デザインメソッド – モデリング

前回よりデザインプロセスにおいて用いられてきた、既存のデザインメソッドについて紹介をしています。前回は「1. フィールドへ赴き、データを取得する」ためのメソッドとして、まず、量的データではなく、質的データに注目し、質的調査法として、口頭データと視覚データの様々な採取方法について説明をしました。その上で、目的に応じた複数の手法の組み合わせの事例として、エスノグラフィック・インタビューの一形態である、コンテクスチュアル・インクワイアリについて説明をし、その限界について言及いたしました。

第2弾となる今回は、2番目のプロセスである「2. 課題を発見し、仮説を構築する」ためのメソッドを紹介していきましょう。このプロセスでは、最初のプロセスである、「1. フィールドへ赴き、データを取得」するプロセスにて取得した”質的データ”を用いて、仮説を構築していきます。

このプロセスでは、フィールドにおける現象を理解するために、事象同士の関係形式としての「構造」を構成します。構造それ自体を表現したものを「モデル」と呼ぶことから、構造化の過程を「モデリング」と呼びます。モデルは、構造を視覚化することで、より深い理解をもたらし、議論の土台となるため、非常に有用なツールといえます。実際には、モデリングを通じて構築された複数のモデルをもとに仮説を構築することになります。以下では、様々なモデルを構築するメソッドを紹介していきましょう。

ユーザモデル

ユーザモデルの代表格がペルソナです。以下では,ペルソナについて紹介したのち,ペルソナと併せて用いるシナリオ、そしてこれらをツールとして用いたメソッドである、”ゴールダイレクテッドデザイン”について説明をいたします。

ペルソナ

ペルソナは、製品を使うこととなる架空の人物を表す属性をドキュメント一式にまとめる手法です。ここでいう人物を規定する属性とは、名前、性別、性格、趣味、動機などを指します。これらの属性を質的調査法で取得したデータを元に確定していきます。また、各ペルソナは、すること(行為、または予測される行為)と理由(ゴールと動機)の特徴に基づいて作られる必要があります。下の図はAdaptive Pathで作成したKivio(ダイアグラムツール)ユーザのペルソナの例です[1]。

[1] A persona chart developed for Kivio, a diagramming tool similar to Visio.

詳細なペルソナを形成し、チームでペルソナを共有することは、単なるアノニマスなユーザではなく、具体的な人物のために、プロダクト、サービス、システムをデザインする感覚を与える効果をもたらすだけではなく、この人物に対してどのような状況でどのようなデザインが有効であるかについて検討が可能となります。

シナリオ

シナリオは、ユーザがプロダクト、サービス、システムを使うストーリーを時系列に沿って表記する、言葉によって作られるプロトタイプです。状況が厳密に描写されたシナリオを作成し、チームでシナリオを共有することは、制作物にて用いられているデザインコンセプトの迅速な理解を促進するでしょう。また、このプロセスに先のペルソナを組み合わせることで、ある状況の中で想定するユーザがどのように振る舞うかという点についての理解を深めることが可能となります。このプロセスは、ペルソナそれ自体の妥当性の検証にも利用できます。当然、シナリオを作成する際も、フィールドで取得したデータに照らし合わせて作成する必要があります。

Adaptive Pathのダン・サファー(Dan Saffer)の著書『Designing for Interaction(邦題:インタラクションデザインの教科書)』より、以下に、オンラインのスーパーマーケットによる宅配サービスのシナリオの例を示します。

サラは、オンラインスーパーマーケットであるBigGroceryのアカウントにログインする。先週の注文品リストを見て、今週も同じものを注文することに決める。自分の「Groceryリスト」をからいくつかの品をドラッグして除外する。合計金額がそれにしたがって再計算される。欲しい物が全部リストにあるので、「配達」ボタンをクリックする。すでに登録してあるクレジットカードに請求され、約1時間後に配達が来ることが確認ページでわかる。

ゴールダイレクテッドデザイン

すでにペルソナの概要については上記にて説明をいたしました。アラン・クーパーは自身の主張する”ゴールダイレクテッドデザイン”において、ペルソナをユーザモデルの1つとして活用することを主張しています。まずは、ゴールに関する彼の説明を引用しましょう。

