました。第1に、調査場所の制約が挙げられます。調査場所は、東ティモールのマリアナ地区、ボボナロ地区、グマ村の3つの山岳エリアであり)、この3エリアにおいて、村人、NGO職員、行政地区長などに対してインタビューを行いました。これらは私が関心相関的にサンプリングした場所と人ではなく、ワークショップ主催者や現地コーディネータが関心相関的にサンプリングした対象です。第2に、言語の制約が挙げられます。これらの3エリアに住む人々は、日常生活では、テトゥン語、もしくは、ボボナロ語を用いています。したがって、インタビュイーはテトゥン語、もしくは、ボボナロ語での回答を行います。インタビュアー兼通訳は、私らが英語にて伝えたインタビュー項目を現地語に翻訳し、質問を行いました。また、質問内容に関するインタビュイーからの回答についても、通訳を介して現地語から英語に翻訳してもらった上で、私たちに伝えられる必要がありました。

このような制約条件は、コンテストのプログラムの性質上避けては通れない制約といえます。しかしながら、前者については、一人で自由に行うフィールドワーク以外には避けて通れない制約です。また、後者については、途上国の多くの地域では、英語が通じる場合は少なく、インタビューにおいて、通訳の意図が少なからず介入することはインタビュアーである我々が考慮に入れておかなければなりません。その上で、質問内容を工夫する必要があります。同時に、インタビューに依存しない注意深い観察も生活習慣や価値観を理解する上では欠かせないプロセスと言えるでしょう。

以下に、第1回フィールドワークのために用意した関心相関的インタビュー項目(表1)と、フィールドノートの抜粋(表2)を示します。フィールドノートについては、なるべくインタビューの直後、遅くとも同日中に、記憶が鮮明な状態でまとめることが重要です。ここでは気づき(分析)は必要なく、あくまで収集したデータを綿密にまとめることを心がけましょう。また、フィールドで得た統計データ、インタビューイーの意見、インタビュアーの意見、観察項目を区別して記述することが望ましいです。ボイスレコーダも、インタビュー用と、自分の意見用に2つ用意するとテクスト化の際に区分しやすいでしょう。また、フィールドノーツには適宜、関連する写真を追加することで、記憶のオフロードに役立てることができるでしょう[2]。なお、今回のフィールドワークでは、私は、フィールドノーツの作成にiPadを利用しました。これは、軽量かつ長時間の駆動が可能であるためです。

[2] 東ティモールでの写真

表1. 関心相関的インタビュー項目

生活について

  • お金を稼ぐ手段は何ですか?
  • 農業の場合、何をつくっていますか?
  • 農業の場合、なぜそれを作っていますか?
  • (それ以外) なぜそれを選択しましたか?
  • 教育は何年間受けましたか,それはどういう内容でしたか?
  • 何が豊富にありますか?
  • 現在使っているテクノロジーについて教えて下さい。
  • システムについて

  • 家族制度について何か特徴的なことがあれば教えて下さい。
  • 村の制度について何か特徴的なことがあれば教えて下さい。
  • 身分制度について何か特徴的なことがあれば教えて下さい。
  • 運搬システムはどのようなものがありますか?
  • 移動システムはどのようなものがありますか?
  • 価値感について

  • あなたにとって大切なものは?
  • あなたが楽しいと思うことは何ですか?
  • あなたがつらいと思うことは何ですか?
  • 将来何をしたいですか?
  • 今の生活に満足していますか?
  • 表2. フィールドノーツ(抜粋)

    日時:8月12日マリアナ地区
    インタビュイー:コーディネータの叔父

    — 現金収入について(抜粋)

    Q. どうやって穀物を売っているのか?
    商品は、ボボナロだと、ナッツ、ポテトがメインで、マリワナだと米、コーンがメイン。
    NGOが買い手で、コンタクトをとると回収にきてくれる。
    NGOはそれをさらにイナカの農村に配布する。
    会社が買ってくれる場合もある。

    Q. その他の現金獲得手段は?
    NGOで働く。
    動物を売る。

    Q. 現金を何に使うか?
    1. 家族
    結婚や葬式。
    家族はextended familyで非常に大きく、家族内で現金の移動がある。
    動物を買う。

    2. 教育
    高校まで学校は無料、ただし公立のみ。
    公立のレベルは高くなく、私立が高い。
    買うのは、ユニフォーム、靴、教科書、ノート、鉛筆。
    ただし図書館はない。
    教科書は学校が一括して購入し、学校がこどもらに販売する。
    教科書自体はすごく薄い。
    小学校1-2年性、3-5月で20ページくらい。
    言語はポルトガル語とテトゥン語。

    言語は結構大きな問題になっている。
    先進国のNGOは英語。
    公的機関はポルトガル語。
    家庭はテトゥン語。
    # identity問題が生じる
    英語は中学校から。英語を学ぶとNGO関係の仕事につける。

