ソーシャルイノベーションの事例 - D-Lab

前回はソーシャルエンタープライズの事例として、大学発NPOのOLPCを紹介いたしました。OLPCは、寄付によって運営され、プロダクトであるXOシリーズを開発し、途上国の子供たちにラップトップを提供し、教育の機会を提供することで、途上国に活力を与えることをミッションとしていました。

今回からソーシャルイノベーションの担い手をソーシャルエンタープライズから移し、4回に渡って様々な大学や研究機関を紹介していきたいと思います。今回紹介するのはマサチューセッツ工科大学のD-Lab[1]です。

[1] D-Lab

D-Labは、D-Labの”D”は”Development though Dialog, Design, and Dissemination (対話を通じた開発、デザイン、普及”を意味しており、国際開発の枠組みの中で、適正技術と持続可能性のあるソリューションによる開発を育成するためのプログラムです。D-Labは、低コストの技術を用いた創造と実装を通じて、低所得の家庭の生活の質を向上させることをミッションとしています。

D-Labは、2002年にMIT教授であり、適正技術に関する発明家であるAmy Smithによって設立されました。受講資格については、MITの学生、もしくは、ハーバード大学、ないし、Cross-registrationに関する合意書を持つその他の機関に属する学生である必要があります。現在は、12の異なるコースが存在しています。以下では、12のコースの概要と代表的なプロジェクトを紹介していきたいと思います。

まずは、これまでに多くのプロジェクトとプロダクトを輩出した8つのコースについて説明しましょう。

D-Lab: Health

D-Lab Health[2]は、ゲスト講義とフィールドワークに基づくプロジェクトを通じて、
世界規模の健康技術のデザインに関する複合的なアプローチを提供するコースです。そのために、世界の健康に関する現在の課題を調査し、問題に対して対処するための医療技術をいかにデザインするかについて学習していきます。学生は、デバイス開発のためのフィールドでの経験を積むために、医療技術デザインキットを利用しながら、春休暇にニカラグラに行き、医療問題のスペシャリストともに仕事をしています。

[2] Course sie

Ambuzap

ニカラグアにて導入された、救急車から電源を供給し、持ち運び可能な低価格な除細動器。

D-Lab: Design

D-Lab: Design [3] は、途上国においてデザインをする際に直面する、デザイン上の制約に格別な注意を向けながら、デザイン、実験、プロトタイピングのプロセスを通じて、恵まれない地域が直面している問題に対処するためのコースです。コース内では、分野横断的なチームを組織します。このチームは、学期を通じて、地域パートーナー、現場での実践者、当該分野のエキスパートなどとのコミュニケーションを通じて進められます。トピックは、入手可能性、製造に対するデザイン、持続可能性、地域パートナーや消費者に対する効果的な戦略も含みます。

[3] Course site

Bamboo Pencil Maker

インドのニューデリーにて導入。
使いやすく、安くて、収入を生むツールを開発するという目的のもと、竹から鉛筆を製造するデバイスを開発。

D-Lab: Development

D-Lab: Development[4] は、途上国のためのささいなレベルでの技術的改善の問題に対処するためのコースです。特に、低価格、持続可能な技術を適用することで、低所得家庭における生活の質を改善することを目的としています。学生は、チームを組織し、途上国の地域団体と一緒にプロジェクトを実施します。これまでにガーナ、ブラジル、ホンジュラス、インドにて現地調査を行っています。プロジェクトチームでの打ち合わせは、特定のプロジェクトにおける開発に焦点をあて、地域言語の導入に加えて、訪問先の各国について、コミュニティの文化、社会、政治、環境、経済に関する概観を含んでいます。

[4] Course site

Bicilavadora

ペルーにて導入。
自転車ペダル式の洗濯機

D-Lab: Mobility

D-Lab: Mobility[5] は、適切なデバイスを構築するために、サウンドエンジニアリングを適用し、車椅子技術の改良に焦点を当てたコースです。講義は、車椅子の利用法、社会的なステイグマ、製造上の制限に焦点を当てながら、第3世界のパートナー、車椅子の組織、MIT教員によって行われます。複合的な学生チームは、ハードウェアデザイン、製造上の最適化、生体モデリング、ビジネスプラン開発に関連した、車椅子プロジェクトを半期に渡って行います。

[5] Course site

Leveraged Freedom Chair

LFCは、途上国向けに開発されたレバー式の車椅子。
歩きよりも早く、どんな地形での登ることができます。

Development Ventures

Development Ventures[6] は、途上国、振興成長市場、十分なサービスを受けていない消費者をターゲットとして、ベンチャー企業の設立、資金調達に関する実験的なアクションラボです。世界中を対象として、ポジティブな社会的変革を可能とする、あるいは、加速するための、改革的なイノベーションや実験的でスケーラブルなビジネスが特に強調されています。

[6] Course site

Volta Ventures

Volta Ventures(VV)は、サハラ以南のアフリカにおいてミドルクラス向けの住宅を提供する不動産開発会社です。VVは、従来型の住宅市場で利益を得ることで、低所得家族が購入可能な住宅へ再投資しています。