被験者から観察された行動にコンテキストを与えるのがペルソナだとすると、ゴールはその行動の原動力である。ゴールのないペルソナはコミュニケーションツールとしては役立つかもしれないが、デザインツールとしては使いものにならない。ユーザのゴールは、デザイナにとっては、製品の機能を考えるときにかならず通してみなければならないレンズのようなものだ。製品の機能と振る舞いは作業の助けを借りてゴールを達成しなければならない。一般に作業は絶対必要なものだけに抑える。作業は、執着駅までの手段にすぎない。ゴールこそが執着駅だ。

次に、クーパーは3つのゴールについて説明をしています。これら3つのゴールはドナルド・ノーマン(Donald Norman)の『Emotional Design(邦題:エモーショナル。デザイン)』の認知プロセスの3レベル理論(本能的レベル-行動的レベル-内省的レベル)に対応しています。本能的レベルとは、製品に深く関わる前に、五感が最初に知覚する部分のデザインです。次に、行動的レベルのデザインとは、ユーザの行動、暗黙の前提、脳内モデルをうまく補うような、製品の振る舞いのデザインです。最後に、内省的レベルのデザインは、長期的な製品との関係のデザインです。

エクスペリエンスゴール

エクスペリエンスゴールとは、製品を使っていた時にどのように感じていたか、ということであり、製品とのインタラクションの品質を意味します。

例:
– 自分が賢く感じられ、全体を掌握している感じを持てる。
– 楽しい。
– 落ち着いていて安心感がある。
– 仕事に集中していて鋭敏になっている感じがある。

エンドゴール

エンドゴールとは、特定の製品と直結した作業を実行することに対するユーザのモチベーションを指します。

例:
– 重大になる前に問題に気づく。
– 友人や家族との連絡を絶やさない。
– 毎日5時までにTO-DOリストを作る。
– 私が好きな音楽を見つける。
– 最良の取引を手に入れる。

ライフゴール

ライフゴールは、ユーザの深いところにある原動力、モチベーションであり、ユーザがエンドゴールを達成しようと努力している理由をある程度説明するものです。

例:
– よい人生を送る。
– ~という野望を成功させる。
– ~のプロになる。
– 同僚たちから人気、好意、敬意を集める。

ペルソナの構築プロセス

さて、クーパーは、Goodwin 2002らのペルソナ構築手法[2]をもとに、ペルソナの構築プロセスを7ステップで定めています。以下にそのプロセスについて説明しましょう。

[2] Goodwin, Kim 2002. Getting from Researech to Personas: Harnessing the Power of Data. User Interface 7 west Conference.

1. 行動変数を見極める。

調査を終え、データを大まかにまとめた後、観察された行動の様々な側面を行動変数にまとめていきます。一般に行動パタンの最も重要な差異は、次の変数に注目すると現れるとされています。

活動:ユーザが何をしているか、頻度と量。
態度:ユーザが製品のドメインやテクノロジについてどう思っているか。
適性:ユーザが受けた教育訓練は何か、学習能力はどれだけか。
モチベーション:ユーザが製品ドメインに関わっているのはなぜか。
技能:製品ドメインとテクノロジに関わるユーザの能力。

2. インタビューの被験者を行動変数に対応づける。

インタビューの被験者たちが顕著な行動変数を示したことが確認できたら、変数の範囲内に被験者を対応づけていきます。

例:
サービス重視 – 価格重視
必要なものだけ – 娯楽

3. 顕著な行動パタンを見出す。

被験者を行動変数の範囲に対応づけたら、複数の範囲を通じて被験者が同じように集中しているところを探します。6, 8個の異なる変数を通じて同じ被験者の集合ができていれば、それはペルソナの基礎となる顕著な行動パタンを表していると考えられます。

4. 特徴とそれに関係のあるゴールを総合する。

見つかった顕著なパタンごとに、データからディティールを集めて全体像を作らなければなりません。潜在的な利用環境、典型的な作業日、現在のソリューションとそれに対する不満。周囲の人々との関係などをまとめます。

5. 重複や完成度をチェックする。

人口統計学的変数以外に違いの見つからない2つのペルソナが見つかった場合には、重複するペルソナの片方を取り除くか、ペルソナの個性を調整して差を際立たせるようにします。

