実践 – 東ティモールへの第2回フィールドワーク

前回より、ソーシャルイノベーションのための構造構成主義的プロダクトデザイン手法の実践について紹介をしています。前回は、実践の第2回として、私の参加した米国NPOコペルニク主催のSee-D Contestのプログラムである東ティモールへのフィールドワークのうち、ボボナロ県への第1回フィールドワークを題材に、「フィールドの概念抽出および現象マッピング」「ソリューションモデルの構築」のプロセスについて説明をいたしました。

今回は、構造構成主義的プロダクトデザイン手法の実践の第3回として、ラウテム県ロスパロス地区への第2回フィールドワークを題材に、「フィールドの概念抽出および現象マッピング」「ソリューションモデルの再構築」「プロジェクトの関心モデルの構築」のプロセスについて説明をいたします。

第2回フィールドワーク

第2回フィールドワークは、2010年8月26日-9/4日の期間にて行われました。第2回フィールドワークのエリアは、海岸エリアのロスパロス地区[1]にて行われました。ロスパロス地区は、ラウテム県[2]の一地区で、首都ディリから東に248kmに位置し、地区の人口は2万5417人(2004年)です。以下では、まず第2回フィールドワークのスケジュールについて説明したいと思います。

[1] ロスパロス地区

[2] ラウテム県

図1. ロスパロス地区

図2. ラウテム県

8月26日-28日
第2回フィールドワークの前半は、See-D代表の方により、ディリを中心に様々な団体に対してインタビューが行われました。26日にIFC(国際金融公社)、WB(世界銀行)、UNDP(国連開発計画)、具体的には、27日に、APHEDA(Australian People for Health, Education and Development Abroad。オーストラリアの労働組合が母体の国際NGO)、CCITL(Chamber of Commerce and Industry Timor-Leste)、Moris Rasik(東ティモール最大のマイクロファイナンス機関)、HARBIRAS(東ティモールの環境NGO)、PDT(Peace Dividend Trust。東ティモール産の製品を買うことを推進しているNGO団体)、UNICEF、28日にAFMET(東ティモール医療友の会)に対してインタビューが行われました。

8月30日-9月4日
第2回フィールドワークの後半は、ワークショップ参加者により、ロスパロス地方にてフィールドワークが行われました。第1回に私たちが訪問した東ティモール大学工学部のProf.Marfimが案内者となって、Pitileti村を訪問し、観察やインタビューを行いました。

第2回フィールドワークについても、第1回フィールドワークと同様に2つの制約 – 調査場所の制約と言語の制約 – が存在しました。さらに、第2回フィールドワークでは、第3の制約が存在しました。この第3の制約とは、参加者の制約です。第1回フィールドワークでは、私自身が参加したため、自分で観察を行い、インタビューを実施することができました。しかしながら、第2回フィールドワークでは、筆者の所属したチームの別のデザイナによって、調査が行われました。当該デザイナは、チームの各メンバが関心相関的に設定した調査項目およびインタビュー項目に基づいてフィールドワークを行うよう依頼されていました。

以下に、第2回フィールドワークのために私が用意した関心相関的調査項目およびインタビュー項目(表1)と、フィールドノートの抜粋(表2)を示します。表2は、実際には、元コンサルタントの方が作成したインタビューレポートです。要点がわかりやすくまとまっており、現象マップを構築する際にも非常に役立ちました。

表1. 関心相関的調査・インタビュー項目

調査テーマ:現金収入のための手工芸
調査の視点:現金収入を獲得するための家庭内手工芸は成立するか?

1. 調査項目:容器・かご

1.1 調査方法
インタビュー,観察

1.2情報源
住民,バザールの出店者

1.3 撮影してきていただきたいもの
かご,容器,その他馬にモノを運ばせるときに使う道具

1.4 インタビュー内容

– 容器一般
Q1. 農作物,商品を何に入れて運んでいるのか?
Q2. (Q1の答えを聞いて)なぜそれを使っているのか?

– 制作経験
Q3. 竹やバナナの葉などを使ってかごを編んだ経験はあるか?
Q4. (Q3でYesの場合) それらを売ったことはあるか? またいくらで売れたか?
Q5. (Q4でYesの場合) 家庭内でモノを作る時間はあるか?また誰の手が空いているか?

2. 調査項目:家

2.1 調査方法
インタビュー,観察

2.2 情報源
住民

2.3 撮影してきていただきたいもの
家の建材,屋根

2.4 インタビュー内容

– 家を立てる人
Q1. 誰が家を建てるのか(大工or自分たち)?
Q2. (Q1で自分たちの場合)なぜ自分たちで作るのか?
Q3. (Q1で自分たちの場合)家を作る方法は誰から習うのか?
Q4. (家を作る)大工という職業は存在するのか?
Q5. (Q4でYesの場合)大工に依頼することと自分たちで家を作ることはどちらが好まれるか?

– 建材
Q6. 家の建材は主に何を使っているのか?
Q7. (Q1で自分たちの場合)家の建材はどこで手にいれているのか?
Q8. (屋根にトタンを使っている場合)なぜ屋根にトタンを使うのか?

表2. フィールドノーツ(抜粋)

Title: PDTミーティング
Interviewee: Ilidio Ximenes da Costa (Vice Director matchmaking & public relation) Eduardo da Costa(TDS Associate)
Interviewer: xxxx, xxxx
Date: 8/27/2010

Summary:
PDT(Peace Dividend Trust)は東ティモール産の製品を買うことを推進しているNGO団体。外資企業に地元企業を紹介し、パートナーシップを組んだり、地元企業からの購買を促進することで、産業育成を図ることをミッションとしている。地元企業を紹介するのが仕事なので、パートナー探しの時にはぜひ利用してほしい。ウェブサイトに企業の一覧も載せている[3]。
地方での問題は「マーケット情報の不足」「道路インフラの不足」「スキル不足」の三点。政府の地元作物の買い上げ政策もかえって市場をゆがめて問題を起こしている。

Detail:
PDT(Peace Dividend Trust)は東ティモール産の製品を買うことを推進しているNGO団体。外資企業に地元企業を紹介し、パートナーシップを組んだり、地元企業からの購買を促進することで、産業育成を図ることをミッションとしている。地元企業を紹介するのが仕事なので、パートナー探しの時にはぜひ利用してほしい。ウェブサイトに企業の一覧も載せている[3]。
– 現在、PDTは6つの県に支部を設けている。Lautem県のロスパロスにもある。
– PDTはCCITLや政府とも協力しながら、海外企業へ地元企業の仲介を行っている。すべて無料なのでぜひ利用してほしい。

地方での問題は「マーケット情報の不足」「道路インフラの不足」「スキル不足」の3点。政府の地元作物の買い上げ政策もかえって市場をゆがめて問題を起こしている。
– 地元で作物が採れたり製品を作っても、どこに行って誰に売れば良いのかわからない。情報の不足が大きな問題。PDTはこのMissing linkをつなげることでこれまで$9MM以上のビジネスを実現させた。
– 道路インフラの不足も大きな問題。モノが地方で手に入らないため、メンテナンスはすべてディリに行かないとできないのだ。水・衛生関連の製品にしても、土木事業の道具にしても、ディリまで行かないと手に入らない。地元ではメンテナンスできない。
– 人々のスキル不足も大きな課題。せっかく地元の会社が機械を持ってもどうやって使うのか、どうメンテするのか、どこから部品を調達するのかがわからないので、使われないことも多い。一般的なビジネススキル(帳簿のつけ方など)がないことも問題だ。NGOなどは数ヶ月のプロジェクトのみで帰ってしまう。そのような短期間ではCapacity building(能力開発)はできない。
– 人々のメンタリティーも問題。多くの援助が続き、人々が援助・政府などの公共機関に頼る癖がついてしまった。
– 政府の「People plan, government buy」政策はかえって市場をゆがめている。政府が突然、高い価格で農作物を買い始めたために、地元の買い付け業者が軒並み倒産した。それによって失業率が上がっている。
– 一方で、政府は高く買い付けた作物をそのまま高い価格で売っているため、売れずに多くが倉庫に残っている。保存方法が悪く、作物の質が悪くなってしまうのもその原因。政府はものの売り方を知らない。

[3] Peace Dividend Trust

フィールドの概念抽出および現象マッピング

さて、第2回フィールドワークからの帰国後、共有されたフィールドノーツをもとに、東ティモールにおける現象マップを作成しました(図3)。各現象をもとに概念化を行った結果、「健康上の問題」「低い公衆衛生観念」「原始的な家の構造」「家族中心の文化」「保守的な姿勢」「人々のスキル不足」「国民の依存体質」「政府の関心」「少ない産業」「新たな特産品」「保管・運搬用の容器」「ディリと地方の格差」「道路インフラ不足」「水質問題」「雨季と乾季の差」「少ない娯楽」の16概念が抽出されました。さらにこれらの概念をもとにカテゴリ化を行ったところ、「衛生」「価値観」「産業」「保管・運搬」「気候/風土」の5カテゴリが抽出されました。。これらの概念を用いてソリューションモデル(ver1.1)を構築します。

図3: 第2回フィールドワークに基づく東ティモールの現象マップ(ver1.1)

なお、第2回フィールドワークの結果、ロスパロス地区では、ココヤシを用いて容器やカゴを作る技術が一般的に普及していることがわかりました。さらに、すでに技術が普及しているにも関わらず、現金収入向上に貢献できていないことがわかりました。したがって、ソリューションモデル(ver.1.0)において構築した仮説はデザイナの設定した目的としての現金収入向上に照らし合わせた結果、妥当性に欠けることがわかりました。この点を踏まえ、第2回フィールドワークの結果得られた概念を用いてソリューションモデル(ver.1.1)を構築するにあたって、別の仮説を構築する必要があります。

