ソーシャルイノベーションの事例 - Kopernik

前回は、ソーシャルエンタープライズの事例として、KickStartを紹介いたしました。KickStartは、地元の人々が起業家としてスモールビジネスを興すことによって、持続可能な社会の形成、雇用の創出、経済の発展に貢献するためのツールを開発し、そのツールを販売することで、利益を獲得するビジネスモデルを採用していました。

今回紹介するソーシャルビジネスの主体は、米国NPOのKopernik(コペルニク)[1][2]です。Kopernikの登記地は米国ですが、共同創設者兼CEOが日本人であることから、日本との関係が深く、日本支部も存在いたします。また、東日本大震災でもソーラーランタン、ソーラー・イヤー(補聴器)を被災地に届けるプロジェクトが実施されました。

[1] コペルニク(日本版)
[2] Kopernik(Global)

Kopernikは、”テクノロジーマーケットプレイス”としての自らの位置づけによって特徴づけられています。まずこの事業コンセプトに関する説明を上記ホームページから抜粋しつつ説明いたします。

コペルニクは、オンライン・マーケットプレースを通じてテクノロジーを所有する会社や大学、途上国の市民団体、そして一般市民の3者をつなげ、革新的な技術・製品を、発展途上国に波及させます。
コペルニクは、ウェブ上に革新的な製品・技術を掲載し、それを見た途上国の市民団体が立案したその技術・製品を活用するプロジェクトの提案書をウェブ上に掲載します。そして、プロジェクトを見た一般市民は、少額の寄付をし、プロジェクトを実現させます。

つまり、Kopernikは、前回紹介したKickStartとは異なり、一般市民(個人)、市民団体、会社/大学を、オンラインで媒介する場として機能することを事業とし、直接的な製品の開発、製造、販売による利益獲得という一般的なビジネスモデルを採用していません。NPO法人=利益追求を目的としない法人として選択した事業内容、というと決してそうではなく、積極的な理由が存在します。それについて同サイトから該当箇所を再び引用してみましょう。

貧困問題は現在地球上で最も深刻な問題の一つです。しかし、その問題を解決するのに、革新的なアイデアや手法が取り入れられることは非常に稀です。昔からの使いまわしの「解決策」ではほとんど効果が出ません。
一方で、発展途上国向けに開発された革新的技術は巷に溢れ、数、種類ともに増加しています。しかし、途上国側からしてみれば、このような技術が存在することすら知りません。技術保有者側からしてみれば、途上国のマーケットへのアクセスが非常に限られている上に、いくら安くとも、技術の価格が貧困層の手の出る範囲にまでは下がらず、結果的に行き詰ってしまうというのが現状です。
これらの問題を、我々なりに解決しようとコペルニクを立ち上げました。

現在の途上国支援という場を考えた場合、すでに技術は存在するものの、それらの技術を適切にマッチングする仕組みがなかったことが指摘されています。最も重要な点は、過去において、技術的課題やリソースの問題から実現できなかったマッチングの場を構築した点にあります。ネットワーク技術の工場、ファブリケーション技術の発展を背景に、最も適切なタイミングで先行者としての地位を築きつつあるとの印象を受けます。それでは実際のビジネスモデルについて、引き続き紹介していきましょう。

ビジネスモデル

Kopernikのビジネスモデルでは、4つの主体が登場します。

1. サポーター
技術を導入するための資金を提供する個人および企業

2. テクノロジー要求者
地域組織に代表される途上国において技術を求めている団体

3. テクノロジー提供者
途上国の問題に対する革新的なソリューションを開発した企業

4. Kopernik
途上国のためにデザインされた技術のためのマーケットプレイスを提供

さて、このような4つの主体で構成されるマーケットプレイスでは、特定の地域団体によって、様々な場所で様々な問題を解決するために立案されるプロジェクトが存在しています。個別のプロジェクトや、そこで導入されるプロダクトを紹介する前に、Kopernikの採用している具体的な問題解決のためのステップを紹介します。

問題解決のためのステップ

ステップ1: プロジェクトに寄付をする
発展途上国の市民団体などテクノロジーを必要とする団体から提案されたプロジェクトを見て、支援したいものを選ぶ。

ステップ2: 製品を買う
プロジェクトを実行するのに必要なお金が集まったら、テクノロジーを保有する会社・大学から製品を買う。

ステップ3: 製品を発送する
テクノロジーを保有する会社・大学が製品を発送する。

ステップ4: 進捗を報告する
プロジェクトを実施する団体が、製品がどのように使われたかをコペルニクのウェブを通じて報告する。

プロダクト

Kopernikのウェブサイトには、多くのプロダクトが掲載されています。ここでは代表的なプロダクトを3点紹介いたします。なお、説明文は全て英語サイトからの拙訳です。

自分で度を調節できるメガネ

訓練を受けた眼医者の数が少なく、人々に正しい度数のメガネを処方出来ないということが、発展途上国での大きな問題の1つです。AdSpecs[3][4]は、メガネを必要とする人が自分で度数を調整出来るメガネです。

