ソーシャルイノベーションの事例 - OLPC

前回はソーシャルエンタープライズの事例として、米国NPOのKopernikを紹介いたしました。Kopernikは、利益追求を目的としないNPO法人であり、一般市民(個人)、市民団体、会社/大学をオンラインで媒介する場、すなわち、オンラインマーケットプレイスとして機能し、マッチングのための場の提供するというビジネスモデルを選択していました。

今回取り合げるのはOLPC – One Laptop Per Child – [1]です。前回と同様に、NPOを取り上げるわけですが、Kopernikが元コンサルタントを中心に設立されたのに対して、OLPCはマサチューセッツ工科大学のNicholas Negroponte(ニコラス・ネグロポンテ)を中心に、大学発NPOとして、2005年1月に、AMD、eBay、Google、News Corporation、Red Hat、Marvellらの寄付により設立されました。

[1] OLPC
 

MITメディアラボの創設者として知られるネグロポンテは、1993から1998年に渡って『Wired Magazineにて、”Move bits, not atoms(アトムからビットへ)”と呼ばれるコラムを毎月連載していました。Tangible Media Groupの石井裕教授の有名な”Tangible Bits”の論文[2]が世に出てのが1997年。ネグロポンテが石井教授に、「過去の研究を捨て、新しい研究に挑戦しろ」と[3]と言ったのは有名な話ですが、ネグロポンテの思想は、少なからず影響を与えたと考えられます。実際に、2000年に発売された著書『タンジブル・ビット – 情報の感触・情報の気配』に、ネグロポンテ自身が「タンジブル・メディア -アトムを着るビット」という原稿を寄稿しています。

[2] Tangible Bits: Towards Seamless Interfaces between People, Bits, and Atoms
[3] 「君が取り組んできた研究の面白さはわかった。でも、MITでは同じ研究は絶対に続けるな。まったく新しいことを始めろ。人生は短い。新しいことへの挑戦は最高のぜいたくだ」

OLPCのミッションは、「ネットワークにつながったラップトップを全ての就学児に提供し、教育を通じて世界の貧しい子供たちに活力を与えること」と定められています。このミッションのために、OLPCは、耐久性のある、低価格・低電力の、ネットワークに接続されたラップトップの開発を行っています。この目的のために、協働的で、楽しく、自分ひとりで打ち込めるような学習のためのハードウェア、コンテンツ、そしてソフトウェアをデザインしています。このようなツールに子供がアクセス可能となることで、子供たちは教育に集中でき、他の子供らと、学習、共有、創造することができると彼らは考えています。また、彼らは、”It’s not a laptop project. It’s an education project.”と掲げるように、ラップトップ開発のプロジェクトではなく、教育プロジェクトであることを強調しています。

思想的背景

彼らの思想的背景は、1967年のSeymour Papert(シーモア・パパート)による”Logo”まで遡るとされています。LogoはLispを原型としたプログラミング言語で、子供の思考能力の訓練を目的としていました。Logoは、Turtle graphics(タートル・グラフィックス)と呼ばれる、デカルト座標系内の相対的なカーソル(タートル)を用いてべクターグラフィクスによる描画を実行可能なソフトウェアに採用されたことで有名です。Web上で再現されたTurtle graphics[4]のExmapleページから実際の動作を確認することができます。

[4] Web Turtle

少し話が脱線しますが、Papertは、発達心理学者Piaget(ピアジェ)の構成主義(Constructivism)の影響を強く受けています。Piagetの構成主義は,個人が「”同化”と”調整”のプロセスを経て、自らの経験から新たな知識を能動的に構成する」という理論です。”同化”とはすでに持っている認識的枠組み(シェマ)に合うように、入力された情報を変形させること、”調整”とは、認識的枠組みを新しい経験に適応させていくこと、を指します。なお、構成主義の限界については、子ども自らが間違いを訂正しながら学習する必要があるため、その子ども自身の知的な枠を越えることができないという指摘がなされています。このような構成主義に対して、「子供が大人を含む社会の手助けを借りて高次学習を獲得する」という考え方を示したのがをソヴィエトの発達心理学者Vygotsky(ヴィゴツキー)でした。

さて、Papertはこのような構成主義の考え方を踏まえ,構築主義(Constructionism)という考え方を展開しました。構築主義とは、「意味のあるものを構築することが最も高い学習効果を持つ」という理論です。このような理論に基づく学習支援システムは、構築主義システムと呼ばれ、(後のMindstormとなる)Logo言語を利用したProgrammable Bricks[5]やResnickらによるCricket[6][7]が当該システムに分類されます。