ソリューションモデルの再構築

第2回フィールドワーク終了後、チームで情報共有およびブレインストーミングを行い、解決すべき課題を設定し、課題に対するソリューションを決定しました。この課題とソリューションは、第2回フィールドワークを通じて制作・共有されたフィールドノーツに基づく現象マップをもとに構築されたソリューションモデル(ver.1.1)を用いて説明可能です。

図4:第2回フィールドワークに基づくソリューションモデル(ver.1.1)

まず、解決すべき問題として、「少ない現金収入」、そして、問題の原因をモデル(ver.1.0)から継承しました。この問題に対する解決手段として、ココヤシを用いた酒作りのためのツールキットを仮説として新たに設定しました。

すでにココヤシを原料とする酒として、樹液を自然発酵させて作るトゥアック(Tuak)はPalm wine[4]として、東南アジアにおいて広く普及しています 。また、Tuakを蒸留させたアラック(Arrack)も同様に普及しています 。さらに、ココヤシは酵母の原料や砂糖の原料として現地で利用されています。これらの2つの現象を踏まえた場合、本仮説は、保守的な姿勢をもつ現地人の関心と矛盾しません。また、家族中心の文化のもとで様々な催事が行われており、このような場ではすでにお酒を飲む習慣は確立しています。より美味しい酒を提供する本仮説は、現地人の関心と矛盾しません。

[4] Palm wine

このような仮説を通じて直接的に解決可能な現象について説明します。まず、簡単に楽しくお酒を作れるキットを構築することで、強い依存体質の国民性であっても酒作りという楽しさを含む仕事であれば従事する可能性が高いと考えました。また、段階的なスキル伝達プログラムを同時に提供することで、スキル不足の現地人にとってもお酒作りに必要なノウハウを獲得できます。さらに、酒作りには発酵や蒸留のプロセスで衛生に関する知識が求められます。お酒作りを通じてこれらのノウハウを伝達することで、低い公衆衛生観念を払拭させ、健康上の問題も解決可能となると考えられます。また、作られたお酒は産業の少ない東ティモールの新たな特産品となる可能性も高いでしょう。しかしながら、地形の複雑さ、非効率な運搬方法、原始的な運搬システム、ディリと地方の格差、保管・運搬用の容器といった現象はデザイン上の制約として存在します。これらはツールキットのデザインだけではなく、ビジネスモデルのデザインを行う過程で何らかの解決策を提示する必要があります。

ココヤシに注目した契機については、 チームのメンバがブレインストーミングの場にココヤシを持ち込んだことが大きいと言えます。フィールドノーツの情報を整理した結果、ココヤシは、以下の3つのメリットを持つことがわかりました。

第1のメリットは、豊富な資源です。ココヤシは、現地では道端で1ドル程度にて観光客に販売されているだけではなく、ほとんど売れ残っているほど豊富に存在します。したがって、安価で大量に仕入れ可能です。

第2にのメリットは、良質な水分です。一般的に酒を製造する場合、良質な水が必要となります。良質な水が確保できるならば、ボボナロ県ではキャッサバが多く生産されていたことを踏まえると、キャッサバを使った焼酎の生産も可能でしょう。しかしながら、ロスパロス地区のある村で採取した水の硬度は200を越えており、石灰質を多く含むことがわかりました。この硬度は、人体に影響を及ぼほど高いため、採取された水をそのまま利用することができません。一方で、ココヤシの実の内部には、滅菌され、かつ、糖分を含んだ水分(ココナッツジュース)を含んでいることから、これを酒作りに利用可能できます。

第3のメリットは、耐久性の高い容器です。従来のTuakは、雑菌や空気の混入、あるいは、気温の変化により味が劣化し、長期間の保存に耐えないという問題を孕んでいます。これに対してココヤシの実は、耐久性・密閉性が高く、保存容器として利用可能です。

デザイナの関心モデルからチームの関心モデルへ

第2回フィールドワーク後のチームとしてのデザイナの関心モデル(ver1.1)は図5のように修正されました。各デザイナの関心として「現金収入獲得」「人材育成」「公衆衛生」「資源の最大活用」が立ち現れました。これらの関心を満たすソリューションとして、ココヤシを用いたお酒作りキットという仮説が立ち現れました。現金収入獲得という関心はデザイナ(筆者)の関心(ver.1.0)から継承した関心ですが、それ以外の関心は、ブレインストーミングを通じて、チームの各メンバに立ち現れたものです。

図5:第2回フィールドワーク後のチームの関心モデル(ver1.1)

まとめ

今回は、構造構成主義的プロダクトデザイン手法の実践の第3回として、ラウテム県ロスパロス地区への第2回フィールドワークを題材に、「フィールドの概念抽出および現象マッピング」「ソリューションモデルの再構築」「プロジェクトの関心モデルの構築」のプロセスについて説明しました。

構造構成主義的プロダクトデザイン手法は、フィールドの複雑性の構造的な理解、ならびに、デザイナとユーザとしての現地人の信念対立の解消を実現することを目的とし、「デザイナの関心モデルの構築」、「フィールにおける概念抽出および現象マッピング」、「ソリューションモデルの構築」という3つのステップを通じて、BOPにおける創造的な問題発見/設定だけではなく、創造的な問題解決方法までを同時に担保する非常に強力なデザインツールです。本手法の強みは、Ideationプロセスに存在し、すでに第18回において、本手法の限界として触れたように、仮説構築から問題解決まで、本手法は、特長的なツールを提供していません。

次回より、ソリューションモデル構築以後の「プロトタイピングと現地テスト」として、コンセプトモデル、第1回ユーザテストついて述べます。なお、「プロトタイピングと現地テスト」のステップでは、構造構成主義的インタビュー設計法以外、本デザイン手法を用いていません。しかしながら、仮説構築から問題解決までのプロセスにおいて、プロトタイピングと現地テストの重要性を強調するために、掲載することとしました。

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実践 – 東ティモールへの第1回フィールドワーク

前回より、ソーシャルイノベーションのための構造構成主義的プロダクトデザイン手法の実践について紹介をしています。前回は、実践の第1回として、私の参加した米国NPOコペルニク主催の、途上国の課題を解決するプロダクトを開発することを目的としたSee-D Contestのプログラムである東ティモールへのフィールドワークを題材に、事前調査からデザイナの関心モデルの構築、そして、インタビュー項目決定までの流れを説明したしました。

今回は、私自身が参加したボボナロ県への第1回フィールドワークを題材に、「フィールドの概念抽出および現象マッピング」「ソリューションモデルの構築」のプロセスについて説明をいたします。

第1回フィールドワーク

第1回フィールドワークは、2010年8月12-15日の期間にて行われました。第1回フィールドワークのエリアは山岳地帯のボボナロ県[1]でした。ボボナロ県は、東ティモールにある13県のうちの一つで、人口は9万3787人(2008年)、6つの地区(アタバエ、バリボー、ボボナロ、カイラコ、ロロトイ、マリアナ)が存在します。第1回のフィールドワークでは、ボボナロ地区(図1)とマリアナ地区(図2)を訪問しました。以下では、まず第1回フィールドワークのスケジュールについて説明したいと思います。

[1] ボボナロ県

 

図1. ボボナロ地区

図2. マリアナ地区

8月12日

早朝にインドネシア・バリのホテルに集合後、デンパサール空港へ移動し、東ティモール行きのフライトに搭乗いたしました。デンパサール空港からディリ国際空港までは約2時間。現地には13時頃到着いたしました。到着時の気温は28℃、湿度75%とかなり蒸し暑かったのですが、マラリア対策のため長袖は欠かせません。世界銀行勤務の現地コーディネーターとおちあい、レンタカーと携帯電話を借りた後、スーパーへ立ち寄り、水や蚊帳等を買い出しました。ディリ市内の食堂で昼食後、山中を移動し、17時ごろ東ティモール大学工学部へ到着。日本にも留学経験のあるProf. Marphinに構内を案内していただきました。ここには日本のNGOなどから寄付された多くの工作機械(写真01)がありました。日没後、ボボナロ地区へ向けて出発したのですが、途中の山中で豪雨に遭遇し、予定よりもかなり遅れて22時半頃ようやくマリアナ地区へ到着し、急遽コーディネータの親戚の家に宿泊しました。この家庭は父親(コーディネータの叔父)がNGOに勤務していることから比較的裕福で、電気も引いてあり、子供らはPS2で遊んでいました。とはいえ、家そのものの構造は非常にシンプルで、屋根はトタンで壁はブロックでした。

写真01. 東ティモール大学工学部

8月13日

庭で放し飼いされている闘鶏用の雄鶏が夜中叫びっぱなしで夜明けに目が覚めました。朝食を頂いたのち、コーディネータの叔父にインタビューを行いました。その後、別のNGO職員の方が来訪され、インタビューを行いました。昼前に親戚の家を離れ、途中でガソリンを入れた後、ボボナロ地区へ向かいました。ボボナロに到着後、食堂で昼食を採り、14時頃から、医療センターにて現地の医師にインタビューを行いました。東ティモールに居る医者の多くはキューバより派遣されてきた医者が多いそうです。15時過ぎから、ボボナロ地区の行政区オフィスにて、行政長官(写真02)にインタビューを行いました。インタビュー終了後、17時頃から中心街を散策し、18時頃にはコーディネータのボボナロの親戚の家に到着し、夕食を頂きました。マリアナ地区と比べてボボナロ地区/ボボナロは、無電化の状態に近く、ソーラーランタンの明るさ以外はほぼ闇でした。無電化の状態では、180度近くまで星で敷き詰められた夜空を見渡すことができました。

