まとめと今後の展開

前回は、ソーシャルイノベーションのための構造構成主義的プロダクトデザイン手法の実践の最終回として、Wanic ToolkitとWanicシリーズを用いたビジネスモデルについて説明しました。ビジネスモデルについて説明するにあたって、まず、Wanicシリーズの製品ラインナップ、途上国・先進国を含む事業戦略を説明したのち、初期の事業展開先である東ティモールにおけるWanicシリーズのポジショニング、技術伝達を中心とした事業展開、ならびに、ビジネスモデルの考察について説明しました。

今回は、第25回目の記事、つまり、本ブログの最終回となりました。そこで、前半では、各章のまとめを行い、後半では、構造構成主義的プロダクトデザイン手法、Wanic/Wanic Toolkitの今後の展開について述べたいと思います。

各章のまとめ

イントロダクション – No Tinkering, No Innovation

イントロダクションでは、まず、本ブログの目的とターゲットについて説明をしました。本ブログは、ソーシャルイノベーションのためのデザイン理論を、背景となる理論や実例、ならびに、提案する理論の実践を通じてわかりやすく解説することを目的とし、デザイン思考やソーシャルビジネスに興味のある全てのひとをターゲットと設定しました。次に、タイトルにも含まれている”デザイン思考”と”ソーシャルイノベーション”について説明しました。デザイン思考について、その起源から定義まで追い、ソーシャルイノベーションについて、イノベーションとソーシャルイノベーションの違いについて重点的に説明しました。

1. ソーシャルイノベーションとソーシャルビジネス

第1章では、本ブログの2つのキーワードのうちの1つ、”ソーシャルイノベーション”について掘り下げ、フィールドとしてのBOPについて説明し、実際の事例として、企業、NPO、大学、研究機関を取り上げて具体的に説明しました。

第02回では、イノベーションとソーシャルイノベーションの定義、および派生型について説明しました。具体的には、シュンペーターの定義を説明したのち、イノベーションの派生系である、持続的イノベーションと破壊的イノベーション、オープンイノベーション、ソーシャルイノベーションを紹介しました。特に、ソーシャルイノベーションについては、Phillsらの定義に基づいて、イノベーションとの差違を説明しました。

第03回では、ソーシャルイノベーションのフィールドとしてのBOP(Bottom of the Pyramid)について、定義、特徴について説明しました。BOPが全世界の人口の90%を占めるという事実は、従来のプロダクトがわずか10%に向けてデザインされたものに過ぎず、その手法もまた10%の人々のための手法に過ぎないことを意味しています。そして、従来のデザイン手法がそのまま90%に対して適用不可能である理由を、フィールドごとの複雑性、デザイナと現地人の関心の対立構造というBOPが持つ特殊性から説明しました。

第04-10回では、ソーシャルイノベーションの事例として、企業・NPO、大学・教育機関の取り組みをシリーズにて説明しました。

まず、企業・NPOの事例として、第04回では、KickStartを紹介しました。KickStartは、地元の人々が起業家として利益を生み出すことが可能であり、持続可能な社会の形成、雇用の創出、経済の発展に貢献する製品を開発しています。ここでは、2つの製品(スーパーマネーメーカーポンプ、ヒップポンプ)を紹介したのち、KickStartの10のデザイン原則を説明しました。

第05回では、米国NPO Kopernikを紹介しました。Kopernikは、テクノロジーマーケットプレイスのコンセプトのもと、テクノロジーを所有する会社や大学、途上国の市民団体、一般市民の3者をつなげ、革新的な技術・製品を発展途上国に提供するための多数のプロジェクトを運営しています。ここでは、実際のプロダクト3点とそれらを用いた3つのプロジェクトを紹介しました。

第06回では、マサチューセッツ工科大学のNicholas Negroponteを中心に大学発NPOとして設立されたOLPCを紹介しました。OLPCは、ネットワークにつながったラップトップを全ての就学児に提供し、教育を通じて世界の貧しい子供たちに活力を与えることをミッションに低価格ラップトップの開発を行っています。ここでは、OLPCシリーズのXO-01とXO-03を紹介しました。

次に、大学・教育機関の事例として、第07回では、マサチューセッツ工科大学 D-Labを紹介しました。D-Labの”D”は、「Development though Dialog, Design, and Dissemination (対話を通じた開発、デザイン、普及」を意味しており、国際開発の枠組みの中で、適正技術と持続可能性のあるソリューションによる開発を育成するためのプログラムとして位置づけられています。ここでは、12のコースと、それぞれのコースの代表的なプロジェクトを紹介しました。

第08回では、d.schoolことHasso Plattner Institute of Design at Stanfordを紹介しました。d.schoolは、IDEO創業者であるDavid KellleyおよびIDEOの影響を強く受けており、”デザイン思考”がキーワードとなっています。ここでは、2011年Spring Semesterで開講中のクラスと、2つの長期プロジェクトを紹介しました。また、ベルリン郊外に存在する系列組織である、HPI School of Deign Thinkingを紹介しました。

第09回では、TU DelftことDelft University of Technologyを紹介しました。TU Delftでは、Industrial Design Engineering(IDE)プログラムが修士学生向けに開講した”Advanced Products”にて、ソーシャルイノベーションに関連したプロダクトの開発を行ってきました。また、IDEに存在する3つの学科のうちの1つ、Design Engineeringの1セクションに当たる、Design for Sustainability(DfS)も同様に、ソーシャルイノベーション関連の研究に取り組んでおり、そのコース内容について紹介しました。

第10回では、マサチューセッツ工科大学から始まり、世界に展開しているFabLabを紹介しました。FabLabは、3次元プリンタやカッティングマシンなどの工作機械を備えた一般市民のためのオープンな工房と、その世界的なネットワークであり、必要なものをみんなで作る”DIWO(Do It With Others)”を基本理念に置いています。ここでは、FabLabの定義、歴史について説明したのち、利用可能なファブリケーションツールを紹介しました。

2. デザイン思考

第2章では、本ブログの2つのキーワードのうちの1つ、”デザイン思考”について掘り下げ、デザインプロセスごとのデザイン手法として、デザインリサーチ、モデリング、デザインパタンを紹介したのち、既存のデザイン手法の限界について説明しました。

第11回では、デザイン思考の系譜として、Herbert A Simon、David Kelly、Tim Brown、奥出直人、Hasso Plattnerの5人の研究者に注目し、定義とデザインプロセスを紹介しました。そして、これらに共通するプロセスとして、「1. フィールドへ赴き、データを取得する、2. 課題を発見し、仮説を構築する、3. プロトタイピングを行う、4. フィールドへ赴き、テストを行う、5. 製品を実装する」を抽出しました。