6. 態度や振る舞いの記述を拡張する。

ペルソナの態度、ニーズ、他のチームメンバとの間の問題点などを伝えるには、3人称の物語の方がはるかに強力です。物語は、デザイナ、作者とペルソナやそのモチベーションとの関係を深める効果もあります。

7. ペルソナの配役を決める。

どのペルソナを主要なデザインターゲットにするかを決めて優先順位をつけます。

主役:インタフェース設計の主要なターゲット。
脇役:主役のインタフェースで満足させられるが、特殊なニーズを余分にもっており、その部分は主役に奉仕するという製品の能力を損なわずに実現できる。
端役:主役でもなく脇役でもないペルソナ。
顧客:エンドユーザではなく顧客ニーズである。
サービス利用者:製品のユーザではないが、製品の利用によって直接的な影響を受けるもの。例えば、放射線療法の患者は装置のユーザではない。
黒衣:製品の奉仕対象にはならないタイプのユーザ

ワークモデル

次に、ベイヤーとホルツブラッド(Hugh Beyer & Hugh Beyer)の『Contextual Design』にて提唱されている、ユーザの「行動」を構造的に分析するための5つの”ワークモデル”を紹介します。こちらもユーザモデルと同様に、収集したデータをもとに、モデルを構築していきます。ここでは、実際のモデルの例として、「台湾における伝統的な社会活動としてのお茶を飲む習慣」を用いて説明をいたします[3]。

[3] Ko-Hsun Huang and Yi-Shin Deng, 2008. Social Interaction Design in Cultural Context: A Case Study of a Traditional Social Activity. International Journal of Design, Vol.2, No.2.

フローモデル

複数のユーザーがタスクを終えるまでにどのように調整を行っているか、そして、ユーザ同士のコミュニケーションの流れを記述するモデル。

シーケンスモデル

ユーザーがタスクを終えるまでの詳細なステップを記述するモデル。
シーケンスモデルの特徴は、シーケンスの目的(シークエンスが達成しようとするもの)とトリガー(シークエンスをスタートさせるもの)を示す点にあります。

文化モデル

行動が行われる環境における文化を、影響者と影響という形で記述するモデル。
影響者は組織内の個人、グループ、あるいは、概念上の集団、外部など行動に影響を与えたり、制約したりする人を指します。影響は、影響を与える方向とどれだけ影響度があるかを矢印や円の大きさで示します。

アーティファクトモデル

ユーザーがタスクを終えるまでの過程で利用、あるいは、構築するアーティファクト(人工物)を記述するモデル。

物理モデル

行動が行われる物理的環境や道具を記述するモデル。

グラウンデッド・セオリー・アプローチ

ここまでユーザの属性に関するモデル、ユーザの行動に関するモデルを構築してきました。次に、フィールドの構造化に関するメソッドを紹介しておきましょう。ここでは、社会学者のBarney Glaser と Anselm Strauss(グレイザー & シュトラウス)によって提唱された、(オリジナル版)グラウンデッド・セオリー・アプローチ(Grounded Theory Approach / GTA)を紹介いたします。

多摩大学教授の紺野登 氏は『ビジネスのためのデザイン思考』において、質的データのデザイン手法として3つのメソッドを取り上げ、そのうちの1つとしてGTAを紹介しております。ここでは、紺野氏の解説をもとに説明させていただきます。

GTAは、フィールドに密着して得られたフィールドデータをつきあわせながら、帰納的に(個々の具体的事例から一般原理・法則を導きだす考え方で)まとめていき、現場の問題を解決するための有効な理論の発見を行う方法論です。

GTAは、典型的な帰納法であり、データを収集したのち、いくつかの段階でコーディング(符号付)を行います。以下にコーディングの3つのステップを引用いたします。

1. オープンコーディング(データからラベルづけへ)
観察やインタビュー記録をもとに、最小単位のデータに切り分けて、それらを眺め、比較しながら、意味のまとまりを発見してラベル(キーワード)を付ける過程。

2. 軸足コーディング(ラベルからコンセプトへ)
全体をいくつものラベル(変数)で表し、それらの関係性を明らかにし、次に代表的なラベルをもとにしながらさらに大きな意味のまとまり=カテゴリ(コンセプト)を見いだす過程。