写真02.行政長官

8月14日

寝泊まりしていた家はトタン屋根のため放射冷却がひどく、早朝あまりの寒さに目が冷めました。気温も確認したところ室温が19℃程度まで下がっていました。この日は、月に1度のバザールの日ということで、6時頃から10時頃まで道の左右に延々と簡易的な店がオープンしていました。周辺の村から来た店は80店舗、お客さんは1000人以上はいたようです(写真03)。バザールの後、市内の外れにある最低所得エリアと呼ばれている場所に移動し、そこに住む家族にインタビューを行いました。旧日本軍はこのエリアまで来ていたらしく、彼らが使っていた貯水漕を見せてくれました。その後、コーディネータの親戚の家で昼食を頂き、隣のグマ村へ移動しました。グマ村は70家庭程度の小さな村落で、村長はコーディネータの親戚でした。村長へのインタビューを行ったのち、いくつかの民家へ移動し、村の人々へインタビューを行ったり、畑や家畜を見せてもらったりしました。村の集会場をベースに活動していたのですが、村のこどもたちが物珍しさか全員集まってきました。お土産代わりに持参したポラロイドで撮影したり、折り紙で遊んだりしました。

写真03.バザールに集まった人

8月15日

4時頃起床し、片付けを行った後、車にてディリへ向かいました。往路は深夜かつ豪雨でしたが、復路は快晴で、綺麗な景色を眺めながらの快適なドライブでした。ディリにて少し時間の余裕があったためホテルに立ち寄り3日ぶりにビールを飲みました。フライトは14時の予定でしたが、デンパサールからの到着が遅れており、いつ出発できるかわからないと言われました。ちなみに遅延に関する構内アナウンスなどはなく、ブラウン管のディスプレイに一応delayと表示されているのみでした。空港には野良無線があったので、ちゃっかりtweetしておきました。仕方がないので、海岸近くでランチを取り、ビーチでしばらくのんびりして、最終的に現地時間で21時頃ようやく出国することができました。

写真04.東ティモール国際空港

第1回フィールドワークには、2つの制約が存在しました。第1に、調査場所の制約が挙げられます。調査場所は、東ティモールのマリアナ地区、ボボナロ地区、グマ村の3つの山岳エリアであり)、この3エリアにおいて、村人、NGO職員、行政地区長などに対してインタビューを行いました。これらは私が関心相関的にサンプリングした場所と人ではなく、ワークショップ主催者や現地コーディネータが関心相関的にサンプリングした対象です。第2に、言語の制約が挙げられます。これらの3エリアに住む人々は、日常生活では、テトゥン語、もしくは、ボボナロ語を用いています。したがって、インタビュイーはテトゥン語、もしくは、ボボナロ語での回答を行います。インタビュアー兼通訳は、私らが英語にて伝えたインタビュー項目を現地語に翻訳し、質問を行いました。また、質問内容に関するインタビュイーからの回答についても、通訳を介して現地語から英語に翻訳してもらった上で、私たちに伝えられる必要がありました。

このような制約条件は、コンテストのプログラムの性質上避けては通れない制約といえます。しかしながら、前者については、一人で自由に行うフィールドワーク以外には避けて通れない制約です。また、後者については、途上国の多くの地域では、英語が通じる場合は少なく、インタビューにおいて、通訳の意図が少なからず介入することはインタビュアーである我々が考慮に入れておかなければなりません。その上で、質問内容を工夫する必要があります。同時に、インタビューに依存しない注意深い観察も生活習慣や価値観を理解する上では欠かせないプロセスと言えるでしょう。

以下に、第1回フィールドワークのために用意した関心相関的インタビュー項目(表1)と、フィールドノートの抜粋(表2)を示します。フィールドノートについては、なるべくインタビューの直後、遅くとも同日中に、記憶が鮮明な状態でまとめることが重要です。ここでは気づき(分析)は必要なく、あくまで収集したデータを綿密にまとめることを心がけましょう。また、フィールドで得た統計データ、インタビューイーの意見、インタビュアーの意見、観察項目を区別して記述することが望ましいです。ボイスレコーダも、インタビュー用と、自分の意見用に2つ用意するとテクスト化の際に区分しやすいでしょう。また、フィールドノーツには適宜、関連する写真を追加することで、記憶のオフロードに役立てることができるでしょう[2]。なお、今回のフィールドワークでは、私は、フィールドノーツの作成にiPadを利用しました。これは、軽量かつ長時間の駆動が可能であるためです。

[2] 東ティモールでの写真

表1. 関心相関的インタビュー項目

生活について

  • お金を稼ぐ手段は何ですか?
  • 農業の場合、何をつくっていますか?
  • 農業の場合、なぜそれを作っていますか?
  • (それ以外) なぜそれを選択しましたか?
  • 教育は何年間受けましたか,それはどういう内容でしたか?
  • 何が豊富にありますか?
  • 現在使っているテクノロジーについて教えて下さい。
  • システムについて

  • 家族制度について何か特徴的なことがあれば教えて下さい。
  • 村の制度について何か特徴的なことがあれば教えて下さい。
  • 身分制度について何か特徴的なことがあれば教えて下さい。
  • 運搬システムはどのようなものがありますか?
  • 移動システムはどのようなものがありますか?
  • 価値感について

  • あなたにとって大切なものは?
  • あなたが楽しいと思うことは何ですか?
  • あなたがつらいと思うことは何ですか?
  • 将来何をしたいですか?
  • 今の生活に満足していますか?
  • 表2. フィールドノーツ(抜粋)

    日時:8月12日マリアナ地区
    インタビュイー:コーディネータの叔父

    — 現金収入について(抜粋)

    Q. どうやって穀物を売っているのか?
    商品は、ボボナロだと、ナッツ、ポテトがメインで、マリワナだと米、コーンがメイン。
    NGOが買い手で、コンタクトをとると回収にきてくれる。
    NGOはそれをさらにイナカの農村に配布する。
    会社が買ってくれる場合もある。

    Q. その他の現金獲得手段は?
    NGOで働く。
    動物を売る。

    Q. 現金を何に使うか?
    1. 家族
    結婚や葬式。
    家族はextended familyで非常に大きく、家族内で現金の移動がある。
    動物を買う。

    2. 教育
    高校まで学校は無料、ただし公立のみ。
    公立のレベルは高くなく、私立が高い。
    買うのは、ユニフォーム、靴、教科書、ノート、鉛筆。
    ただし図書館はない。
    教科書は学校が一括して購入し、学校がこどもらに販売する。
    教科書自体はすごく薄い。
    小学校1-2年性、3-5月で20ページくらい。
    言語はポルトガル語とテトゥン語。

    言語は結構大きな問題になっている。
    先進国のNGOは英語。
    公的機関はポルトガル語。
    家庭はテトゥン語。
    # identity問題が生じる
    英語は中学校から。英語を学ぶとNGO関係の仕事につける。

    フィールドの概念抽出および現象マッピング

    さて、第1回フィールドワークからの帰国後、フィールドノーツをもとに、東ティモールにおける現象マップを作成しました(図3)。各現象をもとに概念化を行った結果、「健康上の問題」「低い公衆衛生観念」「原始的な燃料」「原始的な家の構造」「保守的な農業への姿勢」「豊富な作物」「家族中心の文化」「少ない産業」「少ない現金収入」「非効率な運搬方法」「原始的な運搬システム」「雨季と乾季の差」「地形の複雑さ」「教育の格差」「低い教育水準」「少ない娯楽」の16概念が抽出されました。さらに、これらの概念をもとにカテゴリ化を行った結果、「衛生」「住居」「農業」「価値観」「産業/仕事」「運搬」「気候/風土」「教育」の8カテゴリが抽出されました。これらの概念を用いてソリューションモデル(ver1.0)を構築します。

    図3. 第1回フィールドワークに基づく東ティモールの現象マップ
    各現象から抽出された概念と、概念同士をまとめるカテゴリを用いて、現象マップを作成します。なお、各概念に連なる現象のうち、四角で囲んだものはインタビューに対する回答を指し、囲まれていないものは観察に基づくコメントを指します。

    ソリューションモデルの構築

    第1回フィールドワークを通じて制作されたフィールドノーツから、概念抽出および現象マップを構築するプロセスで得られた概念をもとに、ソリューションモデル(ver.1.0)を構築しました(図4)。まず、解決すべき問題として、デザイナの関心モデルとフィールドにおける現象を踏まえ、関心相関的に「少ない現金収入」に着目しました。そのための解決手段として、「現地に豊富に存在する作物を用いた現金収入獲得のための手工芸」を仮説として設定しました。具体的には、家内制手工業として、現地に豊富に存在する竹やバナナを用いて、容器・カゴ、家の建材を制作します。本仮説は、家内制手工業を前提とし、家族で取り組むことができるため、家族中心の文化という彼らの関心と矛盾しません。また、本仮説は、農作業の方法それ自体を根本的に変化させるプロダクトではないため、保守的な農業への姿勢をもつ彼らの関心と矛盾しません。

    図4. 第1回フィールドワークに基づくソリューションモデル
    ソリューションモデル(ver.1.0)は、私が単独で構築したモデルにすぎず、あくまでフィールドワーク後に私の所属するチームにおける1つの仮説に過ぎません。

    このような仮説は、立ち現れた概念に含まれる課題としての現象を、直接的ないし間接的に解決可能であることが望ましいといえます。例えば、容器・カゴを作ることで、「非効率な運搬方法」を解決でき、「原始的な運搬システム」の改善にもつながります。また、家の建材を製造することで、「原始的な家の構造」を解決でき、健康上の問題解決にもつながります。一方、間接的に解決が可能な現象として、現金収入向上により、教育への再投資が可能となることから、「教育の格差」、「低い教育水準」が解決できます。また、TVや本などに対する投資が可能となることから、「少ない娯楽」を解消できます。さらに、「雨季と乾季の差」に注目した場合、雨季には通常の農作業ができないという課題を踏まえた上で、手工芸を行う期間を雨季の期間で重点的に分布させることで、多角的な収入獲得手段の確保が可能となるでしょう。

