Stanford d.school / Stanford Design Program 2/2

前回は、Stanford d.schoolとStandford Design Programの概要とクラスについて、また、結びとして、アメリカにおける高等教育と雇用システムの関係性について述べました。今回は、視察記の後半として、ワークプレース、創造性・問題発見・問題解決について書きたいと思います。

ワークスペース

まず、ワークスペースについて説明いたします。ここでは、d.school、Design Programに加えて、同じパロアルト市内にあるIDEO本社、さらに、オークランドに位置する(Jobsがデザインした)Pixar本社におけるワークスペースについて説明をしたいと思います。

d.school

d.schoolは、クラスのみですので、当然ながらコラボレーションスペースのみがワークスペースです。しかしながら、そのスペースにはIDEO仕込みの様々な工夫が施されています。

デスクやチェア、ソファーも原則移動式です。

移動式のホワイトボード。壁にかけて利用します。

アイディエーションのためのツールボックス。

デスクは、胸の高さのものが多く、皆立ちながらディスカッションをしています。

パーティションもホワイトボード。

美しく整理されたプロトタイピングツールスペース。

Design Program

Design Programの学生は、プロジェクトのスペースが存在するコラボレーションスペースだけではなく、個人スペースを所有しています。なお、個人スペースは今後廃止予定だそうです。

コラボレーションスペース。

各ブースが個人スペース。

IDEO

IDEOは、完全なコラボレーションスペースのみで構成されていると思いきや、原則個人スペースでの作業環境が構築されていました。とはいえ、ここでいう個人スペースとは、アメリカ企業によく見られるパーティションで閉ざされた個人スペースではなく、オープンな個人スペースです。フリースペースではない理由として、プロダクトのプロトタイピングを行うにあたっての、外部ディスプレイやツールなどの必要性が挙げられます。このようなスタイルは、閉鎖的な個人スペースではなく、完全なフリースペースでもなく、コラボレーションの促進と作業効率とのバランスを踏まえた上での設計であると考えられます。

IDEO本社ビル。

残念ながら撮影禁止であったため、写真をお見せすることができないのですが、ワークスペースの天井からは、自転車など様々なものが吊るされていたり、創造的な思考のための工夫は随所に見られました。また、壁面のストック棚には統一されたダンボールが設置され、フロント部には持ち主の名刺を差し込むためのカードケースが貼りつけてありました。

本社に隣接するビルには、工房スペースがあり、様々な機材が設置されていました。3Dプリンタ、レーザーカッター、ウォータージェット、NC、成形機械、大型工作機械など一通りの機材は揃っていました。ハードウェアのためのプロトタイピング環境はかなり充実している印象を受けましたが、ソフトウェアのためのプロトタイピング環境とその人材は不足しているとのことです。

Pixar

Pixarは、R&Dのスペースを見学することができませんでしたが、アニメータのスペースを見学することができました。撮影禁止のため写真を紹介できないのが非常に残念なのですが、原則個人のスタジオの集合体のような空間設計でした。6帖程度のスペースはパーティションで囲まれた小屋のようなスペースになっており、各クリエイターは思い思いの方法でそのスペースを装飾しています。ある人はフィギュアで埋め尽くし、ある人は、日本の居酒屋風にアレンジするなど、非常にクリエイティブな空間でした。

「このような個人用スタジオ形式でコラボレーションは促進されるのか?」という質問に対しては、(このような構造ではあるものの)非常にオープンな環境で、気軽に別の人のスペースを訪れてそこでチームが生まれ何かを進めていくことができる、とのことでした。

噂の本社ビル。壁面に見えるものが件のイタリア産のレンガ。

さて、ここまで4つのワークスペースを見てきました。広大な土地が存在するアメリカと、限られたスペースしか存在しない日本を直接比較することは困難であり、日本でワークスペースを設計する場合、多くの制約条件が存在します。場所の制約がない限り、個人スペースとオープンコラボレーションスペースを共存させることが最も理想的でしょう。一方、両者を共存させることが困難な場合であっても、上記の4つの事例から、コラボレーションスペースにおける創造的な空間作りのために採用すべき要素に関して、参考にできる多くのものを見いだせるのではないでしょうか。