[5] Programmable Bricks
[6] Crickets(MIT)
[7] PicoCricet

話をOLPCの思想的背景に戻しましょう。Papert以外の影響として、Alan Kay(アラン・ケイ)による、持ち運び可能なパーソナルコンピュータとしてのダイナブック構想があります。また、パーソナルコンピューティングの未来像を描いたNegroponte自身による著書『Being Digital(邦題: ビーイング・デジタル – ビットの時代)』も、OPLCの設立にあたっての土台となっています。

プロダクト

さて、ネグロポンテが、2005年のダボス会議にて100ドルラップトップ構想を発表したのち、2006年には、XO-1が発表されました。XO-1の開発にあたり設定されたOLPC CTOのMary Lou Jepsenによるデザイン要件[8]を以下に示します。

[8] A Conversation with Mary Lou Jepsen

– 最小限の消費電力。総消費電力目標が2-3ワット。
– 最小限の製造コスト。100万台で製造する場合、1台あたり100ドルを目標とする。
– クールな外見、物理的な外見についても確信的なスタイリングであること
– 非常に省電力なeブックリーダ
– オープンソースとフリーソフト

実際のスペックはOLPCの該当ページ9]を参照していただくとして、いくつか特徴的な機能について説明していきましょう。

[9] XO-1.5 Technical Specs

サイズ

XO-1は、テキストブックサイズで、ランチボックスよりも軽い重量です。変形可能なヒンジのおかげで、通常のラップトップ、eブックリーダ、ゲームマシン、などの設定に変更して利用することができます。

外装

外装のエッジは丸みを帯びていて、内蔵ハンドルは、子供サイズです。キーボードは、ゴム性カバーで覆われています。デュアル対応のタッチパッドは、ドローイング、ライティング、ポインティングをサポートしています。

耐久性

ラップトップで最も壊れやすいのは、ハードディスクであり、XOはハードディスクを使っていません。また、頑丈さのために、2mm厚のプラスチックを外装に用いています。ワイヤレスアンテナは、典型的なラップトップよりも優れており、USBポートのカバーにもなります。ディスプレイも同様に、内部バンパによって保護されています。

寿命

耐久寿命は、5年を想定しています。この持続性を担保するために、子供によるフィールドテストだけではなく、工場で破壊テストを行っています。

世界への広がり

さて、XO-1は現在、31ヶ国、200万人以上の子供たちによって、利用されています。地図に詳細データがマッピングされたページ[10]で、プロジェクトの一覧を確認することができます。

[10] OLPC Deployments as of March 2011

Give One Get One

 

ビジネスモデルとして興味深いだけではなく、このXO-1の拡大に貢献したと考えられるキャンペーンが、2007年、2008年に実施された”Give One Get One (G1G1) “です。このキャンペーンは、先進国のユーザが1人2台400ドルで購入することで、1台を購入者が利用し、1台を途上国に送ることができるというものでした。2008年11月から12月まで、カナダ、アメリカを対象として実施され、2008年11月から12月には、EU、スイス、ロシア、トルコまで拡大されて実施されました。

XO-3

XO-1の次期モデルとされるXO-3は、2012年に発売予定とされています。主なデザインの特徴を以下に列挙します。

– 半フレキシブルでありながら極めて頑丈で、透明モードと反射モードとして利用できるプラスチック式のタブレットスクリーン
– e-bookリーダから写真ビューワまで対応
– 複数の子供が、同時に遊んだり、学習することを実現するマルチタッチ
– フルタッチキーボード
– 背面カメラ

まとめ

今回は、途上国の子供たちに学習のためのラップトップを提供することにより、教育の機会を提供するOLPCを取り上げました。OLPCはNPO団体であり、寄付により活動が運営されています。2008年の経済危機の影響により、年間予算は1200万ドルから500万ドルへ減額となり、2009年1月には人員削減が行われました[11]。寄付金をベースとしてプロダクトを製造・販売するプロダクトアウト型のビジネスモデルは、寄付金を捻出する企業の景気動向に左右される側面も多く、不景気期には厳しい状況に陥る可能性が高いと考えられます。