第12回では、プロセスの最初のステップである、「1. フィールドへ赴き、データを取得する」ためのメソッドとして、”質的調査法”を説明しました。具体的には、口頭データと質的データの様々な採取方法について、その概要と限界について説明をしました。さらに、目的に応じた複数の手法の組み合わせの事例として、エスノグラフィック・インタビューの一形態である、ベイヤーとホルツブラッドの提唱した”コンテクスチュアル・インクワイヤリ”を紹介しました。

第13回では、プロセスの2番目のステップである、「2. 課題を発見し、仮説を構築する」ためのメソッドとして、”モデリング”を説明しました。具体的には、ユーザの属性に注目したユーザモデリングとして、ペルソナ、シナリオ、ゴールダイレクテッドデザインを紹介し、ユーザの行動に注目したワークモデル、ならびに、フィールドの構造を理解するためのGTAを紹介しました。

第14回では、プロセスの3番目のステップである、「3. プロトタイピングを行う」ためのメソッドとして、”デザインパタン”を説明しました。具体的には、デザインパタンの起源、および、建築からソフトウェアエンジニアリング、HCI(Human Computer Interaction)への流れを説明しました。そして、ユビキタスコンピューティング、ゲームの領域への拡張までを紹介し、その限界について指摘しました。

第15回では、第12-14回で述べた既存のデザイン手法を、BOPというフィールドに対して適用する場合の限界について説明しました。具体的には、BOPの特殊性として、フィールドごとの特殊性、デザイナとユーザとしての現地人との関心の対立構造を解説しました。既存のデザイン手法は、これらのBOPの持つ特殊性を考慮していないことから、適用において限界が生じることを説明しました。

3. 構造構成主義

第3章では、既存のデザイン手法の限界を打破するためのアプローチを構築するための足がかりとして、”構造構成主義”を紹介しました。構造構成主義は、現象学と構造主義科学論の流れを組む超メタ理論であり、現象と関心に注目することで、人間科学において起きがちな信念体系同士の対立を克服し、建設的なコラボレーションを促進するための方法論です。

第15回では、構造構成主義の特徴をモデル図を用いて説明しました。構造構成主義では、哲学的構造構成と科学的構造構成という2重の構造構成が存在します。これらを説明する前に、両者に通底する概念である、現象学的概念と構造主義科学論について解説しました。前者については、関心相関性と信憑性、後者については、構造と恣意性を中心に解説しました。

第16回では、構造構成主義を背景として持つ研究法の1つとして臨床心理学などの分野で用いられている、”構造構成主義的質的研究法(SCQRM)”を紹介しました。これは、構造構成主義それ自体は概念であり思想であるため、デザイン手法として直接応用することが困難であるためです。SCQRMは、構造構成主義を超メタ理論(超認識論)とするメタ研究法で、関心相関性を中核原理としています。ここでは、SCQRMの備える11の関心相関的アプローチを説明しました。

SCQRMは、モデル構築がその研究の目的である場合において、関心相関的選択に基づき、”M-GTA(Modified Grounded Theory Approach)”を分析ツールのひとつとして採用しています。第17回では、前進となるGTA(Grounded Theory Approach)について説明したのち、具体例を示しながら、概念化、カテゴリ化、理論化のプロセスで構成される、分析プロセスを紹介しました。また、手続きとして作成する分析ワークシートを紹介しました。

4. ソーシャルイノベーションのための構造構成主義的プロダクトデザイン手法

第4章では、筆者の構築した、ソーシャルイノベーションのためのプロダクトデザイン手法について説明しました。本手法は、フィールドの複雑性の構造的な理解と、デザイナとユーザとしての現地人の信念対立の解消、というBOPをフィールドとするプロダクトデザインにおける目的に基づいて、構造構成主義をアプローチとして導入しています。

第18回では、実際のデザイン手法として、「デザイナの関心モデル構築」「フィールドの概念抽出および現象マッピング」「ソリューションモデルの構築」の3つのステップで構成されるデザインプロセスを紹介しました。まず、デザイナの関心モデル構築は、デザイナの関心を構造化するステップです。次に、フィールドの概念抽出および現象マッピングは、フィールドを構造化し、現地人の関心を構造化するためのステップです。最後に、ソリューションモデルの構築は、デザイナの関心モデルと、第2のステップで抽出された「概念」をもとに問題発見、および、発見された問題に対する仮説を生成するステップです。

5. ソーシャルイノベーションのための構造構成主義的プロダクトデザイン手法の実践

第5章では、構造構成主義的プロダクトデザイン手法の実践として、実際にフィールドワークと現地テストを繰り返し開発したプロダクト – Wanic / Wanic Toolkit – をケーススタディとして引用しつつ、そのデザインプロセスの詳細を説明しました。

第19回では、筆者の参加した東ティモールへのフィールドワークを題材に、事前調査からデザイナの関心モデルの構築、そして、調査項目・インタビュー項目決定までの流れを説明しました。本フィールドワークは、米国NPOコペルニク主催の途上国の課題を解決するプロダクトを開発することを目的としたSee-D Contestのプログラムの一環として設計されたものです。

第20回では、筆者の参加した東ティモールへのフィールドワークのうち、ボボナロ県への第1回フィールドワークを題材に、「フィールドの概念抽出および現象マッピング」「ソリューションモデルの構築」の具体的なプロセスについて説明しました。

第21回では、ラウテム県ロスパロス地区への第2回フィールドワークを題材に、「フィールドの概念抽出および現象マッピング」「ソリューションモデルの再構築」「プロジェクトの関心モデルの構築」の具体的なプロセスについて説明しました。

第22回では、構築されたソリューションモデル(ver1.1)とデザイナの関心モデル(ver1.1)に基づいてデザインされた、ココナッツワイン”Wanic”と、Wanicを製造するためのツールキット”Wanic Toolkit”のコンセプトモデルについて説明をしました。具体的には、キットの概要、キットを用いたWanicの製造プロセス、ならびに、第1回現地テストとそこでのフィードバックを中心に説明しました。

第23回では、Wanic Toolkitの普及モデルについて説明をしました。コンセプトモデルから普及モデルを開発するまでの過程として、第1回現地テストの結果を受けてデザインした普及モデル(ver.1.0)、東ティモールにてWanic Toolkitを用いて、Wanicを作るヒト、および、飲むヒト向けに実施した第2回現地テスト、さらに、第2回現地テストをもとに改良した普及モデル(ver.1.1)を説明したのち、普及モデル(ver.1.1)を用いたWanicの製造プロセスについて説明しました。