レンズの度数を変化させるために、メガネのフレームに付いている注射器部分の車輪を回して、レンズの中に注入するシリコンの量を調整します。度数を調整し終わったら、フレームの両側のネジを締め、注射器とチューブを取り外すだけで、数分後には通常のメガネとして利用できます。

製造:Centre for Vision in the Developing World
価格:$21.00

[3] 自分で度を調節できるメガネ
[4] AdSpecs – Self-Adjustable Lenses

Qドラム:円形水運搬器具

Qドラム[5][6]は、50リットルの水を運搬可能な頑丈なドーナツ型のコンテナです。

Qドラムのもともとのアイディアは、水源から水を運ぶ際に十分な量を一度に運ぶことができない途上国の農村部に住む人々の要望から生まれました。この重労働は、一般的にそれぞれのコミュニティの子供や女性に課せられます。例えばアフリカでは、背中や首の怪我の原因は、彼女たちが頭を使って重い荷物を運搬する方法にあると言われています。円形の容器に水を入れて運ぶことで、この問題を解決することができます。

製造:Q Drum (Pty) Ltd
価格:$65.00

[5] Qドラム
[6] Q-Drum

ライフストロー

ライフストロー[7]は、下痢防止のための持ち運び可能な浄水フィルタです。簡単に持ち運びができて、安全できれいな飲料水を手に入れることができます。個人用で、低コストの浄水ツールですが、700リットル、つまり、一人が1年間利用する量の水を浄水可能です。世界の貧しい人々の半分が、水を起因とする病気に悩まされ、6000人、特に子供が、安全でない飲料水から来る病気で日々命を失っています。ライフストローは、2015年までに安全な水にアクセスできない人々を半減させるというミレニアム開発目標を達成するだけではなく、病気を防ぎ、命を救う実用的な手段として開発されました。

製造:Frandsen
価格:$7.50

[7] LifeStraw Portable Water Filter

プロジェクト

最後に、上記で紹介した3点のプロダクトに関するプロジェクトを紹介したいと思います。

視力を取り戻す

インドネシアのマナド県にある貧しいコミュニティーにて、自分で自由に度数を調節できるメガネが配布された事例です。

Kopernik distributes self-adjustable lenses from Ewa Wojkowska on Vimeo.

水運びの負荷を軽減

ケニアに住む女性や子供たちが、水源から彼らの家まで水を運ぶ負荷を軽減できるようにするためのプロジェクトです。目標金額は、$8,812で、現在(2011年5月n日)$1,805が寄付によって集まっています。

解決すべき問題:ケニヤの女性や子供は、家事で使用する水を運ぶ責任があります。彼らは頭に大量の水の入った容器を載せて、長い距離を運ぶため、脊髄や首の怪我に悩まされています。さらに、子供が彼らの責任を果たすため、授業に遅刻したり、出席できないなど、その国の教育レベルにまで影響を及ぼしています。

実施場所:ケニヤ
プロジェクトURL:こちらをクリック

きれいな水へのアクセスを容易に

東ティモールのオクシ(インドネシア領の西ティモールにぽつんとある東ティモールの飛び地)のコミュニティに住む女性や少女たちが、きれいな水に容易にアクセスできるようにするための、現在進行中のプロジェクトです。

解決すべき問題:東ティモールでは、人口の半分が飲料用水にアクセスできません。乾燥期にはこの問題は更に悪化します。

実施場所:オクシ、東ティモール
プロジェクトURL:こちらをクリック

まとめ

今回は、前回紹介したKickStartとは異なるビジネスモデルを採用したソーシャルエンタープライズとして、米国NPO法人Kopernikを紹介いたしました。Kopernikは、利益追求を目的としないNPO法人として、マッチングのための場の提供というビジネスモデルを選択しています。このように、直接製品を開発、製造、販売するという一般的な手法とは異なる手法と採用したBOPビジネスに対する関わり方も今後は増加すると考えられます。

21世紀に入り、社会貢献に関する考え方も変化しつつあります。今や、ビジネスにおける成功者やキリスト教的寄付文化に影響された人々だけではなく、ネットワークを通じて世界のリアルな問題を生々しく把握した”普通”の人々が新たにプレイヤーとして参加しつつあります。彼らは、単なる利益追求型の行動原理ではなく、内的報酬型の行動原理に基づいて、日中は勤務先での仕事に従事しつつ、空き時間や休日を使い、刺激的な社会貢献活動を行っています。社会変革の一旦を担うことで精神的に充足されることを報酬として考える人々は増加傾向にあっても、それをビジネスとして落としこむまでには多大なる労力を必要とします。ここに新たなビジネスチャンスがあるのかもしれません。

次回は、ソーシャルエンタープライズと研究機関のブリッジとしてのOLPCプロジェクトについて紹介いたします。

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