デザインメソッド – デザインパタン

前々回より、デザインプロセスにおいて用いられてきた既存のデザインメソッドについて紹介をしています。前回は、「2. 課題を発見し、仮説を構築する」ためのメソッドとして、質的データを用いたモデリング手法を紹介いたしました。具体的には、ユーザの属性に注目したユーザモデリングとして、ペルソナ、シナリオ、ゴールダイレクテッドデザイン、ユーザの行動に注目したワークモデル、そしてフィールドの構造を理解するためのGTA(グラウンデッドセオリーアプローチ)を紹介しました。

第3弾となる今回は、「3. プロトタイピングを行う」プロセスにおいて利用可能なメソッドを紹介いたします。フィールドワークで得られた質的データをもとにモデリングを行い、仮説を構築した後、実際にプロトタイピングを行っていく過程で、様々な部品(パーツ)を組み合わせて全体のプロダクトを構築していきます。このとき、部品(パーツ)を構築する際にパタンと呼ばれる、「あるコンテキストにおけるデザイン上の特定の問題に対するソリューションを提供することを目的としたデザインメソッド」を利用することができます。パタンは、デザインパタンとも呼ばれ、パタンの集合はパタンランゲージと呼ばれます。デザインパタンの概念は建築で生まれ、ソフトウェア、HCI(Human Computer Interaction)へと移行してきました。以下では、その流れに沿ってパタンの詳細を説明していきたいと思います。

建築におけるパタン

現在のデザインパタンは、建築家アレグザンダーの『パタン・ランゲージ』[1]を起源としています。アレグザンダーのパタンランゲージは、”フォーマット”と”ヒエラルキー”という2つの特徴を持っています。まず、フォーマットは、プロブレム、コンテキスト、ソリューションなどの基本要素からなる記述形式を指します。これは、デザイン上の問題に対する証明された解決法を、建築家だけでなく「エンドユーザに対して」理解しやすい形式で表現することを目的としています。次に、ヒエラルキーは、パタン同士の関係性を示します。このパタン同士の関係性は、抽象的で大きなスケールから、具体的で小さなスケールへと分解可能であること、そして、それぞれのパタン同士が密接に連結すること、を特徴としています。以下に1つの例を示しましょう。

[1] Alexander, Christopher. A Pattern Language: Towns, Buildings, Construction. New York, USA: Oxford University Press, 1977.

パタン名: 251 まちまちの椅子

上位概念との関連性:
部屋に家具を備え付ける用意ができたら、建物を作るのと同じくらい慎重に、変化に富んだ家具を選ぶこと。置き家具であれ、造り付け家具であれ、部屋やアルコーブの場合と同様に、1つ1つの家具が独特で有機的な個性 – 置き場所によってそれぞれ異なる – を発揮するようにすること – くつろぎの空間の連続(142)、くるま座(185)、造り付けの椅子(202)。

問題:
人によって、体格も座り方もまちまちである。ところが現代では、どれもこれも同じような椅子をつくろうとする傾向がある。

解決法:
どんな場所であっても、同一の椅子で揃えないこと。大きな椅子や小さな椅子、柔らかな椅子は堅い椅子、揺り椅子、古びた椅子や新しい椅子、肘掛け付きやそうでないもの、枝編み、木製、布製などといった具合に、変化に富んだまちまちの椅子を選ぶこと。

下位概念との関連性:
1つであれ、たくさんであれ、椅子を置く場所は、明かりだまり(252)にし、その場所特有の性格を強調すること。

このような特徴を持つアレグザンダーのパタンを正しく用いた建物や町の創り方は、アレグザンダー3部作第1作目『時を超えた建設の道』に記されています[2]。続いて、アレグザンダーによる建築からコンピューティングへの適用への流れについて述べていきましょう。

[2] Alexander, Christopher. The Timeless Way of Building. New York, USA: Oxford University Press, 1977.

ソフトウェアエンジニアリングにおけるパタン

アレグザンダーのパタンランゲージは、80年代後半よりソフトウェアエンジニアリングの領域へ導入されていきます。「ユーザのためのデザイン」という観点からすればソフトウェアエンジニアリング以前にHCIに導入されることが当然でしたが、HCI以前にソフトウェアエンジニアリングへの導入が先行しました。この理由は諸説存在しますが、定説は現時点では存在しません。以下では、ソフトウェアエンジニアリングにおけるパタンに関する代表的な書籍として、Gammaらによる『Design Patterns(邦題:オブジェクト指向における再利用のためのデザインパターン)』を紹介いたします。

[3] Gamma, Erich, et al. Design Patterns: Elements of Reusable Object- Oriented Software. MA: Addison-Wesley, Reading, 1995.