    なお、ソリューションそれ自体をフィールドワークで得た現象だけを用いて構築しようとすると、得てして卑近なコンセプトを構築してしまいがちです。それは、何をデザインするか(対象)までは特定できても、どのようにデザインするか、といったレベルのアイディアをフィールドワークに求めてしまった場合に必ず起きる現象です。このような現象を避けるためには、アプローチについて創造のジャンプを施す必要があります。創造プロセスにおけるジャンプについては、ジェームス・W・ヤングの『アイディアの作り方』に代表されるアイディアの組み合わせ、多様性を確保したチームによってなされるブレインストーミング、さらには、天才のひらめきに依存するジーニアスデザインなど様々ですが、デザイナの関心モデルを構築する過程で構造化された自身の技術的、思想的な関心とフィールドワークで得られた概念を活用してコンセプトを構築することが重要であると考えられます。

    まとめ

    今回は、構造構成主義的プロダクトデザイン手法の実践の第2回として、私自身が参加したボボナロ県への第1回フィールドワークを題材に、「フィールドの概念抽出および現象マッピング」「ソリューションモデルの構築」のプロセスについて説明をいたしました。

    次回は、ラウテム県ロスパロス地区への第2回フィールドワークを題材に、「フィールドの概念抽出および現象マッピング」「ソリューションモデルの再構築」「プロジェクトの関心モデルの構築」のプロセスについて説明をいたします。第2回フィールドワークでは、第1回フィールドワークをもとに構築した仮説をもとに関心相関的に構築したインタビュー項目を用いてインタビューを行うことになります。この段階では、何をデザインするかというデザイン対象の検証を行うことを目的としています。

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    構造構成主義的プロダクトデザイン手法

    前回は、モデル構築がその研究の目的である場合においてSCQRMに採用されている分析ツールである、M-GTAについて、前身となるGTAについて説明したのち、具体例を示しながらその分析プロセスを紹介をいたしました。M-GTAの分析プロセスは、まず、文字おこしを行い、データ化したテクストの中から、キーワードを見つけ、キーセンテスを引いていき、これらに名前を付け(概念化)、次に、概念のまとまりごとに対して、見出しをつけてテクストを構造化し(カテゴリ化)、さらに、抽出された概念やカテゴリの関係を捉えて暫定的な全体像やモデルを素描する(理論化)というものでした。また、実際にM-GTAを用いて分析を行う場合に手続きとして作成する、分析ワークシートについて説明を行いました。

    今回は、構造構成主義を理論的背景として、そして、構造構成主義に基づく研究法のひとつとして臨床心理学などの分野で用いられている構造構成主義的質的研究法(SCQRM)をもとにして構築された、ソーシャルイノベーションのための構造構成主義的プロダクトデザイン手法について説明をいたします。

    まず、構造構成主義を採用した元来の目的との関連から、BOPというフィールドへの従来のデザイン手法の適用とその限界について再度確認しておきましょう。従来のデザイン手法は、グローバル市場におけるプロダクトデザインに特化したものであることはすでに説明いたしました。したがって、BOPという特殊性を持った特定のフィールドに対して最適化されたプロダクトを作るという目的に対して、従来の手法が最適ではないため、新たな手法を構築する必要があると説明いたしました。さて、ここで検討しなければならないBOPの特殊性とはどのようなものであったでしょうか?

    フィールドのごとの複雑性

    第1の特殊性は、”フィールドのごとの複雑性”でした。先進国向けのプロダクトの場合、具体的かつ詳細に渡るペルソナおよびシナリオを策定したしても、先進国に存在しそうな一般化されたユーザに関連したものに陥らざるを得えません。iPodを例に出した場合、結局どこの国にでもいそうな音楽好きのユーザをもとにしたペルソナとシナリオが策定されます。このような現象は、グローバル市場で展開することを目的とした製品というデザイン上の制約条件に基づき、最大公約的な解に対する強い関心が存在するために立ち現れます。しかしながら、BOPの場合、プロダクトを導入しようとするフィールドごとに言語、文化、宗教が細分化されているだけではなく、近代化の度合いの違い、さらには、伝統的な価値観と近代的な価値観から生まれる矛盾など、あるプロダクトが受け入れられるためにデザイナが考慮すべきパラメータに限りがありません。このパラメータの数は、画一化されたグローバル市場向けのプロダクトにおいて考慮すべきパラメータと比較した場合、飛躍的に増加するでしょう。このようなフィールドの複雑性を踏まえた上で、そのフィールドを構造的に理解するアプローチが必要とされています。

    関心の対立構造

    第2の特殊性は、”現地人の関心とデザイナの関心の対立”でした。先進国向けのプロダクトの場合、ペルソナやシナリオなどのユーザモデルに関する手法を用いる理由の一つとして、デザイナの関心とユーザの関心の乖離を少なくさせるという効果が挙げられます。しかしながら、これは、先進国内での関係性であるため、原理的に両者の間で関心の極端な乖離は生じにくいと考えられます。一方で、BOPの場合、先進国のデザイナと現地のユーザとの関係性において、それぞれの関心を的確に把握し、両者の信念対立を回避することが求められます。これは、デザイナの欲望や関心のみを現地人に押し付けた場合、現地人の関心にあったプロダクトが開発されることなく、結果、誰もそれらを使わず、ゴミと化してしまうなどといった不幸を招きがちであるためです。一方で、デザイナが現地人のニーズだけに注目し、彼らの水準にあわせたプロダクトを作るだけでは、デザイナのモチベーションの低下につながります。このような両者の関係性を踏まえた上で、デザイナと現地人が互いの関心を満たすことのできるプロダクトを構築可能、かつ、両者の持続的な関係を構築可能なアプローチが必要とされています。

    ソーシャルイノベーションのための構造構成主義的プロダクトデザイン手法

    筆者の構築した、ソーシャルイノベーションのためのプロダクトデザイン手法は、
    – フィールドの複雑性の構造的な理解
    – デザイナとユーザとしての現地人の信念対立の解消
    というBOPをフィールドとするプロダクトデザインにおける「目的」に照らし合わせ、構造構成主義をアプローチとして導入しています。具体的には、構造構成主義における関心相関性、哲学的構造構成、科学的構造構成(以上第15回)を理論的背景に、SCQRMにおける関心相関的構造構成法(第17回)をデザインプロセスに導入し、これらの解決を目指しています。

    一般にデザインプロセスは、調査を通じて問題発見・問題定義を行う問題発見プロセス、設計、プロトタイピング、評価を繰り返し行う問題解決プロセスに区分されます。構造構成主義的プロダクトデザイン手法は、これら2つのプロセスをカバーするものですが、主たる特徴は問題発見プロセスにあります。具体的な特徴として「デザイナの関心モデルの構築」、「フィールにおける概念抽出および現象マッピング」、「ソリューションモデルの構築」という3つのステップがデザインプロセスに組み込まれています。以下では、それぞれについて説明を行い、構造構成主義的プロダクトデザイン手法の全体像を示します。

    デザイナの関心モデル構築

    第1のステップは、「デザイナの関心モデルの構築」です。このプロセスでは、M-GTAの手法を用いて、デザイナの関心を構造化します。そして、デザイナがなぜその関心を持つに至ったか、あるいは、プロジェクトがそのような関心を持つに至ったかを還元的に考察します。具体的には、各国、国連等の調査に基づく統計データ、写真の静的データを用いて、あるいは、書籍、論文等から得たデザイナ自身の思想的背景を踏まえ、デザイナがどのような関心に基づいて、どのような問題意識を抱いているかについて、その構造を明らかにします。このプロセスは、フィールドワークの前段階に行う必要があり、構築された関心モデルを用いて、関心相関的にフィールドワーク時の観察の対象、ならびに、インタビューの質問項目等を決定していきます。

    図1. デザイナの関心モデルのサンプル

    また、複数のデザイナが存在する場合、複数の関心が存在します。たとえば、金銭的成功、自らのスキルの自己顕示、先進国の持つ技術力による問題解決、人間としての慈善活動など、それぞれのデザイナによって様々な関心が想定されます。この場合、それぞれの関心を明らかにした上で、各デザイナの合意を形成しつつ、最大公約的な解をもたらす関心モデルを構築することが望ましいでしょう。

    フィールドにおける概念抽出および現象マッピング

    第2のステップは、「フィールドにおける概念抽出および現象マッピング」です。第1のステップにて、”デザイナの関心”に基づくモデルが構築されました。これに対して、第2のステップは、フィールドを構造化し、”現地人の関心”を構造化するためのステップです。したがって、本ステップは、第3のステップにおいてデザイナの関心と現地人の関心との信念対立を回避するためのソリューションモデルを構築するために、重要なステップとして位置づけられます。

    構造構成主義的プロダクトデザイン手法においても、ボトムアップに問題発見、仮説構築を行うことを目的としているため、関心相関的構造構成法と同様に、M-GTAを分析の枠組みとして採用しています。まず、フィールドワークにでかけ、第1のステップで構築された関心モデルに基づき、関心相関的に作成されたインタビュー項目や観察項目を用いて、データを採取します(関心相関的データ構築)。次に、インタビューを通じて得られた音声データのテープおこしを行い、テクスト化します(関心相関的テクスト構築)。このとき、観察データとしての写真データを利用する場合、事実に基づくキャプションと意見に対するキャプションを区別して付加しておく必要があります。続いて、類似部分を具体例(バリエーション)として収集し、これらについて概念名をつけ(概念抽出)、いくつかの概念を包括するカテゴリを作成していきます(関心相関的ワークシート作成)。さらに、構造構成主義的プロダクトデザイン手法では、フィールド全体を把握するために、カテゴリ、概念、バリエーションをマップ上に可視化します(現象マッピング)。この段階では概念ごとの関係性を構造化する必要はなく、シチュエーションが全体性をもって把握できる状態になっていることが最も重視されます(シチュエーションマッピング)。