[11] January 2009 restructuring

次回からは、大学、ならびに、研究機関のソーシャルイノベーションに関連するプロジェクトにスポットを当てていきたいと思います。

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ソーシャルイノベーションの事例 - Kopernik

前回は、ソーシャルエンタープライズの事例として、KickStartを紹介いたしました。KickStartは、地元の人々が起業家としてスモールビジネスを興すことによって、持続可能な社会の形成、雇用の創出、経済の発展に貢献するためのツールを開発し、そのツールを販売することで、利益を獲得するビジネスモデルを採用していました。

今回紹介するソーシャルビジネスの主体は、米国NPOのKopernik(コペルニク)[1][2]です。Kopernikの登記地は米国ですが、共同創設者兼CEOが日本人であることから、日本との関係が深く、日本支部も存在いたします。また、東日本大震災でもソーラーランタン、ソーラー・イヤー(補聴器)を被災地に届けるプロジェクトが実施されました。

[1] コペルニク(日本版)
[2] Kopernik(Global)

Kopernikは、”テクノロジーマーケットプレイス”としての自らの位置づけによって特徴づけられています。まずこの事業コンセプトに関する説明を上記ホームページから抜粋しつつ説明いたします。

コペルニクは、オンライン・マーケットプレースを通じてテクノロジーを所有する会社や大学、途上国の市民団体、そして一般市民の3者をつなげ、革新的な技術・製品を、発展途上国に波及させます。
コペルニクは、ウェブ上に革新的な製品・技術を掲載し、それを見た途上国の市民団体が立案したその技術・製品を活用するプロジェクトの提案書をウェブ上に掲載します。そして、プロジェクトを見た一般市民は、少額の寄付をし、プロジェクトを実現させます。

つまり、Kopernikは、前回紹介したKickStartとは異なり、一般市民(個人)、市民団体、会社/大学を、オンラインで媒介する場として機能することを事業とし、直接的な製品の開発、製造、販売による利益獲得という一般的なビジネスモデルを採用していません。NPO法人=利益追求を目的としない法人として選択した事業内容、というと決してそうではなく、積極的な理由が存在します。それについて同サイトから該当箇所を再び引用してみましょう。

貧困問題は現在地球上で最も深刻な問題の一つです。しかし、その問題を解決するのに、革新的なアイデアや手法が取り入れられることは非常に稀です。昔からの使いまわしの「解決策」ではほとんど効果が出ません。
一方で、発展途上国向けに開発された革新的技術は巷に溢れ、数、種類ともに増加しています。しかし、途上国側からしてみれば、このような技術が存在することすら知りません。技術保有者側からしてみれば、途上国のマーケットへのアクセスが非常に限られている上に、いくら安くとも、技術の価格が貧困層の手の出る範囲にまでは下がらず、結果的に行き詰ってしまうというのが現状です。
これらの問題を、我々なりに解決しようとコペルニクを立ち上げました。

現在の途上国支援という場を考えた場合、すでに技術は存在するものの、それらの技術を適切にマッチングする仕組みがなかったことが指摘されています。最も重要な点は、過去において、技術的課題やリソースの問題から実現できなかったマッチングの場を構築した点にあります。ネットワーク技術の工場、ファブリケーション技術の発展を背景に、最も適切なタイミングで先行者としての地位を築きつつあるとの印象を受けます。それでは実際のビジネスモデルについて、引き続き紹介していきましょう。

ビジネスモデル

Kopernikのビジネスモデルでは、4つの主体が登場します。

1. サポーター
技術を導入するための資金を提供する個人および企業

2. テクノロジー要求者
地域組織に代表される途上国において技術を求めている団体

3. テクノロジー提供者
途上国の問題に対する革新的なソリューションを開発した企業

4. Kopernik
途上国のためにデザインされた技術のためのマーケットプレイスを提供

さて、このような4つの主体で構成されるマーケットプレイスでは、特定の地域団体によって、様々な場所で様々な問題を解決するために立案されるプロジェクトが存在しています。個別のプロジェクトや、そこで導入されるプロダクトを紹介する前に、Kopernikの採用している具体的な問題解決のためのステップを紹介します。

問題解決のためのステップ

ステップ1: プロジェクトに寄付をする
発展途上国の市民団体などテクノロジーを必要とする団体から提案されたプロジェクトを見て、支援したいものを選ぶ。

ステップ2: 製品を買う
プロジェクトを実行するのに必要なお金が集まったら、テクノロジーを保有する会社・大学から製品を買う。

ステップ3: 製品を発送する
テクノロジーを保有する会社・大学が製品を発送する。

ステップ4: 進捗を報告する
プロジェクトを実施する団体が、製品がどのように使われたかをコペルニクのウェブを通じて報告する。

プロダクト

Kopernikのウェブサイトには、多くのプロダクトが掲載されています。ここでは代表的なプロダクトを3点紹介いたします。なお、説明文は全て英語サイトからの拙訳です。