    フィールドの概念抽出および現象マッピング

    さて、第1回フィールドワークからの帰国後、フィールドノーツをもとに、東ティモールにおける現象マップを作成しました(図3)。各現象をもとに概念化を行った結果、「健康上の問題」「低い公衆衛生観念」「原始的な燃料」「原始的な家の構造」「保守的な農業への姿勢」「豊富な作物」「家族中心の文化」「少ない産業」「少ない現金収入」「非効率な運搬方法」「原始的な運搬システム」「雨季と乾季の差」「地形の複雑さ」「教育の格差」「低い教育水準」「少ない娯楽」の16概念が抽出されました。さらに、これらの概念をもとにカテゴリ化を行った結果、「衛生」「住居」「農業」「価値観」「産業/仕事」「運搬」「気候/風土」「教育」の8カテゴリが抽出されました。これらの概念を用いてソリューションモデル(ver1.0)を構築します。

    図3. 第1回フィールドワークに基づく東ティモールの現象マップ
    各現象から抽出された概念と、概念同士をまとめるカテゴリを用いて、現象マップを作成します。なお、各概念に連なる現象のうち、四角で囲んだものはインタビューに対する回答を指し、囲まれていないものは観察に基づくコメントを指します。

    ソリューションモデルの構築

    第1回フィールドワークを通じて制作されたフィールドノーツから、概念抽出および現象マップを構築するプロセスで得られた概念をもとに、ソリューションモデル(ver.1.0)を構築しました(図4)。まず、解決すべき問題として、デザイナの関心モデルとフィールドにおける現象を踏まえ、関心相関的に「少ない現金収入」に着目しました。そのための解決手段として、「現地に豊富に存在する作物を用いた現金収入獲得のための手工芸」を仮説として設定しました。具体的には、家内制手工業として、現地に豊富に存在する竹やバナナを用いて、容器・カゴ、家の建材を制作します。本仮説は、家内制手工業を前提とし、家族で取り組むことができるため、家族中心の文化という彼らの関心と矛盾しません。また、本仮説は、農作業の方法それ自体を根本的に変化させるプロダクトではないため、保守的な農業への姿勢をもつ彼らの関心と矛盾しません。

    図4. 第1回フィールドワークに基づくソリューションモデル
    ソリューションモデル(ver.1.0)は、私が単独で構築したモデルにすぎず、あくまでフィールドワーク後に私の所属するチームにおける1つの仮説に過ぎません。

    このような仮説は、立ち現れた概念に含まれる課題としての現象を、直接的ないし間接的に解決可能であることが望ましいといえます。例えば、容器・カゴを作ることで、「非効率な運搬方法」を解決でき、「原始的な運搬システム」の改善にもつながります。また、家の建材を製造することで、「原始的な家の構造」を解決でき、健康上の問題解決にもつながります。一方、間接的に解決が可能な現象として、現金収入向上により、教育への再投資が可能となることから、「教育の格差」、「低い教育水準」が解決できます。また、TVや本などに対する投資が可能となることから、「少ない娯楽」を解消できます。さらに、「雨季と乾季の差」に注目した場合、雨季には通常の農作業ができないという課題を踏まえた上で、手工芸を行う期間を雨季の期間で重点的に分布させることで、多角的な収入獲得手段の確保が可能となるでしょう。

    なお、ソリューションそれ自体をフィールドワークで得た現象だけを用いて構築しようとすると、得てして卑近なコンセプトを構築してしまいがちです。それは、何をデザインするか(対象)までは特定できても、どのようにデザインするか、といったレベルのアイディアをフィールドワークに求めてしまった場合に必ず起きる現象です。このような現象を避けるためには、アプローチについて創造のジャンプを施す必要があります。創造プロセスにおけるジャンプについては、ジェームス・W・ヤングの『アイディアの作り方』に代表されるアイディアの組み合わせ、多様性を確保したチームによってなされるブレインストーミング、さらには、天才のひらめきに依存するジーニアスデザインなど様々ですが、デザイナの関心モデルを構築する過程で構造化された自身の技術的、思想的な関心とフィールドワークで得られた概念を活用してコンセプトを構築することが重要であると考えられます。

    まとめ

    今回は、構造構成主義的プロダクトデザイン手法の実践の第2回として、私自身が参加したボボナロ県への第1回フィールドワークを題材に、「フィールドの概念抽出および現象マッピング」「ソリューションモデルの構築」のプロセスについて説明をいたしました。

    次回は、ラウテム県ロスパロス地区への第2回フィールドワークを題材に、「フィールドの概念抽出および現象マッピング」「ソリューションモデルの再構築」「プロジェクトの関心モデルの構築」のプロセスについて説明をいたします。第2回フィールドワークでは、第1回フィールドワークをもとに構築した仮説をもとに関心相関的に構築したインタビュー項目を用いてインタビューを行うことになります。この段階では、何をデザインするかというデザイン対象の検証を行うことを目的としています。