3. 選択的コーディング(コンセプトから理論へ)
中核となるカテゴリを決め、その他のカテゴリを関連づけて、実践のための道筋を明らかにする。

実際のGTAの一般的なプロセスは、以下の5つのプロセスで構成されます。

1. インタビューや観察からフィールドノートを作り、最小単位のデータに切片化する作業

2. 切片化されたデータを付きあわせて、共通した意味のものをまとめラベル化する。これらを関連づけながらコンセプトやモデルを形づくっていく(オープン・コーディング過程)。

3. データを切片し、まとめ、ラベルづけをし、それらをいくつかのまとまり(変数、あるいは、カテゴリ)として、相互の因果関係を見出すクラスター化を行う。(軸足コーディング過程)

4. カテゴリ群からコンセプトを生み出す。

5. 理論化・モデル化する(選択的コーディング過程)。

このようなオリジナル版GTAの手法について、「実際のデータ収集と分析、特にコーディング方法に関して明確に示されていない」という限界が指摘されており、木下らによりM-GTA(Modified Grounded Theory Approach/修正版グラウンデッドセオリーアプローチ)が提案されています。木下らはGTAに対する課題点の克服として以下の3つを挙げています。

1. コーディング方法の明確化(分析プロセスの明示)
実際に活用しやすく、かつ、分析プロセスが他の人にも理解しやすいという両方の条件を満たすものを提案している。

2. 意味の深い解釈
分析プロセスを明示化するだけではなく、深い解釈を組み込んでいる。

3. 60年代の限界(素朴な客観主義)と近年の質的研究動向に対して、独自の認識論(インタラクティブ性)
研究をデータ収集段階(協力者-研究者)、データ分析段階(分析焦点者-研究者)、分析結果の応用段階(研究者-応用者)に分け、各段階において、研究する人間を他者との社会関係に位置づける。

サービスブループリント

最後に、適切なサービス構造を構築するために、1984年にリン・ショスタック(Lynn Shostack)によって提案された、サービスブループリントを紹介しましょう.サービスブループリントは、5つのコンポーネントで構成されます。

具体的な現象
顧客がある会社と接点を持つ間に受けるすべての具体的な現象.

顧客の行動
顧客がサービスを受けるプロセスにおいて,顧客が取りうる全てのステップ.

オンステージ/目に見える従業員の接点行動
顧客とのフェイストゥーフェイスでの接点の中で起こる従業員の行動.

バックステージ/目に見えない従業員の接点行動
顧客にサービスを提供するために従業員が取るその他すべての行為に加えて,顧客との目に見えないインタラクション.

サポートプロセス
顧客との接点を持たないが,社内の個人あるいはチームによって実行されるすべての行動.サービスを実行するために必要不可欠な機能.

実際にブループリントを構築するプロセスは、以下の1-6のステップを含んでいます[4]。

1. サービスプロセスを同定する。
2. サービスを経験する顧客のセグメントを同定する。
3. 顧客視点でサービスを記述する。
4. オンステージとバックステージの従業員の接点行動を記述する。
5. 接点行動と必要とされるサポート機能とをリンクさせる。
6. 顧客のとる全ての行動のための証拠を追加する。

[4] Wilson, A., Zeithaml, V., Bitner, M. J., & Gremler, D. (2008). Services Marketing: Integrating Customer Focus across the Firm. Glasgow, UK: McGraw-Hill.

まとめ

今回は、「2. 課題を発見し、仮説を構築する」ためのメソッドとして、質的データを用いたモデリング手法について紹介いたしました。具体的には、ユーザの属性に注目したユーザモデリングとして、ペルソナ、シナリオ、ゴールダイレクテッドデザイン、ユーザの行動に注目したワークモデル、フィールドの構造を理解するためのGTA、そして、サービスの構造を構築するためのサービスブループリントを紹介してきました。モデルリングのプロセスを通じて現象が構造化されることこそが最も重要なポイントといえるでしょう。確かにモデルを構築するプロセスは単に現象を分析するだけにすぎません。しかしながら、創造のジャンプを実現するためにも、適切なモデルを構築し、チームで共有可能な状態としておくことは大前提であると考えます。

次回は、「3. プロトタイピングを行う」プロセスにおいて利用可能なメソッドとして、デザインパタンを紹介いたします。

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