    図2. 現象マップサンプル

    なお、第1のステップで構築したデザイナの関心モデルのもととなるデザイナの関心は、フィールドワークから現象マップ作成までのプロセスの中で変化する可能性あります。この場合、必要に応じて関心モデルを修正しましょう。

    ソリューションモデルの構築

    第3のステップは、「ソリューションモデルの構築」です。第1のステップで構築された「デザイナの関心モデル」と、第2のステップで抽出された「概念」をもとに問題発見、および、発見された問題に対する仮説生成までを含めた「ソリューションモデル」を構築します(関心相関的理論構築)。このステップは、デザイナの関心と現地人の関心をモデルの中に明示的に組み込むことで、仮説段階で信念対立を回避することを目的としています。

    まず、デザイナの関心と現地人の関心を踏まえたうえで、第2のステップにおいて抽出された概念同士の関係性を用いて、解くべき問題を同定します。そして、同定した問題に対する仮説としてのソリューションを構築します。また、抽出された概念同士の関係性を明示的にモデルに組み込み、フィールドの全体構造を示します。このプロセスを通じて、提案する解決法を導入することによって生み出される効果ならびに影響の認知が、プロジェクトメンバを含む閲覧者にとって容易になります。なお、ここで一度構築されたモデルは、あくまで暫定的なモデルにすぎず、フィールドワークや現地テストを繰り返すことによって、その都度変化するものと考えてください。

    図3. ソリューションモデルサンプル

    プロトタイピングと現地テスト

    以上の3つのステップを繰り返し、ある時点での最終的な(暫定的な)、ソリューションモデルを構築(更新)したのち、考案した仮説にもとづいてプロダクトの設計を行い、プロトタイプの開発を行います。このときデザイナだけではなく現地人の関心に基づいた適切な技術を選択する必要があります。なお、本プロダクトデザイン手法は、問題発見、および、仮説生成を目的としているため、実際のプロダクトのクオリティそのものを担保しません。したがって、プロダクトのクオリティそれ自体は、デザイナの創造性に強く依存することとなります。

    プロトタイプ開発後、プロトタイプを現地に持ち込み、現地テストを行います。現地人に実際に使用してもらうことで、現地人からのフィードバックを得ることが目的です。このとき、ソリューションモデルの更新を行うための新たな現象が立ち現れます。これら一連のプロセスを数度繰り返すことによって、現地のニーズに適したプロダクト、サービス、システムを構築することができます。

    議論

    最後に、構造構成主義的BOPプロダクトデザイン手法の制約条件について議論しましょう。第1のポイントは、通訳の恣意性です。具体的には、通訳の意図が介入するため、データとしての信頼性が損なわれるという批判があります。BOPの場合、フィールドワーク先の母国語が英語である可能性は低く、英語および現地語を話す通訳を雇い、現地語から英語へ翻訳する必要があることに依拠する批判と言えます。しかしながら、これは原理的に中立なインタビュアーが存在するという客観主義に基づいた批判にすぎません。本来、インタビュアーならびに通訳が中立であるということは原理的に不可能です。この点について、構造構成主義は、構造化にいたる諸条件を積極的に開示することで、科学性を担保するという立場に依拠しています。本ブログにおいても、インタビュアー、インタビュイーの諸条件を明示的に記述することで、科学性の担保を試みています。

    第2のポイントは、本手法の有効範囲です。具体的には、構造構成主義的BOPプロダクトデザイン手法は、仮説生成のためのヒントを与えるにとどまり、問題解決方法における跳躍までを網羅しないという批判です。本研究の目的は、BOPを対象としたプロダクトデザイン手法の構築であり、本手法は、対象となるフィールドの構造を明らかにした上で、問題を同定し、仮説生成を行うまでのプロセスを中心とする手法です。仮説生成のためのモデル構築が中心となるため、関心相関的にM-GTAを分析ツールとして採用しています。これに対して、問題解決方法における跳躍を主目的とするならば、この目的を実現するためのツールを関心相関的に選択し、本デザイン手法を関心相関的に修正すればよいでしょう。

    まとめ

    今回は、まず、ソーシャルイノベーションのための構造構成主義的プロダクトデザイン手法を紹介するために、再度、BOPのフィールドに既存のデザイン手法を適用する際の問題点を説明をいたしました。そして、実際のデザイン手法として、「デザイナの関心モデル構築」「フィールドの概念抽出および現象マッピング」「ソリューションモデルの構築」の3つのデザインプロセスについて、構造構成主義、および、SCQRMとの関連性を踏まえつつ、説明をいたしました。

    BOP向けのプロダクトを構築する際、単にデザイナと現地人の関心を満たしつつ現地の問題を解決するプロダクトを開発するだけではなく、プロダクトを通じてデザイナと現地人が新たなカルチャーを共創するようなプロダクトを開発することで、現地の持続可能な発展に対する貢献が可能となると考えられます。実際には、プロダクト、サービス、社会システムを普及させるために必要な人材に対する教育を実施するための仕組みづくりや、プロダクトを生産するための現地協力者の捜索なども、プロダクトを普及させるにあたって重要な要素となります。しかしながら、本デザイン手法は、ソーシャルイノベーションのためのプロダクトをデザインすることを目的としているため、これらの課題は、本手法の適用範囲を超えるものと考えられます。強いて言えば、関心相関的にこれらの課題に対して有効なその他の手法を組み合わせることによって、解決することが望ましいでしょう。

    次回より、今回説明した構造構成主義的プロダクトデザイン手法の実践として、実際に参加した東ティモールへのフィールドワークをケーススタディとして引用しつつ、そのデザインプロセスの具体的な説明をいたします。

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    モデル構築手法としてのM-GTA

    前回は、構造構成主義を超メタ理論(超認識論)とするメタ研究法である、構造構成的質的研究法(SCQRM)を紹介いたしました。SCQRMは、関心相関性を中核とし、11の関心相関的アプローチ[1]を備えていました。また、SCQRMでは、関心相関的存在論-言語論-構造論によって、構造構成的-構造主義科学論という科学論と、関心相関的構造構成法といった方法枠組みが基礎づけられています。このようなSCQRMは、モデル構築がその研究の目的である場合において、関心相関的選択に基づき、M-GTA(Modified Grounded Theory Approach/修正版グラウンデッドセオリーアプローチ) を分析ツールのひとつとして採用しています。

    [1]関心の探索的明確化、関心相関的継承、関心相関的選択、関心相関的サンプリング、関心相関的調査(質問)項目設定、関心相関的方法(方法概念・研究法)修正法、関心相関的構造(理論・モデル・仮説)構築、関心相関的報告書(論文)構成法、関心相関的プレゼンテーション、関心相関的評価、関心相関的アドバイス)

    今回は、M-GTAを用いたデータ分析手法ついて紹介いたします。M-GTAは、第13回で説明したように、グレイザーとシュトラウスによって提唱されたGTA(Grounded Theory Approach/グラウンデッドセオリーアプローチ) を木下が修正を施した分析手法です。まず、研究者(観察者) の問いを明らかにした上で、インタビューや観察を行ない、その結果を書き起こしたテキストを分析し、最終的にデータに立脚した(データにグラウンデッドな)仮説や理論を構築します。テキスト分析のプロセスでは、研究者は、研究者の注意を引くキーワードやキーセンテンスをコード化し、データ化します。そしてデータを構造化し、概念やカテゴリなどの関係を捉え、暫定的なモデルを構築します。

    以下では、グレイザーとシュトラウスによって提唱されたGTAの手法とその限界について再度説明したのち、M-GTAを用いた分析プロセスについて、引き続き『質的研究とは何か – SCQRMベーシック編(以下、basic』『質的研究とは何か – SCQRMアドバンス編(以下advance)』をもとに、具体例を示しながら説明をいたします。

    グラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)

    GTAは、フィールドに密着して得られたフィールドデータをつきあわせながら、帰納的に(個々の具体的事例から一般原理・法則を導きだす考え方で)まとめていき、現場の問題を解決するための有効な理論の発見を行う方法論です。実際のGTAの一般的なプロセスは、以下の5つのプロセスで構成されます。

    1. インタビューや観察からフィールドノートを作る.

    2. 主観を排除し,可能な限り客観的にデータを切片化する.

    3. 切片化されたデータを付きあわせて,共通した意味のものをまとめ,簡潔なラベルをつける.また,似たラベル同士をまとめ,上位概念となるカテゴリを作り名前をつける(Open Coding / オープン・コーディング).

    4. コードやカテゴリ同士の関連性を帰納的,演繹的に明らかにする(Axial Coding / 軸性コーディング).

    5. 主となるカテゴリを選択し,他の複数のカテゴリとの関連性を明らかにする(Selective Coding / 選択的コーディング).この時,何が起きたかについて1つのストーリーラインを構築する.

    このようなオリジナル版GTAの手法について、木下は「実際のデータ収集と分析、特にコーディング方法に関して明確に示されていない」という限界を指摘し、M-GTAを提案しました。木下はGTAに対する課題点の克服として以下の3つを挙げています。

    1. コーディング方法の明確化.
    実際に活用しやすく,かつ,分析プロセスが他の人にも理解しやすいという両方の条件を満たすものを提案する.