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    実践 – 事前調査とデザイナの関心モデル構築

    前回は、ソーシャルイノベーションのための構造構成主義的プロダクトデザイン手法を紹介するにあたって、BOPのフィールドに既存のデザイン手法を適用する際の問題点を改めて説明したのち、実際のデザイン手法として、「デザイナの関心モデル構築」「フィールドの概念抽出および現象マッピング」「ソリューションモデルの構築」の3つのデザインプロセスについて、構造構成主義、および、SCQRMとの関連性を踏まえつつ、説明をいたしました。

    今回より6回に渡って、構造構成主義的プロダクトデザイン手法の実践として、東ティモールで実施したフィールドワークをケーススタディとして,デザインプロセスの詳細を説明します。

    具体的な流れとして、まず、フィールドワーク前に事前調査を行い、この調査結果に基づいてデザイナの関心モデルを構築いたしました(第19回)。そして、デザイナの関心モデルに基づいて関心相関的に調査項目を決定し、第1回フィールドワークに参加し、データを持ち帰り、現象マップおよびソリューションモデルを構築いたしました(第20回)。ソリューションモデルの構築プロセスを通じて導きだされた仮説に基づき、関心相関的に再度調査事項を決定し、第2回のフィールドワークに参加し、データを持ちかえり、現象マップおよびソリューションモデルを再構築いたしました(第21回)。このプロセスを通じて導きだされた修正仮説に基づきプロトタイプ(コンセプトモデル)を構築し(第22回)、このプロトタイプに基づいたビジネスモデル(第23回)を構築いたしました。

    今回は、フィールドワーク前の事前調査から「デザイナの関心モデル構築」までの流れを説明したいと思います。

    東ティモール

    さて、今回参加したフィールドワークは、私の参加した、米国NPOコペルニク[1](*1)主催のBOP向けプロダクトデザインコンテスト(See-D)[2]のプログラムの一環として設計されたものです。本コンテストは、東ティモール[3]の無電化地域へフィールドワークを行い、フィールドワークによって得られたデータに基づいて、プロダクトをデザインすることを目的としていました。

    様々な偶然が重なって私はこのコンテストに参加することになったのですが、コンテストのチーム編成は、チームでの参加を除いて原則主催者に一任されており、全参加者のバックグラウンドをもとに主催者によって行なわれました。私の所属するチームは、私(大学講師)を含めた全7名で構成されていました。各メンバの参加当時(2010年8月)のバッググランドについて以下に説明をしておきます。

    1. 医療向け製品の開発経験を持つプロダクトデザイナ(デザイン事務所オーナー)
    2. 国内メーカーにてコンセプトデザイン/コミュニケーションデザインに関わるデザインリサーチャ
    3. 医者免許保有、バイオベンチャーに勤務経験のある政策秘書
    4. 国内メーカーにて生産管理に携わるエンジニア
    5. 都市計画デザインを専門とする大学生
    6. ソーシャルイノベーションを専門とする大学院生
    (7. エクスペリエンスデザインを専門とする大学講師)

    *1) コペルニクについては第05回のソーシャルイノベーションの事例でも取り上げさせていただきました。

    [1] Kopernik
    [2] See-D
    [3] 東ティモール マップ

    このようなメンバで構成されるチームから、第1回フィールドワーク(ボボナロ地方/山岳エリア)に私が参加し、第2回フィールドワーク(ロスパロス地方/海岸地帯)にプロダクトデザイナの方が参加されました。第1回フィールドワークに参加するにあたり、主催者よりいくつかの調査資料を受取り、基本情報を得ました。以下に、東ティモールに関する説明の一部を引用させていただきます。より詳しい情報は外務省の国別ページ[4]やデータブック[5]等でご確認ください。

    図1:東ティモール全域

    図2:ボボナロ地方

    東ティモール概要
    東ティモールは東南アジアに浮かぶ島国です。1999年に国民投票によりインドネシアからの独立を選び、2002年より正式に独立共和国となっています。人口約110万人、面積15,000km2(岩手県とほぼ同じ大きさ)、2008年のGDP総額が約5億ドルの小さな国です。熱帯地域に位置する東ティモールは国土の約6割が山岳地帯となっており、北側の海岸沿いにはさんご礁が発達しています。またティモール島の南、インドネシア・オーストラリアとの国境には石油・天然ガスが埋蔵されており、その開発が期待されています。
    そんな豊かな資源に恵まれた東ティモールですが、ポルトガル領時代の工業化の失敗、独立を巡る紛争による首都の破壊と続き、産業基盤が育たず、経済はいまだ脆弱です。主要な産業は農業。米・とうもろこし・コーヒーなどを栽培し、コーヒーは輸出もしています。現地の物価を反映した一人当たりGDP(PPP換算)は2001年の世界最低($500)から2008年には$2,400まで回復しましたが、未だに特に村落地域は貧しく、国民の半数以上が一日1ドル以下、7割以上が2ドル以下の収入で暮らしています。