創造的な問題発見と創造的な問題解決

最後に、今回の視察を終えてのまとめを述べたいと思います。

一般にプロダクトをデザインするプロセスには、問題発見、仮説構築、問題解決の3つのステップが存在します。

1. 問題発見/設定 -> 創造的な問題発見
2. 仮説(問題解決法)構築 -> 創造的な問題解決法
3. 問題解決=ゴール

1のステップでは、こんな問題があったんだ!、この問題には気づかなかった!というような創造的な問題発見/設定が求められます。一方で、2のステップでは、こんな解き方あったんだ!、こんな解決方法があるんだ!という創造的な問題解決法が求められます。

仮説を構築した段階では、依然問題を解決するプロセスの起点に位置するにすぎません。問題解決というゴールに対して、様々なアプローチが存在し、どのアプローチが目的に照らしあわせた場合に最適であるかを知るためには、思考実験では不十分です。プロトタイピングとユーザテストの繰返しによる探索過程(Iteration)が不可欠であり、最重要プロセスです。

1と2のステップのそれぞれにおいて、創造性を働かせることが非常に重要ですが、状況に応じてリソースを投入するバランスは変わります。例えば、BOPの場合、解決すべき問題は、緊急を要するものが多く、デザインにおける制約事項も多数存在します、したがって、いかに創造的な問題解決法を提示できるかが鍵となるという点において、2から3のプロセス(Iteration)を重視する傾向にあります。

また、d.schoolのようにエスノグラフィを徹底的に重視するデザインスタイルの場合、1から2までのプロセス(Ideation)に時間を投資する傾向にあります。これは、問題が陳腐である場合、そもそも相手にされない、話を聞いてすらもらえない、などどいった危険を排除する、という観点からすれば、正しい方策と言えるでしょう。しかしながら、問題発見から仮説構築に多数の時間を投資しても、それは動かない単なる概念にすぎず、思考実験の粋を出ません。プロトタイプとユーザテストのスピーディな繰返し、Iterationのプロセスこそが、アイディアを進化/深化させる唯一の方法なのです。多くのプロジェクトは締切あるいは最適のタイミングが存在し、有限の時間が設定されています。ワーキングプロトタイプを伴わない単なるアイディエーションのプロセスに時間を投資し、最終的に構築した唯一のプロトタイプがうまく動作せず、単なるモックアップに終わる、あるいは、ユーザから十分な満足を得られなかった場合、残された時間で一体何ができるのでしょうか?

また、多くのデザイナは、エスノグラフィに対する誤解を抱いています。問題や解決法を「直接」ユーザに求めることは最大の愚行です。このような愚行を繰り返した場合、卑近な問題設定と、陳腐な解決法を採用した、誰も見向きもしないプロダクトが産み出されることになるでしょう。このような結果は、本来のエスノグラフィの持つ価値を蔑ろにする行為と言えます。本来、エスノグラフィは、Ideationの段階では、デザイナが創造的な思考をするための「手がかり」を提供する1つの方法論にすぎません。より強力な意味を帯びるフェーズは、実際にユーザがプロトタイプを触り、そこで立ち現れる現象からどのような改良を施すべきかを探る過程にあります。ソリューションを構築する創造性はデザイナ自身、エンジニア自身の能力に担保されるのであり、それはユーザの出すアイディアが直接結実したものではあり得ないのです。