第24回では、Wanic ToolkitとWanicを用いたビジネスモデルについて説明しました。ビジネスモデルについて説明するにあたり、まず、Wanicシリーズの製品ラインナップ、途上国・先進国との関係を説明したのち、初期の事業展開先である東ティモールにおけるポジショニング、技術伝達を中心とした事業展開、ならびに、ビジネスモデルの考察について説明しました。

今後の発展

構造構成主義的プロダクトデザイン手法

まず、構造構成主義的プロダクトデザイン手法については、グラントの獲得を視野に入れつつ、精緻化と汎用化の2つの発展を考えています。精緻化とは、手法そのもののブラッシュアップを指します。具体的には、他のデザイナによるケーススタディを通じて、ブラッシュアップを行いたいと考えています。本ブログで紹介した東ティモールへのフィールドワークの際には、筆者自身がいわば最初の被験者となり、手法の妥当性の確認を試みました。今後は、バングラデシュやフィリピンなど東ティモール以外のアジア地域にて、別のデザイナによる本手法を用いたプロダクトデザインを依頼したいと考えています。

汎用化とは、ブラッシュアップした手法のツール化を指します。現在は、「デザイナの関心モデル構築」「フィールドの概念抽出および現象マッピング」「ソリューションモデルの構築」という3つのステップのみが明示化されている状態にすぎず、具体的なツールが存在するわけではありません。今後は、専用のシートや、iPhone/iPadなどのアプリケーションを作成し、ツールのかたちで本手法を普及させていきたいと考えています。その過程では当然ワークショップなどの開催も検討していきたいと考えています。

Wanic/Wanic Toolkit

次に、Wanic/Wanic Toolkitについては、酒のブラッシュアップと販路開拓を考えています。現時点では、フレッシュワニックのプロトタイプを製造した段階、すなわち、ツールキットとココヤシの実を使ってお酒が作れることを示したにすぎません。実際に商品として販売するまでには、酵母の選定・培養、糖度の測定に基づく補糖料の決定、味の安定化、中期保存方法の模索など多くの課題が残されています。今後は、国内酒造メーカー、現地酒造メーカーといったパートナーを模索し、協業による製品開発を検討していきたいと考えています。

一方で、販路については、現地パートナーとして、東ティモールにてホテルもしくはレストランを1店舗選定し、その周辺を使ってツールキットの製造、フレッシュワニック、ボトルドワニックの製造を行い、販売テストを行ってみたいと考えています。そして、この地をモデル店舗として設定し、Wanicツアーと称して、日本の酒造メーカーやその他販売代理店候補の企業の方々を東ティモールにお連れすることによって、Wanicへの理解だけではなく、東ティモールの観光収入の増大に少しでも貢献したいと考えています。

さいごに

本ブログは、当初の計画通り25回で予定していた内容を全て完了することができました。4月の正式オープンを前にいくつか記事をストックしていたのですが、通常業務を行いつつ、となるとすぐにストックもつきました。週一での定期更新は初めての試みではなかったのですが、文章のクオリティとボリュームを保ち続けることに慣れるまではしばらく時間を必要としました。とはいえ、後半はペースをつかみ、水曜で構成、木、金、月曜でドラフト、火曜に仕上げというサイクルが確立しました。

このブログを通じて、いくつか取材をいただきましたし、研究として発展しそうな案件もいただくことができました。今後は、上記に述べたような方針で研究を継続していくつもりですが、書籍化(!)という当初の目的を果たすために、本ブログの内容のメンテナンスを行っていきたいと思います。書籍の対象は、紙媒体が(個人的には)最も理想的なのですが、電子書籍の流通面におけるメリットを考慮して前向きに検討していきたいと思っています。

最後まで読んでくださった方、twitter等でコメントをくださった方、どうもありがとうございました。また、Appendixなど更新するかもしれませんが、ひとまずお礼を述べさせていただきたいと思います。

続きを読む

実践 – ビジネスモデル

第19回よりソーシャルイノベーションのための構造構成主義的プロダクトデザイン手法の実践について紹介をしています。前回は、実践の第5回として、第1回現地テストの結果を受けてデザインした普及モデル(ver.1.0)、東ティモールにてWanic Toolkitを用いてWanicを作るヒト、および、飲むヒト向けに実施された第2回現地テスト、さらには第2回現地テストをもとに改良した普及モデル(ver.1.1)とその製造プロセスについて説明しました。

今回は、構造構成主義的プロダクトデザイン手法の実践の最終回として、Wanic ToolkitとWanicを用いたビジネスモデルについて説明します。ビジネスモデルについて説明するにあたり、まず、Wanicシリーズの製品ラインナップ、日本、途上国、先進国で構成される事業展開を説明したのち、初期の展開先として設定した東ティモールにおけるWanicのポジショニング、および、技術伝達を含む事業戦略を中心に説明します。

ビジネスモデル ver.1.0

製品ラインアップ

まず、ココナッツジュースワインをベースとするWanicシリーズとして現在展開が予定されている3つの製品(Fresh Wanic、Bottoled Wanic、Wanic Liquor)について、それぞれの特徴を説明します。

Fresh Wanicは、ココヤシの実の中でココナッツジュースを発酵させた新しいお酒です(図1)。味については、ココナッツジュースの持つ風味、新鮮さを残しつつ、見た目についても、ココヤシの実を器に使うことで、エキゾチックな魅力が引き出されます。一方で、ココヤシの実を利用することにより、長期間の保存が難しくなるため、原則生産場所と消費場所はほぼ同一と考えてよいでしょう。

図1. Fresh Wanic

Bottoled Wanicは、Fresh Wanicをココヤシの実から取り出し、瓶詰めにしたものです(図2)。Fresh Wanicの持つ風味を維持しつつ、Fresh Wanicよりも長期の保存を可能にした製品です。瓶詰めにすることで、生産地周辺の都市への運搬と消費が可能となります。

図2. Bottoled Wanic

Wanic Liquorは、Fresh Wanicをココヤシの実から取り出し、蒸留し、その後瓶詰めしたものです(図3)。Fresh Wanicの持つ風味を継承し、蒸留することで濃縮される味が特徴的です。アルコール度数も蒸留によって40度前後と上昇するため、カクテルのバリエーションも増加し、楽しみ方も変化するでしょう。

図3. Wanic Liquor

表1. Wanicシリーズの概要、強み、改良点

概要 強み 改良点
Fresh Wanic ヤシの実で発酵 新鮮さ、外観の魅力 保存期間が短い
(発酵完了から1週間)
Bottoled Wanic 発酵後瓶詰め 新鮮さ 保存期間がやや長い
(発酵完了から1年程度)
Wanic Liquor 蒸留後瓶詰め 保存期間が長い
(1年以上)
生産量が少ない
事業展開