    東ティモールの人々の暮らし
    アジア最大のイスラム教人口を抱えるインドネシアとは対照的に東ティモールの99%以上の人はキリスト教(大半がカトリック)です。この強い信仰はインドネシアの東ティモール侵略以降、東ティモールの独立をカトリック教が支えたことで、急速に強まったといわれています。一方、東ティモールの人々の大半はメラネシア人で、多くの人がキリスト教と同時にメラネシアの伝統宗教(死者の魂が石、動物、水などに宿り幸運や災いをもたらす)への信仰も文化の一部として浸透しています。
    9割以上の人々は自給自足の農業を営んでおり、生活は農作業を中心に構成されます。灌漑設備がなく雨季にしか農作物が育てられなかったり、取れた穀物をねずみなどから守れず、大半を食べられてしまったり、農業をめぐる生活の苦労話はよく聞かれます。
    2001年に25%だった電化率は都市部では8割まで上がりましたが、村落地域ではいまだに2割前後です。

    [4] 外務省 東ティモール民主共和国
    [5] 外務省 東ティモール民主共和国 データブック(pdf)

    デザイナの関心モデルの構築

    さて、デザイナの関心モデルを構築するために、東ティモールに関する事前調査を、静的データを中心として行いました。ここでいう静的データとは、webや書籍で公開されている統計資料や歴史資料が該当します。今回のようにフィールドワークの主催者が存在する場合は、主催者側が提供してくれた資料を読み込むことで程度の理解が期待できますが、wikipedia(英語版)や外務省のページなど複数の情報ソースを付きあわせておくことで多角的な視点にて理解可能でしょう。

    事前調査の結果、大まかな東ティモールの状況に対する認識が深まりました。例えば、東ティモールは、ポルトガルおよびインドネシアという2度の独立戦争の影響で国内システムは疲弊し、NGO、UN(国際連合)の存在なしには国家としての機能をなさない状況にあります。また、政治経済的には、東部の西部の対立、GDPの20%を占める石油依存による産業の未発達をはじめ数多くの問題を抱えています。これらの問題と関連して、インフラ面では、国内の80%は無電化地域であり、国土の大半が丘陵地のため運輸システムが未発達であるほか、医療システムの不備から健康に問題を抱える国民が数多く存在しています。このような事前調査を通じて得られた認識は、デザイナの関心の形成に大きく影響するでしょう。

    事前調査ののち、研究背景、思想背景に基づきデザイナの関心モデルを構築しました(図3)。以下では関心モデル構築までの流れを説明したいと思います。

    図3:デザイナの関心モデル

    第1に、研究背景として、筆者はこれまで子供の創造行為支援システムのためのデザインメソッドの構築に携わってきました[6]。また、エンタテイメントシステムの構築を通じて、インタラクションを通じて楽しさを生成するためのデザインメソッドの構築[7]に携わってきました。これらに基づくデザイナの関心として、「モノそのものではなく方法論の提示」という関心が立ち現れました。

    [6] The World is Canvas.
    [7] Adjustive Media:フィードバックを伴うメディア作品の制作手法.

    第2に、思想的背景として、Paul PolakやMartin Fisherの影響があります。Paul Polakは、問題解決における12のステップにおいて、フィールドの特殊性を理解するだけではなく、人々の関心を構造的に把握することの重要性を説いています(第03回)。Martin Fisherは、BOPに属する人々のためにモノをつくり提供しようとしても、実際には現金がなければ彼らがモノを購入できないことに着目します。そして、Fisher自身の経営するKickstart社の9つのDesign Criteria(第04回)において、現金収入獲得手段の提供(Income Generating) を第1の項目として掲げてプロダクトを開発しています。これらの思想的背景から、課題の「根本的解決」や「社会システムの構築」といった関心が立ち現れました。このような関心に基づくキーワードとして、教育や現金収入手段といったデザイン領域に対する関心が立ち現れました。これらのキーワードにもとづいて関心相関的に調査項目およびインタビュー項目を設計し、フィールドワークへ出発することとなりました。

    まとめ

    今回は、構造構成主義的プロダクトデザイン手法の実践の第1回として、私の参加した東ティモールへのフィールドワークを題材に、事前調査からデザイナの関心モデルの構築、そして、調査項目、インタビュー項目決定までの流れを説明したしました。次回は、第1回フィールドワークを題材に、「フィールドの概念抽出および現象マッピング」「ソリューションモデルの構築」のプロセスの説明をいたします。

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