自分で度を調節できるメガネ

訓練を受けた眼医者の数が少なく、人々に正しい度数のメガネを処方出来ないということが、発展途上国での大きな問題の1つです。AdSpecs[3][4]は、メガネを必要とする人が自分で度数を調整出来るメガネです。

レンズの度数を変化させるために、メガネのフレームに付いている注射器部分の車輪を回して、レンズの中に注入するシリコンの量を調整します。度数を調整し終わったら、フレームの両側のネジを締め、注射器とチューブを取り外すだけで、数分後には通常のメガネとして利用できます。

製造:Centre for Vision in the Developing World
価格:$21.00

[3] 自分で度を調節できるメガネ
[4] AdSpecs – Self-Adjustable Lenses

Qドラム:円形水運搬器具

Qドラム[5][6]は、50リットルの水を運搬可能な頑丈なドーナツ型のコンテナです。

Qドラムのもともとのアイディアは、水源から水を運ぶ際に十分な量を一度に運ぶことができない途上国の農村部に住む人々の要望から生まれました。この重労働は、一般的にそれぞれのコミュニティの子供や女性に課せられます。例えばアフリカでは、背中や首の怪我の原因は、彼女たちが頭を使って重い荷物を運搬する方法にあると言われています。円形の容器に水を入れて運ぶことで、この問題を解決することができます。

製造:Q Drum (Pty) Ltd
価格:$65.00

[5] Qドラム
[6] Q-Drum

ライフストロー

ライフストロー[7]は、下痢防止のための持ち運び可能な浄水フィルタです。簡単に持ち運びができて、安全できれいな飲料水を手に入れることができます。個人用で、低コストの浄水ツールですが、700リットル、つまり、一人が1年間利用する量の水を浄水可能です。世界の貧しい人々の半分が、水を起因とする病気に悩まされ、6000人、特に子供が、安全でない飲料水から来る病気で日々命を失っています。ライフストローは、2015年までに安全な水にアクセスできない人々を半減させるというミレニアム開発目標を達成するだけではなく、病気を防ぎ、命を救う実用的な手段として開発されました。

製造:Frandsen
価格:$7.50

[7] LifeStraw Portable Water Filter

プロジェクト

最後に、上記で紹介した3点のプロダクトに関するプロジェクトを紹介したいと思います。

視力を取り戻す

インドネシアのマナド県にある貧しいコミュニティーにて、自分で自由に度数を調節できるメガネが配布された事例です。

Kopernik distributes self-adjustable lenses from Ewa Wojkowska on Vimeo.

水運びの負荷を軽減

ケニアに住む女性や子供たちが、水源から彼らの家まで水を運ぶ負荷を軽減できるようにするためのプロジェクトです。目標金額は、$8,812で、現在(2011年5月n日)$1,805が寄付によって集まっています。

解決すべき問題:ケニヤの女性や子供は、家事で使用する水を運ぶ責任があります。彼らは頭に大量の水の入った容器を載せて、長い距離を運ぶため、脊髄や首の怪我に悩まされています。さらに、子供が彼らの責任を果たすため、授業に遅刻したり、出席できないなど、その国の教育レベルにまで影響を及ぼしています。

実施場所:ケニヤ
プロジェクトURL:こちらをクリック

きれいな水へのアクセスを容易に

東ティモールのオクシ(インドネシア領の西ティモールにぽつんとある東ティモールの飛び地)のコミュニティに住む女性や少女たちが、きれいな水に容易にアクセスできるようにするための、現在進行中のプロジェクトです。

解決すべき問題:東ティモールでは、人口の半分が飲料用水にアクセスできません。乾燥期にはこの問題は更に悪化します。

実施場所:オクシ、東ティモール
プロジェクトURL:こちらをクリック

まとめ

今回は、前回紹介したKickStartとは異なるビジネスモデルを採用したソーシャルエンタープライズとして、米国NPO法人Kopernikを紹介いたしました。Kopernikは、利益追求を目的としないNPO法人として、マッチングのための場の提供というビジネスモデルを選択しています。このように、直接製品を開発、製造、販売するという一般的な手法とは異なる手法と採用したBOPビジネスに対する関わり方も今後は増加すると考えられます。