Gammaらによる『Design Patterns』は、オブジェクト指向ソフトウェア設計の際に繰り返し現れる重要な部品を、デザインパタンとして記録した上で、カタログ化したものです[3]。本書は、ソフトウェアエンジニアリングにおけるパタンランゲージを始めて書籍化したものであり、HCIへの導入よりも先行していました。しかしながら、本書はHCIパタン研究者からいくつかの欠点を指摘されています。例えば、開発者用のパタンであって、エンドユーザを意識していない[4]、構造的アプローチの欠如[5]、一般的なランゲージとしてのフォーマットを持たない[6]、などが挙げられます。また、アレグザンダー自身もOOPSLA 1996のキーノートスピーチにおいて、ソフトウェアエンジニアリングへのパタンの導入が失敗であったことについて言及しています。

[4] Borchers, J. O. “Interaction Design Patterns: Twelve Theses.” Talk at CHI 2000 workshop “Pattern Languages for Interaction Design: Building Momentum. Den Haag, 2000.
[5] Borchers, J. O. “Chi Meets Plop: An Interaction Patterns Workshop.” ACM SIGCHI Bulletin 32.1 (2000).
[6] Dearden, Andy, et al. “Using Pattern Languages in Participatory Design.” Participatory Design Conference. New York City, USA, 2002. 104 – 13.

HCIにおけるパタン

HCI領域へのパタンおよびパタンランゲージの導入は、3つのフェーズに区分できます。まず、導入フェーズは、1997年に開催されたCHI(ACM Conference on Human Factors in Computing Systems)ワークショップを契機してい始まります。続いて、拡張フェーズは、2001年から2003年ごろまで続き、Jan O. BorchersやMartijn van Welieらにより、定義や目的に関する整理が進みます。最後に分散フェーズは、2003年以降を指し、ユビキタスコンピューティングやゲームへの応用が展開します。以下では、それぞれのフェーズについて詳細を説明いたします。

導入フェーズは、1997年に開催されたCHIワークショップ[7]から2000年ごろまで続きます。本ワークショップにおいて初めて、HCI領域へのパタンの導入が提案されたことから、導入フェーズの開始とみなします。パタン研究のHCIへの導入が提唱された背景には、インタラクションデザインの複雑化、多様化する流れが存在します。本ワークショップでは、インタラクションパタンランゲージの構築に向けて、インタラクションパタンにおけるTime、Sequenceの扱い方、実際の適用手法、構築のためのメソッドや具体的な事例などについて議論を行なうべきという、今後の研究における方向性が示されました。

[7] Eriekson, Thomas, John Thomas, and Conference on Human. “Putting It All Together: Pattern Languages for Interaction Design.” Conference on Human Factors in Computing Systems. Atlanta, Georgia, 1997. 226 – 26.

拡張フェーズは、2001年のJan O. Borchersの『A Pattern Approach to Interaction Design』の発刊から、2003年頃までの期間を指します。この時期が最もパタンに関する論文が盛んに投稿された時期であることから、拡張フェーズと呼びます。本フェーズの代表的な研究者は、先に挙げたJan O. Borchers[9]やMartijn van Welie[10]です。その主要な研究テーマは、パタンの定義、目的やフォーマットといったパタンの概念や形式についての研究や、個別のパタンの構築についての研究が多数を占めていました。以下に、代表的なインタラクションデザインパタンの例として、Welieのパタン集から”Slideshow”を引用したのち、HCIにおけるパタンに関する代表的な書籍を4点取り上げましょう。

パタン: Slideshow

問題:
ユーザは一連の画像や写真を見たい。

解決法:
それぞれの写真を数秒間見せつつ、手動で前後へ移動、一時停止、再開、停止、実行するためのコントローラを提供する。

コンテキスト:
スライドショーは、FlickrやPicasaなどの写真共有サービスで典型的に利用される。

[9] Jan O. Borchers
[10] Martijn van Welie

Borchersは、『A Pattern Approach to Interaction Design』にて、パタン研究の歴史を紹介した上で、22のHCIパタンを紹介しています[11]。Borchersのフォーマットは、Name、Ranking、Illustration、Problem and Forces、Examples、Solution、Diagram、Context and Referencesで構成されています。またBorchersは、パタンランゲージの定義としてコネクティビティを強調しています。

[11] Borchers, J. O. A Pattern Approach to Interaction Design. Hoboken, NJ: John Wiley \& Sons, 2001.