D-Lab: Prosthetics for the Developing World

Developing World Prosthetics [7] は、人間生体力学、身体障害、リハビリに関する適正技術についての問題に対処するためのコースです。トピックは、これらの障害を乗り越えるための途上国と先進国の技術と、四肢用装具に焦点に当てています。プロジェクトは、途上国向けの矯正器具と人口装具について、特にインド、ガテマラのパートナーとともに実施されています。

[7] Course site

Exo-knee Prosthesis

インドにて実施。

大腿義足技術は最も研究の進んだ人工装具ですが、実際の足のように見え、動作する人工膝関節は存在しません。Exo-kneeは、実際の足のように、たったまま固定でき、自由回転でき、外骨格式の安価な大腿義足です。

D-Lab: Energy

D-Lab: Energy[8]は、電気を生成するためにコンパクトで頑丈かつ低価格なシステムが要求される途上国において、代替エネルギー技術の理解と適用に学生を従事させるプロジェクトベースのアプローチを提供するコースです。プロジェクトでは、水力、太陽、風力発電装置に関する理論的な分析を含むほか、デザイン、プロトタイピング、評価、実装を行います。

[8] Course site

Orange Juice Bag Sealer

低電力消費で安全にプラスチックを密閉するメカニズムを採用し、女性がオレンジジュースを素早く密閉し、販売することができます。このビジネスを通じて、月に25ドルの収入を獲得できます。

D-Lab: Dissemination

D-Lab: Dissemination [9]は、途上国における、水の普及、公衆衛生、衛生状態(WASH)に関するイノベーションに注目したコースです。コースは、フィールドベースでの学習、ケーススタディ、講義、ビデオで構成されています。特に、WASHにおける原理原則、文化に即したソリューション、適正かつ持続性のある技術、行為の変化、ソーシャルマーケティング、パートナーシップの構築などが強調されています。

[9] Course site

Rubble Rousers

ハイチのパートナーと共同で進行中のプロジェクト。
ココナッツの皮で作られたローコストな蛇籠。
カゴは瓦礫に掃除に使われたり、建築物の構造や修理に使われています。

続いて、4つの新規コースについて説明いたします。

-Lab: Cycle Ventures

D-Lab: Cycle Venturesは、サービスが不十分な地域において、経済の機会を提供するという目的のもと、水汲み、製粉、運搬など多数の目的に人間の力を役立てるために、自転車の技術を利用するコースです。コースは、自転車技術の革新性に関する歴史的視座を提供し、技術的なメカニズムをレビューし、社会経済発展を育てるための革新的な道具としての自転車の普遍性に迫ります。

D-Lab: Discovery

世界の90%のエンジニアリングやデザインは世界の人口の裕福な10%の欲求に向けられています。残りの90%の人々は、大部分が未解決の基本的な問題の中で生活しています。これらの恵まれない地域の要求に対して創造性と創造力によって対応するために、このコースは潜在的な創造性を模索し、高めることを狙いとしています。

D-Lab:ICT

D-Lab ICTは、実務に関する知識と、途上国の技術改良に関する問題に対する広範な理解を提供しながら、恵まれない地域の新世代の実践者をトレーニングするコースです。電子部品は低価格であり、多くのフリーの開発環境があるため、デジタル技術は、プロトタイピングやイノベーションに対する導入点として障壁が低いとされています。また、デジタル技術は、地域に活力を与える手段となる高い可能性を秘めています。このゴールを達成するためには、開発に関する広い理解と横断的なアプローチが要求されます。

D-Lab: Schools

D-Lab: Schools は、より安くより良い学校をデザインし、途上国の教育不足によって起きる問題に対処するためのコースです。基本となる学校設立技術は、レクチャー、ラボ実験によってカバーされます。学生はチームを組織し、途上国のNPOとともに学校をデザインする術を身につけることができます。

まとめ

今回は、ソーシャルイノベーションの担い手としての大学・研究機関からMIT D-Labを選択し、12のコースの内容とそれぞれのコースの代表的なプロジェクト例について紹介いたしました。2002年の設立以降、数多くのプロジェクトが生まれ、MIT 150周年記念の際には、”D-Lab150プロジェクト”という企画も実施されました[10]。途上国というフィールドに対して適正技術と持続可能なソリューションに焦点を当て、現地の様々な問題をテクノロジーとデザインによって解決していく様は、まさにMITの真骨頂と言えるでしょう。

[10] 150 D-Lab Projects to celebrate MIT’s 150th Anniversary

しかしながら、ソーシャルビジネスとして考えた場合、その圧倒的なテクノロジー、あるいは、デザインエンジニアリングに対して、ビジネス面でのイノベーションの影が薄いとの印象を受けます。確かにDevelopment Venturesのクラスは存在し、いくつかのプロジェクトをもとにソーシャルエンタープライズの起業に至っています。しかしながら、テクノロジーが主体となったビジネスであり、ビジネスとしてのスケーラビリティが考慮された事例が少ないとの印象を受けます。次回は、この点について意識しながらStanford d.schoolを紹介したいと思います。

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