我々は途上国、日本、日本以外の先進国という3つの地域にまたがって事業を展開していきたいと考えています。事業展開における3地域の関係性を図4に示します。これら3地域に対して2つのフェーズで事業を展開したいと考えています。

図4. Wanicビジネスを巡る日本、途上国、先進国の関係性

1st フェーズ

まず、最初の事業を途上国からスタートします。まずは、Wanic Toolkitの製造、Fresh Wanic、Bottoled Wanic、Wanic Liquorの製造および販売までの完結したサイクルを、ディリにて1つの店舗を中心に構築したいと考えています。店舗といっても単独で専門店を経営するわけではなく、ターゲットが集まりやすいホテルやレストランなどといったWanicシリーズの卸先としての店舗です。この1店舗はモデル店舗としての役割を担い、日本やその他の先進国からのゲストをWanic体験ツアーとして招待し、試飲会を開催する機能をも併せ持っています。

2nd フェーズ

途上国での小さなサイクルを構築したのち、日本や先進国へのBottoled Wanic、Wanic Liquourの輸出を行います。各国に対して1社のパートナー企業を設定し、パートナー企業にWanicシリーズの購入権を付与します。あるパートナー企業に製造権を付与する場合、我々の持つWanic製造に関するレシピやノウハウを当該企業に提供します。これに対する対価としてレベニューシェアが考えられます。この点について、レベニューシェアの比率を通常の事業会社の行う一般的なレベニュー契約と比較した場合、低めに設定する代わりに、製造プロセスにおける現地対応(現地の環境を破壊するような大規模生産等は行わないなど)に関するルールを契約に盛り込むことを考えています。
また、我々自身で先進国向けのWanic Toollkitの小規模生産をスタートする予定です。DIYによる酒製造が法律上問題のない国、かつ、ヤシの実を入手可能な国(アメリカ、オーストラリアなど)に対して、オンライン販売を行いたいと考えています。

我々は、最初に事業を展開する途上国として東ティモールを設定しました。この選択は、東ティモールへのフィールドワークからこのプロジェクトが始まったこと、東ティモールでお世話になった人々に対して何らかの恩返しをしたいという思いに基づいています。以下では、最初の事業展開先として選択した東ティモールについて、Wanicシリーズのポジショニング、事業戦略、ソリューションモデル(ver.1.1)上の間接的効果について説明します。

ポジショニング

さて、東ティモールにおいて存在する既存の主要な酒と比較した場合の、Wanicの市場におけるポジショニングを図5に示します。ここで扱うWanicは、ココヤシの実を用いたFresh Wanic、Fresh Wanicを蒸留したWanic Liquorの2種類とします。まず、既存の酒のターゲットを分析するために、横軸に所得(観光客-現地人)を設定し、縦軸にイベント性(特別-日常)を設定しました。この座標空間において、すでに流通しているヤシ酒のTuak(トゥアック)は、日常的なシチュエーションにおける低所得層を、ヤシ酒を蒸留したArack(アラック)は、日常的と特別なシチュエーションの中間における低所得者層を、ビールは、日常的なシチュエーションにおける富裕層をターゲットとして設定していると分析しました。そして、Wanic、Wanic Liquorは、既存の酒がターゲットとして設定していない、「特別なシチュエーション」における「富裕層」をターゲットとして設定しました。この特別なシチュエーションとして想定される場所は、ウエディングパーティ、ホテルのバー、あるいはレストラン、想定される顧客は、海外からの旅行者、現地富裕層が考えられます。

図5. Wanic、Wanic liquorのポジショニング

事業戦略

WanicおよびWanic Liquorを用いた事業戦略・技術伝達モデルを図6に示します。本事業には、我々が現地パートナーと共同で設立するWanic.Timor、現地のWanic Toolkit製造者、Wanic製造者、Wanic Liquor製造者の5つのステークホルダーが存在します。事業開始当初のWanic.Timorの主たる事業内容は、Wanic Toolkit製造、Wanicシリーズの製造・販売・輸出ですが、ステップごとに技術移転を行うため、事業内容はステップごとに変化していきます。

図6. Wanic、Wanic Liquor の事業戦略・技術伝達

まず、ステップ1では、Wanic.Timorは、Wanic Toolkit製造、Wanic Liquorの製造、Wanic Liquorの販売を行います。Fresh Wanic製造は、Wanic.TimorがWanic Toolkitを提供し、Wanic.Timorの指導によりWanic Makerとしての現地人が行います。Wanic Makerの対象は、ココヤシの実を入手可能で、保存スペースを確保でき、余剰時間がある現地人と設定しています。ステップ1では、Wanic.TimorがWanic Makerの制作したFresh Wanicを買い取り、蒸留してWanic Liquorを製造し、パッケージングまでを行い、ホテル、レストランに販売します。

次に、ステップ2では、Wanic.Timorは、Wanic Toolkit製造、Fresh Wanicの販売、Wanic Liquorの販売・輸出を行います。Wanic.Timorは、Wanic Makerの製造したFresh Wanicを買い取り、ホテル・レストランで販売します。また、Fresh Wanicの製造を行う現地人に対して蒸留方法の技術移転を行います。この結果製造されたWanic Liquorを買い取り、ホテル・レストランで販売する他、日本を含む先進国に対して輸出します。

最後に、ステップ3では、Wanic.Timorは、Fresh Wanicの販売、Wanic Liquorの販売・輸出を行います。ステップ3では、Wanic Toolkit製造に関する技術を現地人に移転します。これにより、技術移転が完了し、販売・輸出のみが事業内容となります。現地人は、Wanic Masterとして、Wanic Toolkitの生産、Wanic / Wanic Liquorの製造までを担います。

本事業戦略は、ソリューションモデル(ver.1.1)において示したデザイン上の制約(地形の複雑さ、非効率な運搬方法、原始的な運搬システム、ディリと地方の格差、保管・運搬用の容器)を念頭において設計されました。Wanic Toolkitを用いて製造されるWanicのみを商材とした場合、これらの制約条件が解消されません。ゆえに、長期間の保存が可能となる、蒸留を経たWanic Liquorを新たな製品として事業展開に組み込んでいます。地形が複雑であり、非効率な運搬方法、または、原始的な運搬システムしか存在しない東ティモールであっても、ボトリングや蒸留を行うことで、地方からホテルやレストランの存在する首都ディリまで製品を運搬することが可能となります。