Duyneは、『The Design of Sites』にて、12のカテゴリ別に90のインタラクションデザインパタンを紹介しています[12]。Duyneのフォーマットは、Name、Background、Solution、Consider These Other Patterns、Illustrationで構成されています。特に、Consider These Other Pattern(その他のパタンについて考える)とは、アレグザンダーのパタンランゲージにおける”Relation”に当たる項目であり、個別のパタン同士の関係性について詳細に述べられています。

[12] Duyne, Douglas K. van, James A. Landay, and Jason I. Hong. The Design of Sites: Patterns, Principles, and Processes for Crafting a Customer-Centered Web Experience. Boston, US.: Addison-Wesley Professional, 2002.

Grahamは、『A Pattern Language for Web Usability』にて、79のインタラクションデザインパタンを提案しています[13]。本書は、ソフトウェアエンジニアリングにおけるGammaらのデザインパタンとニールセンのウェブ・ユーザビリティを統合させることを狙いとしています。しかしながら、本書はパタンランゲージのタイトルを持つものの、フローチャートの形式を採用していることから、アレグザンダーのパタンランゲージそのものに対する理解が浅く、ランゲージとしての機能に乏しいといえます。

[13] Graham, Ian. A Pattern Language for Web Usability. Boston, US: Addison-Wesley, 2003.

Tidwellは、『Designing Interfaces: Patterns for Effective Interaction Design(邦題:デザイニング・インターフェース ―パターンによる実践的インタラクションデザイン)』にて、4のカテゴリ別に45のインタラクションデザインパタンを紹介しています[14]。Tidwellが論じているカテゴリとは、Desktop Applications、Web Sites、Web Applications、Mobile Devicesの4カテゴリです。各パタンのフォーマットは、what、use when、how、exampleで構成されています。しかしながら、説明文中にはパタン同士の関連性について触れられているのみであり、アレグザンダーのヒエラルキー形式での記述は踏襲されていません。

[14] Tidwell, J. (2005). Tidwell, Jenifer. Designing Interfaces: Patterns for Effective Interaction Design. Sebastopol, CA: O’Reilly Media, 2005.

最後に、分散フェーズは、2003年以降から現在までを指します。2003年のU.C.バークレーのLandayによる、デザインパタンのユビキタスコンピューティングへの応用の提唱[15]を契機として、パタンの領域が、UI、WEBやといったHCIの基本領域から、分散傾向にあることから、分散フェーズと呼びます。この時期では、拡散フェーズにおいて中心的な役割を果たしていたJan O. BorchersやMartijn van Welieに変わって、様々な研究者[16][17]がパタンに関する論文を発表し始めます。

[15] Landay, James A., and Gaetano Borriello. “Design Patterns for Ubiquitous Computing.” IEEE Computer 2003: 93 – 95.
[16] Tom Erickson, The Interaction Design Patterns Page
[17] Design Pattern Resources

基本領域であるUIについては、35のパタンについてコード付きのギャラリー形式で掲載している「UI Pattern Factory」[18]、5つのカテゴリ別に56のパタンについてExample、Usage、Solution、Ratinalenoのフォーマットにて掲載している「UI Patterns」[19]、59のパタンについて、What Problem Does This Solve?(問題)、When to Use This Pattern(使用する状況)、What’s the Solution?(解決法)、Why Use This Pattern?(理由)のフォーマットにて掲載している「Yahoo! Design Pattern Library」[20]が登場します。

[18] UI Pattern Factory
[19] UI Patterns
[20] Yahoo! Design Pattern Library

University of California, BerkeleyのLandayは、Ubicompのためのパタンコレクションを公開しています[21]。本パタンでは、4つのテーマに対して全45のパタンを掲載しています。各テーマのパタンは低い数字の番号ほど抽象度が高く、様々なケースにおいて適用できるように設定されています。各パタンのフォーマットは、Background、Problem、Solution、Examples、Research Issues、Related Patterns Referencesで構成されています。なお、2007年頃には、”Patterns in Ubiquitous and Context Computing”というウェブサイト上にユビキタスコンピューティングデザインパタンが掲載されていたのですが、現在はサイトが閉鎖されており、代替として論文を掲載しています。

[21] Chung, E.S., J.I. Hong, J. Lin, M.K. Prabaker, J.A. Landay, and A. Liu. “Development and Evaluation of Emerging Design Patterns for Ubiquitous Computing.” In Proceedings of Designing Interactive Systems (DIS2004) 2004: 233-242.