    2. 意味の深い解釈.
    データが有している文脈性を破壊せずに逆に重視し,切片化してラベル化から始めるのではなく,意味の深い解釈を試みる..

    3. 60年代の限界と近年の質的研究動向に対する独自の認識論.
    研究をデータ収集段階,データ分析段階,分析結果の応用段階の3段階に分け,それぞれの段階において,研究する人間を他者との社会関係に位置づけている.これは,社会的活動としての研究の視点を強調するものである.

    修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)

    GTAと同様にM-GTAも、テクストに基づいてデータにグラウンデッドに概念生成を行うという基本的な考え方を継承しています。

    M-GTAの分析プロセス

    具体的な分析プロセスは、まず、文字おこしを行い、データ化したテクストの中から、キーワードを見つけ、キーセンテスを引いていき、これらに名前を付けます。これを”概念化”と呼びます。概念は、M-TGAにおいて一番基礎となる単位です。例えば、内省レポートに関するグループディスカッションから、「自己理解の促進」「考えるきっかけ」「他者理解の促進」「内省ポイントの増加」といった概念が抽出されます。次に、概念のまとまりごとに対して、見出しをつけてテクストを構造化していきます。これを”カテゴリ化”と呼びます。例えば、先ほど挙げた4つの概念の上位項目として、「内省レポートの効用」といったカテゴリが抽出されます。さらに、抽出された概念やカテゴリの関係を捉えて暫定的な全体像やモデルを素描します。これを”理論化”と呼びます。

    このようなM-GTAは、西條によれば、「”動的な構造化”を目指す分析手法である」と言えます。動的な構造化とは、図で言うところの矢印を書くというプロセスを指します。すなわち、特徴を列挙するといったことではなく、現象ごとの影響関係、行動推移のパターン、システムの変化など、何らかのプロセスを捉えて構造化していくことを意味しています。

    図1. 内省レポートに関する暫定モデル (ver.1.0)

    『SCQRMベーシック編』では、インタビューを実施する前に、学生同士でディスカッションを行った結果に基づいて、内省レポートに関する暫定モデル(ver1.0)を構築しています。そして、関心相関的サンプリングにもとづき、内省レポートに対して、「肯定的な人」「否定的な人」「中間にいそうな人」をインタビュイーとして設定すべく、過去のレポートなどを参照して話し合い、典型的な人を選択しています。インタビュイーが決定したのち、関心相関的質問項目設定法に基づき、質問項目を設定しています。ここでは、「実習生は内省レポートについてどのような体験をしているか」というリサーチクエスチョンに照らし合わせて、質問項目を考えています。以下に質問項目を引用したします(basic, p.117)。

    内省レポートに関する質問項目案

    1. 当時の内省レポート体験に関する質問(当時の体験を語ってもらう)
    ・内省レポートはどのような体験だったか。
    ・内省レポートを実際どのように書いていたか。
    ・それについてどのように感じていたか。
    ・それは最初と中期と最後に至るまで変化があったか。
    ・内省レポートに関して、特に印象部会ところを挙げるとしたら何か。

    2. 今から振り返ったときの内省レポートの意味を明らかにする質問。
    ・今となって内省レポートはどのような意味をもつか。
    ・もし修士1年に戻って内省レポートをやるとしたらまたやりたいか。
    ・今になって思う内省レポートの長所や問題点はあるか。
    ・教員になったら内省レポートはどのようなかたちで実施したいと思うか。
    ・内省レポートに改善すべき点はあるとおもうか。

    分析ワークシートの作成法

    理論化までのプロセスはすでに説明いたしましたが、実際にM-GTAを用いて分析を行う場合、手続きとして”分析ワークシート”を作成します。M-GTAでは、テキスト(ローデータ)から概念やカテゴリを生成するまでの分析プロセスに、分析ワークシートを導入することによって、データに基づいて概念生成をしてきたということを担保しようと試みます。この分析ワークシートを作成する点が、他のGTAと比較して、M-GTA特有の手続きと言えます。

    表1. 分析ワークシート

    概念名
    定義
    ヴァリエーション(具体例)
    理論的メモ

    まず、概念名には、例えば「自己理解の促進」「見えない縛り」などといった概念を入れます。次に定義を行うわけですが、定義付けは後に回し、先にヴァリエーション、つまりその概念に当てはまりそうな具体例を入れていきます。該当しそうなヴァリエーションをテクストから分析ワークシートにコピーするなどして入力していきましょう。最後に理論的メモとは、他の概念との関係性や、気がついたこと、留意点、迷いなどをに関するメモを記載します。具体例を『SCQRMベーシック編』より引用いたしましょう(basic, p.165)。

    表2. 分析ワークシート 中田さん 「見えない縛り」

    概念名 見えない縛り
    定義 他者が自己の内省レポートを閲覧できることにより、書く内容が限定されること。
    ヴァリエーション(具体例) ・「なんか自分の中の深い葛藤まで書けなかったり」
    ・「(それは人が見るかもしれないから?)うーん、やっぱりでも、大きいのは、やっぱり他人が見るっていうのは大きいと思う。まぁ自由に書いていたと思うんですけど、そういうのがなかったと言えば嘘になるみたいな」
    ・「でも書かない時もありますよね。書こうかなと思ったけど、や、いいや書かないで、書かないほうがいいかなと思って。」
    ・「なんかあと私が書いているのって実はすごいつまらないことなんじゃんとか」
    ・「えー、と。内省レポートだか、なんかそんな”緊張する”とか書いても意味ないんじゃないかなーとか思ったり…」
    ・「他の人が読むのに、”あー、緊張する!”とか書いてもしょうがないじゃないですか…」
    ・「(緊張する!とか書けないのは、かっこ悪いから?)かっこ悪いというか、やっぱ建設的じゃないな、っていう感じがしているので…」
    ・「なんか、ブログはもっとこう、家のものみたいな…お家でやるものみたいな感じで、やっぱり、内省レポートは学校のものって感じが…する」
    理論的メモ ・他人に見られることによる心理的制約のこと。少なくとも建設的なことを書かなきゃいけないという縛りと深い葛藤を書けない縛りの2種類がありそうなので、概念からカテゴリーになると思われる。

    分析ワークシートを作成した後は、リサーチクエスチョンを常に意識して、理論を実際に構築していきます。『SCQRMベーシック編』では、関心相関的サンプリングに基づき、内省レポートに対して、「肯定的な人」「否定的な人」「中間にいそうな人」を選出し、インタビューを行っています。理論化のプロセスでは、これらのインタビュイーごとに個々のモデル(ver2.0)を構築しています(basic, p.192)。そして、内省レポートシステムの中核である「書くこと」と「読むこと」という2つの特性を中心に3つの個別モデルを統合し(ver3.0)(basic, p.203)、さらにこのモデルに、3つの個別モデルから色々な概念を追加し、モデル(ver4.0, 4.5)を洗練させていきます(basic, p.209)。最終的には、再度分析ワークシートの各概念を精査して、概念をしぼりこみ、最終的な改訂(ver.5.1)を行っています(basic, p.210)。

    図2. 実習生の内省レポート体験の改訂モデル(ver.3.0)

    図3. 実習生の内省レポート体験の改訂モデル(ver.5.1)

    M-GTAの理論的意義と限界

    最後に、M-GTAの理論的意義と限界について触れておきましょう(advance, p.118)。M-GTAは、データをいわば不確実性の中で作られるものとして捉えたことに加えて、分析の中心に、「研究する人間」を置いています。これは、研究する側に「主体性」を取り戻すための試みです。しかしながら、「研究対象の現実」というものを無条件に前提としており、「現実とは何か」ということを問い直してはいません。つまり、「研究対象となる複雑な現象とは何か」、といったことを含めて”存在論的考察”がなされていません。また、”言語的洞察”が欠けているという問題もあります。具体的には、「データは言葉である」として、数量的研究と質的研究が本質的に同じであると示す一方で、データが言葉である以上、「データとは何か」と問い直すためには、「言葉とは何か」、さらには、「現実と言葉の関係」を論じる必要が生じます。

    構造構成主義は、以上のようなM-GTAの持つ限界を理論的に補う超メタ理論として機能します。まず、構造構成主義は、「あらゆる認識論的立場の起点となる共通地平を設定する」という目的を達成するための方法概念として”現象”を置いています。次に、構造構成主義では、「存在」を、特定の身体構造、欲望、関心に応じて立ち現れる、「広義の構造」と位置づけています。そして、関心相関的に分節された「現象の分節」を、広義の構造と呼びます。これらから、「存在」は、「身体 – 欲望 – 関心相関的に分節された現象」(広義の構造)ということになります(関心相関的存在論)。また、構造構成主義は、ソシュールの一般言語学に基づき、コトバにおける恣意性に注目します。すなわち、コトバは、現象の分節に対して恣意的に付与された特定の「名」(シニフィアン)であり、「広義の構造」と同義であることを意味します(関心相関的言語論)。さらに、この言語論に基づき、構造構成主義では、理論(構造)は、関心相関的に構築されたもので、それがコトバでできている以上、恣意性は排除できないとの立場に依拠しています(関心相関的言語論)。

    関心相関的構造構成法

    前回の記事では、11の関心相関的アプローチ、および、関的存在論-言語論-構造論を中心にSCQRMを説明いたしました。しかしながら、現象から理論構築までのプロセスを担う”関心相関的構造構成法”は説明を意図的に省略していました。これは、M-GTAの説明をして初めてその全体像の理解が容易になると考えたためです。以下では、全体のプロセスについて図を用いながら説明をしていきましょう(advance, 181-185)。

    1. 関心の探索的明確化
    戦略的に「立ち現れた全ての経験」である「現象」から出発します。そして、まず現象の中から「特定の事象」に着目します。実際には、多かれ少なかれ探索しながら関心を明確化します。これを”関心の探索的明確化”と呼びます。