ビジネスモデル考察

Wanic、およびWanic Toolkitを用いた事業の課題として、モラル・治安の悪化、および、特許の有効性が挙げられる。まず、簡単においしい酒が製造できるようになることで、治安の悪化、モラルの低下が起きるのではないかという指摘を受けました。これを解決するためには、現状、東ティモールには、酒に関する法律(製造、販売、飲酒制限)が存在しないため、政府に対して法整備を働きかけ、社会問題化を未然に防ぐことが望ましいと考えています。また、特許は、アジアのその他の国々と同様に、法整備が進んでおらず、悪質なコピーが横行しがちです。酒作りのためのツールキットの悪質なコピーは、酒造りのプロセスを通じた衛生概念の普及という狙いに悪影響を及ぼすでしょう。これを解決するためには、日本、EC、アメリカにて特許を取得するという方針も可能ですが、オープンソースハードウェアの思想のもと、ツールキットに関する情報を積極的に開示するという方向性も考えられます。

まとめ

今回は、構造構成主義的プロダクトデザイン手法の実践の最終回として、Wanic ToolkitとWanicを用いたビジネスモデルについて説明しました。ビジネスモデルについて説明するにあたり、まず、Wanicシリーズの製品ラインナップ、途上国、先進国の関係を説明したのち、初期の事業展開先である東ティモールにおけるポジショニング、技術伝達を中心とした事業展開、ならびにその考察について説明しました。

これらのモデルは、あくまで初期の想定したプランにすぎず、今後フィールドで実際に小規模なサイクルを構築していく中で変化していく可能性が高いでしょう。しかしながら、「貨幣経済というシステムの中で、変化を望む者が変化を実現するために現金獲得手段を提供する」というモチベーションと、「現地の人々の持つ価値観や文化と共存したものづくり」というデザインコンセプトを維持しながら、活動を継続していきたいと考えています。

続きを読む

実践 – プロトタイピングと現地テスト – 普及モデル

前回は、ソリューションモデル構築以後の「プロトタイピングと現地テスト」の前編として、ココナッツワイン”Wanic”と、Wanicを製造するためのツールキット”Wanic Toolkit”のコンセプトモデルについて、キットの概要、キットを用いたWanicの製造プロセス、ならびに、第1回現地テストとそこでのフィードバックを中心に説明しました。

今回は、「プロトタイピングと現地テスト」の後編として、第1回現地テストの結果を受けてリデザインされた普及モデル(ver.1.0)、第2回現地テスト、さらには第2回現地テストからのフィードバックをもと改良した普及モデル(ver.1.1)を説明します。

Wanic Toolkit

普及モデル ver.1.0

第1回現地テストの結果をもとに、Wanic Toolkitの普及モデル(ver.1.0)を開発しました(図1)。コンセプトモデルから普及モデル(ver.1.0)への大きな変更点は、固定具の廃止と素材の変更です。まず、コンセプトモデルのメインパーツであったワニの形状をあしらった固定具を廃止しました。とはいえ、シンボルとしてのワニを完全に排除したわけではなく、発酵栓の上蓋にワニのイメージを焼き印としてを残しました。次に、ローカルテクノロジーとローカルマテリアルのみでのキット製造を念頭に置き、プロダクトの素材としてセラミックを主として採用しました。以下では、具体的なキットの構成とWanicの製造プロセスについて説明します。

図1:Wanic Toolkit 普及モデル(ver.1.0)

普及モデル(ver.1.0)は4つのパーツで構成されています。4つのパーツは、発酵栓、発酵栓の上蓋、(コルク付)サーブ栓、穴あけ具です。発酵栓の上蓋は逆さにし、内側の凹みを利用して、酵母の予備発酵を行うことができます。穴あけ具は、アルミ部分をハンドル内部で固定しただけではなく、先端部分についてはハンドドリルの刃を参考に波型を採用しました。

上記の4つのツールを用いたWanicの製造プロセスは、コンセプトモデルと同様の6ステップを採用しています。

図2. Wanic Toolkitを用いたココナッツワイン(Wanic)作りのプロセス(ver1.0)

1. 穴あけ
穴あけ具を用いてココヤシの実(ココナッツ)に穴を開けます。

2. 酵母投入と補糖
酵母と砂糖を投入します。ヤシの実に含まれるジュースは糖度約5%であるため、目的のアルコール度数に応じて適切な量の砂糖を投入する必要があります。ココナッツジュースの内容量は約700-1000mlで、ココヤシの実の大きさに比例します。

3. 発酵
発酵栓を接続し、アルコール発酵を待ちます。ココナッツジュースの内容量次第ですが、発酵は5-6日程度で終了します。アルコール発酵に併せて生成されるガスが停止すると、発酵の完了を意味します。

4. 保存
保存栓を接続します。アルコール発酵後は酸化を防ぐために、空気の侵入を妨げる必要があります。

5. サーブ
サーブする前に保存栓を取り外します。

6. 美味しい!
ストローを用いて、もしくは、直接グラスにサーブして、生成されたお酒を飲むことができます。

第2回 現地テスト

普及モデル(ver.1.0)を開発したのち、再び東ティモールにて現地テストを行いました。第2回現地テストでは、普及モデル(ver.1.0)を用いたWanicの製造と試飲を協力者に依頼しました。テストを行うにあたり、6ステップの製造プロセスが記載されたマニュアル、ツールキット(ver.1.0)、作るヒト、および、飲むヒト向けの関心相関的アンケート(表1)を1つのパッケージとしてまとめ、東ティモールの協力者のもとへ配送しました(図3)。

図3. Wanic Tooklit パッケージ

表1. 作るヒト、および、飲むヒト向けの関心相関的アンケート

作るヒト

Q1. 何日間発酵をしましたか? (         )日間

Q2. Wanicを作るのは簡単でしたか?

a. とても簡単 b. やや簡単 c. やや難しい d. 難しい

Q3. Q2でcかdと答えたかたにお聞きます.どのステップが難しかったですか?
a. 穴あけ b. 補糖 c. 発酵 d. 保存/保管 e. その他

Q4. その他Wanicを作る際に困った点,気づいた点があればお答えください.

Q5. Wanicを作るプロセスは楽しかったですか?
a. とても楽しい b.やや c. あまり d. 全く

Q6. マニュアルについてお聞きします.マニュアルはわかりやすかったですか?

1. とてもわかりやすい 2. ややわかりやすい 3. ややわかりづらい 4. とてもわかりづらい

Q7. 6の理由を聞かせてください.

