Stanford d.school / Stanford Design Program 1/2

ご無沙汰しております。前回の第25回にて本ブログの更新を一時中断しておりましたが、Bay Are周辺を視察する機会を得、思うところがありましたので、2回に渡って、Stanford d.schoolとStandford Design Programについてつらつらと書きたいと思います。

d.school と Design Program

まず、Stanford d.schoolは、第08回でも紹介したように、”デザイン思考”を通じて人々を結びつける場所として、スタンフォード大学内に設置された様々なクラス群を指します。d.schoolのクラスは、Stanford大学の大学院生でなければ受講できませんが、原則d.schoolとしての学位は学生に提供されません。

一方で、Standford Design Programは、Stanford大学における、Designを専門とするGraduateコースを差します。Stanfordには、Designを専門とするコースは、Undergraduateコースにも存在し、こちらはMechanical EngineeringのDesign Groupに存在します。

Stanford Design Programの教授は、IDEO創設者であるDavid Kellyと元AppleのBill Barnettの2人のみのため、Design Programの提供するクラスの数には限りがあります。したがって、学生は、修了要件を満たすために、d.schoolのクラスを受講したり、バックグラウンドに合わせて、Mechanicla Engineering(ME)学部もしくはArt学部のクラスを取る必要があります。

現在、Design Programに在籍するMasterコースの学生は30人程度です。MFA(The Master of Fine Arts)の学位を取る場合は、Art学部のUndergraduateのクラスの単位が必要となります。MSE(The Masters of Science in Engineering)の学位を取得する場合は、ME学部のUndergraduateのクラスの単位が必要となります。

Design Programの学生は、原則、社会人を経由して入学してきます。学部時代の専攻は、機械工学が主流のようです。機械工学のバックグラウンドを持つ学生は、インダストリアルデザイン、プロダクトデザインに関する知識が欠けているため、デザインの初歩から学び始めることなります。インタラクションデザイン/ユーザエクスペリエンスデザインは、コンピュータサイエンスをバックグランドとしない限り、決して強くありません。

また、Design Programの学生は、Stanford大学の持つ、すばらしく充実した施設を利用することができます。3Dプリンタ、レーザーカッターなどの基本的なデジタルファブリケーションツールはもちろんのこと、様々な基本的な工作機械、鋳造、溶接、成型のための様々な特殊大型機械を利用することができます。なお、これらの施設を利用するための講習が、MEのクラスとして提供されているようです。



クラス

 

次に、幾つかのDesigin Programのクラスについて簡単に説明したいと思います。

視察したクラスは、どれも座学での講義でしたが、学生に質問を投げかけながら、ディスカッションのような形式で進んでいきました。日本の講義形式は、一方的な講演スタイルが多数であるのに対して、視察した講義はいずれも、某白熱教室でも見られたようなスタイルでした。ご存知のように海外の多くのトップ大学は講義アーカイブをiTunesUや自前のシステムを通じて公開しています。アーカイブに対して、教室でのディスカッションへの参加や、直接の指導にこそ高い授業料を払う価値があると考えられているようです。

ME 312. Advanced Product Design: Formgiving

本クラスは、プロダクトデザインの基礎で、プロダクトデザインのデザイン言語として、ゲシュタルト、ジオメトリ、エッジと交差、サーフェイス、色、ロゴとグラフィクスについて様々なプロダクトを引き合いに出しながら、説明をしていました。わずか10枚のスライドを使って、120分の講義が終わりました。

ME 216A. Advanced Product Design: Needfinding

このクラスは、ニーズの探し方、問題発見に関するクラスです。今回は、インタビューの方法を詳細に渡って説明していました。インタビューには多数の形式が存在しますが、今回の講義では、ナラティブインタビューの方法について、カメラの位置や画角まで細かい実演形式にて講義が行われました。

ARTSTUDI 60. Design I: Fundamental Visual Language

このクラスは、Art学部のUndergraduateのクラスですが、MFAを取得する場合、Design Programの学生が取得しなければならないクラスです。プリズムを使った色の原理の説明から、彩度、明度といった概念の理解のためのカラーチャートを使ったワークショップなど、こちらもかなり細かい内容まで踏み込んだクラスでした。

ME 101. Visual Thinking

このクラスは、MEのUndergraduate向けのクラスです。立体造形の基本のクラスで、今回は、最初の課題発表を行なっていました。具体的には、複数の立体構造を組み合わせて1つの構造体を制作するという課題でした。

Design Garage

このクラスは、修士研究のクラスです。Design ProgramのGraduateコースの場合、修士論文は存在せず、作品が修了要件となります。これは他のアメリカの大学のDesign Degreeを取得する場合と同様の要件です。

Design Programでは1年間(実際には3クオーターの9ヶ月)をかけてプロジェクトのアイディアを練っていきます。他学部の学生を捕まえ、チームにリクルートすることも評価の1つです。また、年度の最後には企業へのプレゼンテーションの機会も含まれていますが、この段階で求めれれるものはワーキングプロトタイプではなく、あくまでアイディアまでとのことでした。

さて、今回は、Second Quoter(1-3月)の最初のプレゼンテーションの時間でした。(4-5名で構成される)チームごとに分けれて、各自が行なってきたインタビュー結果に基づくアイディアの共有を行います。ここでも講師陣とのディスカッションがベースで、抽象的な表現(魅力的な、etc)については、説明が求められ、アイディアをブラッシュアップしていきます。

以上、いくつかのクラスの説明をしました。Design Program、Art学部、ME学部のそれぞれのクラスは、特定のトピックに対して、非常に深く掘り下げた講義をディスカッションスタイルで行なっているとの印象を受けました。これは、そもそも教える側がジェネラリストではなく、高度な専門性を持つスペシャリストであるという点と、アメリカの社会システムの性質と関係した現象ではないかと推測しています。

アメリカにおける雇用は、主としてポジション性で、スペシャリストが求められます。日本の多くの企業が、ジェネラリストを養成するためのシステム(例えばローテーション制など)を採用していますが、このようなシステムとは真逆のシステムです。例えば、エンジニアのポジションに対しては、デザインができるエンジニアよりも、より高度な専門性を持ったエンジニアが求められるでしょう。ECを主なプロダクトとする100人程度の規模の会社のマネージャーのポジションに対しては、まさにパーツとして適切な人材が存在し、このような人材は、会社が成長するとその会社を去り、再び100人程度の規模のEC関連会社のポジションを務めるようです。

アメリカにおける高等教育も、上記のような雇用システムと直結しており、教える側はスペシャリストであるため、狭い領域で濃い講義をします。学生たちもまた、そのように教育され、狭い領域での高度な専門性をもって卒業していきます。一旦社会に出た人間も、高度な専門性を得るため、伸ばすため、あるいは、別の専門性を身につけ、別のキャリアへ進むために、大学院へと戻ってくるのです。

後半に続きます。

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