本ブログで提案した構造構成主義的プロダクトデザイン手法は、1と2のプロセス、すなわち、BOPというフィールドにおける、創造的な問題発見/設定、ならびに、創造的な仮説構築をカバーしたデザイン手法と言えます。具体的には「デザイナの関心モデルの構築」、「フィールにおける概念抽出および現象マッピング」、「ソリューションモデルの構築」という3つのデザインプロセスを経ることで、BOPにおける創造的な問題発見/設定だけではなく、創造的な問題解決方法までを同時に担保する非常に協力なデザインツールです。このようなツールを利用することで、問題発見・初期仮説構築までは、時間(コスト)を短縮することが可能です。しかしながら、仮説修正から問題解決までのプロセスは、時間の短縮・効率化を安易に求めるべきではなく、むしろ安易に実現できないプロセスであるといえるでしょう。というのも、このプロセスは、自分の(ないし、自分のチームの)創造性に基づき、ユーザに真摯に向き合うプロセスであるためです。第20-24回に渡って、実際のケーススタディとして、問題を設定した後の仮説の修正プロセス、プロトタイピングとユーザテストの繰返しを通じてプロダクトを改良していく様子を詳細に渡って説明した理由は、まさにこの考えを理解していただきたかったという私の意図に基づくものです。

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Stanford d.school / Stanford Design Program 1/2

ご無沙汰しております。前回の第25回にて本ブログの更新を一時中断しておりましたが、Bay Are周辺を視察する機会を得、思うところがありましたので、2回に渡って、Stanford d.schoolとStandford Design Programについてつらつらと書きたいと思います。

d.school と Design Program

まず、Stanford d.schoolは、第08回でも紹介したように、”デザイン思考”を通じて人々を結びつける場所として、スタンフォード大学内に設置された様々なクラス群を指します。d.schoolのクラスは、Stanford大学の大学院生でなければ受講できませんが、原則d.schoolとしての学位は学生に提供されません。

一方で、Standford Design Programは、Stanford大学における、Designを専門とするGraduateコースを差します。Stanfordには、Designを専門とするコースは、Undergraduateコースにも存在し、こちらはMechanical EngineeringのDesign Groupに存在します。

Stanford Design Programの教授は、IDEO創設者であるDavid Kellyと元AppleのBill Barnettの2人のみのため、Design Programの提供するクラスの数には限りがあります。したがって、学生は、修了要件を満たすために、d.schoolのクラスを受講したり、バックグラウンドに合わせて、Mechanicla Engineering(ME)学部もしくはArt学部のクラスを取る必要があります。

現在、Design Programに在籍するMasterコースの学生は30人程度です。MFA(The Master of Fine Arts)の学位を取る場合は、Art学部のUndergraduateのクラスの単位が必要となります。MSE(The Masters of Science in Engineering)の学位を取得する場合は、ME学部のUndergraduateのクラスの単位が必要となります。

Design Programの学生は、原則、社会人を経由して入学してきます。学部時代の専攻は、機械工学が主流のようです。機械工学のバックグラウンドを持つ学生は、インダストリアルデザイン、プロダクトデザインに関する知識が欠けているため、デザインの初歩から学び始めることなります。インタラクションデザイン/ユーザエクスペリエンスデザインは、コンピュータサイエンスをバックグランドとしない限り、決して強くありません。

また、Design Programの学生は、Stanford大学の持つ、すばらしく充実した施設を利用することができます。3Dプリンタ、レーザーカッターなどの基本的なデジタルファブリケーションツールはもちろんのこと、様々な基本的な工作機械、鋳造、溶接、成型のための様々な特殊大型機械を利用することができます。なお、これらの施設を利用するための講習が、MEのクラスとして提供されているようです。



クラス

 

次に、幾つかのDesigin Programのクラスについて簡単に説明したいと思います。

視察したクラスは、どれも座学での講義でしたが、学生に質問を投げかけながら、ディスカッションのような形式で進んでいきました。日本の講義形式は、一方的な講演スタイルが多数であるのに対して、視察した講義はいずれも、某白熱教室でも見られたようなスタイルでした。ご存知のように海外の多くのトップ大学は講義アーカイブをiTunesUや自前のシステムを通じて公開しています。アーカイブに対して、教室でのディスカッションへの参加や、直接の指導にこそ高い授業料を払う価値があると考えられているようです。