Q8. Wanicを作ることで収入が上がある場合,今後も作りたいと思いますか?
a. とても b. やや c. あまり d. 全く

Q9. キットに何かあると便利なものがあればお聞かせください。

飲むヒト

Q1. また飲みたいですか?

a. とても飲みたい b. やや飲みたい c. あまり飲みたくない d. 全く飲みたくない

Q2. Q1を選択した理由をお聞かせください.

Q3.味について.どういう味がしましたか?記述してください.

Q4. wanicをどのようにして飲みましたか?(複数回答可)
a. ストレート b. 冷やして c. カクテルで d. 蒸留して

Q5. Q4でcと回答した方にお聞きします.どんなカクテルが美味しかったですか?

Q6. Q4でcと回答した方にお聞きします.どんなジュースカクテルだと美味しいと思いますか?

Q7. 4の価格は1杯いくらが妥当だと思いますか?(複数回答可)
(        ) $

Q8. ホテルやレストランでwanicが売られていたら飲んでみたいとと思いますか?
a. とても b. やや c. あまり d. 全く

Q9. 外観について.外観は魅力的ですか?
a. とても魅力的 b. やや魅力的 c. あまり魅力的でない d. 全く魅力的でない

作るヒトについては、東ティモールの友人に協力を依頼しました(図4)。具体的な手続きとして、Wanic Toolkitを使ってWanicを製造後、インタビューシートに回答してもらいました。また、飲むヒトについては、東ティモールの友人を通じて、彼女の職場の韓国出身の同僚の方に依頼しました。具体的な手続きとして、友人が製造したWanicを試飲後、インタビューシートに回答してもらいました。以下にアンケート結果を示します(表2)。

図4. 普及モデルを用いたWanic製造の様子

表2. 作るヒト、および、飲むヒト向けの関心相関的アンケート結果

作ったヒト – Timorian, Female

Q1. 何日間発酵をしましたか?
6日間

Q2. wanicを作るのは簡単でしたか?

c. やや難しい

Q3. Q2でcかdと答えたかたにお聞きます.どのステップが難しかったですか?
b. 補糖

Q4. その他wanicを作る際に困った点,気づいた点があればお答えください.
全てのツールは日本から送られてきたけど、東ティモールのマーケットでどうやってこういったツールを手に入れるか考えたことある?東ティモールで手に入るかどうかはわからない。*1
まずはじめに、初めてWanicを作ったけど、ツールに慣れていないし、少し難しかった。なので、逐一マニュアルを見ながら作らなければならなかった。
また、インストラクションが曖昧だった。特に、酵母と砂糖を追加するところ。このプロセスは、ココナッツの外でやるべきだったのか、あるいは、直接ココナッツの中に入れるべきだったのかわからなかった。前者だとすると、例えばグラスに少しココナッツジュースを移して、酵母と砂糖をグラスのなかでまぜてココナッツに戻すということなのかな。
私の友達と2人で、2つの異なる方法でWanicを作ってみた。
1. ワイン酵母と砂糖をココナッツの中に入れてから混ぜる。
2. 大きめのグラスにココナッツジュースを移して、ワイン酵母と砂糖をまぜて、それからココナッツに戻す。
最初の方法だと甘いWanicができたけど、2番目の方法だと(悪くはないけど)少し苦くなった気がする。

Q5. wanicを作るプロセスは楽しかったですか?
a. とても楽しい

Q6. マニュアルについてお聞きします.マニュアルはわかりやすかったですか?
b. ややわかりやすい

Q7. 6の理由を聞かせてください.
インストラクションは少し不明確だった。それぞれのステップを採用する理由が記載されているとわかりやすいかも。例えば、なぜ酵母を追加する必要があるのか、あるいは、なぜ、砂糖を大量に入れる必要があるのか、あるいは、砂糖の前にワイン酵母を入れる必要があるのか?などなど。著作権問題が心配かもしれないけど、YoutubeでWanicをどうやって作るかという説明ビデオがあるともっといいかも。

Q8. wanicを作ることで収入が上がある場合,今後も作りたいと思いますか?

a. とても

Q9. キットに何かあると便利なものがあればお聞かせください。
最初に指摘したけど、東ティモールでどうやってWanicを作るためのツールキットを手に入れるかを考えなければならない*1。また、Wanicを作る前に、WanicのUS15$というコストも適切かどうか疑わしい。東ティモールにはたくさんココナッツがあるし、ブドウはこの国では手に入れられないからワインの価格とも違ってくるでしょう。8-10$の価格がリーズナブルだと思う。ボトルでの販売は考えている?

*1 送られてきたツールが既製品であったと彼女が思い込んでいたのではないかとと推測しています。

飲んだ人 – Korean, Female

1. また飲みたいですか?
a. とても飲みたい

Q2. Q1を選択した理由をお聞かせください.
味は好きだし、韓国人にとってはもちろんエキゾチックな味だね。私たちの国にはココナッツはないし、ビーチで午後に飲みたい。

Q3.味について.どういう味がしましたか?記述してください.
最初のものは少し甘くて、ココナッツジュースや甘いカクテルみたいな味がした。

Q4. wanicをどのようにして飲みましたか?(複数回答可)
b. 冷やして (on the rock! )

Q7. Q4の価格は1杯いくらが妥当だと思いますか?(複数回答可)
このワインを作る時のコスト(ココナッツの値段など)や他のアルコールの価格次第だけど、グラスで3$くらいかな。ホテルやレストランでって場合だけど。ココナッツ1つ分、つまりボトルワインと同じくらいってことだけど、10$くらいかな。

Q8. ホテルやレストランでwanicが売られていたら飲んでみたいと思いますか?
a. とても

Q9. 外観について.外観は魅力的ですか?
b. やや魅力的 (すてきなワインボトルでもココナッツの形のボトルでもいいかな。

第2回現地テストの結果、ツールキット、マニュアルに対する幾つかの改良点が導き出されました。第1に、カップの追加です。「作るヒト」の行った実験から、砂糖300gを直接ココナッツの中で溶解させるプロセスは確かに可能ではあるものの、非常に煩雑であるとの感想を抱いていたわかりました。この問題は、「作るヒト」からのフィードバックにて指摘されていたように、一旦ココナッツジュースを取り出し、砂糖を溶かすことが可能なサイズのカップを、ツールキットと同じ素材で制作し、キットへ導入することによって解決が可能と考えられます。第2に、フィルタの追加です。第2回現地テストで利用したフィルタは、暫定的に既存の茶こしを利用していました。この茶こしに変わるツールを新たにデザインする必要があります。第3に、マニュアルの改善です。「作るヒト」からマニュアルの不明瞭さについての指摘がありました。特に酵母と砂糖を追加するプロセスについて、ステップ数を増やし、曖昧さを排除する必要があります。