21世紀に入り、社会貢献に関する考え方も変化しつつあります。今や、ビジネスにおける成功者やキリスト教的寄付文化に影響された人々だけではなく、ネットワークを通じて世界のリアルな問題を生々しく把握した”普通”の人々が新たにプレイヤーとして参加しつつあります。彼らは、単なる利益追求型の行動原理ではなく、内的報酬型の行動原理に基づいて、日中は勤務先での仕事に従事しつつ、空き時間や休日を使い、刺激的な社会貢献活動を行っています。社会変革の一旦を担うことで精神的に充足されることを報酬として考える人々は増加傾向にあっても、それをビジネスとして落としこむまでには多大なる労力を必要とします。ここに新たなビジネスチャンスがあるのかもしれません。

次回は、ソーシャルエンタープライズと研究機関のブリッジとしてのOLPCプロジェクトについて紹介いたします。

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ソーシャルイノベーションの事例 - KickStart

前回はソーシャルイノベーションの場としてのBOPに注目し、語義的な起源、定義、その特徴について述べてきました。本blogのテーマである、ソーシャルイノベーションのためのデザイン思考、および、デザイン手法について説明する前に、これから7回に渡って、ソーシャルイノベーションの担い手としての、企業、NPO、大学、研究機関を紹介し、具体的なプロダクト、サービス、システムについて説明していきたいと思います。特に前半3回で紹介する3団体は、それぞれが異なるビジネスモデルを採用しており、ソーシャルエンタープライズとして成立しています。

今回紹介するのは、KickStart(キックスタート)[1]です。KickStartは1991年にMartin FisherとNick Moonによって設立されたApproTECを起源とし、2005年に名称を変更し、現在のKickStartとなりました。彼らは、KickStartのミッションを「数百万人の人々の貧困からの救出」と定めています。彼らは、ケニアやその他の国々における”持続可能な経済成長”と”雇用創出の促進”を目的として、小規模で利益を出せる企業を設立し、経営を行うことを目的とした起業家によって利用される技術に注目し、これを開発し、広めていくことで、この目的を達成しようとしています。

[1] KickStart

さて、彼らのビジネスモデルは、貧しい起業家が自分自身の手で利益を生み出すビジネスを作り出すために利用可能な、お金を生み出すシンプルなツールを開発し、販売し、普及させるための5つのステップを基本としています。この5ステップの原文と拙訳を以下に掲載いたします。

貧困を解決するためのシステマチックアプローチ(5つのプロセス)

1. 機会を同定する。
どんなビジネスが人々、あるいは、その場所で利益を生み出すか?
正しいビジネスモデルを選択することが、新しいビジネスの成功を決定づける最大の要因である。

2. 製品をデザインする
どんな新しいツールが、新しいビジネスをを可能たらしめるのか?
私たちは収入を生み出すツールをデザインすることから始める。

3. サプライチェーンを確立する
新しいツールをどうやって生産するのか?
最も優れた発明もまた、それが製造され、普及しなければ世界を変えることができない。

4. 市場を作り出す
どのようにすればわずかなお金を稼ぐために大きな投資をするよう説得できるだろうか?
われわれは可能な限り多くの人を貧困から救い出したい。

5. 測定し、突き進む
計画通りに進んでいる?
損益分岐点に到達すれば、我社は全ての販売に対して利益を得るようになる。われわれはこの利益を新たな技術の開発に再投資するだろう。

1. Identify Opportunities
What business will be profitable for these people, in this place?
Selecting the right business model is the most critical factor in determining the likely success of a new business.

2. Design Products
What new tools will make this possible?
We start with a challenge – design a tool that will generate income.

3. Establish a Supply Chain
How can we produce these?
The greatest invention cannot change the world if it does not get manufactured and distributed.

4. Develop the Market
How do we convince someone with little money to make a big investment?
We want to get as many people out of poverty as possible.

5. Measure and Move Along
Is this going as we planned?
Once we reach the tipping point, KickStart will make a profit on every sale. We will reinvest these to develop new technologies.