    2. 関心相関的データ構築
    M-GTAを用いてデータに基づいてボトムアップに理論を構築するためのデータを、特定の方法を媒介にして、身体-欲望-関心相関的に構成することを”関心相関的(録音)データ構築法”と呼びます。SCQRMでは、純粋に客観的なデータは存在せず、客観的な理論はありえないと考えます。例えば、録音してきたデータは、Aさんがインタビューした場合とBさんがインタビューした場合では、異なるものになるため、この時点で客観性は失われています。

    3. 関心相関的テクスト構築
    研究者の関心と特定の方法を媒介にしてテクストが作成されることを”関心相関的テクスト構築”と呼びます。テクストについても、構築されたデータを研究者の関心に照らして文字おこししたものであるため、客観的なものではありえません。

    4. 関心相関的ワークシート作成
    M-GTAでは、次の段階で分析ワークシートを作成します。このプロセスにて、研究者の関心と特定の方法、ここでは、M-GTAの分析ワークシート作成法を媒介として分析ワークシートを作成することを”関心相関的ワークシート作成”と呼びます。

    5. 関心相関的理論構築
    最後に、構築された分析ワークシートをベースとして、関心相関的に理論(構造)を構築することを”関心相関構造構築/関心相関的仮説生成/関心相関的モデル構築”と呼びます。

    まとめ

    今回は、モデル構築がその研究の目的である場合において、SCQRMに採用されている分析ツールとしてのM-GTAについて、前身となるGTAについて説明したのち、具体例を示しながらその分析プロセスを紹介をいたしました。具体的には、文字おこしを行い、データ化したテクストの中から、キーワードを見つけ、キーセンテスを引いていき、これらに名前を付け(概念化)、次に、概念のまとまりごとに対して、見出しをつけてテクストを構造化し(カテゴリ化)、さらに、抽出された概念やカテゴリの関係を捉えて暫定的な全体像やモデルを素描する(理論化)というプロセスでした。また、実際にM-GTAを用いて分析を行う場合、手続きとして作成する分析ワークシートの説明を行いました。最後に、M-GTAを実践例として組み込んだ関心相関的構造構成法について説明をいたしました。

    次回は、いよいよソーシャルイノベーションのための構造構成主義的プロダクトデザイン手法の理論について説明をいたします。

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    デザインメソッド – モデリング

    前回よりデザインプロセスにおいて用いられてきた、既存のデザインメソッドについて紹介をしています。前回は「1. フィールドへ赴き、データを取得する」ためのメソッドとして、まず、量的データではなく、質的データに注目し、質的調査法として、口頭データと視覚データの様々な採取方法について説明をしました。その上で、目的に応じた複数の手法の組み合わせの事例として、エスノグラフィック・インタビューの一形態である、コンテクスチュアル・インクワイアリについて説明をし、その限界について言及いたしました。

    第2弾となる今回は、2番目のプロセスである「2. 課題を発見し、仮説を構築する」ためのメソッドを紹介していきましょう。このプロセスでは、最初のプロセスである、「1. フィールドへ赴き、データを取得」するプロセスにて取得した”質的データ”を用いて、仮説を構築していきます。

    このプロセスでは、フィールドにおける現象を理解するために、事象同士の関係形式としての「構造」を構成します。構造それ自体を表現したものを「モデル」と呼ぶことから、構造化の過程を「モデリング」と呼びます。モデルは、構造を視覚化することで、より深い理解をもたらし、議論の土台となるため、非常に有用なツールといえます。実際には、モデリングを通じて構築された複数のモデルをもとに仮説を構築することになります。以下では、様々なモデルを構築するメソッドを紹介していきましょう。

    ユーザモデル

    ユーザモデルの代表格がペルソナです。以下では,ペルソナについて紹介したのち,ペルソナと併せて用いるシナリオ、そしてこれらをツールとして用いたメソッドである、”ゴールダイレクテッドデザイン”について説明をいたします。

    ペルソナ

    ペルソナは、製品を使うこととなる架空の人物を表す属性をドキュメント一式にまとめる手法です。ここでいう人物を規定する属性とは、名前、性別、性格、趣味、動機などを指します。これらの属性を質的調査法で取得したデータを元に確定していきます。また、各ペルソナは、すること(行為、または予測される行為)と理由(ゴールと動機)の特徴に基づいて作られる必要があります。下の図はAdaptive Pathで作成したKivio(ダイアグラムツール)ユーザのペルソナの例です[1]。

    [1] A persona chart developed for Kivio, a diagramming tool similar to Visio.

    詳細なペルソナを形成し、チームでペルソナを共有することは、単なるアノニマスなユーザではなく、具体的な人物のために、プロダクト、サービス、システムをデザインする感覚を与える効果をもたらすだけではなく、この人物に対してどのような状況でどのようなデザインが有効であるかについて検討が可能となります。

    シナリオ

    シナリオは、ユーザがプロダクト、サービス、システムを使うストーリーを時系列に沿って表記する、言葉によって作られるプロトタイプです。状況が厳密に描写されたシナリオを作成し、チームでシナリオを共有することは、制作物にて用いられているデザインコンセプトの迅速な理解を促進するでしょう。また、このプロセスに先のペルソナを組み合わせることで、ある状況の中で想定するユーザがどのように振る舞うかという点についての理解を深めることが可能となります。このプロセスは、ペルソナそれ自体の妥当性の検証にも利用できます。当然、シナリオを作成する際も、フィールドで取得したデータに照らし合わせて作成する必要があります。

    Adaptive Pathのダン・サファー(Dan Saffer)の著書『Designing for Interaction(邦題:インタラクションデザインの教科書)』より、以下に、オンラインのスーパーマーケットによる宅配サービスのシナリオの例を示します。

    サラは、オンラインスーパーマーケットであるBigGroceryのアカウントにログインする。先週の注文品リストを見て、今週も同じものを注文することに決める。自分の「Groceryリスト」をからいくつかの品をドラッグして除外する。合計金額がそれにしたがって再計算される。欲しい物が全部リストにあるので、「配達」ボタンをクリックする。すでに登録してあるクレジットカードに請求され、約1時間後に配達が来ることが確認ページでわかる。

    ゴールダイレクテッドデザイン

    すでにペルソナの概要については上記にて説明をいたしました。アラン・クーパーは自身の主張する”ゴールダイレクテッドデザイン”において、ペルソナをユーザモデルの1つとして活用することを主張しています。まずは、ゴールに関する彼の説明を引用しましょう。

    被験者から観察された行動にコンテキストを与えるのがペルソナだとすると、ゴールはその行動の原動力である。ゴールのないペルソナはコミュニケーションツールとしては役立つかもしれないが、デザインツールとしては使いものにならない。ユーザのゴールは、デザイナにとっては、製品の機能を考えるときにかならず通してみなければならないレンズのようなものだ。製品の機能と振る舞いは作業の助けを借りてゴールを達成しなければならない。一般に作業は絶対必要なものだけに抑える。作業は、執着駅までの手段にすぎない。ゴールこそが執着駅だ。

    次に、クーパーは3つのゴールについて説明をしています。これら3つのゴールはドナルド・ノーマン(Donald Norman)の『Emotional Design(邦題:エモーショナル。デザイン)』の認知プロセスの3レベル理論(本能的レベル-行動的レベル-内省的レベル)に対応しています。本能的レベルとは、製品に深く関わる前に、五感が最初に知覚する部分のデザインです。次に、行動的レベルのデザインとは、ユーザの行動、暗黙の前提、脳内モデルをうまく補うような、製品の振る舞いのデザインです。最後に、内省的レベルのデザインは、長期的な製品との関係のデザインです。

    エクスペリエンスゴール

    エクスペリエンスゴールとは、製品を使っていた時にどのように感じていたか、ということであり、製品とのインタラクションの品質を意味します。

    例:
    – 自分が賢く感じられ、全体を掌握している感じを持てる。
    – 楽しい。
    – 落ち着いていて安心感がある。
    – 仕事に集中していて鋭敏になっている感じがある。

    エンドゴール

    エンドゴールとは、特定の製品と直結した作業を実行することに対するユーザのモチベーションを指します。

    例:
    – 重大になる前に問題に気づく。
    – 友人や家族との連絡を絶やさない。
    – 毎日5時までにTO-DOリストを作る。
    – 私が好きな音楽を見つける。
    – 最良の取引を手に入れる。

    ライフゴール

    ライフゴールは、ユーザの深いところにある原動力、モチベーションであり、ユーザがエンドゴールを達成しようと努力している理由をある程度説明するものです。

    例:
    – よい人生を送る。
    – ~という野望を成功させる。
    – ~のプロになる。
    – 同僚たちから人気、好意、敬意を集める。

    ペルソナの構築プロセス

    さて、クーパーは、Goodwin 2002らのペルソナ構築手法[2]をもとに、ペルソナの構築プロセスを7ステップで定めています。以下にそのプロセスについて説明しましょう。

    [2] Goodwin, Kim 2002. Getting from Researech to Personas: Harnessing the Power of Data. User Interface 7 west Conference.