普及モデル ver.1.1

第2回現地テストの結果をもとに、Wanic Toolkitの普及モデル(ver.1.1)を開発しました(図5)。前回のバージョンから普及モデル(ver.1.1)への大きな変更点として、スタッキングおよび補糖用砂糖の事前溶解を目的としたカップを導入しました。以下では、具体的な構成とWanicの製造プロセスについて説明いたします。



図5:Wanic Toolkit 普及モデル ver.1.1

普及モデル(ver.1.0)は8つのパーツで構成されています。8つのパーツは、発酵栓、発酵栓の上蓋、サーブ栓x2、カップ、フィルター、穴あけ具、繊維除去スティックです。サーブ栓、カップ、フィルター、繊維除去スティックの4つのパーツが新たに追加されました。まず、サーブ栓は、1つをココヤシに取り付け、間にフィルタを挟み、その上から再度サーブ栓を取り付けます。これにより、Wanicをサーブする際にココヤシの実の底部に沈殿したオリのグラスへの流れ込みを防止できます。繊維除去スティックは、ハンドル天頂部にある穴より挿し込むことで、穴あけ時にパイプの内側に混入した繊維を取り除くことができます。さらに、先端部から差し込むことで刃による怪我を防止できます。

上記の8つのツールを用いたWanicの製造プロセスを、従来の6ステップから12ステップへと変更しました。ステップ数が増えることによる工程の複雑化と、味の安定性のトレードオフを考慮し、最終的にステップ数を増やす決定を下しました。

図5. Wanic Toolkitを用いたココナッツワイン(Wanic)作りのプロセス(ver1.1)

1. 穴あけ
貫通するまで回しながら押しこみます。実に穴が開いたら注ぎ口を差し込みます。

2. ジュースの取り出し
ココナッツジュースを発酵栓の蓋とカップに注ぎます。

3. 予備発酵
カップに注いだジュースに酵母(1g)をふりかけ、15分待ちます。

4. 補糖
砂糖300gを2~3回に分けて入れます。1回ごとにステップ4,5を繰り返します。

5. 攪拌
注ぎ口にコルク栓をして、よく振って砂糖とジュースを混ぜます。

6. 酵母入りジュースの投入
コルク栓を抜き、ステップ3で作っておいた酵母入りジュースをココナッツに戻します。

7. 攪拌
もう一度コルク栓に差し替えて、よく振って混ぜます。

8. 空気の遮断
発酵栓をさし、ステップ2で蓋に注いだジュースを発酵栓内部に移します。

9. 発酵
蓋をして発酵開始です。温度を20度くらいに保ち、5日間程度待ちます。

10. 保存
発酵が終わったらコルク栓に差し替えて、Wanicの完成です。

11. フィルタの取り付け
サーブする時は注ぎ口を2個使います。2つの注ぎ口の間にWanicで湿らせたフィルタをギュッと挟んで実に差し込みます。

12. さあ、どうぞ!

以上、第2回現地テストの結果を元に改良を施したWanic Toolkitの普及モデル(ver.1.1)とツールキットを用いたWanicの製造プロセスについて説明をしてきました。しかしながら、現行バージョンにおいてもブラッシュアップの可能性は多分に残されています。以下では、次に取り組むべき主な課題について触れておきます。

まず、科学的手法を用いて成分分析を行う必要があります。成分分析は2種類、すなわち、原料となるココナッツジュースと発酵後のWanicの両者について行う必要があります。ココナッツジュースについては、栄養素、糖度を分析する必要があります。これは、アルコール発酵を正確に行うにあたって、適切な補糖量を確定するだけではなく、アルコール発酵によって失われる栄養分を同定することを目的としています。また、Wanicについては、アルコール濃度、糖分、エキス分、酸含量を分析する必要があります。これはアルコール発酵プロセスの精緻化を目的としているだけではなく、味のブラッシュアップ、ならびに、ブランディングを考えるにあたり欠かせないプロセスと考えられます。

次に、酵母の選定を行う必要があります。現在の日本の法律では、酒造免許がない場合、国内で清酒酵母を取得することはできません。したがって、我々の場合、国内酒造メーカー、もしくは、展開先の現地酒造メーカーと協業することによって、適切な酵母を選定することが不可欠となります。展開先の国の気候・風土、さらには、現地人の味覚などの環境に合わせた酵母を選定・培養した上で、Wanicに利用していくという観点からすれば、前述の成分分析の結果から得られるデータを基礎的土台として、現地でアプリケーションとしての味の最終的なカスタマイズを行うことは必然と考えられ、現地での酒造りのパートナーの確定は急務であると考えています。

まとめ

今回は、第1回現地テストの結果を受けてデザインした普及モデル(ver.1.0)、東ティモールにてWanic Toolkitを用いてWanicを作るヒト、および、飲むヒト向けに実施された第2回現地テスト、さらには第2回現地テストをもとに改良した普及モデル(ver.1.1)とその製造プロセスについて説明しました。

次回は、Wanic ToolkitとWanicを用いたビジネスモデルについて説明します。

続きを読む

実践 – プロトタイピングと現地テスト – コンセプトモデル

前回より、ソーシャルイノベーションのための構造構成主義的プロダクトデザイン手法の実践について紹介をしています。前回は、ラウテム県ロスパロス地区への第2回フィールドワークを題材に、「フィールドの概念抽出および現象マッピング」「ソリューションモデルの再構築」「プロジェクトの関心モデルの構築」のプロセスについて説明しました。

今回は、ソリューションモデル構築以後の「プロトタイピングと現地テスト」の前編として、コンセプトモデル、第1回ユーザテストについて説明します。

Wanic Toolkit

コンセプトモデル

実践の第3回にて構築したソリューションモデル(ver.1.1)は、解決すべき問題として「少ない現金収入」を以前のソリューションモデル(ver.1.0)から継承し、この問題に対する解決手段として、「現地に豊富に存在する作物であるココナッツを用いたお酒作りのためのツールキット」を仮説として設定していました。我々のチームはこの仮説をもとづき、Wanic Toolkit(図1)を開発しました。

図1. Wanic Toolkit コンセプトモデル

Wanic Toolkitは5つのパーツで構成されるココナッツワイン作りのためツールキットです。メインパーツは、東ティモールで神聖視されるワニの形をあしらった「固定具」(図2)で、本パーツに4つのアタッチメントを接続して利用します。第1に、メインパーツのワニの歯型に対応した「穴あけ具」(図3)、第2に、発酵弁を内部に組込んだ「発酵栓」(図4)、第3に発酵後に空気をヤシの実に触れさせないための高い密閉度を保持するための「保存栓」、第4に、直接もしくはストローを用いて飲む際の「サーブ栓」です。なお、コンセプトモデルは、3Dプリンタを利用し、ABS樹脂とアルミを用いて制作しました。