ME 312. Advanced Product Design: Formgiving

本クラスは、プロダクトデザインの基礎で、プロダクトデザインのデザイン言語として、ゲシュタルト、ジオメトリ、エッジと交差、サーフェイス、色、ロゴとグラフィクスについて様々なプロダクトを引き合いに出しながら、説明をしていました。わずか10枚のスライドを使って、120分の講義が終わりました。

ME 216A. Advanced Product Design: Needfinding

このクラスは、ニーズの探し方、問題発見に関するクラスです。今回は、インタビューの方法を詳細に渡って説明していました。インタビューには多数の形式が存在しますが、今回の講義では、ナラティブインタビューの方法について、カメラの位置や画角まで細かい実演形式にて講義が行われました。

ARTSTUDI 60. Design I: Fundamental Visual Language

このクラスは、Art学部のUndergraduateのクラスですが、MFAを取得する場合、Design Programの学生が取得しなければならないクラスです。プリズムを使った色の原理の説明から、彩度、明度といった概念の理解のためのカラーチャートを使ったワークショップなど、こちらもかなり細かい内容まで踏み込んだクラスでした。

ME 101. Visual Thinking

このクラスは、MEのUndergraduate向けのクラスです。立体造形の基本のクラスで、今回は、最初の課題発表を行なっていました。具体的には、複数の立体構造を組み合わせて1つの構造体を制作するという課題でした。

Design Garage

このクラスは、修士研究のクラスです。Design ProgramのGraduateコースの場合、修士論文は存在せず、作品が修了要件となります。これは他のアメリカの大学のDesign Degreeを取得する場合と同様の要件です。

Design Programでは1年間(実際には3クオーターの9ヶ月)をかけてプロジェクトのアイディアを練っていきます。他学部の学生を捕まえ、チームにリクルートすることも評価の1つです。また、年度の最後には企業へのプレゼンテーションの機会も含まれていますが、この段階で求めれれるものはワーキングプロトタイプではなく、あくまでアイディアまでとのことでした。

さて、今回は、Second Quoter(1-3月)の最初のプレゼンテーションの時間でした。(4-5名で構成される)チームごとに分けれて、各自が行なってきたインタビュー結果に基づくアイディアの共有を行います。ここでも講師陣とのディスカッションがベースで、抽象的な表現(魅力的な、etc)については、説明が求められ、アイディアをブラッシュアップしていきます。

以上、いくつかのクラスの説明をしました。Design Program、Art学部、ME学部のそれぞれのクラスは、特定のトピックに対して、非常に深く掘り下げた講義をディスカッションスタイルで行なっているとの印象を受けました。これは、そもそも教える側がジェネラリストではなく、高度な専門性を持つスペシャリストであるという点と、アメリカの社会システムの性質と関係した現象ではないかと推測しています。

アメリカにおける雇用は、主としてポジション性で、スペシャリストが求められます。日本の多くの企業が、ジェネラリストを養成するためのシステム(例えばローテーション制など)を採用していますが、このようなシステムとは真逆のシステムです。例えば、エンジニアのポジションに対しては、デザインができるエンジニアよりも、より高度な専門性を持ったエンジニアが求められるでしょう。ECを主なプロダクトとする100人程度の規模の会社のマネージャーのポジションに対しては、まさにパーツとして適切な人材が存在し、このような人材は、会社が成長するとその会社を去り、再び100人程度の規模のEC関連会社のポジションを務めるようです。

アメリカにおける高等教育も、上記のような雇用システムと直結しており、教える側はスペシャリストであるため、狭い領域で濃い講義をします。学生たちもまた、そのように教育され、狭い領域での高度な専門性をもって卒業していきます。一旦社会に出た人間も、高度な専門性を得るため、伸ばすため、あるいは、別の専門性を身につけ、別のキャリアへ進むために、大学院へと戻ってくるのです。

後半に続きます。

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