    1. 行動変数を見極める。

    調査を終え、データを大まかにまとめた後、観察された行動の様々な側面を行動変数にまとめていきます。一般に行動パタンの最も重要な差異は、次の変数に注目すると現れるとされています。

    活動:ユーザが何をしているか、頻度と量。
    態度:ユーザが製品のドメインやテクノロジについてどう思っているか。
    適性:ユーザが受けた教育訓練は何か、学習能力はどれだけか。
    モチベーション:ユーザが製品ドメインに関わっているのはなぜか。
    技能:製品ドメインとテクノロジに関わるユーザの能力。

    2. インタビューの被験者を行動変数に対応づける。

    インタビューの被験者たちが顕著な行動変数を示したことが確認できたら、変数の範囲内に被験者を対応づけていきます。

    例:
    サービス重視 – 価格重視
    必要なものだけ – 娯楽

    3. 顕著な行動パタンを見出す。

    被験者を行動変数の範囲に対応づけたら、複数の範囲を通じて被験者が同じように集中しているところを探します。6, 8個の異なる変数を通じて同じ被験者の集合ができていれば、それはペルソナの基礎となる顕著な行動パタンを表していると考えられます。

    4. 特徴とそれに関係のあるゴールを総合する。

    見つかった顕著なパタンごとに、データからディティールを集めて全体像を作らなければなりません。潜在的な利用環境、典型的な作業日、現在のソリューションとそれに対する不満。周囲の人々との関係などをまとめます。

    5. 重複や完成度をチェックする。

    人口統計学的変数以外に違いの見つからない2つのペルソナが見つかった場合には、重複するペルソナの片方を取り除くか、ペルソナの個性を調整して差を際立たせるようにします。

    6. 態度や振る舞いの記述を拡張する。

    ペルソナの態度、ニーズ、他のチームメンバとの間の問題点などを伝えるには、3人称の物語の方がはるかに強力です。物語は、デザイナ、作者とペルソナやそのモチベーションとの関係を深める効果もあります。

    7. ペルソナの配役を決める。

    どのペルソナを主要なデザインターゲットにするかを決めて優先順位をつけます。

    主役:インタフェース設計の主要なターゲット。
    脇役:主役のインタフェースで満足させられるが、特殊なニーズを余分にもっており、その部分は主役に奉仕するという製品の能力を損なわずに実現できる。
    端役:主役でもなく脇役でもないペルソナ。
    顧客:エンドユーザではなく顧客ニーズである。
    サービス利用者:製品のユーザではないが、製品の利用によって直接的な影響を受けるもの。例えば、放射線療法の患者は装置のユーザではない。
    黒衣:製品の奉仕対象にはならないタイプのユーザ

    ワークモデル

    次に、ベイヤーとホルツブラッド(Hugh Beyer & Hugh Beyer)の『Contextual Design』にて提唱されている、ユーザの「行動」を構造的に分析するための5つの”ワークモデル”を紹介します。こちらもユーザモデルと同様に、収集したデータをもとに、モデルを構築していきます。ここでは、実際のモデルの例として、「台湾における伝統的な社会活動としてのお茶を飲む習慣」を用いて説明をいたします[3]。

    [3] Ko-Hsun Huang and Yi-Shin Deng, 2008. Social Interaction Design in Cultural Context: A Case Study of a Traditional Social Activity. International Journal of Design, Vol.2, No.2.

    フローモデル

    複数のユーザーがタスクを終えるまでにどのように調整を行っているか、そして、ユーザ同士のコミュニケーションの流れを記述するモデル。

    シーケンスモデル

    ユーザーがタスクを終えるまでの詳細なステップを記述するモデル。
    シーケンスモデルの特徴は、シーケンスの目的(シークエンスが達成しようとするもの)とトリガー(シークエンスをスタートさせるもの)を示す点にあります。

    文化モデル

    行動が行われる環境における文化を、影響者と影響という形で記述するモデル。
    影響者は組織内の個人、グループ、あるいは、概念上の集団、外部など行動に影響を与えたり、制約したりする人を指します。影響は、影響を与える方向とどれだけ影響度があるかを矢印や円の大きさで示します。

    アーティファクトモデル

    ユーザーがタスクを終えるまでの過程で利用、あるいは、構築するアーティファクト(人工物)を記述するモデル。

    物理モデル

    行動が行われる物理的環境や道具を記述するモデル。

    グラウンデッド・セオリー・アプローチ

    ここまでユーザの属性に関するモデル、ユーザの行動に関するモデルを構築してきました。次に、フィールドの構造化に関するメソッドを紹介しておきましょう。ここでは、社会学者のBarney Glaser と Anselm Strauss(グレイザー & シュトラウス)によって提唱された、(オリジナル版)グラウンデッド・セオリー・アプローチ(Grounded Theory Approach / GTA)を紹介いたします。

    多摩大学教授の紺野登 氏は『ビジネスのためのデザイン思考』において、質的データのデザイン手法として3つのメソッドを取り上げ、そのうちの1つとしてGTAを紹介しております。ここでは、紺野氏の解説をもとに説明させていただきます。

    GTAは、フィールドに密着して得られたフィールドデータをつきあわせながら、帰納的に(個々の具体的事例から一般原理・法則を導きだす考え方で)まとめていき、現場の問題を解決するための有効な理論の発見を行う方法論です。

    GTAは、典型的な帰納法であり、データを収集したのち、いくつかの段階でコーディング(符号付)を行います。以下にコーディングの3つのステップを引用いたします。

    1. オープンコーディング(データからラベルづけへ)
    観察やインタビュー記録をもとに、最小単位のデータに切り分けて、それらを眺め、比較しながら、意味のまとまりを発見してラベル(キーワード)を付ける過程。

    2. 軸足コーディング(ラベルからコンセプトへ)
    全体をいくつものラベル(変数)で表し、それらの関係性を明らかにし、次に代表的なラベルをもとにしながらさらに大きな意味のまとまり=カテゴリ(コンセプト)を見いだす過程。

    3. 選択的コーディング(コンセプトから理論へ)
    中核となるカテゴリを決め、その他のカテゴリを関連づけて、実践のための道筋を明らかにする。

    実際のGTAの一般的なプロセスは、以下の5つのプロセスで構成されます。

    1. インタビューや観察からフィールドノートを作り、最小単位のデータに切片化する作業

    2. 切片化されたデータを付きあわせて、共通した意味のものをまとめラベル化する。これらを関連づけながらコンセプトやモデルを形づくっていく(オープン・コーディング過程)。

    3. データを切片し、まとめ、ラベルづけをし、それらをいくつかのまとまり(変数、あるいは、カテゴリ)として、相互の因果関係を見出すクラスター化を行う。(軸足コーディング過程)

    4. カテゴリ群からコンセプトを生み出す。

    5. 理論化・モデル化する(選択的コーディング過程)。

    このようなオリジナル版GTAの手法について、「実際のデータ収集と分析、特にコーディング方法に関して明確に示されていない」という限界が指摘されており、木下らによりM-GTA(Modified Grounded Theory Approach/修正版グラウンデッドセオリーアプローチ)が提案されています。木下らはGTAに対する課題点の克服として以下の3つを挙げています。

    1. コーディング方法の明確化(分析プロセスの明示)
    実際に活用しやすく、かつ、分析プロセスが他の人にも理解しやすいという両方の条件を満たすものを提案している。

    2. 意味の深い解釈
    分析プロセスを明示化するだけではなく、深い解釈を組み込んでいる。

    3. 60年代の限界(素朴な客観主義)と近年の質的研究動向に対して、独自の認識論(インタラクティブ性)
    研究をデータ収集段階(協力者-研究者)、データ分析段階(分析焦点者-研究者)、分析結果の応用段階(研究者-応用者)に分け、各段階において、研究する人間を他者との社会関係に位置づける。

    サービスブループリント

    最後に、適切なサービス構造を構築するために、1984年にリン・ショスタック(Lynn Shostack)によって提案された、サービスブループリントを紹介しましょう.サービスブループリントは、5つのコンポーネントで構成されます。

    具体的な現象
    顧客がある会社と接点を持つ間に受けるすべての具体的な現象.

    顧客の行動
    顧客がサービスを受けるプロセスにおいて,顧客が取りうる全てのステップ.

    オンステージ/目に見える従業員の接点行動
    顧客とのフェイストゥーフェイスでの接点の中で起こる従業員の行動.

    バックステージ/目に見えない従業員の接点行動
    顧客にサービスを提供するために従業員が取るその他すべての行為に加えて,顧客との目に見えないインタラクション.

    サポートプロセス
    顧客との接点を持たないが,社内の個人あるいはチームによって実行されるすべての行動.サービスを実行するために必要不可欠な機能.

    実際にブループリントを構築するプロセスは、以下の1-6のステップを含んでいます[4]。

    1. サービスプロセスを同定する。
    2. サービスを経験する顧客のセグメントを同定する。
    3. 顧客視点でサービスを記述する。
    4. オンステージとバックステージの従業員の接点行動を記述する。
    5. 接点行動と必要とされるサポート機能とをリンクさせる。
    6. 顧客のとる全ての行動のための証拠を追加する。

    [4] Wilson, A., Zeithaml, V., Bitner, M. J., & Gremler, D. (2008). Services Marketing: Integrating Customer Focus across the Firm. Glasgow, UK: McGraw-Hill.

    まとめ

    今回は、「2. 課題を発見し、仮説を構築する」ためのメソッドとして、質的データを用いたモデリング手法について紹介いたしました。具体的には、ユーザの属性に注目したユーザモデリングとして、ペルソナ、シナリオ、ゴールダイレクテッドデザイン、ユーザの行動に注目したワークモデル、フィールドの構造を理解するためのGTA、そして、サービスの構造を構築するためのサービスブループリントを紹介してきました。モデルリングのプロセスを通じて現象が構造化されることこそが最も重要なポイントといえるでしょう。確かにモデルを構築するプロセスは単に現象を分析するだけにすぎません。しかしながら、創造のジャンプを実現するためにも、適切なモデルを構築し、チームで共有可能な状態としておくことは大前提であると考えます。

    次回は、「3. プロトタイピングを行う」プロセスにおいて利用可能なメソッドとして、デザインパタンを紹介いたします。

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