プロダクト

ここで、Kicstartの製品を2つ紹介しましょう。

スーパー マネーメーカー ポンプ

スーパーマネーメーカーポンプは、1998年10月に95ドルで発売が開始された手動灌漑ポンプです。23フィート(7m)の高さの井戸、川、池から、水を引き上げることができ、ポンプから23フィート(7m)上まで水を撒くことができます。1日に2エーカーまでの土地の灌漑に利用できます。灌漑を通じて生産された果物や野菜を通じて初年度に平均1000ドルの産んでいます。

ヒップポンプ

スーパーマネーメーカーポンプと比較して、低コスト、軽量で、持ち運び可能な手動灌漑ポンプとしてデザインされたのがヒップポンプです。2006年に30ドルで発売されました。スーパーマネーメーカーが21kgであったのに対して、ヒップポンプはわずか4.5kg。スーパーマネーメーカーポンプと同様に、吸引深度は7m、汲み上げ高度も7mのスペックが確保されており、1日1 1/4エーカーの灌漑に利用できます。

これら2つのポンプは、2008年12月31日末段階で、115,000台販売され、77,000の企業を生み出し、380,000人の人々を貧困から救ったと報告されています。[2]

[2] a PDF version of the brochure

デザイン原則

最後に、KickStartの10のデザイン原則を紹介しましょう。

1. 収入を生むこと
どのツールにも利益を出せるビジネルモデルが付いていること。

2. 投資に対する見返り
KickStartのツールを購入した全てのひとは、6ヶ月以内にその投資に対する見返りを十分に得られること。

3. 値段の手頃さ
ターゲットユーザに対して価格が手頃であること。我々は、世界でも最も貧しい人々に対してデザインを行っている。小売価格は、数100ドル以下、理想的には150ドル以下でなければならない。

4. エネルギー効率
全てのツールは、人力で動く。人の力の機械の力への変換は極めて効率的でなければならない。

5. 人間工学と安全
われわれのツールは、長期間、ストレスやけがの心配なしに使われるほど安全でなければならない。

6. 携帯性
ツールは、購入した店から徒歩、バイク、ミニバスで家まで運べるほど小さく軽くなければならない。

7. 設置と使用の容易さ
全ての製品は、追加の訓練やツールを必要とせず、簡単に設置・使用ができなければならない。

8. 強度と耐久性
われわれの製品は、限界まで使用されるので、酷使に耐えるようにデザインされる必要がある。その上で、全ての製品に1年の保証を付与している。

9. 生産能力を踏まえたデザイン
本来ならばツールは、大量生産されるべきであるが、途上国では生産能力が限られている。われわれはこれらの限界を踏まえたデザインをする必要がある。

10. 文化的な受容
地元の文化は、新しい技術を取り入れても変化はしない。その技術を、むしろ地元の文化に適応させねばならない。

1. Income Generating
Every tool must have a profitable business model attached to it.

2. Return on Investment
Anyone who purchases a KickStart tool will be able to fully recoup his or her investment in six months or less.

3. Affordability
The tool has to be affordable to the target audience. Since we are designing for some of the world’s poorest people, this means that retail prices have to be less than a few hundred dollars, ideally less than $150.

4. Energy-Efficient
All of our tools are human powered so they must be extremely efficient at converting human power to mechanical power

5. Ergonomics and Safety
Our tools must be safe to use for long periods of time without stress or injury.

6. Portability
Tools must be small and light enough to carry home from the store by foot, bike or minibus.

7. Ease of Installation and Use
All of our products must be easy to set up and use, without additional training or requiring any additional tools (not even a hammer or screwdriver)

8. Strength and Durability
We are asking people to make a significant investment and we know that our products will be pushed to their limits, so we design and build to withstand abuse. We then offer a one-year guarantee on all of our products.

9. Design for Manufacturing
To be truly effective, a tool has to be produced in large quantities, but in the developing world manufacturing capacity is limited.
We design around these limitations.

10. Cultural Acceptability
Local culture will not change to adopt a new technology. The technology has to be adapted to the culture.

まとめ

KickStartの作り出す製品のコンセプトは、地元の人々が起業家として利益を生み出すことが可能であり、持続可能な社会の形成、雇用の創出、経済の発展に貢献する製品、と言えます。投資に対するリターンを明示的に起業家の卵に提示することが、購入の説得材料となっています。購入者の成功事例がさらなる新たな起業家を生み出すポジティブスパイラルの好例と言えるでしょう。KickStart社は製品を製造し、利益を乗せて販売する、という最も基本的なビジネスモデルを採用していますが、企業としてBOPマーケットにおいて利益を創出し続けています。

次回はNPO(非営利法人)の代表として、米国NPOのKopernik(コペルニク)を紹介いたします。

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