図2. 固定具

図3. 穴あけ具

図4. 発酵栓

Wanic Toolkitを用いたココナッツワイン作りのプロセスは、6つのステップで構成されます(図5)。これら6つのステップで醸造されたココナッツワインを”Wanic(ワニック)”と呼びます。また、Wanicを蒸留したものをWanic liquor(ワニックリキュール)と呼びます。以下にて、6つのステップの解説をします。

図5. Wanic Toolkitを用いたココナッツワイン(Wanic)作りのプロセス(ver1.0)

1. 穴あけ
穴あけ具を用いてココヤシの実(ココナッツ)に穴を開けます。

2. 酵母投入と補糖
酵母と砂糖を投入します。ヤシの実に含まれるジュースは糖度約5%であるため、目的のアルコール度数に応じて適切な量の砂糖を投入する必要があります。ココナッツジュースの内容量は約700-1000mlで、ココヤシの実の大きさに比例します。

3. 発酵
発酵栓を接続し、アルコール発酵を待ちます。ココナッツジュースの内容量次第ですが、発酵は5-6日程度で終了します。アルコール発酵に併せて生成されるガスが停止すると、発酵の完了を意味します。

4. 保存
保存栓を接続します。アルコール発酵後は酸化を防ぐために、空気の侵入を妨げる必要があります。

5. サーブ
サーブする前に保存栓を取り外します。

6. 美味しい!
ストローを用いて、もしくは、直接グラスにサーブして、生成されたお酒を飲むことができます。

Wanic Toolkitを利用することで、従来のココヤシを用いた酒(Tuak)作りの複数の問題を解決するころができます。まず、従来のヤシの樹液を用いたTuakは自然発酵に任せていたため、味をコントロールすることが困難でした。また、樹液採取が行われたヤシは、その後、開花・結実することなく枯死してしまいます。これに対し、Wanicは、酵母と補糖を行うことで一定の味を容易に保つことが可能となるだけでなく、ヤシの実が採取できる限り継続的に生産可能です。次に、従来のTuakは、保管の段階で、雑菌や空気が混入することにより、また、気温の変化により、味が劣化し、長期間の保存に耐えないという問題を生じます。これに対して、Wanicは、容器としての耐久性が高く、内部の滅菌状態が確保されたココヤシの実を容器として利用すること、また、密閉性の高い保存栓を利用することで酸化を防止することが可能です。

さらに、ココナッツワイン作りのプロセスだけではなく、公衆衛生観念について現地の人に楽しく学習してもらうために、Wanic Songを制作しました。Wanic Songは、Wanic作りのマニュアルとして、各ステップにおいて守るべき公衆衛生上のポイントをグラフィックで表現するだけではなく、歌というフォーマットを通じて配布することで、現地の人に容易かつ楽しくこれらを記憶してもらうことを狙いとしています。

図6:Wanic Toolkitを用いたココナッツワイン(Wanic)製造マニュアルの記憶への定着は歌を通じて行う。

第1回 ユーザテスト

コンセプトモデルを開発したのち、第1回ユーザテストを行いました。まず、今回のテストの目的は、現地の協力者とともに、Wanic Toolkitのコンセプトモデルを用いて実際にお酒を製造できるか否かの確認を行うことでした。その結果、Wanicの製造プロセス、および、Wanic Toolkit コンセプトモデルのそれぞれについて多くの課題が発見されました。以下では、それぞれについて説明をしたいと思います。

Wanicについては、まず、オリの除去が課題として指摘されました。アルコール発酵が終了した段階で、酵母の死骸であるオリが、ココヤシの実の底部に沈殿します。酒の味の劣化を防ぐためにはオリを取り除く必要があります。製造プロセス(ver.1.0)のステップとしてオリの除去が含まれていないため、このステップを新たに組み込む必要があります。

実際にオリを取り除く場合、新たな課題としての酸化が立ち現れます。発酵終了後、発酵段階で発生したガスが、ココヤシの実に充満しています。この時、ココヤシの実の内部は真空状態となり、酸化は進みません。しかし、保存栓を取り外し、空気がココヤシの実に混入した場合、酸化が進み、味が劣化する可能性が高まります。この現象を防ぐためには、酸化防止剤を利用して酸化そのものを無効にする、混入した空気を吸引する器具を新たにツールに追加する、あるいは、Wanicをもろみワインのような形式で飲む酒であると再定義する、のいずれかが考えられます。

Wanic Toolkitについては、まず、穴あけ具の改善が課題として指摘されました。コンセプトモデルでは、固定具と密着することを想定して、穴あけ具に直径28mmのアルミパイプを利用しています。アルミパイプは45度で切断されていますが、ココヤシの内皮は非常に堅く、内皮に対して穴を開けることは容易ではありません。これを解決するためには、パイプの直径を小さくする、切断角度をより鋭利にする、刃の形状自体を変更するのいずれかが考えられます。

また、普及モデルのデザインにあたって、製造コストが問題となります。製造コストを下げるためのアプローチとして、現地で調達・運用可能なローカルテクノロジー・ローカルマテリアルを選択する必要があります。現地調査の結果、コスト面でプラスチックを大幅に下回るセラミックの鋳造技術がすでに普及していることから、コンセプトモデルにてABSで制作されている部分の代替としてセラミックを利用できます。しかしながら、酸化防止のための空気吸引具についてはゴムなどを用いた弁が必要となり、コストが高くなる可能性が依然として残ります。

第1回現地テストでは、Wanic Toolkitのコンセプトモデルを用いたWanic製造可能性について検証し、すでに述べたように、いくつかの改良点に関するフィードバックを得ることができました。これらのフィードバックにもとづいて、Wanic Toolkitの普及モデルの開発に着手しました。

まとめ

今回は、ソリューションモデル構築以後の「プロトタイピングと現地テスト」の前編として、ココナッツワイン”Wanic”と、Wanicを製造するためのツールキット”Wanic Toolkit”のコンセプトモデルについて、キットの概要、キットを用いたWanicの製造プロセス、ならびに、第1回現地テストとそこでのフィードバックを中心に説明しました。

次回は、第1回現地テスト結果を受けてデザインされた普及モデル、第2回現地テスト、さらには第2回現地テストをもとにした普及モデルの改良までを説明します。

続きを読む