University of GroningenのFolmerはゲームユーザビリティのためのパタンコレクションを公開しています[22]。本パタン集では、5つのカテゴリ別に26のパタンが紹介されています。パタンのフォーマットは、Aliases、Problem、Use when、Forces、Solution、Principle、Why、Exampleで構成されています。しかしながら、パタン同士の関係性については考慮されていません。

[22] Folmer, Eelke. “Interaction Design Pattern Library for Games”. 2006.

その他のパタン

パタンの概念は、HCI以外の領域においても応用されつつあります。以下では、IDEOによるデザイン上の洞察を生み出し、収束させるためのパタンと、グループワークにおける会話のためのパタンを紹介します。

PATERNS[23]は、IDEO が長年に渡って、世界中の様々な企業のために、多くのデザイン上の課題に取り組んできた結果、彼らの中に出現した共通の洞察に触れ、そして、共有するための方法です。これらのパタンは、直感の土台となるだけではなく、単なる洞察を文化的なインパクトをもたらすものへと変化させる方法であり、顧客に対して、より迅速により優れた仕事をするためのIDEOの集合知に触れる方法と言えます。

[23] PATERNS

PATERNSのフォーマットは、IssueとEvidenceのみで構成されています。例えば、「Social Media Bolsters Big Brands」では、企業がtwitterやfacebookなどのソーシャルメディアを如何に活用すべきか、というIssueが取り上げられています。それに対するEvidence – ここでは、世界中に存在する解決のためのストーリー – として、Ford、CBS、Pepsi, そしてP&Gの事例を紹介しています。PATERNSでは、パタンとしてのフォーマットやランゲージとしての関係性を考慮していないという点において、アレグザンダーのパタン、および、パタン・ランゲージの影響は少ないと考えられます。

Pattern Language for Group Process[24]は、グループにおける会話をより充実させ、より活気づけ、より効果的にすることを目的としたパタンであり、91のパタンで構成されます。これらのパタンは、Context、Creativity、Faith、Flow、Inquiry & Synthesis、Intention、Modeling、Perspective、Relationshipの9つのカテゴリに区分されています。例えば、CreativityのPlayfulnessパタンは、グループの会話におけるPlay(遊び)について、Heart、Description、Examples、Related patternsというフォーマットを用いて説明されています。

[24] Pattern Language for Group Process

まとめ

今回は、「3. プロトタイピングを行う」プロセスにおいて利用可能なデザインメソッドとして、デザインパタンをとりあげ、その起源、および、建築からソフトウェアエンジニアリング、HCIへの拡張の流れを追ってきました。ユビキタスコンピューティングやゲームまで拡張されたデザインパタンですが、残念ながら、プロダクトデザイン、サービスデザインまで拡張されていません。ソーシャルイノベーションを目的としたBOPという特殊なフィールドにおけるプロダクトデザインとなると、さらにケースは限定されてしまいます。しかしながら、今後フォーマットと関係性を考慮しつつデザインパタンとして成功したデザインをコレクションしていくことは、デザイナにとってだけではなく、社会にとっても大きな貢献となると考えられます。

一方、現在のデザインパタンは、本質的な限界を孕んでいます。現在のパタンの概念は決定論的パタンと言えます。すなわち、原因と結果の関係が一意的に確定している決定論的システムと同様に、問題とソリューションに対する関係が一意的に確定しているパタンを指します。この決定論的パタンの問題点は、パタン同士の残余を考慮しない点にあります。残余とは、パタンで補うことのできない部分、パタン同士を結合して全体のシステムを構築する際のデザイナの関与部分に他なりません。一意的に優れたパタンを組み合わせただけでは優れた構築物をデザインすることはできず、必ずパタンという切片を切り出すプロセスとしての微分の段階で削ぎ落とされた部分を補うデザインが必要となります。このようなアレグザンダー以来のパタンに関する問題は、建築分野においては指摘されつつあるものの、HCIの領域では現状、問題提起されるに至っていません。このようなパタンの持つ本質的な課題を改良するような新たなコンセプトのパタン、あるいは、新たなメソッドを構築する必要があるといえるでしょう。

次回は、既存のデザインメソッドの限界とソーシャルイノベーションのためのプロダクトデザイン手法の鍵となる構造構成主義を紹介いたします。

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